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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第六十五章 太陽神の謀略
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1.オリンポスでの出来事

 ――異世界生活二年と一ヶ月と二日目。

 悪夢の様な誕生日が過ぎ、俺たちは久しぶりにヘーベルタニアの街に戻ってきた。

 そして俺は、先程まで溜まりに溜まった疲労のため、教会の自室で眠っていたが。

 今はヘーベの教会の礼拝堂にいる。

 ブリタニア王国の侵攻を阻止するため、再び遠征することになった俺たちだが。

 海のシルクロードを通り、東アジアまで遠征したばかりである。


 俺たちの遠征での功績は――

 シンガポールで基地建設と補給のための港を建設。

 南シナ海北方では、海賊船団の撃破。

 現実世界の上海近郊にも港街を建設し、建業と巴蜀の街では外交を行った。

 巴蜀では同盟を結んだ劉備軍を助けるため、劉璋軍を蹴散らした。

 更に東アジア遠征の目的であったパンダの獣人のハンに会い、誤って攻撃をした事を詫び、ハンに同行してヒマラヤ山脈に巣食う悪しき存在を討伐。

 パンデモニウムを消滅させた。

 ちなみに誤ってハンを攻撃したのは、アウラである。

 キメラやガーゴイル、ヌエなどを討伐したのは主にビアンカたちであるが、パンデモニウムとひと山を 丸ごと燃やしたのはアウラであった。

 良くも悪くもアウラのすることはスケールが大きく、ほとほと手を焼かされる。

 しかもアウラは阿修羅との戦いを俺に丸投げして、インドラさまと因縁のある阿修羅と俺は雌雄を決した。

 互いにボロボロになるまで殴り合い、辛うじて勝利を収めた俺であったが、戦いの神との死闘に立ったまま意識を失くしてしまったのだった――。


 阿修羅との戦いで傷ついた俺は、コテツにスエズ運河基地まで運んでもらったが。

 音速を超える速度で移動して、余計に体力を削がれてしまう。

 五日後に目覚めた俺であったが病み上がりにもかかわらず、仲間たちの我がままに付き合わされ、日本の武術をみんなに教えた。

 その際、お約束ともいえる良い思いをしたが、リヴァイにビンタされて左右の頬にモミジマークを付けられたりと、差し引きで考えるといつも通りマイナスに感じられた。

 その後、アレスから俺の誕生日にオリンポスへ招待されていると聞き。

 俺とアレスはコテツに背負われて、みんなより先にオリンポスに移動したのだ。

 前日にオリンポスに到着した俺は、ヘーベとアレスとアフロディーテさまに、遠征中の出来事をアレスに報告されていたため叱られた。

 アフロディーテさまにはムチで打たれ散々な思いをして、翌日の誕生日には更に酷い目に遭わされたのである。


 礼拝堂の祭壇前には、いつも通りヘーベが佇んでいるが、いつもと勝手が違う。

 祭壇脇にグラッドとレベッカさんが立っているが、ヘーベの横にはアレスが並んで立っている。

 俺たちはいつも通りヘーベの前で膝を着いていたが、形だけであった。

 「さあ、ふたりとも、オリンポスでの一件が何だったか、話してもらいましょうか」

 真っ先に二柱を問い質したのは俺だが、当然であろう。

 一昨日は遠征の際の出来事をあれこれとケチを付けられ、アフロディーテさまからはムチで打たれた。

 昨日はアリーシャとの婚約が決まっていたにもかかわらず、神々の前で強引にヘーベと婚約する様に仕向けられ、訳が分からず反発した俺はヘーラさまに叱られ、胸倉を掴まれたのだ。

 「ねえ、君、神に対して不遜だよ」

 「カザマ、そんなに強く見つめないで頂戴。照れ臭いわ」

 俺が真剣に尋ねているのに、アレスとヘーベは悪びれた様子もなく、いつも通りで俺を苛立たせる。

 「ふたりとも、いい加減に……!?」

 俺はいつも叱られている腹いせではないが、自分がされていたのと同じ様なつもりでいた。

 だが、俺の右隣から俺の言葉を遮る様にアリーシャが口を開く。

 「アレス、ヘーベさん、今回の件について説明して下さい。これだけ大掛かりな事をしたのです。何かしら理由があったのではないですか? もし、何も話してくれないのでしたら、おふたりとの関係も考え直したいと思います」

 アリーシャは静かに淡々とした口調であったが、眉を寄せ凄い迫力を漂わせる。

 アリーシャの後ろでは、リヴァイが今にも飛び出して行きそうな勢いでアレスとヘーベを睨みつけている。

 他のみんなも険しい表情をしていたが、俺と同じくらいの感覚だったのか、アリーシャの勢いに困惑している様に見えた。

 「アリーシャ殿、落ち着いて下さい。話せば長くなるのだけど……!? アリーシャ殿はアウラたちと違って、政務を行いながら旅を続けていたわよね。きっと私の気持ちが分かると思うわ。私はずっと教会か、たまに神殿へ赴くくらいだったの……!? 私が召喚する前のカザマも、同じような生活を送っていたわよね?」

 明らかに狼狽して見えるヘーベが、事もあろうに俺を引き合いに出し、俺は羞恥で身体を震わせ。

 「ヘーベ、また俺のことを病気扱いするつもりですか? ですが、それは中二病ではなく、引きこもりと言うのです。それに、今は関係ないですよね」

 口にしたくない事を言ってしまうが、アリーシャの反応は冷たい。

 「ええ、そうですね。確かに関係ないことだと思います。カザマが引きこもりだったというのは、以前から知っていました。カザマは話の邪魔なので、黙っていてもらえますか」

 俺は仕方なしに答えたのに、どうでもいいような扱いをされてしまう。

 でも、アリーシャが怖いので我慢する。

 「アリーシャ殿、あまり向きになるとは、聡明なあなたらしくないですよ……」

 「ヘーベさん、女神さまに対して、非礼は重々承知しています。ですが、私たちはこれまで、互いの立場に関係のないお付き合いをしてきたと思っています。本来であれば、仮に女神さまであろうと……いいえ、女神さまであれば、その立場から決して許されないと思います。……まだ私は、続きを話さなければなりませんか?」

 ヘーベがいつも教会で懺悔を受ける俺の様に、厳しく責められている。

 俺の様に暴力を受けたりする訳ではないが、この言葉攻めは堪えるであろう。

 ヘーベがますます狼狽する姿に、

 (アリーシャ、ちょっと厳し過ぎるのでは……)

 気の毒に思っていたが、隣に立っているアレスを見ると素っ気ない。

 (アレス、どういうつもりですか! 妹が責められて、タジタジな状態なのに、その態度は冷たくないですか!)

 (ねえ、君、今は僕が問われている訳ではないよ。大体、僕は妹が困った姿を見て喜ぶ性癖はないからね)

 念話でアレスの真意が、俺には分かった。

 ドエスな神さまではあるが、妹を対象にする程の変態ではなく。

 自分に関係ないと言っているが、俺が困る様な案件や戦い以外に興味がないのだろう。

 俺は念話でアレスに文句を言おうとしたが、

 「おい、お前、アリーシャが黙っていろと言っただろう。こそこそと余計なことをするな」

 リヴァイが背後から拳を振り下ろした。

 「!? イッテー!」

 俺は、いつもアウラやブリュンヒルデさんが俺に拳骨を浴びせられた時の様に、両手で頭を押させて蹲る。

 「……コホン。周りが騒々しくて申し訳ありません。先程ヘーベさんは、私がアウラたちとは違い、あまりカザマと行動を共にしていないと言われましたね。その事と関係があるのですか?」

 「……ええ、そうよ。私だけいつもお留守番で、不公平だわ! アウラとかアウラとかアウラばかり、カザマは構って……それなのに、カザマはアリーシャを選ぶし……。私が悩んでいた時に、お母さまが……ヘーラさまが、カザマは特別な者だから、私に任せて欲しいと言われて、話に乗る事にしたの」

 「えーっ!? 私? カザマが私のことを好きなのは知っているけど……ヘーベさん、ヤキモチを焼いたのかしら?」

 「うううううう……」

 アウラが相変わらず余計なことを口走るが、図星だったのかヘーベが唸る。

 アリーシャはヘーベを強い眼差しで見つめていたが、顔を俺に向けた。

 「カザマ、ヘーラさまが何かしら企てていたと分かりました。恐らくヘーベさんは、詳しいことを聞かされず、カザマと結婚出来るとでも唆されたのでしょう。――初めて会った時、お互いの過去を問わない約束をしました。しかし、今となっては、カザマが何者であるかが、真相を知ることに繋がると思います。カザマは、一体何者なのですか? ブリュンヒルデさんは、カザマを極東の神だと思っているようですが……」

 「へっ!? 何で、俺がみんなの前で……俺は何も悪い事をしてないよな?」

 アリーシャだけでなく、好奇心旺盛なアウラ、俺をあれこれ疑うジャンヌ、俺を神さまだと誤解しているブリュンヒルデさんが、俺を見つめる。

 「うむ、あれの事をとやかく訊ねるのは、無駄だ。……時がくれば、分かることだ」

 「うん、そうだね。彼のことは僕も詳しくは知らない。ヘーラにあれこれと問われて、こうする以外に方法がなかったんだ」

 やっとみんなの前で口を開いたアレスから真相を知らされるが、アリーシャの推測通りであった。

 リヴァイはアレスを睨んだままだが、先程よりか幾分眼光が弱くなった気がする。

 こうしてコテツのひと言で、何とか俺はこれ以上追及されずに済んだ――。

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