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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十一章 エルフの集落
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2.エルフの集落

 ――エルフの集落。

 俺は気まずい気持ちでいたが、元気な声が響く。

 「もう、早く行くっすよ!」

 ビアンカが朝の散歩の催促をしている。

 俺は頬を掻きながらビアンカとアウラに顔を向ける。

 「お、おう……折角だから、アウラの集落の散策に行きたいが、構わないか?」

 気まずい気持ちを何とかしたいこともあったが、昨日は気絶したので集落の様子を見ていない。

 「アタシもエルフの縄張りの中を、勝手に狩りは出来ないっすよ……」

 「私なら構わないわ」

 ビアンカは他に選択肢がないため渋々の様子だが、アウラはいつもの様に胸を張り誇らしげにしている。

 (ビアンカは、何だか嫌々の感じがするが……さっきはどこに行こうとしていたんだ? アウラは、こういう展開になると本当に元気になるよな……)

 対照的な二人の様子を眺めていたが、コテツも急に活発になったアウラに驚いたのか呆然と見つめている。

 俺たちは建物の外に出た――

 「アウラの家って大きくないか? 部屋の中も広い気がしたが、結構な良家の娘だったりするのか?」

 俺は家の概観を見ながら何気なく口にしたつもりだったが。

 「はあーっ……何言ってるっすか……アウラは、集落の族長の娘っすよ」

 冷ややかな視線のビアンカとは対照的に、アウラは照れ臭そうにビアンカの言葉に頷いている。

 「はあーっ!? 聞いてないぞ……」

 俺は驚きの声を上げたが、続く言葉が出てこなくて、コテツに視線を送る。

 「うむ、私を見ないでくれ! 私もカザマとは、昨日会ったばかりだ。そんなに色々と分かる訳がないであろう。それに私がアウラに会ったのは、昨日だ。以前から顔見知りのカザマに、何故その様な事まで説明する必要がある」

 コテツの話は尤もであり、俺はやり場のない苛立ちを抱く。

 (どうしよう……アウラが族長の娘というのは、俺には関係がない。ただ、これから先の行動は、いい加減では済まされない気がして堪らない……)

 不安を口に出せず、アウラとビアンカの後ろをコテツと並んで歩いた。

 俺は無言で歩くアウラとビアンカに、先程と同じ様に何気なく尋ねる。

 「なあ、まだ朝早いからあまり見掛けないが、やっぱりエルフしかいなんだな……。しかも、アウラと似た様なヒトばかりしかいないみたいだが……」

 アウラは俺の言葉に長い耳を揺らす。

 「ええ、私たちの集落は基本的に、一族以外の立ち入りを許さないわ。稀にビアンカの様なケースもあるけど……」

 「そういえば、ビアンカは道に迷って中に入れたみたいだが、アウラのお父さんが侵入を許したということか?」

 俺の問いにアウラが答えるが、寝起きの気まずさはなくっている。

 「そうよ。なかなか帰ろうとしなくて困っていたのだけど、モーガン先生の家で暮らしている事は分かっていたし、ビアンカが風に関わりのある種族でもあったから……」

 アウラは誇らしげに話しているが、ここで俺は違和感を抱き首を傾げた。

 「アウラが、モーガン先生の所に来る様になったのは……ビアンカと知り合ってからだったよな? 何で、その時にモーガン先生だけでなく、ビアンカのことまで知っていたんだ?」

 アウラは急にそわそわし出して、俺から顔を背ける。

 「モーガン先生は、この国だけでなく周辺の国まで知られている賢者よ。密かに様子を探っても、不自然ではないと思うけど……」

 俺は拳に顎を載せて頷いた。

 「なる程……モーガン先生を覗き見して、ビアンカのことを知ったんだな? でも、それは俺の国だと犯罪だぞ。他人の家の中のプライバシーまで覗き見るなんて……しかも、結構な年寄りだろう?」

 俺はアウラに常識を教えて得意気に笑みを浮かべたが、アウラは顔を赤く染め小刻みに震えている。

 「な、何言ってるの! そ、そんなことはしてないわ! 青空教室というのが気になったから、覗いていただけよ!」

 アウラは身体だけでなく、声まで震わせ向きになった。

 俺は先程と同じ様に拳に顎を載せて頷く。

 「大丈夫……大体分かった。どうせ、恥かしがり屋のアウラのことだ。興味を持ったはいいが……どうしたら、仲間に入れてもらえるかと探っていた訳だな」

 アウラは何かを言い掛けたが唸り声だけを上げると、

 「うううううううう……」

 何も言わなくなった。

 図星だったのだろうが、恥かしくて返す言葉がなかったみたいである。


 しばらく沈黙が続いたが、度々見掛けるヒトは、本当にアウラに似ていた。

 街や村で見掛けたヒトたちとは、顔立ちや髪の色だけでなく雰囲気までも輝いて見える。

 俺たちは住宅地ばかりの風景に会話がなくなるが……。

 「……なあ? そういえば俺が眠っている時、回復魔法を掛けてくれたのは……アウラなのか?」

 アウラは頬を緩め、ちらりと俺を見る。

 「ええ、そうよ。私たちの魔法はみんなの魔法とは違うと、前に話したわよね。今回の魔法もアリーシャの治癒魔法とは違い、カザマの身体のマナに働きかけて回復能力を高めたのよ」

 アウラは誇らしげに説明してくれたが、俺は驚いて動きを止めた。

 「えっ!? それって……つまり、俺の身体の細胞を活性化させて、治癒能力を高めたということなのか?」

 俺は精霊魔法の仕組みについて仮設を立て、アウラに合っているかと訊ねた。

 アウラは柳眉を寄せて首を傾ける。

 「うーん……カザマの話は難しくて、良く分からないわ。でも、少しだけ理解出来た事を考えると……そんな様な感じなのかしら?」

 アウラは胸を張ったが、顔が引き攣っていて誇らしげではない。

 俺はアウラの姿を素通りしてコテツに顔を向けた。

 「コテツ、この世界の魔法は、俺の世界の常識と逸脱していると思っていました。でも、精霊魔法というのは、俺の世界に通じるものがあるのでしょうか? 何というか、物理や化学などの原理や原則に、結構当て嵌まっている気がするのですが……」

 俺は、唯一話が通じそうなコテツに、心を躍らせて話したが。

 「うむ、さっぱり分からん……私が貴様の世界の文明や文化を理解している訳がないだろう。大体、私に何の利益もないではないか」

 コテツは獣の顔で表情は分からなかったが、素っ気無く答えた。

 「それを言われたら……はーっ……」

 俺は自分の興味をそそられる話題で興奮しただけに、溜息を溢す。

 落胆する俺に、コテツは尤もなことを教えてくれる。

 「そういう話は、お前を召還したモノにでも聞けば良いだろう」

 (あっ!? それもそうだよな! 何で、今まで気付かなかったんだ! これまで散々心の中で、ヘーベの設定とか……突っ込みを入れていたのに……)

 俺が空を見上げながら、心の中で声を上げていると、ビアンカが怪訝な表情を浮かべ話し掛けてくる。

 「カザマ、だらしなく口を開けて……そんな顔してはダメっすよ。知らない人が見たら、アタシたちが恥かしいっすから……」

 俺は考え事をしている間に、そんなに見っとも無い表情をしていたのだろうか。

 ビアンカは俺の姿を見て本当に迷惑と考えていたのか、最後の方は口篭っていた。

 俺は腹が立って、ビアンカにゲンコツを浴びせようかと思ったが、我慢する。


 しばらく無言が続いたが、アウラが足を止め誇らしげに胸を張った。

 「ここの通りが街でいうところの商店通りよ。必要な店はそれぞれひとつずつあるわ。しかも、みんな最高のものを取り扱っているの」

 ビアンカは口を開けて驚いているようだったが、俺は首を傾げる。

 「それって……店同士で競争とかないんだよな? 良い物をより易くとか、品揃えをより良くとか、そういうのはないのか?」

 俺の突っ込みを聞いて、アウラは堂々と胸を張っていたが俯いてしまう。

 「うーっ……流石はモーガン先生が、冒険者よりも商人の才能があると褒めただけはあるわね……」 

 アウラは唸り声を上げると、俺に突っ込みのお返しとばかりに酷いことを口走った。

 負け惜しみで、俺が気にしていることを言ったのだろうか。

 俺は顔を赤らめ身体を震わせると、

 「や、喧しい! そんな、突っ込みは要らんぞ!」

 アウラを怒鳴りつけた。

 更に興奮して、いつもの調子で頭を引っ叩くところだったが。

 途中で留まった俺は、思わず掌をアウラの頭の上に置いた。

 「あっ!? な、何? 恥かしいわ……」

 アウラは頬を赤く染めて上目遣いで俺を見つめる。

 その様子にビアンカが声を荒げた。

 「あーっ! またカザマが、アウラにセクハラしてるっす!」

 そして、ビアンカの言葉にコテツが声を上げる。

 「うむ、私もそう思ったが、ビアンカ落ち着け! アウラが嫌がっている訳ではなさそうだ。お互いが合意の上であれば、セクハラではないだろう……」

 アウラは頬を赤く染め、そのまま縮こまってしまう。

 ビアンカはコテツに突っ込まれたのが気に入らなかったのか、顔を赤くし奥歯を噛んで牙を剥き出しにしている。

 俺はみんなが誤解している光景に呆然としていたが。

 「ち、違ーう! こ、これは……またアウラが、俺を馬鹿にする様なことを言ったから……叱ってやろうと思って……」

 全力で否定して、言い訳しようとしたところで口を濁してしまう。

 アウラは俺の話に首を傾げたが、

 「私がカザマを馬鹿にする様なこと? そんなことは言ってないわよ? もしかして、カザマも恥かしくて……照れ隠しで可笑しなことを言っているのかしら……」

 俺の言い方が中途半端だったせいか、勘違いをしたようだ。

 本当は、アウラを引っ叩いてしまおうと思ったのだが……。

 エルフの集落の中で、族長の娘をいきなり引っ叩いてはまずいと。

手を振り被った時に気づき、咄嗟に頭を撫でただけなのに。

 それを話す事が出来ず、中途半端な言い訳になった。

 アウラは、それすらも勘違いして余計に話が拗れてしまう。

 (何で、こいつはここまでポジティブなんだ……どうしよう、コテツ……)

 俺はコテツを見たが、いい加減面倒になったのか目を逸らされた――。

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