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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第六十五章 太陽神の謀略
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2.錯綜する情報

 ――酒場。

 俺たちは久しぶりに街の酒場へやってきた。

 今回は珍しくリヴァイが一緒に付いてきたが、アリーシャが女の子同士で話したいと言ったからである。

 ヘーベやブリュンヒルデさんもいるのに、女の子同士というのはどうかと思ったが。

 勿論、そんな突っ込みを入れる訳もない。

 今はただ、昨日から不機嫌オーラ丸出しのリヴァイが、アレスに絡まないか気になって仕方がない。

 だが、俺の不安は杞憂であった。

 久しぶりに会ったグラッドのテンションが高くて、それどころではなくなったのだ。

 「久しぶりだな! 教会でも会ったが、とても話せる雰囲気じゃなかったからな。それにしても、アリーシャは怒るとあんなに怖いのか? お前は、よくハーレム状態の生活を続けられたな?」

 「ああ、久しぶりだな……確かにアリーシャは怒ると怖いが、今回はいつも以上に怒っていたからな。流石のリヴァイもアリーシャに圧倒されて、大人しくしてくれた。オリンポスで暴れられたら、収拾がつかなくなるところだったんだぞ」

 「おい、お前、これ以上余計な事を抜かすと、分かっているだろうな……。大体、お前と違って、俺は空気を読める存在なんだ。わざわざ面倒事にアリーシャを巻き込ませる訳がないだろう」

 リヴァイが拳をちらつかせ、俺は普段アウラが俺にされている様に、両手で頭を庇う様に身構えた。

 「あははははははははははははは……確かに、リヴァイの言う通りだ。わざわざ面倒な目に遭うのはごめんだからな。だが、どうしても引けない事態に遭遇したら……」

 「おい、グラッド、半端者のくせに分かっているじゃないか……」

 リヴァイの半端者という言葉に、グラッドは一瞬顔を顰めたが。

 ドラゴン同士の以心伝心なのか、口端を吊り上げ無言で笑みを交わす。

 「なあ、グラッド、ふたりが同族で気心が知れているのは分かる。でも『半端者』とは、どういう意味なんだ?」

 俺の何気ない問いに、グラッドだけでなくリヴァイまで俺を睨みつける。

 「カザマ、お前も俺に、秘密にしていることがあるよな。余計な事を口にするは止めてもらえるか」

 「おい、お前、他人の話に口を挟むな。お前は何かにつけて首を突っ込みたがるが、子供か? 偉そうに……大人しくしてろ!」

 俺は、またもリヴァイに俺がアウラを叱る様なことを言われて、イラっとするが我慢する。

 「ところでカザマ、話が逸れたが……結局、お前の婚約者の発表はどうなったんだ? お前がはっきりしてくれないと、俺も困るんだが……」

 グラッドが口篭りらしくない姿に、俺は小さく笑みを浮かべる。

 「おい、お前、最近お前といる時間が少なくなったが、随分態度が偉そうだな。ヘラヘラと情けない顔で腹立たしい」

 「うむ、まったくだ。先程叱られたばかりであろう。貴様はまた、リヴァイの言う通り調子に乗っているのだろう。いつも同じことで叱られてばかりで、子供か?」

 リヴァイは子供なので、先程はグラッドに俺の知らない何かで牽制したようだが、今度はドラゴン同士で庇ったのだろうか。

 コテツはいつも何かと口煩いが、この機会を利用してリヴァイに乗っかったのだろうか。

 俺は苛立ちを抑えて、リヴァイとコテツを宥め、

 「ふたりとも、落ち着いて下さい。久しぶりにグラッドと話せたのが嬉しくて、思わず頬が緩んだだけですよ。――グラッド、婚約者の発表の件だったな。一応、アリーシャと婚約を済ませているぞ。ただ、以前から他のみんなをどうするか悩んでいて、コテツとアレスには伝えたが……第二夫人をビアンカとアウラ、ブリュンヒルデさんとジャンヌ。それからヘーベとエリカの六にんを選んだ。オリンポスで発表するつもりだったが、ヘーラさまの横槍があって有耶無耶にされたが、これは決定事項だ」

 グラッドに堂々と告げた。

 グラッドの頬が緩み、途端に雰囲気が明るく変わる。

 「そうか! それは良かった……!? 俺は構わないというか、祝福する。だが、第二夫人が六にんというのは、どういう意味だ? そんなことが可能なのか? 普通は順位があるよな。常識の問題もあるが、喧嘩になったらどうするつもりだ?」

 グラッドは愛しのカトレアさんの名前がなくて安堵したのだろう。

 しかし、俺の前代未聞のというべき選択に、理解が出来ないようだ。

 「グラッド、自分の中の小さな枠で物事を決めるのは良くないぞ。そもそも重婚も誰かが初めに行って、真似られる様になったのだろう。それなら、第二夫人が沢山いても可笑しくないし、俺がきっかけで当たり前の世の中になるかもしれないだろう」

 グラッドは俺の提案に小首を傾げ、何やら考え込む。

 きっとグラッドも俺を真似たいのだろうが、カトレアさんが怖くて現実的でないのだろう。

 俺は、そんなグラッドに目を細めて頷き、大人の対応を見せる。

 「おい、お前、何度も同じことを言わせるなよ……。それよりも女神ヘーラは何を企んでいたんだ」

 俺の格好良い姿が、子供の容姿のリヴァイには気に食わなかったらしい。

 またも俺に拳をちらつかせて威嚇するが、子供相手に向きになっても仕方がないと話を進める。

 「それなんですが……俺にもよく分かりません。リヴァイはその場に居なくて分からなかったみたいですが……『クロノス神』や『魔神パズス』と戦った時、俺の身体が変化して、とんでもない力を発揮したと……俺は記憶が曖昧ではっきり覚えていませんが、みんなが教えてくれました。その事と関係があるのかもしれません」

 「おい、お前、その場に居なかった俺が悪いみたいな言い方は止めろ! 喧嘩を売っているのか……いつでも買ってやるぞ。だが、大体の理由は分かった。お前は知らないなら、余計な事は考えず、神々の悪巧みに騙されない様に気を付けることだな」

 リヴァイは余程自分を尊大に見せたいのか、先程から些細な言葉にも反応して拳をちらつかせ、アレスにもひと睨みして牽制した。

 アレスはそんなリヴァイの態度にも動ぜず、首を竦めて両掌を上げる。

 「おうおう、カザマ、何だか知らないが、また俺が街を守っている間に力をつけたんじゃないのか? 久しぶりにお前の冒険者クリスタルを見せてくれよ」

 リヴァイの我がままな態度で話を逸らせたと思ったが、俺の未知の力が気になったのか、グラッドがいつも通り俺と張り合おうとする。

 俺は最近自分でも確認していなかったが、久しぶりに左手首のクリスタルに意識を集中させた――


 『至高のニンジャ』で『レベルⅩ』……称号は『勇者』『賢者』『影の英雄』『北欧随一の商人』『使徒』

 ステータス……体力『SS+』、力『SS』、素早さ『SSS』、耐久力『SSS』、賢さ『SSS』、器用さ『SSS』、運『SS』、魔法『SS+』

 スキル……『各種アシ改』と『オート防御』と『ディカムポジション』と『スパティウムセクト』と『女神キラー』と『文明開化』と『陰陽師』

 資産『百億八千万ゴールド』、前歴『無銭飲食』


 レベルが最高ランクへと上がり、称号は変わらないがステータスは軒並み上がっている。

 既にカンストしている耐久力と魔法以外のすべてが上昇し、賢さと器用さまでもカンストしていた。

 きっと海のシルクロードを開通させ、要所に補給基地を建設させ、東アジアの国とも国交を結んだ功績が反映されたのだろう。

 戦いの神さまである阿修羅と真っ向勝負を挑み、勝利を収めた功績も大きいかもしれない。

 唯一下がったのは資産だが、これは船員たちの士気を高めるため、景気よくお金を使ったためだ。

 俺は今回の遠征の成果に満足し、頷いた。

 「おい、カザマ……これはどういうことだ?」

 グラッドが身体を小刻みに震わせながら、俺の肩を掴んだ。

 「グラッド、落ち着け! 俺は何度も死にそうな目に遭ったからで、お前の方が強いに決まっているだろう」

 「喧しい! そんなことは分かっているが……レベルが俺と同じなだけでなく、ほとんどのステータスで俺を上回っているだろう。半分がカンスト……お前、本当に人間なのか?」

 グラッドはレベルで俺に追いつかれ、ステータスでは俺に追い抜かれ、余程悔しかったのだろう。

 「グラッド、だから落ち着けよ! 本当に俺は何度も死に掛けたんだ。周りの三にんに聞いてみればいいだろう。グラッドは俺と違い、カトレアさんと良い感じになっていたんじゃないのか?」

 俺は人の気も知らず、文句ばかり言うグラッドにイラっとした。

 「おい、カザマ、馬鹿にしているのか! お前がはっきりしないから、俺はカトレア嬢に手も触れてないんだ。それなのにどうせお前は、お約束の展開が盛り沢山だったんだろう!」

 グラッドが両目を潤ませて、俺の胸倉を掴むが、俺は静かに首を左右に振った。

 「グラッド、俺の言い方が悪かった。気分を損ねたのなら、謝る。だけど、最近はグラッドが考えている様な良い思いは、ほとんどないんだ。何かちょっとでもいい感じになると、すぐに誰かが因縁をつけて、帳消しにする様な酷い仕打ちを受けるんだ。はっきり言って、採算が合わない。――大体、今、グラッドが俺にしている様に、胸倉を掴まれる行為も何度されたことか……その度に殴られたり、ビンタされたりと日常的に体罰を受けていたんだ」

 俺はこれまでの悲しい出来事を思い出し、涙が溢れる。

 久しぶりに数少ない友人のグラッドと言い合い、感情が昂ったようだ。

 今飲んでいるのは、これまでと変わりないソーダ水。

 気分が良くなるだけで、決してアルコールは入っていない。

 「……悪い、お前も色々と苦労しているんだな。久しぶりに会って忘れていたが、初めて会った頃のお前は、こんなに厳つい顔じゃなかったな。両頬にモミジマークをつけているから、俺はてっきり自分の旗印を頬につけて粋がっているかと思った」

 「分かってくれたのは嬉しいが……グラッド、俺に対する印象が色々とすり替わってないか?」

 俺はイラっとしつつも、グラッドの思い違いに既視感を覚えた。

 ヘーラさまや他の神々も、俺に対して過大に認識していた気がするのだ。

 俺が訝しげにグラッドを見つめていると、グラッドが小さく笑みを浮かべる。

 「そんな事はないと思うが……それより俺も、そろそろレベル上げの旅立つ時が来たようだ」

 「はっ!? 何だよ、いきなり……俺にレベルで追いつかれ、気に食わない気持ちは分かる。でも、グラッドは街の警備があるだろう。俺は明日にでも、ブリタニア王国がフランク王国へ侵攻するのを阻止するため、旅立つ予定なんだ」

 「はあーっ!? お前、何言ってるんだ?」

 今度はグラッドが顔を顰め、笑みが消える。

 「はっ!?」

 俺とグラッドは訳が分からず、互いに首を傾げていると、

 「ねえ、君たち、男同士で見つめ合って何をしているんだい? 君たちは、ずっと思いを寄せる相手がいる振りをしていただけで、本当は……」

 アレスが嬉しそうに俺とグラッドの顔を覗き込む。

 「アレス、そういう冗談は止めてくれ! それで、カザマの言っている事は本当なのか?」

 俺はいつも通りのアレスの悪戯に我慢したが、耐性のないグラッドが食って掛かる。

 「うん、本当だよ。だけど、彼はすべてを知らないみたいだね。でも僕は、嘘はついてないよ」

 アレスの言い方が胡散臭いが、情報が錯そうしているのではないかと疑う。

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