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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第七十七章 ユベントゥスの息吹
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6.決着と別れ

 「マー君、いくわよ!」

 「来い! エリカ!」

 俺とエリカは同時に地面を蹴り、剣を振り上げた。

 だが、今回の俺の攻撃は新しいスキルを使うため、厳密にはエリカよりも僅かに遅い。

 どちらかといえば、カウンター攻撃の部類に入る。

 そのため初めて両者の攻撃にずれが生じた。

 この一瞬の違いに気づいたものは、僅かであろう。

 ビアンカとブリュンヒルデさん、コテツとアレスとインドラさま。

 大魔導師であるアウラや修行中のジャンヌは気づいていないかもしれない。

 エリカが振り下ろす聖剣が眩く輝き、光の刃が伸びて俺に迫る。

 俱利伽羅剣も聖剣に負けじと、振り下ろされる。

 「ジャスティス!」

 「ツバメ返し!」

 前回のクナイの様に並みの剣であれば、両断されていただろう。

 聖剣をも上回る神剣である俱利伽羅は、エリカの必殺の一撃を弾き。

 俺の新しいスキルが発動する。

 佐々木小次郎が編み出したとされる……『ツバメ返し』

 振り抜かれた俱利伽羅剣が、俊敏なツバメを捉えるように。

 下からエリカに迫る。

 だが、ツバメ返しが発動されることはなかった。

 エリカが放った……『ジャスティス』

 以前俺を斬ったスキルは、以前とは異なっていたのだ。

 上段からの一撃だけでなく、横からの一閃が俺を捉えていた。

 己のスキルを極限まで高め、エリカは十字の閃光を放っていたのだ。

 「グフッ!?」

 俺は膝を着き、切り裂かれたお腹のニンジャ服を擦る。

 掌は真っ赤に染まっているが、何故か内臓まで達していない。

 ドラゴン並みに耐久力が高いとはいえ、防御力までドラゴン並みではない。

 幾ら丈夫とはいえ、あの一撃を浴びて致命傷でないのは、エリカが手加減したからだろう。

 「エリカ、お前……」

 意識が朦朧とし、周りの景色がぼやけて見える。

 「マー君、私の勝ちよ。約束は守ってもらうわ」

 「ま、待て、エリカ……」

 みるみる全身の力が抜け、エリカに手を伸ばしたが、意識を失くしてしまう――。


 俺はまたも重傷を負って意識を失くし、みんなが俺の周りに駆け寄ってきた。

 「カザマ、大丈夫っすか?」

 「カザマ……。エリカ、よくもカザマに……次は私と勝負しなさい!」

 俺たちの中でお姉さん的な立場で、冷静なブリュンヒルデさんが珍しく取り乱している。

 「ブリュンヒルデさん、落ち着いて頂戴。エリカはカザマとの決闘を正々堂々と行ったわ。大体、手加減までしてくれたのよ」

 「ジャンヌの言う通りっすよ」

 ジャンヌとビアンカは意外と冷静だが、致命傷ではないと判断したからであろうか。

 少し冷たいと思うが、生憎俺の意識はない。

 「ブリュンヒルデさん、ふたりの言う通りだわ。大体、私がマー君を殺す訳ないでしょう。そもそも今回の決闘は、マー君が考えていたようなことではなかったのよ」

 「エリカ、それはどういう意味かしら?」

 エリカの言葉にブリュンヒルデさんは怪訝な表情を浮かべる。

 ブリュンヒルデさんだけでなく、みんなもエリカの方に顔を向けた。

 「コテツとアレス、アウラも分かっているかもしれないけど……今回の戦いが、マー君の最後の冒険だったのよ。マー君は、召喚したヘーベも居なくなり、故郷に帰られなければならなかったの。最後は私に負けてしまったけど、マー君なりに楽しく過ごせた筈だから、悔いはないと思う」

 エリカの告白に、みんなは困惑する。

 「うむ、エリカの言う通りだ。そもそも召喚主が居なくなったのだ。召喚された意味がないであろう。最後まで何を考えているか分からない男であったな」

 「うん、コテツの言う通りだよ。口では文句ばかり言っていたくせに、英雄にも勇者にも成らず、最後までニンジャに固執していたね。女性関係も最後まではっきりしなくて、何がしたかったのか……でも、それが彼なのだろうね。僕もそろそろ別れの時が来たようだ」

 コテツとアレスの話は、俺に対してあまりに失礼ではないか。

 文句を言いたくなる場面だが、生憎俺に意識はない。

 しかし、仮に意識があっても返す言葉がなかっただろう。

 「……嫌っす! アタシはカザマとお別れするのは、嫌っすよ! エリカは嘘を付いたっす! それなら、次はアタシがエリカと戦うっすよ!」

 「そうよ! ビアンカの言う通りだわ! 私がエリカと戦うわ!」

 事態を呑み込めたのか、ビアンカとブリュンヒルデさんが声を上げた。

 「うむ、ビアンカ、ブリュンヒルデ、落ち着くのだ。エリカと戦っても結果は変わらない。それにアレスが、そろそろ時間のようだ」

 アレスの身体が透けて見える。

 十二神の中でも一番の戦い好きで、変わり者であったアレスが俺に別れを告げずに消えようとしている。

 アレスを信仰していたジャンヌだけでなく、アレスを背負って何度も戦ったビアンカが涙を流す。

 「アレスさま、居なくなっては……」

 「ねえ、ジャンヌ、僕は居なくなる訳ではないよ。ヘーベと同じ様に神殿に帰るだけだよ。君の厚い信仰には、随分力をもらった」

 アレスは愛らしくハニカンで見せると、そのまま姿を消した。

 茫然とするブリュンヒルデさんに対し、ジャンヌとビアンカは声を上げて泣いている。

 エリカは静かにその場を離れると、ブリタニア艦隊に向けて聖剣を掲げた。

 『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!』

 ブリタニア艦隊の方から高らかに声が上がる。

 対して第一艦隊の方では、事態を察したのは静まり返る。

 「インドラさま、マー君が乗っていた船を任せても宜しいですか?」

 「ほうー、エリカよ。私の事を知っているとは……よかろう」

 インドラさまが顎髭擦り、双眸を細め頷いた。

 そしてアーラに跨り、モミジ丸の方へ帰還する。

 「アウラ、分かっているわね。これから私たちを転移させて欲しいのだけど」

 「エリカ……分かっているわ。お母さまから聞いていたもの」

 これまでひとり静かにしていたアウラが口を開いたが、事情を知っていたのだろうか。

 アウラはみんなの顔を見渡すと、転移の魔法で俺を含めたみんなを移動させた――。

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