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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第七十七章 ユベントゥスの息吹
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4.巌流島の初戦

 アウラが物凄い形相でエリカを睨みつけ、初めてアウラから敵意を顕にされたエリカは。

 ただ茫然とアウラの姿をした俺の母親の話を聞いていた。

 消息不明であった俺の母親が大天使であったこと。

 アウラが大天使である俺の母親の依り代であること。

 女神ヘーベーは、大天使である母親と契約し力を得ていたこと。

 そして、そのヘーベは顕現するだけの力を失い、オリンポスの神殿に帰ったこと。

 俺の婚約者たちのこと。

 アリーシャがベネチアーノで教皇となったこと。

 アリーシャの事は知っていたらしく、エリカの緊張が幾分緩んだ。

 長い話が続き、俺との許嫁の話題になり、大人しくしていたエリカの表情が険しくなった。

 「何ですって! マー君のお母さんだと言うから黙って聞いていたけど、後からしゃしゃり出て来て、勝手な事を……。私とマー君は、親が決めた事だから許嫁になった訳ではないわ! 私とマー君は、子供の頃から愛し合っていて、将来を約束した仲なの!」

 エリカが大きな声で語り出したが、相変わらず無茶苦茶である。

 親同士が決めたから許嫁と言うのに、違うと豪語し。

 俺はエリカと結婚する事を承諾した覚えがないのに、勝手に約束した事にされ。

 そもそも子供の頃から愛し合うとか、普通に考えてあり得ない。

 「エリカ、少し落ち着こうか。言っている事に無理があるというか……」

 「マー君! 聞こえなかったのかしら? 私は黙れと言ったのよ!」

 「はい! ごめんなさい!」

 一触即発のふたりを宥めようと間に入ったつもりが、またも母親に叱られ気を付けの姿勢をさせられた。

 これでは俺とエリカの決闘ではなく、エリカと俺の母親の決闘になりそうだ。

 アウラの姿というのも忘れたのか、エリカも引かない。

 「お母さん、私のマー君を虐めるのは止めて下さい!」

 「な、何ですって! マー君は、私のマー君よ! 大体、あなたにお母さんと呼ばれたくないわ!」

 「ああ……もう、どうしてこんなことに……!? アレス、他人事の様にニヤニヤしてないで、助けて下さい!」

 あたふたする俺の隣で、アレスが嬉しそうな笑みを浮かべている。

 「ねえ、君、君のせいで言い争いが起きているのだよね。どうして僕が、君の尻拭いをしなければならないんだい?」

 「アレス……確かに、俺が原因かもしれません。でも、俺が何かした訳ではないと分かっていますよね?」

 アレスに助けを求めたが無駄であった。

 「「マー君!」」

 言い争いをしていたふたりが、声を合わせて俺を睨みつける。

 「ヒィイイイイ――!?」

 俺がまたも気を付けの姿勢を取らされ、全身から汗を拭き出していると。

 「うふふふ……カザマがタジタジになっているわ。いつも破廉恥な事ばかりしているから……いい気味よ。それに、マー君ですって……」

 ブリュンヒルデさんの耳元で、ジャンヌが俺の悪口を言っているのが聞こえた。

 (ジャンヌのやつ……他人事だと思って……)

 「ねえ、君、また八つ当たりをしようとしているよね? 君の心の声が駄々洩れだよ」

 アレスの言葉に、睨み合っていたふたりが反応する。

 「マー君、今大事な話をしている最中だけど、八つ当たりってどういう意味かしら? それにアレスが、またと言ったわよね?」

 「マー君、そこの娘が言った通りだわ。アウラだけでなく、ジャンヌにまで……」

 「!? マー君、ジャンヌって、まさか……」

 エリカが虫を見る様な蔑んだ視線を向けているが、ジャンヌはそこまで歳が離れていないし、俺にそういう趣味はない。

 「ち、違う! 母さん、誤解だ! エリカが勘違いするだろう!」

 「マー君、お母さんに向かって、何て言葉遣いなの! それに黙っている様に言ったわよね?」

 (俺には弁解する権利すらないのだろうか、俺は何も悪くないのに……)

 俺は気を付けの姿勢を取りながら、グッと拳を握った。

 「ちょっと、お母さん! 私のマー君を虐めないでと、言いましたよね」

 「また、私の事をお母さんと馴れ馴れしく呼んだわね」

 俺の母親の言葉に、エリカが言葉を詰まらせたが。

 「そ、それじゃあ……何て、呼べば良いのですか? マー君のお父さんには、お父さんと呼んでいるのに……」

 「まあーっ!? 勝手な事を……そ、そうね、それでは……『サンダルフォン』と呼んで頂戴」

 俺の母親はエリカに痛い言葉を浴びせられ動揺したのか、初めて大天使としての名前を顕にした。

 「母さん! 今、サンダルフォンと言いましたね! 確かメタトロンと双子とか、同一人物とか言われ、まさしく天使の中でも高位の存在ですよ!」

 俺は先程まで極度に抑制され、その反動で昂る思いを抑えられなかった。

 だが、母親の表情は苦虫を嚙み潰したようになり、口元を引き攣らせる。

 「……マー君、その様な者と私を一緒にしないで頂戴。次に同じことを言ったら、幾らマー君でも許さないわよ」

 先程までより口調は静かであったが、冷ややかな視線に慄いた。

 「ヒィイイイイ――!? ごめんなさい……」

 またも理不尽に叱られ、少しばかりイラついてきたが、先程までと状況が変わる。

 「サンダルフォン……さん? だったかしら? 言い難いわね、やっぱりマー君のお母さんの方がしっくりくるわ。それよりもいい加減、本題に入りたいのだけど……」

 俺がこれだけ興奮しているのに、エリカには分からないのか、すっかり冷めてしまったらしい。

 「その言い草は気に入らないけど……確かに、周りの方々をこれ以上お待たせする訳にはいかないわね」

 俺の母親もやっと怒りが収まったのか、表情が緩んでいく。

 「マー君……」

 「はい!」

 「カザマ、ごめん、私だけど……エリカとお母さまみたいに呼んでみたかっただけなの」

 気を付けの姿勢をしながら、母親ではなくアウラだと知り、拳骨を浴びせたくなったが懸命に堪える。

 「アウラ? 私の知っているアウラよね?」

 「そうよ、エリカ、陽が暮れようとしているわ。そろそろ決闘をする様に、お母さまからの伝言よ」

 アウラの変わりように、キョトンとしていたエリカだが。

 「……そ、そうね。これ以上、みんなを待たせる訳にはいかないわね。――ランスロット卿! 待たせたけど、決闘を始める。誰にも邪魔をさせない様に、お願いするわ」

 エリカから離れた所にひっそり佇んでいた貴族風の美女が一礼すると。

 近くに繋いでいたペガサスに跨り、ブリタニア艦隊の方へ飛んで行った。

 ブリュンヒルデさんといい、美女にペガサスは良く似合うが、ちょっとだけ羨ましいと感じてしまう。

 「あっ!? エリカ、今の人……どこかで見たと思ったら、前にブリタニア王国がフランク王国に侵攻した時、撤退の命令を出した人じゃないか? あの時の引き際は見事だったぞ」

 「マー君、ランスロット卿は確かに綺麗だと思うわ。でも、マー君はランスロット卿とは面識がないのよね? どうして姿を見ただけの人を覚えているのかしら?」

 現実世界でランスロット卿は男性だった筈だが、この世界ではエリカの影響なのか女性であった。

 それにしても、どうして俺だけ些細な言動でみんなが向きになるのだろう。

 俺は相変わらずの理不尽に苛立ちながら、

 「エリカ、エリカの側近も近くに居たんだな。敵意がなかったので、流石の俺も気づかなかった。それだけの事だ……」

 言い訳染みた話題を振って、話を進めようとした。

 「そう、もういいわ。そろそろ始めないとね。マー君、覚悟はいいかしら?」

 エリカの雰囲気ががらりと変わり、聖剣に手を掛けた――。

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