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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第七十二章 マダガスカル島へ
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4.マダガスカル島に向けて

 ――異世界生活二年と二ヶ月二十二日目。

 補給と休息を兼ねて三日間スエズ運河要塞に停泊していた第三艦隊は、出航を始める。

 先に第一艦隊が出航を始め、第三艦隊は後に続く。

 俺は、パンツの一件から気まずくなり、アリーシャとヘーベと話をせず。

 モミジ丸に乗船していた。

 当然第三艦隊の指揮官であるアリーシャは、ベネチアーノに乗船しており。

 ヘーベも変わらずベネチアーノにいる。


 ――モミジ丸、艦橋ブリッジ

 「ねえ、君、いい加減、アリーシャとヘーベに謝って許してもらった方が良いと思うよ」

 アレスが俺を気遣う言葉を口にして、みんなが俺を見つめる。

 「カザマ、アレスの言う通りだわ。カザマがふたりを怒らせたせいで、気まずくて久しぶりにシェルビーと会ったのに、あまり盛り上がらなかったわ」

 アウラがアレスの言葉に続くが、色々と疑問である。

 アレスが本当に俺を気遣っているか疑わしい。

 いつも俺が嫌がることばかり言って来るので、何か裏があるのではないか。

 ニンジャである俺は、信じるより先に警戒する様に訓練されているが、アレスに対しては特に用心深い。

 そもそもアウラは同じエルフでありながら、それ程シェルビーと仲が良い訳ではないのだ。

 「アレス、俺だっていい加減何とかしたいと思っています。でも、今回は何故かふたりとも機嫌を直してくれないんですよ。――アウラ、気まずいと思うなら、お前からも許してくれるようにフォローしてくれよ」

 「ええ、私に言われても困るわ……アリーシャにカザマの事を話し掛けると、違う話をされるのよ」

 アウラが美しい相貌を曇らせるが、俺も唸る事しか出来ない。

 まさか、そこまで嫌われているとは思わなかったのだ。

 「ねえ、君、僕に良い考えがあるんだ」

 アレスが嬉しそうな笑みを浮かべ、何か企んでいる気がする。

 「アレス、また俺が酷い目に遭う様なことじゃないですよね?」

 「ねえ、君、無礼だよ。君は僕を何だと思っているんだい」

 (神さまと言って欲しいんですよね。でも、日頃の行いを考えると苛めっ子としか、思えませんよ。見た目も幼児だし)

 俺は言葉に出せずに、引き攣った笑みを浮かべていたが。

 「うむ、貴様は、私がちょっと傍を離れている間に問題を起こして、子供か?」

 「まったく、コテツ殿の言う通りだわ。カザマは破廉恥なくせに、言動が子供くさいのよ」

 コテツが小言を漏らし、ジャンヌが俺の悪口を言うという。

 いつもの展開に苛立ったが、意外にも遮ったのはアレスである。

 「ねえ、君たち、僕が話している最中だよ。――君は、この機会に第一夫人を改めるべきだと思うよ。どうせアリーシャには、愛想を尽かされたよね。ヘーベを第一夫人にしたらどうだい? 女神は決して従者を見捨てないと思うから、喜んで許してくれると思うよ」

 アレスが強引に口にした言葉に、俺は唖然とするが。

 周りにいた仲間たちが、凄い剣幕で反応する。

 「アレス、それはどういう意味かしら? 事と次第によっては、幾らアルベルトと同じくらい可愛くても許さないわよ」

 「アレス殿、アウラの言っている事は分かりませんが、私も容認出来ません」

 アウラとブリュンヒルデさんに対してコテツが意見するが、

 「うむ、アレスの気持ちは理解出来るし、手っ取り早いと思うが、甲板で遊んでいるビアンカも反対だと思うぞ」

 空気を読めて賢くもあるコテツは、アウラとブリュンヒルデさんを宥めようと思ったのかもしれない。

 「ふたりとも落ち着いて! アレスさまを責めては駄目よ。大体二人とも、それだけ綺麗なのに、どうしてカザマに拘るのか、私には理解出来ないわ」

 ジャンヌがコテツに続くが、ふたりを宥めようとしているのか。

 それとも俺を馬鹿にしているのか分からない。

 アウラとブリュンヒルデさんも褒められて、微妙な心境なのか表情が和らぐ。

 ひとりだけ苛立つ俺が口を開こうとすると。

 「なあ、お前たち、いい加減にしてくれよ。今回は俺という英雄が居るんだぞ。俺をそっちのけにして、カザマを持ち上げる話題をするのは止めろ」

 先程から大人しくしていたグラッドが、何やら自分をアピールするかのように。

 親指を自身に向け、不敵な笑みを浮かべている。

 (俺から話題を逸らしてくれるのは有り難いが、グラッドの称号って……『覇者』と『ドラゴンキラー』だったよな……)

 俺は突っ込みたい気持ちを抑えて、我慢した。

 「うむ、誰が英雄かは別として、グラッドの言う通り、いつまでもくだらない男の話題は止めるべきだろう」

 俺は、コテツが俺の心を読んで余計な事を言わないかと、ドキッとする。

 グラッドは、どういう意味だといわんばかりにコテツを睨んだが……。

 俺とグラッドは互いに落としどころだろうと、引き攣った笑みを浮かべ、無言で握手を交わした。


 しばらくして、女性陣とグラッドが退屈になったのか、ブリッジから居なくなり。

 「艦長、マダガスカル島も赤道に近く、シンガポール基地程ではないが、暑い所だ。船員たちの暑さ対策は抜かりないだろうな」

 「はい、カザマ、我が艦隊の方は問題ありません。以前の経験を踏まえて、各自が備えています。……ただ、第三艦隊の方は、私に指揮権がないため分かりません」

 俺は艦長の返答を聞き、腕組みをして考える。

 第一艦隊の指揮官は俺だが、多忙な俺が不在時は艦長に一任している。

 一応、俺が今回の作戦の司令官だ。

 艦長が言う様に、艦長に指揮権がない以上、俺が確認するのが筋ではないか。

 だが、俺があれこれ言うと、あちらの指揮官であるアリーシャが臍を曲げないだろうか。

 「ねえ、君、またあれこれと悩んでいるみたいだけど、どうせいつも叱られるんだよね。悩むのが無駄だと思うよ」

 「うむ、アレスの言う通りだ。また病気の症状が起きているようだが、毎回叱りつけるのも面倒なのだ。早めに済ませろ」

 アレスとコテツが後ろを押してくれたが、酷くないだろうか。

 当然苛立つが、確かに毎回悪くないのに叱られるのは事実。

 「艦長、先程私が話した事を、私の名前で第三艦隊の指揮官宛てに通信してくれ」

 「アイサー! 無線にて通信を行います」

 艦長が答え、通信士が通信を始めるが……。

 「艦長、第三艦隊の方から返信が届きました」

 「へ、返信の内容は?」

 「カザマ、申し訳ありませんが、船員に対して直接命令するのは止めて下さい」

 「すまない……」

 俺は、以前にも同じようなことで艦長に叱れたが、今回も素直に謝罪した。

 例え俺が、艦隊の最高位である指揮官であろうとも規律を乱してはならないからだ。

 俺の隣に立っているアレスが、俺の顔を見ながら嬉しそうに笑っており、腹立たしい。

 「カザマ、第三艦隊から返信が届きましたが……」

 「どうしたんだ、艦長? 艦長がそんなだと船員たちの士気が下がるぞ」

 何か言い淀んでいる艦長を注意したが、そんな態度をとられては俺の方が気になる。

 「はい、それでは……『余計なお世話。こちらも暑い地方への遠征は経験済み』……だそうです」

 「はあーっ!? 誰だ! 今回の司令官は、俺なんだぞ! 偉そうに……」

 「カザマ、落ち着いて下さい。あちらの指揮官のアリーシャ殿からです。それに追伸があります。――『文句があれば、リヴァイが聞きます』……だそうです」

 俺は、まさかここまでアリーシャが喧嘩腰になるとは思いもせず、奥歯を噛んで怒りを顕にした。

 だが、お互いに熱くなって、作戦前に揉め事を起こすのは良くないだろう。

 そう思って、少し距離を置くことにした。

 以後の指揮を艦長に任せて、俺は指揮官室に籠る――。

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