表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第七十六章 極東へ
474/488

1.補給

 ――異世界生活二年五ヶ月と五日目。

 途中補給のため、スエズ運河要塞に一晩停泊し。

 その後、十日間でムンバイに入港した。

 以前シンガポールへ基地建設に向かった時を思えば、かなりの日数を短縮させている。

 大きくて速度の出難い戦艦クラスのモミジ丸が、この規模にしては足早であるのが大きい。

 それでも、船員や各艦に負担をかけているのは否めなかった。

 目指す海域までは遠く、約束の日を考えるとやむを得ない。


 ――ムンバイ港。

 今回は乗員の下船を極力抑え、補給と情報収集を主とした停泊である。

 補給は順調に進んでおり。

 俺も他の船員たちと同様に港街に入らず、艦橋の中に居たが。

 停泊して数時間が過ぎて、艦橋にインドラさまが現れた。

 「極東の男、久しぶりではないか。精悍な顔つきも変わっていないな。だが何故、私の所に顔を見せに来ないのだ?」

 「インドラさま、ご無沙汰しています。今回は急ぎの要件があり、明日にでも出航する予定なんです。それから不慮の事故で顔が腫れているだけで、もともと俺の顔は、こんな厳つくはありません」

 俺は勘違いをしているであろうインドラさまに念を押した。

 「ほうー、相変わらず面白い事を言う。ところでやけに急ぐ様だが、何か事情でもあるのか?」

 インドラさまが訝しげに俺を見つめる。

 「俺は芸人でも商人でもありませんからね。……それで、実は――」

 俺は更に念を押すと、エリカという幼馴染がいる事から、決闘を行う経緯までインドラさまに伝えた。

 インドラさまは頷きながら、俺の話を聞いていたが。

 「ほうー、それでは尚更私の元に来て、助力を求めるべきであろう」

 話を聞き終えると、胸を張って俺を問い質した。

 「い、いえ、確かに力を貸してもらえるとありがたいですが、一応決闘の約束なので……」

 「ほうー、極東の男ともあろう者が、何を弱気な事を……いつも卑劣な策を用いているであろう」

 俺はアウラの方をちらりと見たが、インドラさまが更に突っ込んできたので戸惑ってしまう。

 インドラさまの言葉は間違っていないだろうが、もっと他に言い方があるのではないか。

 そう思ったが、返す言葉が出てこなかった。

 「ねえ、君、これも日頃の行いが為せることだね」

 アレスが意味深な事を言ってハニカンだが、愛らしい相貌とは裏腹に俺を馬鹿にしているのが伝わる。

 俺は、いつもニンジャとして当然の事を行っているだけなのだ。

 それなのに寄って集って馬鹿にされて、グッと拳を握り我慢していたが。

 「インドラ、アレス、言葉が過ぎると思うわ。私のマー君に……」

 アウラが険しい表情を浮かべ、二柱を睨んで身体を震わせている。

 出会ってから何かと俺を叱ってばかりいたが、初めて俺を庇ってくれた。

 アレスはそっぽを向いたが、怪訝な表情を浮かべアウラを見たインドラさまの様子が急変する。

 急にオドオドし始め、明らかに動揺している様に見える。

 「インドラさま、アウラは俺の母親が憑依しているのです。慣れない内は、アウラと俺の母親の人格が入れ替わって話し出すので、戸惑うかもしれません」

 「マー君、憑依とはどういう意味かしら? 依り代と言いなさい」

 アウラの顔で母親が俺を睨み、俺もインドラさまと同じ様に竦んでしまう。

 「ほ、ほうー、極東の男、そういうことか……。だが、そういう事は早めに知らせて欲しかったぞ」

 インドラさまが文句を言ったが、それを伝える前に話し出したのはインドラさまである。

 俺は、さっきの仕返しに言い返そうとしたが、我慢した。

 「インドラ、丁度良かったわ。これから航海の案内をしなさい」

 「アウラ!? じゃなくて、母さん! 幾ら何でも初めて会った神さまに、その言い方は横暴だと思いますよ」

 「あらっ? マー君、お母さんに文句でもあるのかしら? それに今の発言は、先程のお母さんの言葉の揚げ足を取った様に聞こえたけど……」

 アウラの顔で俺の母親が俺を睨みつけ、俺とインドラさまは縮こまるが。

 「ほうー、親子の話に私が首を突っ込むのは無粋だな。私はそろそろ……」

 「インドラ、お待ちなさい。まだ話は終わっていません」

 俺とインドラさまは、尚もアウラの姿をした俺の母親にあれこれと言われ続け。

 結局、インドラさまは今回も旅の案内役をすることになった。

 何も言わずに、そっぽを向いてやり過ごしたアレスの態度は無礼であったが。

 結果的には賢い判断であった。

 インドラさまが俺の母親に責められたのを察してか、ビシュヌさまは乗艦して来なかった。

 それからインドラさまは、アウラを避ける様に俺の傍に居るが。

 神さまがこれ程恐れる大天使の存在とは、いったい何だろうか。

 そもそも十二神クラスの神々が、中位クラスの天使だと聞いたが。

 そこまでの差があるのだろうか。

 どれ程の違いがあるのか知りたいと思ったが、それを尋ねるのは憚れた。

 そして一晩経ち、補給を終えた第一艦隊は物資の他にインドラさまを乗せている。

 東へ向かう航海のガイド役としての乗船であるが。

 神さまに対して罰当たりなので、この件も口には出来なかった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ