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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十一章 エルフの集落
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1.麗しのエルフ

 ビアンカに案内されて先程の道を戻った。

 俺は怪我が酷かったので、コテツの背中に乗せてもらっている。

 「ここから先にあるっすよ」

 「なあ、さっきも言ってたが……何もないよな? もう少し離れた所にあるのか?」

 俺は首を傾げていたが、ビアンカは小さく笑みを浮かべるとそのまま奥へと進んだ。

 そして、途中で姿が見えなくなった。

 「えっ!? コテツ、今のは……」

 「うむ、結界の中に入ったのだろう。術者の認証を得られなければ、中に入れないようだ。――うむ、私は中に入れるのだろうか?」

 「俺も同じことを思いましたが、取り敢えず進んでみませんか? 俺は以前、ここの集落に住むアウラにお願いしましたが……ビアンカが言うには、最近中に入れる様になったみたいです」

 俺は、コテツにアウラのことも含めて簡潔に説明する。

 「うむ……!? 今、お願いして中に入れる様にしてもらったと言ったか? 頼まれたのではなくて……自分からお願いしたのだな! ちなみに、アウラとは女か?」

 コテツは俺に答えてくれるが、一瞬驚いた様に大きな体躯を硬直させると、興奮した様に問い詰めてきた。

 俺は動揺している様に見えるコテツに驚かされたが、

 「コテツ、どうしたんですか? 急に取り乱して……らしくないですよ。アウラの性格は変わっていますが、見た目は女神さまと同じくらいの美少女です」

 コテツの背中をぽんぽん叩き、笑い雑じりで話した。

 コテツは落ち着いたのか、静かに口を開く。

 「うむ、そうか……貴様はそのエルフの娘に求婚して、承諾されたことになるな。契約したばかりで不思議な感じだが……おめでとう」

 俺は笑みを浮かべたまま、顔が引き攣った。

 「はっ!? 何かの、冗談ですよね……」

 コテツは首を左右に振る。

 「うむ、エルフは一族意外、決して結界に入れない。稀に何か理由があって許される場合があるが……お前の場合も異例だろうな。お前とエルフの娘に子供が出来れば、ハーフエルフになる。だが、ハーフエルフはどこの世界も快く思われない……但し、貴様は特殊な存在だ。貴様とエルフの娘の子供は、間違いなく最高の魔法使いになるだろう」

 コテツは坦々と説明してくれたが、俺は驚愕したままである。

 「……えっ! 何、冷静に語ってるんですか? 俺に子供? まだ俺は結婚するつもりはないですよ……どうしよう……はっ!? 待って! まだ、進まないで! 心の準備が……」

 コテツは冷静というよりもクールだった。

 的確に状況説明を終えると俺がこの状況を受け入れられず、もたもたしている最中に先へと進んだ。

 俺がこれだけ困惑しているにもかかわらず。

 コテツは動揺しまくっている俺を気に留めないかの様に、

 「うむ、中に入れたな……てっきり私は入れないと思った……スマン」

 その言葉は軽かった。

 「ち、ちょっとー!? な、何してくれてんですか! 今、俺のことを無視して通れるか試しましたよね! 酷いじゃないですか……」

 コテツの背中の上であれこれと抗議していたが、コテツは俺に構わずビアンカの後に続く。


 ――エルフの集落。

 ビアンカに続き結界の中を進んで行く。

 やがて木造の外壁が見え、奥にはオルコット村の様な建物が見えてきた。

 結界があっても、普通に外壁があるのは、万一のためを考慮してであろう。

 外壁の入り口前には、見慣れた人影があった。

 「おーい! ビアンカ! カザマ!」

 アウラが大きく手を振って、俺たちの名前を呼んでいる。

 他所では、あれ程の人見知りなのに、流石は故郷というべきか。

 俺はコテツに指摘を受けてから短時間の間に色々と言い訳を考えていた……。

 「「おーい! アウラ!」」

 俺とビアンカもアウラを呼びながら手を振った。

 俺たちがアウラの元に着くと、

 「カザマ、すごく心配したのよ!」

 アウラは顔を赤くして、身を乗り出す様に話し始める。

 俺は、コテツから指摘を受けたこともあり、幾分引き気味に答えた。

 「し、心配を掛けたようだな……ところで、アウラ。突然理由も告げずに現れなくなって、みんな凄く心配してるぞ」

 「ご、ごめんなさい……突然、オーガの群れが結界の外に現れて、用心のために外に出るのを禁止されて……」

 アウラは花が萎れる様に俯いてしまう。

 「悪い、別に責めている訳じゃないんだ! それだけみんなが、お前を心配しているのだと知ってもらいたくて……」

 俺は、身振り手振りを加えて必死に伝える。

 アウラは再び頬を赤く染めたが、瞳を潤ませながら俺を見つめた。

 「……ありがとう。見てたわよ……カザマ、凄く格好良かったわ……」

 俺は頬を掻きながら、アウラから目を逸らして説明する。

 「何を見ていたか知らないが、オーガの群れはここにいる白虎のコテツとビアンカが頑張ってくれたお陰で、穏便に引き返してくれた」

 アウラは、ビアンカにはいつも通りの感じでお礼を口にするが、

 「そう……ビアンカ、ありがとう! それから、風の神獣さまもありがとうございます」

 コテツに対しては、集落の代表を思わせる様な立ち振る舞いを見せた。

 「アタシは大したことはしてないっす……」

 ビアンカは頬を掻きながら口篭る。

 実際に十体程のオーガを倒したのは事実だが、結果的には迷惑を掛けただけだと自覚しているようだ。

 「うむ、私はカザマの友として当然のことをしたまでだ。それから、我が名は、先程からコテツとなった。その様に呼ぶと良い……ところで、シルフィードのヤツは、何か言ってないか?」

 コテツは相変わらず獣の姿で表情は分からないが、縄張りを気に掛けて心配しているようだ。

 (リヴァイもそうだったが、俺が想像しているよりも縄張りに対する拘りが高いようだ。俺を友と言うくらいだからな……)

 俺は独りで納得して頷いたが、みんなが俺の様子を見ていた。

 アウラが俺の姿をちらちらみながら、再びコテツに話し掛ける。

 「コテツさま、族長が今回はお世話になったので、みなさんを賓客として扱う様にと言っています。お気遣いなくして下さい。――ところで、カザマ、身体中ボロボロで辛いの? 急に気持ちの悪い仕草をして……」

 アウラは碧い瞳を潤ませ、俺を見つめる。

 そこへ、ビアンカが突然思い出したかの様に声を上げる。

 「さっきもコテツの兄ちゃんが気を使っていたのに、大声で怒鳴り出して様子が変だったす!」

 コテツは自分の名前を出されたからだろうか、

 「うむ、カザマは時折不可解な言動をとるようだな……。思春期の青少年特有の妄想なのだろうか……」

 俺の事を中二病の様に語ると口を濁した。

 その言葉にアウラが食いつく。

 「コテツさま! それって、もしかして、カザマが私を相手に……卑猥な妄想を……」

 アウラは、顔だけでなく耳まで赤くして両手で顔を隠した。

 俺は羞恥と怒りで身体を震わせていたが、

 「ち、違ーう! 何で、いつもお前たちは、俺を変質者扱いするんだ! 俺は思慮深い人間だから色々と考えているだけだ! それに、真っ昼間に人前で……卑猥な妄想なんかする訳ないだろう! 全く……」

 アウラを相手にいつも通りの突っ込みを入れる。

 しかし、興奮し過ぎたのだろうか……急に眩暈がして、そのまま意識を失くした。


 ――族長の家。

 目が覚めると辺りは暗くなっており、俺は布団に寝かされていた。

 何となく身体を触ると、全身の怪我が治りかけている。

 何箇所か骨折していたが痛みもない。

 エルフの精霊魔法によるものだろうか……。

 (アウラが治してくれたのか……!? 何だ、この状況は……)

 怪我を治してくれただろうアウラに感謝の気持ちを膨らませていたが、自分の周りを見ると破裂するように消し飛ぶ。

 俺の隣にアウラが眠っているのだ。

 しかも、俺を囲むようにビアンカまで……。

 俺は急にそわそわして、左右に視線を送る。

 (……はっ? 眠ってる間に何かされてないだろうな……エルフの精霊魔法は未知だ。もし、そんなことになっていたら、初めてなのに……)

 手を伸ばして下半身を確かめると、パンツが荒らされた形跡はない……。

 先程まではムラムラして眠れない気持ちだったが、今は自分が眠っている間に何かされてないか不安な気持ちでいっぱいだ。

 そこへ救いの声が差し伸べられる。

 「うむ、カザマよ……心配しなくても大丈夫だ。気絶したお前をここまで運ぶと、アウラが回復魔法を掛けて、先程までビアンカと共に介抱していた。お前の状態が安定したので、今は疲れて眠っているようだ」

 コテツの言葉を聞いて安堵するが。

 (……はっ! コテツがいない……)

 特別な存在なので、身を隠しているのだろうか。

 俺は驚きつつも返事をする。

 「状況が分からなかったので安心しました。ところで、離れたところから話し掛けているのですか?」

 「うむ、私ならここだ」

 横になって気づかなかったが、頭の上に少し大きめの猫がいた。

 良く見ると身体のサイズを変えて、姿が愛らしくなったコテツが横になっている。

 「えっ!? 何を……しているんですか?」

 俺が目を細めて突っ込むと、頭の中に叫び声が響く。

 「哀れみの視線は止めろー! 身体が大き過ぎて入れなかったのだ! 初めは、ビアンカと同じ様な人型となったのだ! 水を司るヤツも人型になっていた様なので……だが、私の姿を見たビアンカが『アタシと被るから止めるっす!』と大騒ぎして、不本意だが身体を小さくした……」

 コテツは目を細めているが哀愁は感じず、愛らしさしか感じない。

 オッサン声ではあるが……。

 「はーっ……もう寝ましょう」

 「そうだな……」

 俺とコテツは余計な会話は止めて眠った。


 ――異世界生活二ヶ月と十一日目。

 翌朝、アウラの部屋で横になったままだが、まだ陽は昇っていない。

 隣で眠っていたビアンカが目を覚ましたのか、上半身を起こすと欠伸をしながら両腕を上げて身体を反らした。

 俺とコテツも当然の様に目を覚ましている。

 俺は結局、あの後、身の安全の確認が取れて安堵したが、ムラムラしてほとんど眠れなかった。

 隣には美少女が二人、肩が触れそうな距離で眠っていたので当然だろう。

 コテツはビアンカの気配を察して起きたのだろうが、本当に眠っていたか分からない。

 ビアンカが俺たちに気づいた。

 「おはようっす」

 「ああ、おはよう。昨日は看病してくれたみたいでありがとうな」

 「アタシは、大したことはしてないっす。それより眠っていたのに良く分かったっすね」

 ビアンカは不思議そうに目を細め、首を傾げる。

 俺は夜中の悶々とした気持ちから、ビアンカを直視出来ずコテツに視線を向けた。

 「まあ、コテツから聞いたからな……」

 ビアンカは俺の気も知らず、穢れない少女の様に笑みを浮かべる。

 「そうっすか。アタシは、これから朝の散歩に行くっすが……」

 「分かった。もう身体もほとんど治ってるし、一緒に行くか……!?」

 俺は途中まで言い掛けて、ここがエルフの集落だと気づく。

 そして、集落の中に入る前に気を失ったので、勝手に動いて良いか気になったが……。

 またもビアンカが、俺の気も知らずに独断専行する。

 「アウラ、起きるっすよ。カザマと朝の散歩に行くっすよ……」

 ビアンカがアウラの布団を勢い良く剥がして、咄嗟に俺は目を逸らす。

 ビアンカは俺の事は気にも留めずアウラの身体を揺するが、アウラは起きない。

 俺はゆっくりとアウラに視線を戻す。

 アウラはパジャマを着て、寝息を立てて眠っている……。

 (はーっ……びっくりした! ビアンカのヤツ、下着姿とかだったら……昨日一緒に眠ったのだから、パジャマを着ているのは知っていたのか。それにしても、子供みたいに気持ち良さそうに……)

 俺はアウラの愛らしい寝顔を眺めて、思わず頬を突いてしまった。

 俺の微笑ましい行動にビアンカが驚愕する。

 「あーっ!? カザマ、何してるんすか? 眠っているアウラに悪戯して!」

 何故か、コテツまでも俺を裏切るかのように声を上げる。

 「うむ、カザマ、ビアンカの言う通りだ。それは立派なセクハラだぞ! 昨日あれ程、忠告したのに、もしや認めるつもりか……」

 俺は一瞬硬直すると、すぐ弁明のために声を荒げる。

 「ち、違うんだ! あまりに寝顔が可愛らしくて……ほら、普段は綺麗で、オーラ出しまくりなのに、寝顔は可愛いくて……何となく分かるだろう!」

 俺は身振り手振りを加えて一生懸命説明したが、ビアンカとコテツの視線は冷たい。

 正確には、コテツは冷たい気がするだが……。

 俺たちが話をしていると、アウラの頬がみるみると赤く染まっていく。

 「カザマ……おはよう。その、そんな風に思っていてくれたなんて恥かしい……でも、嬉しいわ」

 アウラは、いつの間にか目を覚ましていた。

 そして、耳まで赤くなった顔を隠すように、目元まで布団を被ってしまう。

 「どうしよう……」

 「うむ、自業自得だな……」

 俺はコテツに助けを求めたが、コテツはそれ以上何も言ってくれなかった。

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