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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第九章 再びの下宿生活と幼馴染の来訪
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2.モーガン邸にて

 ――異世界生活一ヶ月と十四日目。

 辺りは暗く、街に比べると夜明け前の村の道は暗く感じる。

 商業エリア等の規模の違いもあるが、村の住人は活動が早いヒトでも、空が薄っすらと赤みを帯びてからが大半だ。

 それでも、ビアンカと夜明け前に出掛けた森よりはマシである。

 俺は独りで村の中を走り、モーガン先生の家に向かっていた。

 ジャスティスを屋敷に預けたままだが、屋敷を出ることは事前に話している。

 こんな時間に移動しているのは、モーガン先生が朝早く出掛けることもあるからだ。

 それから、狩りに出掛けるビアンカに会い、変わりがないか聞きたかったからでもある。

 

 ――モーガン邸。

 こんな時間に玄関前に立つのは久しぶりだ。

 ビアンカは居ないかとスキルを使って聞き耳を立てたが、家の中で人が動いている気配がしない。

 それに誰か来たら、いち早くビアンカが気づいている筈である。

 俺は森の中に入り、ビアンカが行きそうな狩場へ向かう。


 しばらく森を走っていると、ビアンカの方から俺を見つけてくれた。

 「カザマ、どうしたっすか?」

 ビアンカは目を丸め不思議そうに見つめている。

 「ああ、色々と事情があって……!? それより、もう少し驚いたり、喜んだりしてくれると思ったぞ」

 何から話そうかと考えていると、ふと冷静なビアンカの様子に腹立たしさを覚えた。

 「うーん……これでも結構驚いてるつもりっすよ」

 ビアンカは小さく笑みを浮かべると尻尾を揺らす。

 ビアンカの様子を確認すると、恐る恐る尋ねる。

 「……みんなの朝の予定は、いつもと変わりないか?」

 「さっきからどうしたっすか?」

 俺が突然夜明け前に現れて、こんな話をすれば当然訝しさを抱くであろう。

 「いや、後からみんなの前で話すよ……それより、久しぶりに狩り行こうぜ!」

 「分かったっす!」

 ビアンカは疑問を感じても、細かいことは気にしない性格である。

 しかも、久しぶりに俺から狩りに誘われて、迷わず狩りのために駆け出した――。


 ――ビアンカの納屋。

 俺とビアンカは狩りを終えると、二人でイノシシを抱えて納屋に運んだ。

 修行を始めた当初は重たい上に、ビアンカの走るペースが速くて倒れそうになった。

 だが、それも今では、良い思い出である。

 感傷に浸る俺は、ふと思い出したかのように口を開く、

 「なあ、ぼちぼち納屋に冷凍室を作るか? 今日は、特に用事がないしな……」

 ビアンカは口を半開きのまま声を出すと、

 「カザマが前に話した……長く保存が出来て、味が美味くなるというやつっすか?」

 みるみる頬が緩んで尻尾が左右に揺れる。

 俺も思わず笑みを浮かべた。

 「そうだ、俺も約束した手前、出来るうちにやりたくてな……」

 「楽しみっす! でも今日は、何だかいつもと違うっすね?」

 ビアンカは本能的に感じたのか、俺の様子が普段とは違うと察する。

 突然夜明け前に現れた時点で不自然ではあるが。

 「まあ、後から話すから……」

 ビアンカは怪訝な表情をしたままだが、そのまま家の中に入った。


 ――朝食。

 久々にここの朝食の席に着く。

 俺が現れるとアリーシャとモーガン先生は驚いたが、以前の様に朝食を用意してくれた。

 「それで、今日は朝からどうしたんだ?」

 モーガン先生がみんなを代表する様に訊ねた。

 アリーシャも眉を寄せ俺の顔を見つめているが、俺は二人の視線を感じつつ口を開く。

 「……実は、昨晩カトレアさんにも話したのですが、教会でお世話になっているヘーベが、俺の誕生日プレゼントにと……俺の国から、幼馴染を呼び寄せたのです」

 「「「はあっ?」」」

 モーガン先生とアリーシャだけでなく、ビアンカまでも同時に声を発した。

 モーガン先生は口元を引き攣らせながら、

 「そ、それで……だから、どうしたというのだ?」

 真っ先に問い質してきた。

 俺はゆっくりと説明を始める。

 「その幼馴染が、俺の許婚だと言い出して……でも、俺は知らないし、今は誰かと結婚するつもりもないし……結婚相手は、自分で決めると話したんです! それでも納得してくれないみたいで……兎に角、しつこいヤツなんです!」

 途中から感情的になってしまい椅子から立ち上がり、身振り手振りを加えて力説した。


 一瞬静寂した後、アリーシャが口を開いたが、

 「要するにカザマは、幼馴染との婚約の話が納得出来なくて、逃げて来たのですか?」

 目を細め、俺の力説を簡潔に纏めさらりと言った。

 「い、いや、そういうことになるのかな……アリーシャ、俺が困っているのに、何か、冷たくないか……」

 アリーシャの言葉を聞いて立つ瀬がない思いがする。

 俺は頬を掻いて続く言葉を捜す。

 しかし、アリーシャは尚も眉を寄せ、厳しい表情のまま話を続ける。 

 「以前から何度も話したと思いますが……カザマのはっきりしない態度が悪いのではないでしょうか?」

 俺は、アリーシャの言葉と表情に、首筋から汗を流しつつ返事をする。

 「それは分かってはいるけど……俺は前にも話したけど、今まで女の子とまともに話したことが、ほとんどないんだ。もう少しお互いの事が分かってからでも……」

 だが、アリーシャは、俺の話しを遮るかのように。

 「カザマは考えが甘いです! そんな甘い考えが通じるのは、ごく一部です。世の中では一度も会った事がない人と結婚する場合もあるのですよ。そもそも幼馴染の相手は、逃げなければならない程、嫌いな相手なのですか?」

 今日のアリーシャはとても厳しかった。

 言葉だけでなく表情も険しくなり、何より瞳が悲しげに見えるのは気のせいだろうか。

 モーガン先生とビアンカは、何も言えずいるようだ。

 俺は自分の事よりもアリーシャの事を考え、落ち着いてきた。

 「なあ、確かに俺の考えが甘いのかもしれないが……今日のお前、ちょっといつも違う気がするぞ」

 俺の言葉にアリーシャは驚き目を丸める。

 「えっ!? 急に何を言って……!? べ、別に私は、何も間違った事は言ってないと思いますよ……」

 アリーシャは、話に夢中で気付かなかったようだ。

 しかし、俺の指摘で、いつも以上に話に熱が入っているのに気付いたようだ。

 そして、興奮したのが恥かしかったのか、俯いて口篭ってしまう。

 

 しばらく誰も口を開かなかったが、

 「もう、それくらいで良いだろう。ワシはカザマの問題に口出しするつもりはないし、アリーシャにもな……カザマがここに居たいなら、好きにすれば良い。だが、教会やギルドから訊ねられたら嘘をつくつもりはない。それで良いか?」

 モーガン先生が俺とアリーシャを察してか、無難に話しを纏めてくれた。

 「はい、それで十分です。ありがとうございます。アリーシャも……その、色々と心配してくれたみたいでありがとうな……」

 中立の的な立場を示してくれたモーガン先生に感謝して、恥かしそうにしているアリーシャにもお礼を言う。

 (モーガン先生がアリーシャに言い掛けたのは、アリーシャの素性に関係することなのだろうか? ……だとすると、普段見ない様な興奮の仕方も、そういった事情があったのだろうか……)

 今までアリーシャの素性を考えたことがなかったが、色々と詮索してしまう。

 そこへ、大きな声が割り込んだ。

 「なんすか! アタシもいるっすよ! カザマは、アタシが心配してないみたいじゃないっすか!」

 ビアンカは自分だけ蚊帳の外にされたと感じたのか怒っている。

 ビアンカのことをすっかり忘れていたが、そんなことは口に出せない。

 「いや、別にそんなつもりはないぞ。ビアンカにはいつも感謝している」

 ビアンカは尚も尻尾を膨らませている。

 「またカザマは、いつもそんな感じで誤魔化そうとするっすよ!」

 俺はビアンカの言葉に慌てて否定するが、

 「い、いや、違う! 本当に感謝してるって! アリーシャも何とか言ってくれよ!」

 ビアンカは拗ねてしまい、困った俺はアリーシャに助け舟を求めた。

 アリーシャは肩を上下させると、強張っていた相貌が緩む。

 「全く、カザマは仕方がないですね……ビアンカもそのくらいで……」

 「なんすか……二人して、アタシは子供扱いじゃないっすか……」

 ビアンカは剥れているが、さっきまで俯いていたアリーシャにも笑顔が戻った。

 (ビアンカがいると、みんな笑顔になる……)

 恥かしくて言葉には出さなかったが……。

 アリーシャと一緒に笑い、いつも通り賑やかな朝食となった。

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