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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第十章 森での生活と脅威
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3.オーガについて

 アウラは身体を捻らせて恥かしそうにしていたが、

 「ところでカザマ、午前中とかは……何をしてるの?」

 何故恥かしそうにしているのか、考えずに答える。

 「なんだ……別に大したことはしてないぞ。今は暇だから、隣のオーク族と一緒にビアンカの納屋で作った様な冷蔵庫や冷凍室を作ったり、干物やカルパッチョの作り方を教えたりとかそんな感じかな……あっ!? そうだ、アウラ! またビアンカの納屋みたいに、凍結魔法を掛けてくれないか? あんなに強い魔法を使えなくて困っていたんだ……」

 俺は話の途中で不意に思いつき、アウラにお願いした。

 アウラは頼られて嬉しかったのか、腰に手を添えて胸を張る。

 「そう、分かったわ。後からやっておくわ……それで……実は、その……この前、カザマが、私たちの集落に遊びに来たいと言ってたわよね。それで、近いうちに良かったら……」

 しかし、すぐに先程の様に頬を染めて口篭る。

 俺は思わぬ誘いに嬉しくて興奮した。

 「えっ!? 本当か! ぜ、ぜひ頼むよ! 俺はいつでもいいから!」

 「分かったわ!」

 アウラも頬を赤らめたまま笑顔で胸を張る。

 ビアンカは、俺たちの話を聞きながら呆れた様に溜息を漏らしていた。

 俺はふと首を傾げる。

 「……ところで、アウラの集落はどの辺りにあるんだ? 近くに他の種族の集落があったりするのか?」

 アウラは先程までの様子が一変して、珍しく真剣な表情になった。

 「私の集落は、ここから北東に……もっと森の奥を進んだところにあるわ。でも、結界で迷路の様になっていて……私たち以外は入れない様になっているの。ビアンカは偶然入り込んで、族長から承認されたから入れるけど……それから、私たちの集落の西側……つまり、ここから北に進んだ先にはオーガの集落があるわ。一応、結界で入れない様にはなっているけど、その動向にはいつも注意しているのよ」

 アウラは結界の事もあってか、表情だけでなく珍しく真剣な眼差しを向ける。

 それから、初めて聞いたがオーガの集落があるらしい。

 しかも、アウラたちが警戒しているとは、危険な種族なのだろうか。

 ビアンカも真剣な表情で話しに混ざってきた。

 「オーガたちは、ゴブリンやオークの集落でも警戒している筈っすよ」

 ビアンカの言葉を聞き、腕を組んで考える。

 (オーガって……確か、大きな鬼の種族だったよな? 悪魔種とか、そんな類なのだろうか……)

 後からピーノに尋ねることにした。

 今日はそんな話もしていたが、途中から子供たちに催促をされて勉強が再開となる。

 本当にゴブリンの子供たちは勉強が好きな様で、俺たちは益々教え甲斐を感じた。


 みんなが帰って後で、俺はピーノと話す。

 「さっきアウラから聞いたんだが、この集落の北側にオーガの集落があるのか?」

 ピーノは怪訝な表情を俺に向けた。

 「突然どうした? 確かにあるが……」

 ピーノの反応は予想以上に激しかったが、俺は坦々と話を続ける。

 「いや、さっきアウラの集落では、オーガを警戒していると聞いたから……ここの集落は、どうなのかなと思ってな?」

 「はーっ……な、何だよ! 驚かせやがって! 俺はてっきりオーガが動き出したと思ったぞ……」

 ピーノは想像していた状況と違ったのか、大きな息を吐き身体を弛緩させた。

 ピーノの想像以上の仕草に、俺は訝しさを覚える。

 「俺は他の国から来たから知らないが、そんなに危険な種族なのか?」

 「ああ、身体はオークより大きくて凶暴な種族だ。知性はそこそこ高く群れで行動している。族長のような中心的な存在がいるが、そいつが特に身体が大きくて危険なんだ」

 ピーノは顔から汗を流しながら、時折身体を震わせた。

 俺は尚も言葉を紡ぐ。

 「ここを襲ったりもするのか?」

 「奴らの縄張りに獲物がいなくなると、周りの集落を襲う……」

 ピーノが緊張している理由が分かった。

 何度かオーガに襲われ、被害も大きかったのだろう。

 そこで、ふとした疑問が脳裏を過ぎる。

 「なあ、ここは街や村と比べると、外壁でなくて柵だが……守りは大丈夫なのか?」

 「はーっ……それなんだよ。守りが弱いのが分かっていても知識がなくて……近い内に、村から教えてもらうことになっているが……」

 ピーノは溜息を吐くと、分かっていてもどうにも出来ないと言わんばかりに首を横に振った。

 「うーん……大したことは出来ないが、俺でも役に立てることがあれば言ってくれよ」

 俺は色々と考えたが専門家ではない。

 自分から、他人の命が掛かった問題に意見するのは無責任である。

 だが、自分の出来る範囲で、手伝い程度ならばと思ったのだ。

 「あっ!? お前がいるじゃないか……」

 ピーノは突然何かに気付いた様に、どこかへ走り出した。


 ――族長の家。

 俺は、夕食後にゴブリーノ族の族長の家に招かれた。

 ピーノの他にオークの族長とトロイも一緒にいる。

 族長から集落の外壁を含めた守りに関する知恵を貸して欲しいと頼まれた。

 集落に匿ってもらっている身なので、出来る限りという条件で引き受ける――。

 

 俺は泊めてもらっているピーノの家に戻ると、書くものを借りた。

 簡単に図面を書いた方が話し易く、他にも良いアイデアを出し合えると思ったのだ。

 取り敢えず、参考になるか分からないが原案を考える。

 まずは集落を覆っている柵の代わりに、鉱山から岩を運んで外壁を作れないだろうか。

 出来れば、日本の城の基礎部分の様な感じに積めばと想像する。

 そこまで隙間なく綺麗には出来ないかもしれなが、後から土魔法で隙間を固めれば良いかと安易に思いつく。

 それから外壁の周りは、地面を掘って水を張れないだろうかと想像した。

 それも、水の魔法を使えば可能であろう。

 更に外壁の外には、侵入を知らせる簡易的な警報機を作り、その内側には縄を使った罠や落とし穴などで、多少なりとも時間稼ぎが出来るのでは……。

 そして、万一の時のために、脱出用の穴もアイデアに追加する。

 もし、これで近づいても、対応するための準備が出来て、外壁の上から弓などで攻撃が可能な筈だ。

 こんな素人のアイデアで良いのかと訝しさを覚えたが、図面に分かり易い様に書いていく。


 ――異世界生活一ヶ月と二十七日目。

 朝食後、ピーノと一緒に再び族長の家を訪ねた。

 昨日の夜に作った簡単な図面を族長ふたりと、ピーノとトロイに見せて説明する。

 色々とアイデアを出したつもりだが、それでも肝心の外壁だけは、かなりの労働力を必要とするため不可能だと思ったが……採用された。

 オークの体力とゴブリンの知恵と技術を甘く考えていたのかもしれない。

 俺の考えたアイデアを元にピーノと族長が補足を加えて、オークの族長とトロイに確認を取りながら、話し合いは意外とあっさりと終わった。


 ――昼食後。

 子供たちに勉強を教えているとビアンカとアウラが現れた。

 「何だか、今日はみんな忙しそうにしているわね……」

 アウラはそわそわして、周りを見ながら話す。

 人見知りのアウラは、ゴブリンやオークたちが活発に動いているので落ち着かないみたいだ。

 アウラに続いてビアンカが口を開くが落ち着いている。

 「外壁を作っているっすか?」

 「ああ、流石にすぐに分かったな。昨日、アウラに話を聞いただろう。それで、オーガのことをピーノに話したら……」

 俺は、その後の経緯をビアンカとアウラに説明した――。


 アウラは碧い瞳を見開くと、

 「えっ!? あれからそんなことがあったの! まだ、一日も経ってないのに……」

 相当驚いたのか、顔を引き攣らせた。

 それに対して、先程と同じ様にビアンカは落ち着いている。

 「まあ、カザマがゴブリンとオークに知恵を貸せば、こんなもんじゃないっすかね……」

 俺は何を根拠にと首を傾げた。

 「なんだ、ビアンカは驚かないのか? 俺は関係者の一人だが、アウラと一緒で内心かなり驚いているが……」

 「ゴブリンは賢く、オークは力持ちっす。少なくとも森の中では、人間より優れているっす。そもそも人間は、圧倒的に数が多くて交流が活発だから、文化や文明に差が出来たと言えるっす」

 ビアンカは、俺の前で初めてアウラの様に堂々と胸を張りながら話している。

 「お、お前……実は、結構賢いのか……」

 今まで騙されていた気がして、思わず口にしてしまった。

 ビアンカは顔を真っ赤にすると、

 「ば、馬鹿にしてるっすか!」

 俺の胸倉を掴む。

 しかし、周りで俺たちの会話を聞いていた子供たちが笑っている。

 俺は殴られると思ったが、ビアンカは俺を掴んでいる手を離すと、子供たちに勉強を教え始めた。

 今日はビアンカの意外な一面を知る。

 ビアンカは意外と賢く、子供に弱い。

 

 ――異世界生活二ヶ月と十日目。

 ゴブリンの集落に匿ってもらってから十八日が過ぎた。

 当初は数日匿ってもらうつもりだったが。

 子供たちに勉強を教えるだけでなく、集落の外壁や周辺整備のアドバイザー的な立場になってしまった。

 今では、大分工事も進んで外壁の作業は半分くらい終わっている。

 街や村よりも規模が小さいとはいえ、二つの集落の同時作業を考えると異例の速さといえるだろう。

 俺はビアンカが以前言ったように、ゴブリンとオークの方が人間より優れているのではと思い始めている。

 最近は子供たちの覚えが速いので、本の読み聞かせえはやっていない。

 ビアンカに頼んでカトレアさんから本を借りたのだ。

 それを子供たちに読ませたり、文字を書かせている。

 他にも簡単な算術を教えている最中だが、以前より少し余裕が出来た。

 俺は、ビアンカとアウラが来るのを待ちながら、これまでを振り返る……。

 (良く考えたら、モーガン先生の家で下宿していた日数よりも、ここに居る方が長いんだよな……色々あったが、日本では明日から二学期か……)

 そこへ、ビアンカの声が聞えた。

 「カザマ、来たっすよ……」

 だが、ビアンカからは、いつものヒマワリのような笑顔は浮かばない。

 「おう、ビアンカ……今日もひとりか?」

 一昨日から、アウラが来なくなり気になっていた。

 初めはアウラも忙しいのだろうと思っていたが、誰にも理由を話さずに顔を出さなくなって三日目になり、ビアンカも明らかに元気がない。

 「ビアンカ、アウラが理由も言わないで来なかったことってあるのか?」

 ビアンカは萎れたような表情で俯く。

 「初めはあったっす。でも、最近はないっす……」

 俺は元気のないビアンカに、更に問い掛ける。

 「何か思い当たることはないか? 例えば誰かと喧嘩になったとか……」

 ビアンカはグッと奥歯を噛んで睨みつけた。

 「ないっすよ! 何度も言ったっすよ!」

 ビアンカは俺に何度も同じことを聞かれたからか、それとも親しい友達が突然現れなくなって落ち着かないのか、情緒不安定だ。

 俺は授業をしばらく自習にして、ピーノの所へ行った。

 「忙しいところ悪いな……。最近アウラが理由もなしに姿を見せなくなったんだ。心配だから久しぶりに帰ろうと思う。それで万一俺が戻らない様なら、子供たちをモーガン先生の所で勉強させる事はできるか?」

 世話になっているし、子供たちにも申し訳なく思ったがアウラが心配だ。

 ピーノは俺の話を聞くと顔を顰める。

 ちなみに、最近は大分表情が分かる様になっていたが……。

 「それは仕方ないな。子供たちなら、そんなに離れてないから自分たちで通えると思う。でも、一応族長に話してみないと……はっ!? 今、エルフの嬢ちゃんが現れなくなったと言ったよな?」

 ピーノは突然何かを思い出したかの様に走り去った。

 どうやら、族長に家に向かったようだ――。


 しばらくして、血相を変えてピーノが戻ってきた。

 「今、族長に話してきた。子供たちは、お前の都合が悪ければモーガン先生にお願いすると言っていた。それより、今、北へ何にんか偵察に出た。万一のことがあるから、お前も一度戻った方が良いだろう」

 俺は動揺するピーノを訝しげに見つめる。

 「そ、そんなに慌ててどうしたんだ。北に偵察とか……万一とか大袈裟だな。アウラが風邪で寝込んでるかもしれないくらいで……」

 ピーノは慌てふためいた相貌から真顔になっていた。

 「カザマ、エルフは簡単に病気にならない。それに、今、この集落で何をやっているか考えてみろ? 毎回狙われていたのは俺たちだが、エルフの結界も絶対とはいえないだろう……」

 俺はピーノの慌しい様子を理解して、不安になった。

 そんな俺に萎れたような顔をしていたビアンカが、表情を引き締める。

 「カザマ、落ち着くっすよ!」

 俺はビアンカの声を聞くと、はっと思い出したかのようにビアンカの肩を掴んだ。

 「そ、そうだ。ビアンカは、アウラの集落の場所が分かるんだよな!」

 俺はビアンカの肩を揺すったが、俺の手を振りほどくとビアンカは再び声を上げ、

 「だから、落ち着くっすよ!」

 俺の頬を平手打ちする。

 「はっ!? スマナイ! 一度、モーガン先生の家に戻って情報を集めよう!」

 「そうっすね!」

 ビアンカも俺を落ち着かせることで自分も落ち着いたのか、今は程良く緊張した表情をしている。

 俺たちは子供たちに一度帰ることを話したが、今後の事は分からないので説明はせずに、ピーノに任せることにした。


 ――モーガン邸。

 久しぶりに戻って来たが、物思いに耽っている暇はない。

 すぐにカトレアさんを探したが、青空教室で勉強を教えている最中だった。

 久々に現れた俺に驚いた様子だったが、それとなく促して場所を変えてもらう――

 カトレアさんの整った相貌が歪み、驚愕する。

 「オーガの群れが動いているかもしれない……ですって!」

 俺は落ち着いて状況を説明する。

 「いえ、まだ断定は出来ません……ゴブリーノ族は、既に偵察を北に派遣しています。ご存知かと思いますが、ここ数日アウラが現れていませんので……」

 カトレアさんは俺の話を聞くと、すぐに冷静さを取り戻す。

 「分かったわ。私も急いで屋敷に戻って話します。カザマはモーガン先生が帰ってきたら、指示に従って頂戴!」

 「分かりました」

 カトレアさんは俺の返事を聞くと、すぐに屋敷に向かった――。

 

 俺が青空教室に戻ると、みんなが心配そうな表情で見つめている。

 エリカは周りの動揺を余所に、柳眉を寄せて俺に絡む。

 「マー君、今まで何をやっていたの!」

 エリカは久々に会った俺に頬を膨らませていたが、俺は一瞥すると周囲に顔を向けた。

 「悪いが、今はそんな話しをしている場合じゃない。みんなも悪いが、今日の勉強は中止になった。カトレアさんに、急ぎの用事が出来たみたいだ」

 エリカの言葉を遮ると、俺はみんなに説明する。

 エドナは顔を強張らせつつも、みんなを代表するように声を出す。

 「久しぶりに顔を出したらと思ったら、どうしかしたの?」

 「エドナ、悪いな……最近、アウラが来てないだろう? 何か色々あるみたいでな……」

 俺は状況が分からないので、詳しい説明が出来なかった。

 だが、分かっていても話せたか疑問である。

 エドナも空気を察してか、これ以上の詮索をせずに、幼馴染のマッコイとニコラスと一緒に帰り支度を始めた。

 「詳しいことが分かったら教えてよね。アタシも心配してるんだから……」

 「ああ、分かった」

 村の子供たちは、みんな岐路に着いた――。

 

 俺たちは家の中に入り、テーブルの席に着くと説明を始める。

 「カトレアさんには話したが、最近アウラが姿を見せないだろう。もしかしたら、オーガの群れが動いているかもしれない。詳しくは分からないが、ゴブリンの集落では、既に北へ偵察を出している。カトレアさんも屋敷に帰ったので、村でも何か対策を立てるかもしれない。俺たちは取り敢えず、モーガン先生の帰りを待つことになっている」

 大まかに説明してみんなの顔を見渡すと、アリーシャが口を開いた。

 「えっ!? でも、アウラの集落は、結界で覆われているのですよね……」

 俺は尤もだと思いつつ、首を左右に振る。

 「俺もそう思ったが……ピーノに、何事も絶対はないだろうと言われたよ」

 アリーシャは何か思い当たったのか、急に顔色が青褪め動きが止まった。

 そんなアリーシャに声を張る。

 「落ち着け、アリーシャ……って、俺もさっきビアンカにビンタされたんだが……」

 頬を掻きながら作り笑いを浮かべ、場を和ませようとした。

 俺の胸中を理解出来なかったのか、

 「カザマ、こんな大事な時に、アタシが暴力を振るったみたいな言い方は止めるっす!」

 ビアンカは眉を寄せ、俺を睨みつける。

 そこへ、エリカが微笑を湛え、話に割って入った。

 「ビアンカ、落ち着いて。マー君は、みんなの緊張を解そうとしたと思うの……たまに意味不明の言動をとることがあるから……」

 エリカは怒っているビアンカを宥めようと思ったのか、余計な事を口にする。

 それにアリーシャが食い付いた。

 「あっ!? そういえば、この前、カザマが子供の頃の話をしてくれましたね」

 俺は二人の会話に身体を震わせた。

 「エリカ、お前は俺がいない間に、何を話したんだ! みんなが変な誤解をしている気がするんだが……」

 俺の言葉を聞くと、何故かみんなの顔が余計にニヤケた気がする。

 (俺の悪口であったとしても、取り敢えず場の空気が和んだのなら……)

 決して納得した訳ではないが、我慢することにした。


 ――夕方。

 モーガン先生が帰宅した。

 久々に戻ったが挨拶もすっ飛ばして、これまでのことを先生に説明する。

 「なんだと! オーガが……」

 モーガン先生は何時になく真剣な表情で考え始めたが、

 「ビアンカとカザマは食事を済ませたら、すぐにアウラの集落へ向かって欲しい。本来、夜の森の中を進むのはタブーだが、時間が惜しい……」

 普段冷静で大人しいアリーシャが、モーガン先生に声を上げる。

 「待って下さい! 先生、私も行きます!」

 モーガン先生は両目を見開き、

 「待て! お前は……お前は、暗い森の中の進むのは、足手纏いになるだろう……」

 何か言おうとしたが、すぐに口を濁し相貌も落ち着いていく。

 「でも、私は治癒魔法が使えます! もし、エルフの集落で怪我をされている方がいれば、きっと役に立ってみせます!」

 だが、アリーシャは引き下がらない……。

 (モーガン先生が言い掛けたのは、アリーシャの実家に関係することなのだろうか? それにしても、アリーシャが食い付く様な強引な発言をするのを初めてみたな。それだけ、アリーシャもアウラが心配だということなのだろう……)

 そんなアリーシャに頷くと……。

 「アリーシャ、取り敢えず落ち着け。さっきも言ったように、俺が言える立場ではないが……俺とビアンカは状況が分からないから……偵察を兼ねての先陣だ。後から、きっとみんなの助けが必要となる時があるさ。だがら、その時はよろしく頼むな」

 俺は自分たちのことを勝手に先陣だと言い、アリーシャに向かって拳を差し出して親指を立てた。

 アリーシャは俺の話に水色の瞳を細めていたが、苦笑する。

 「もう、カザマは……それはみんなから、イライラするから止める様にと言われているではないですか……。私がいないとダメですね……でも、確かに今回はカザマの言う通りだと思います。私は後から駆けつけますね。だから、アウラのことは任せますよ」

 「おう! 任せとけ!」

 俺はさっきのポーズから飛び切りの笑顔をプラスした――。

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