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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第六十八章 オーストディーテ王国防衛戦
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3.カレー沖からの撤収

 ――艦橋ブリッジ

 アリーシャとリヴァイがブリッジに戻ると、

 「うむ、どうやら時間稼ぎだったようだな。ブリタニア兵を乗せた小舟が我々の船を通り過ぎ、ブリタニア艦隊の方へと消えてしまった」

 コテツから状況を告げられる。

 「はい、分かっています。エリカも同じことを言ってましたが、そちらは建前で私と話す事のついでだと思いますよ。……先程、エリカから決闘の申し込みを受けました」

 「うむ、その様な話であったか。その様子から察するに、今すぐという訳ではないのだろう?」

 「はい、カザマが戻った後で説明したいと思います。エリカに負けて負傷したらしく、今はアウラが回復魔法で治療しているそうです」

 「うむ、そうであったか。あの男には良い経験になったな。最近、調子に乗ってばかりいたからな」

 アリーシャは渋い笑みを浮かべ、コテツに頷いて見せた。


 しばらくしてアウラの回復魔法を受け、取り敢えず応急措置を終えた俺は、みんなと共にモミジ丸に帰還した。

 そして、ブリッジに上がった俺はこれまでの経緯を説明した――

 「――分かりました。無事にカレーの街を奪還出来たのですね。ナポレオンという人のことは分かりませんが、気に留めておきます。それよりエリカが訪ねて来て、これを渡されました」

 アリーシャはエリカから受け取った手袋を俺に見せ、苦笑いを浮かべた。

 「はあーっ!? アイツ、またアリーシャにそんな事をしたのか? 久しぶりに会ったら中二病になっていて驚いたが、相変わらず自分勝手だな。アリーシャ、そんなのは無視すればいいぞ。俺が代わりに引き受けてやるからな」

 俺は負傷した肩を擦りながら、自分勝手なエリカの行為に腹を立てた。

 「カザマ、エリカの言った通りですね」

 「えっ!? 何のことだ?」

 「私が決闘を受けたのですが、カザマが邪魔をするだろうから、決闘はエリカとカザマとの真剣勝負だと……代理決闘になりますね。場所と日時は――」

 アリーシャから詳しい説明を受けた俺は、エリカに振り回されている状況に苛立ちが増す。

 「アイツ、相変わらず我がままが直ってないようだな。子供の頃から、いつも勝手に色々と……腹立たしい。しかも、指定した場所は、エリカの先祖が決闘を行った場所じゃないか。こちらは前回の東アジアまでの遠征で、あと僅かまで迫ったから辿り着けるだろうが、やる事が多くて忙しいというのに……!? ところで、場所と日時に間違いはないよな? 他に言い忘れとかはないか?」

 「間違いありません。言い忘れもないと思いますが……。カザマ、忙しさで言えば、一国の王となったエリカも負けてないと思いますよ。それより、エリカは真剣勝負と言ってましたが、大丈夫なのですか? 今回は酷い怪我をしたみたいですが……」

 心配そうに俺の肩を見つめるアリーシャに、アウラが口を開く。

 「アリーシャ、私の魔法は回復力を上げる魔法だから、すぐには治らないわ。でも、さっきは肩からいっぱい血が流れて大変だったのよ。それでもエリカは手加減してくれたみたいだったわ」

 アウラの話を聞き、アリーシャが俺に治癒魔法をかけ始める。

 「アウラの言う通りよ。アウラにはエリカの剣筋が見えなかったでしょうが、私はカザマが一刀両断されたかと……心配したのよ」

 「ブリュンヒルデさんの言う通りだわ。カザマが格好をつけ、背中の剣を出し惜しみして、いつもの短剣二本でエリカの剣を受けようとしたけど、見事に砕かれたわ。私はいよいよカザマの最後だと思ったもの」

 ブリュンヒルデさんとジャンヌが口を開いた。

 だが、ブリュンヒルデさんは兎も角、ジャンヌの言葉は俺を馬鹿にしているとしか思えない。

 俺はイラっとして身体を震わせたが、

 「カザマ、傷口が痛むのですか? エリカの口振りで大体察していましたが、今のエリカとカザマとでは力の差が大きいようですね。カザマが無理なら、私が……」

 アリーシャが心配そうに、俺の顔を見つめる。

 「いや、そういう訳ではないんだ。俺の剣は悪しき存在だと剣が認めないと抜けないんだ。俺の自由で抜けないから、クナイを使ったんだ。でも、流石に武器の差が出てしまった。俺も自分の武器について考え直す必要があるな」

 「おい、お前、折角アリーシャが心配してやっているのに、武器のせいにするとは……思い上がるなよ!」

 「うむ、リヴァイの言う通りだ。仮に武器の差があったのなら、何故真正面から受けたのだ。どうせ、貴様の事だから調子に乗っていたのであろう」

 俺は客観的な事実を口にしただけなのに、リヴァイから怒鳴れ、コテツからは叱られ苛立ちを増す。

 「あのー、ちょっといいかしら。先程からずっと、私が蚊帳の外にされている気がしますが……気のせいですか?」

 先程からいつもは俺が座っている指揮官用の椅子に、ヘーベが座っていたが。

 「えっ!? ヘーベ……そういえば、居ましたね。すっかり存在を忘れていました」

 人形の様な美しさとあまりの大人しさに、置物的な感覚で見過ごしていたのだ。

 きっとエリカもヘーベの存在に気づかずにいたのだろう。

 「何ですって! 従者が主の存在を忘れるとは、何事ですか!」

 ヘーベが柳眉を吊り上げ、凄い形相でつかつか歩み寄り、俺の頬を引っ張った。

 「ヒィイイイイ――!? やめれてくらさい。本当に気ぬかふて……」

 俺が負けたのに何故か満面の笑みを浮かべ、大人しくしていたアレスが語り出す。

 「ねえ、君、確かに女神の存在を忘れるのは不遜だけど、今日は君が真っ向勝負をする姿を見せてくれたし、特別に理由を教えてあげるよ」

 「アレス……そんら、うれひそうな顔れ……」

 「ねえ、君、何を言っているか分からないよ。それよりヘーベは、自分が庇護している国から離れ、恩恵が届かない状態になっているんだ。恩恵を与えられないと、少しずつ信仰心が薄れ、存在する力が失せていくんだよ」

 「おう、なるほろ……」

 俺はヘーベに頬を引っ張られたまま、アレスの説明に頷き。

 そして、上手く話す事が出来ない俺は念話に切り替える。

 (それなら、どうしてアレスは俺と共に旅をしているのに、ほとんど変わりがないのですか? やっぱりアレスが十二神の一柱だからですか?)

 「それはどういう意味かしら? アレスを引き合いに出すことで、私がマイナーな女神とでも言いたいのかしら? 声に出さなくても、分かりますよ! この口が悪いのですか!」

 「ヒィイイイイ――!? 口って、声にらしてない……」

 「ねえ、君、僕はヘーベと違って、君から直接顕現する力を受けているんだ。それに、今はジャンヌという強力な信者が身近にいるからね。ヘーベとは在り方が異なっているんだよ」

 (なるほど、良く分かりました。それではこの状態が続くと、ヘーベが消滅するかもしれないということですね)

 「さっきから、何度も何度もわざとかしら……。あなたの言い方だと、私が消滅しても、大した問題ではない様に聞こえるわ!」

 ヘーベは、身体を震わせ怒りを顕にしていたが、とうとう切れてしまい。

 俺の頬にビンタを浴びせる。

 「ヒィイイイイ――!? そんな事、言ってないですよね! 俺はさっきから客観的な事実を伝えただけですよ! そうでないと対策が立てられないでしょう! アリーシャ、助けてくれ!」

 頬を離された俺はアリーシャに助けを求める――。


 アリーシャに宥められたヘーベは、ひとまず落ち着きを取り戻した。

 「うむ、流石は第一夫人といったところか……」

 コテツの余計なひと言でヘーベはおろか、アウラやブリュンヒルデさんまで俺を睨みつける。

 だが、滅多にブリッジに現れない存在に助けられる。

 「みんな、さっきから何を騒いでいるっすか? もうやる事はないんすか? こんな所にいつまでも居ないで、用がないなら帰りたいっすよ」

 確かにビアンカの言う通りである。

 既にブリタニア艦隊は撤退を始めており、俺がゼウスさまから受けた依頼は果たされていた。

 艦長を含めたブリッジのクルーたちは、いつもの光景だと言わんばかりに自分の仕事をしながら、時折俺の様子を横目で見ている。

 ビアンカの登場で俺はヘーベから解放されており、司令官として命令を下す。

 「艦長、第一艦隊は当初の目的を果たした。これより帰港する」

 「アイサー! 全艦、これより帰港する」

 「「「「アイサー!」」」」

 俺の指示で、全艦に命令が下され、第一艦隊は岐路に着く――。

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