6.シチリア島沖で着任
――異世界生活二年と一ヶ月四日目。
昨日はアリーシャに叱られ、リヴァイに怒鳴られて王宮に戻った俺は、正式にアリーシャと婚約したことをグラハムさんに話し。
第二夫人までを公表した。
グラハムさんはアポなしの上、一日に二度も謁見した俺の話を訝しげに聞いていたが、話を聞くと喜んでくれた。
グラハムさんと俺の父親が親友の様な関係にあるからという事もあるだろう。
だが、第二夫人に最愛の娘のレベッカさんが含まれていなかったことが、一番の理由。
俺はグラハムさんの喜びようから、その様に感じた。
きっとグラハムさんは、アリーシャの思惑通り俺たちの後ろ盾になってくれたと思う。
ちなみにこの事はみんなに話してないので、第二夫人の事を知らない筈だ。
夕方、教会に戻った俺は落ち込んでいるだろうヘーベをなぐさめ様としたが、ヘーベの態度は素っ気なかった。
しかも毎回旅の前に礼拝堂で声を掛けてもらっていたが、今回はそのまま旅に向かう様にと言われてしまったのだ。
俺はヘーベが拗ねているのかと思ったが、以前にもヘーラさまや他の神さまの依頼などで礼拝堂に顔を出さなかったこともある。
兎に角、今はこれからの戦いに専念しようと思った。
夜になるといつも通り酒場でグラッドと会い、今回の作戦の概容とこれらの事を説明済みだ――
――モミジ丸艦橋。
明け方、アーラにアレスとコテツを乗せ、シチリア島付近まで西進した第一艦隊と合流して、モミジ丸に着艦した。
みんなはアウラの転移魔法で移動したのか、俺より先に到着している。
「艦長、今の艦隊の状況を知らせて欲しい」
「アイサー、本艦と随伴の駆逐艦八隻は順調に西へと進んでいます。途中、南の大陸にある『チュニス』の港街で最後の補給を済ませ、目的の海域に向かいます」
「艦長、了解した。そのまま予定通りで頼む」
チュニスの港街は、モミジ丸等を建造したユベントゥス王国の造船所があり。
現在は本国にも造船所があるが、チュニスの港が現在でも最大規模だ。
俺が艦長と今後の予定を話していると、好奇心旺盛なアウラが一番に絡んできた。
「カザマ、朝から凄く張り切って見えるわ。船長への態度も尊大で、昨日アリーシャに叱られた事を忘れたのかしら? ぷふふふふ……」
俺はイラっとしたのを我慢して、
「アウラ、今は大事な打ち合わせ中だぞ。邪魔をするなら、ブリッジから退出してくれ」
今の状況を考えて、冷静に話したつもりだったが。
「うわーっ! モミジ君の態度、感じ悪! 何よ、昨日アリーシャに叱られて、逃げる様に家から出って行ったくせに、アウラが可愛そうだわ」
「ジャンヌ、君のツンデレも理解しているつもりだ。だが、今は本当に大事な打ち合わせの最中なんだ。君もあまり言葉が過ぎると退出してもらう」
ジャンヌの容赦のないツンデレは、更に俺をイラっとさせたが、グッと拳を握り指揮官らしく冷静に諫めた。
だが、周りの反応はいつも通り俺に冷たい。
「カザマ、ジャンヌの言い方は厳しかったかもしれません。ですが、最近のカザマは本当に感じが悪いですよ。態度も尊大で、みんなを労わる様子も見られません。そんな事だから、肝心な話を忘れるのですよ」
アリーシャにまで叱られた俺は、昨日二度もグラハム王に謁見までして話を済ませたのにと、憤りと悲しみに震える。
「おい、お前、何度も同じことを言わせるな。つまらないことでアリーシャを煩わせるなよ。大体、ちょっと大物に気に入られているからといって……あまり調子に乗るなよ!」
なおもリヴァイが俺を怒鳴りつけるが、大物というのはファフニールであるグラハムさんの事を言っているのだろう。
賢さはコテツと比べるとイマイチのリヴァイだが、空気を読めるのでグラハムさんに対する遠慮が途中で口篭らせたと思われる。
俺は到着して早々にみんなから責められ、昨日の事も思い出し、
「艦長、済まない……。今後の予定については、後から話す。私は艦内の視察を行う」
ブリッジから退出した。
――指揮官室。
ブリッジを出た俺は、簡単に艦内の視察を終えると自室に入り、ベッドの上に転がった。
いつも通り俺と行動を共にするアレスと、最近は役割の関係で別行動の多いコテツも一緒になって転がる。
「はあーっ……どうしてみんなは、いつも俺に対して冷たいんだろう? ツンデレのジャンヌやリヴァイは兎も角、アリーシャは俺にだけ厳し過ぎやしないか?」
「ねえ、君、君は商人としての賢さは神を驚かせる程なのに、どうしてこうも残念なのかな……。それに君がよく口にするツンデレという言葉だけど、どういう意味だい?」
「アレス、何度も言ってますが、俺は商人じゃないです。ニンジャとしての才能が、数多の職業をこなしてしまうのです。――ツンデレですが、好意を持つ相手にその気持ちを隠す様に厳しく接することです。本当はデレデレしたいのに、ツンツン接してしまう天邪鬼のこと言うんです。前にも説明しませんでしたか?」
「ねえ、君、不遜だよ。僕に対して見下した言い方をして……!? 君、今の君の様な態度が反感を買っているんだよ。みんな君の事を偉そうにと、不満を持っているよね。君の何でも知ってますと言わんばかりの態度……まるで自分が神だと言っているみたいだ。本当に不遜だよ。大体、ジャンヌとリヴァイは、君の事を何とも思っていないと思うよ」
アレスが珍しく言葉を並べて説教したが、俺は怒りを通り越して驚いてしまう。
「そ、そんな……俺は本当の事を……」
「うむ、アレスの言う通りだ。その反応を見る限り、貴様は本当に気づいていなかったのか? そもそも貴様の神を真似るかの様な尊大な態度が、女神たちを取り込む……『女神キラー』であったか? そして男神たちを敵にするのだ」
困惑する俺に、コテツが情け容赦のない言葉を浴びせ、更に俺は動揺した。
「も、もしかして……意地悪じゃなくて、本気で言ってます?」
「うん、勿論」
「うむ、当然」
「…………」
ふたりの反応に返す言葉のない俺は、放心状態に陥った――。




