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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第七十六章 極東へ
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4.世界の果て

 連続で何時間飛び続けただろうか。

 (そろそろアーラとルーナ、ペガサスを休ませなくては……)

 同じ様な景色が続き、先が分からない不安から焦りが生じる。

 だが、次第にそんな焦りが消えていき、不安が濃くなった。

 ちなみに、濃くなったのは不安だけでなく。

 周りの景色が暗くなってきて、その景色に既視感を覚えたのだ。

 「アレス、景色が段々変わってきました……」

 「ねえ、君、僕じゃなくて、インドラに聞いてよ。彼の方が、この辺りに詳しいよね?」

 確かにアレスの言う通りで、俺はインドラさまに念話を送る。

 (インドラさま、周りの景色が段々暗くなったと言うか……この黒い靄の様な景色に既視感を覚えるのですが……)

 (ほうー、極東の男は、この景色に見覚えがあるのだな。ここから先は何もない、世界の終焉だと思っていたが……)

 インドラさまが、何やら意味深な事を伝えた。

 そもそも何もないと言ったが、俺の故郷がこの先にあると突っ込んだのはインドラさまなのだ。

 それなのに、どういうつもりだろうかと問い質したくなるが。

 それよりも黒い靄が漂い出した事が気になって堪らない。

 (インドラさま、タルタロスという神さまの事をご存知ですか?)

 (ほうー、極東の男、貴様が神を語るとは……)

 インドラさまは何を言いたいのだろう。

 アレスが普段口にするように、俺に不遜だと言いたいのだろうか。

 念話では相手の表情が分からないので、話だけではニンジャといえども相手の心を読む事が出来ない。

 (インドラさま、俺はそんな大それた事を言っている訳ではありません。以前マダガスカル島で、タルタロスという神さまと遭遇しました。アレスは、果てしなく続く靄の空間を神と呼ぶ事に面白くなさそうでしたが……)

 アレスが俺の顔を見上げ、愛らしい双眸を細める。

 (ほうー、その様なモノが神とは……)

 インドラさまが意味深な呟きをするが、どういう意味だろう。

 (インドラさま、今はタルタロスよりも世界の終焉とは、どういう意味ですか?)

 (極東の男、そのままの意味だ。それより貴様は、世界の終焉から来たのであろう)

 インドラさまは知っていて、何故そんな突っ込みをするのだろうか。

 これでは無駄な念話が続くだけである。

 (インドラさま、以前タルタロスと遭遇した際、俺の剣の力で焼き尽くしました。今回も試してみます)

 (ほうー、極東の男、貴様は神と口にした相手を滅ぼし。あまつさえ、己が神だと思うモノを攻撃するというのか)

 最早インドラさまの突っ込みは、俺を非難している様にしか聞こえない。

 だが、辺りが益々暗くなり、周囲を漂う靄が濃くなっている現状で。

 手をこまねいていては、状況が悪くなる一方だ。

 タルタロスは以前消滅させたが、一時的に消し去っただけで滅ぼしたかは分からない。

 俺たちを覆うモノがタルタロスか、それに似た何かは分からないが。

 攻撃をすることを決意する。

 「アレス、これから俱利伽羅剣で状況を打破しようと思います」

 「ねえ、君、突然僕にそんな事を言われても……どこに敵が居るんだい?」

 アレスの返事に拍子抜けするが、わざとであろうか。

 どうせ俺とインドラさまの念話を聞いていた筈なのにと、文句を言いたくなるが。

 「アレス、みんなにも知らせますから、後にして下さい」

 敢えてスルーしたが、文句を言われる前に念話を送る。

 (インドラさま、取り敢えず俺が攻撃を放ちますので、何が起きるか分かりません。警戒を厳にして下さい)

 (ほうー、極東の男、貴様は攻撃するというのだな……面白い!)

 先程意味深な事を伝えたが、何だか乗り気なようだ。

 (コテツ、聞こえますか? 先程から濃くなっている靄を……タルタロス、もしくはそれに似た何かだと判断し、攻撃を仕掛けます。コテツたちも警戒して下さい)

 (うむ、突然貴様は何を言っているのだ? 私に問われても、答えようがない)

 コテツにもインドラさまとの念話が聞こえていた筈。

 それなのに、俺を馬鹿にしているのだろうかと苛立つが、我慢する。

 俺は仲間たちへの連絡を終え、俱利伽羅剣に手を掛けた。

 「アレス、手綱をお願いします。――アウラ、これから俺はアーラの背中に立つけど、落ちない様に気を付けてくれ」

 (インドラさま、コテツ、これから攻撃するので、アーラの後ろに移動して下さい)

 攻撃前の布陣を整え、気合を入れる。

 「カザマ、攻撃って、どこに敵がいるの?」

 アウラが空気を読まない発言をするが、集中するために聞き流し。

 アーラの背に立ち、深呼吸を一度行い、俱利伽羅剣を抜く。

 『迦楼羅焔かるらえん!』

 渾身の力で空を斬った。

 燃え盛る炎が靄を裂き、以前と同じ様に消滅するかに思われたが。

 炎は太刀筋をなぞる様に走り、燃えた靄を周囲の靄が覆い。

 まるで修復したかの様に見えた――。

 抜き身の俱利伽羅剣を持ったまま、茫然とする俺にアウラが尋ねる。

 「カザマ、突然大きな声を上げて、剣を振ってどうしたの?」

 アーラの背に立ったまま振り返ると、アウラが引き攣った笑みを浮かべている。

 俺の事を頭の可笑しなヤツだと思っているのだろうか。

 「ねえ、君、アウラの言う通りだよ。幾ら病気でも、時と場所を弁えて欲しいよ」

 「アレス、言って良い事と悪い事がありますよね。そもそも、さっき攻撃をすると言いましたよね。俺にだって失敗する事くらいありますよ……」

 アレスに突っ込まれて向きになったが、攻撃が不発に終わったのは事実。

 あまり強く文句を言う事が出来なかった。

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