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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第七十章 ゲルマニア帝国の反撃
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7.別動隊と敵軍へ…

 俺は単身で潜入するつもりでいた。

 だが、アレスは兎も角、ブリュンヒルデさんまで付き添うと言ってきかず。

 独りになるのを嫌ったのか、渋々ジャンヌも俺の後をついてきた。

 「ジャンヌ、お前は祖国を守るために残っても良かったんだぞ」

 「う、煩いわね。私は祖国だと思ってないし、アレスさまをお守りするために、ついて来てるだけよ。破廉恥なカザマのために、付き添ってるんじゃないからね!」

 ジャンヌを気遣った言葉を否定されたが、悪い気はしない。

 ツンデレのジャンヌがアレスを口実にして、素直になれないだけだと思ったのだ。

 俺は大人の対応を示すかの様に、小さく笑みを浮かべて頷く。

 「ねえ、君、またいつもの発作なのかい? 最近、発作が起きる頻度が高くなってる気がするけど、そろそろ治療に専念した方が良いかもしれないよ」

 「アレス、俺は病気ではありません。それから、中二病の事を言っているなら、治療してどうこうなる訳ではありません。あれは自然に治るものです。……も、勿論、俺には関係ありませんが……」

 アレスの突っ込みに答えるのは癪だったが、折角の気分を台無しにされ、思わず答えてしまった。

 それで仕方なく病気についても語ってしまったが、益々アレスの思う壺の気がして口篭ってしまう。

 「カザマ、あなたの病気のことなんて、どうでもいいわ。それより、あまりアレスさまを煩わせないことね」

 ジャンヌがまたも俺に絡んでくるが、幾らツンデレとはいえ、流石にイラっとする。

 俺の様子に気づいたのか、ブリュンヒルデさんがジャンヌを宥めだし。

 俺たちは、いつも通り俺を中心とした不愉快な会話をしながら、対岸にあるだろうゲルマニア帝国軍を探す――。


 ――ザルツディーテの街。

 この街にはコテツに指揮を任せ、アウラとビアンカが同行している。

 グラッドがつい最近、援軍として駆け付けた時には素っ気ない態度を取られたが。

 今回は、少数精鋭の援軍に街の領主も遠慮を見せていた。

 この態度の違いは、前回グラッドが活躍したこともあるかもしれない。

 だが、それよりも以前俺とジークフリートが戦った時に、アウラが魔法を放ったことが大きいと思われた。

 (コテツ、聞こえますか? 俺たちはストラスブールの街を離れて、ゲルマニア帝国軍に潜入を試みます。どうも敵の攻撃が散発的で、本気で攻めているのか分からず、敵の意図を探る必要があると考えました)

 (うむ、こちらは特に変わりない。敵が近づいてくる様子もなく、街の雰囲気も平穏に感じる。本当に敵が攻めてくるのか?)

 (コテツ、ゲルマニア帝国がそちらに攻めて来るかは分かりません。でも、万一に備えることは大切です。リンディーテの街へは、アリーシャとリヴァイだけですが、川沿いにある街なので、リヴァイひとりで何とかなるでしょう)

 (うむ、リヴァイとアリーシャについては、問題あるまい。だが、貴様はどうなのだ? 敵に合わせて我らを分断し、いつも仲間に頼ってばかりの貴様が戦えるのか?)

 俺はコテツに念話で情報の共有をしつつ、仲間たちを気遣ったが。

 この返しは酷過ぎないだろうか。

 先程もアレスとジャンヌに突っ込まれており、再び苛立ってきた。

 (と、兎に角、ゲルマニア帝国軍の思惑が分からない以上、あらゆる可能性を考慮して備えなければなりません。コテツ、そちらの事は任せましたよ)

 俺は言いたい事だけ伝えると、コテツとの念話を終わらせリヴァイに念話を送る。


 ――リンディーテの街。

 今回も街の領主から歓待を受け、アリーシャとリヴァイは屋敷にいた。

 (リヴァイ、そちらの様子はどうですか? その街はアリーシャを敬っており、川沿いにあるため、守りはリヴァイひとりに任せました)

 (おい、お前、敬っているも何も歓迎が過ぎるぞ。アリーシャが煩わしいのを我慢している。大体、お前は俺を馬鹿にしているのか? 川沿いでなくても、俺だけで十分だ。偉そうに……)

 アリーシャに対する歓迎で、前回の滞在を思い出す。

 アリーシャが、いつからオーストディーテ王国の国王に就任するのかと問われた事を。

 その他にもアリーシャに対する事をあれこれ問われて、俺は耐えられなくなり、領主の屋敷を出て宿屋に泊まったのだ。

 リヴァイも俺と同じ気分の味わっているのか、いつもツンデレで素っ気ないが。

 今回はちょっとだけ事情が違う気がした。

 (リヴァイ、そちらの状況は分かりました。別に俺は偉そうにしてませんし、リヴァイを信頼しています。……それで、ゲルマニア帝国軍に動きはありませんか?)

 (おい、お前、相変わらず口先だけは達者だな。お前が随分気に掛けていたので、俺も周囲を警戒しているが、商人などが通るだけだ。お前は商人を気に掛けていたのか? そういえば、お前も商人だったな……)

 リヴァイが珍しく口篭り、何かを考え出したようだ。

 (リヴァイ、要するにゲルマニア兵が近づく様子は見られないということですね。こちらも散発的な攻撃が行われるだけで、ゲルマニア帝国兵の大部分が姿を見せません。そのため、俺たちはゲルマニア帝国軍の動向を探ろうと調査に出ました。……それから、俺は商人ではありませんから……)

 俺はこちらの状況を説明した後、念ためリヴァイの誤解を正しておいた。

 何か、また余計な突っ込みがあるかと冷や冷やしたが、何も言われずに念話を終える。


 ストラスブールの対岸を上空から見下ろしたが、ゲルマニア帝国軍はおろか、兵士らしき人影すらなかった。

 俺たちはゲルマニア帝国軍の動向を探るため、より可能性が高いと思われる下流を偵察している。

 「ブリュンヒルデさん、コテツとリヴァイに念話で連絡を取りました。あちらの方では、ゲルマニア帝国軍が接近する気配がないようです」

 「カザマ、やはりあちらは陽動だったという訳ですか?」

 「はい、そういうことになりますね……」

 俺はブリュンヒルデさんに答え、敵軍の事をあれこれ考えていると。

 「ねえ、君、姑息な事を考えたら並ぶ者がない君だけど、今回は君の思惑が尽く外れているよ」

 アレスが、またも俺を挑発する様な嫌味を言ってきた。

 「アレス、確かにゲルマニア帝国軍の思惑が分からない状態です。でも、俺はもともと分からない中から、万一を想定したに過ぎません。だから、決して俺の思惑が外れている訳ではありません。大体、俺はアレスが言うような卑怯者ではないですよ」

 「カザマ、アレスさまに口答えをして無礼だわ。それに、カザマの言う通りに行動してるけど、全然敵軍が見当たらないじゃない。何だか、敵に騙されて無駄に動かされているだけの気がするわ」

 ジャンヌが文句を言い出してイラっとするが、珍しくジャンヌの言葉が腑に落ちる。

 (まさか……俺は敵の術中に嵌っているのでは……)

 「ねえ、君、また何か考えているみたいだけど、今回は珍しく反省しているみたいだね」

 アレスの言葉が癪に障るが、

 「アレス、意地悪は程々にして下さい。それより、あまりに現実的ではなく、実感が湧かないのですが……もしかしたら、俺は敵の策に嵌ったのかもしれません」

 俺は素直に自分の思いを言葉にした。

 「カザマ、やっぱり私の言った通りじゃない! いつも偉そうな態度を取っているけど、私たちに指図するだけのくせに、嘘までついて……」

 「ジャンヌ、落ち着いて頂戴。カザマは、決して嘘を付いた訳ではないわ。カザマは人間離れしているけど、人間なのよ。間違えることくらいあるわ。それに、今回はカザマよりも賢い人が作戦を考えたのかもしれないわ」

 いつもはアウラが俺を庇い、ブリュンヒルデさんはヤキモチを焼く。

 だが、今回の作戦はアウラと別行動のため、ブリュンヒルデさんが俺を庇ってくれた。

 しかし、庇ってくれたのはいいが、他に言いようはなかったのだろうか。

 俺はイラっとして、顔を顰める。

 「ブリュンヒルデさん、俺は決して間違えた訳でありませんからね。それに、俺が敵の策に嵌ったと決まった訳でもありません。何せ俺は、あの諸葛孔明と対等に渡り合い、ナポレオンを見出した賢者ですよ」

 「ねえ、君、言い訳をするなんて、見っとも無いよ。また懺悔が必要みたいだね。それにしても、君も懲りない人だね。まあ、今回は人間の君では、荷が重い相手だったのかもしれない……」

 アレスに続いてジャンヌも何か言おうとするが、俺が先に反応する。

 「アレス、俺は決して言い訳をした訳ではありません。……ところで、今、俺では荷が重い相手と口にしましたが、何か知っているのですか?」

 「ねえ、君、男女の機微には疎いくせに、こういう時だけ耳聡いね。――僕はあまり親しい訳ではないから、分からないけど……ヘルメスが関わっているかもしれないよ。君は女神キラーと呼ばれて、男神から嫌われているからね」

 アレスが愛らしい相貌を顰めて、ヘルメスさまの名前を出した。

 以前、あまり好きではないと聞いたことがあるが、お互いの感性が対極にあり。

 アレスとヘーベは、ヘーラさまの実の子。

 ヘルメスさまやアポロンさまは、ゼウスさまの実の子。

 神々の知られざる事情があるのかもしれない。

 「アレス、俺のことはひとまず置いといて、ヘルメスさまは神さまですよね。神さまが直接人々の争いに関与することがあるのですか?」

 俺が訝しさを覚えたのは当然であろう。

 それが許されるなら、俺がこれまで神々から依頼を受けることもない筈。

 それに、今回のゲルマニア帝国の侵攻にヘルメスさまが関与しているなら、俺は初めから勝てる訳がない。

 ヘルメスさまは俺の事を知っているかもしれないが、俺はヘルメスさまの事を知らないのだ。

 このチート的な行為に、アレスの悪口よりも腹が立ったのは言うまでもない。

 「ねえ、君、確かに神々は直接人々に手を下すことはしないよ。君の様な特別な者に、罰を与えることはあってもね」

 アレスが意味深な言葉を口にして、微笑を湛える。

 「アレス、俺が叱られる前提で話を進めないで下さい。確かに酷い目に遭わされることもありますが、ご褒美を頂戴することもあるんですから……!? そうじゃなくて、ヘルメスさまのことをもう少し詳しく教えて下さい」

 「ねえ、君、直接手を下さなくても、君が神々から話を聞く様に、神のお告げとして事柄を伝えることは可能だと思うよ。僕はそういう狡い真似は嫌いだけど……」

 「あっ!? なるほど……」

 アレスが口篭ったのは、真っ向勝負が大好きな脳筋思考だからであり。

 ヘルメスさまは、北欧のロキさまと同じく知略を巡らすのが好きな神さまである。

 俺はアレスの言葉に納得しつつ、ライン川を下っていく――。

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