5.探索活動と哀しみ
――酒場。
グラッドはいつも通り、俺より先に来て酔っ払った様に顔を赤くしている。
「おう、カザマ……何だ? 今日は、店の女の子を口説くつもりか? こんな酒場に不似合いなアイテムまで持ち込んで……」
俺は顔を赤く染めて叫んだ。
「ち、違ーう! これは、後から墓場に行った時に、お参りしようと思って持って来たものだ」
「お前、この街に知り合いとか、いなかったよな?」
グラッドは、俺が花束を持って来たのを見て、お約束のような突っ込みをしてきた。
だが、俺が墓参りに行くと聞いて、違和感を覚えたようだ。
「ああ、墓場を調査し始めてから、毎日お参りに来ているおじさんと親しくなってな。その奥さんの墓に、お供えしようと思って……」
俺は虚空を見上げながら語ったが、グラッドは口元を引き攣らせている。
「お、お前が、墓場に行く時間って……もう少し後だよな? こんな遅い時間に、毎日通って来る人がいるのか? そいつは普通のオヤジなんだよな?」
「えっ!? な、何言ってんだよ。普通に話してるぞ。暗くて外見は良く分からないけど……」
グラッドは俺の肩を両手で掴みながら揺すってきた。
「お前、大丈夫か? 確か、お前が探してるのって、死霊種だったよな? まさか、探してる相手と毎日会って話しをしていたって……」
俺は両手で耳を塞ぎ叫んだ。
「や、やめろー! こ、これ以上は聞きたくないぞ! お、おじさんは優しくて良い人なんだ!」
「そ、そうか……お前が良いなら、それで……」
グラッドは俺の叫びを聞くと、急に力が抜けたように大人しくなった。
――墓場。
グラッドと気まずくなり、酒場では楽しめなかった。
少々苛立っているが、花束を握っていると心が落ち着くような気がする。
今日も俺が来る前からお参りしているおじさんに話し掛けた。
「こんばんは。今日はいつも手ぶらなので花束を持って来ました。どうかお供えさせて下さい」
「おうー、これはどうもありがとう! あなたは本当に優しい人だ!」
おじさんは花束を受け取りお供えすると、お祈りし始める――。
「……ありがとう……ところであなたは、さぞかし有能な冒険者なのだろう?」
俺はおじさんの言葉を聞いて頬を掻いた。
「い、いやー、それほどでもないというか、まだまだ修行中の身ですよ」
「いや、謙遜なされるな。あなたからは、神聖なオーラを感じます」
「い、いやー、俺はニンジャという職業で……えっ!? もしかしたら、教会で寝泊りしているからでしょうか?」
俺の言葉を聞いたおじさんは、何故か凄く驚いた様に声を上げた。
「おー……やはりそうか! では、あなたにお願いすることにしよう。私は見ての通りアンデットなのだが……」
おじさんの話を聞いた俺は驚愕した。
「えっ!? ええええええええええええ――! お、おじさんが……何で? 普通のおじさんじゃないですか?」
俺は決して怯えた訳ではない、騙されて憤った訳ではない。
ただ、ただ驚いたのだ。
おじさんは、これまでの経緯を語り始める。
「ありがとう。本当にあなたは優しい人だ。――私は少し前まで生前を後悔して、成仏出来ずに夜な夜な墓の前を彷徨っていたが……私の力では実態化する様な力はなかった。ある時、ふと空から黒い宝石が降ってきた。私はそれが何か分からなかったが、凄く心を引かれた。――それから知らない内に身体があった。お陰でこうして毎晩、生前悔いが残っていた妻への贖罪のために祈ることが出来た。しかも、あなたの様な優しい人にも出会えた」
俺は現実を逃避するかの様に固まっていた。
「え、えーと……それで、どうしろと……」
「出来れば、あなたの力で成仏させて欲しい」
俺は、俺に神聖な力を感じると勘違いしているおじさんを拒む。
「あ、あのー、俺は教会に寝泊りしているだけで……」
「どうか、お願いします。お礼に魔法の力が宿る宝石を差し上げますから……」
おじさんは、俺に『哀』の宝石を手渡した後、手を組んで地面に膝を着いた。
「俺に、そんな力なんか……」
「お願いします……」
おじさんの再三の願いに小さく頷き、強い使命感を抱く。
俺は暗い空を見上げ、眩い輝きを思い浮かべる。
(稲妻よ! 天より舞い降りろ!)
俺の悲痛な思いを具現化させるように、空から一筋の凄まじい落雷が応じた。
龍が空から急降下した様な輝きは、
『ドォォォォォォォォォォォォォォォォ――ン!!』
おじさんの身体を激しく撃った。
そして、轟音と共におじさんを跡形もなく消し去った。
俺は、おじさんから受け取りすぐに分かった『哀』の宝石を、抱きしめる様に握り締め、暗闇の空を見上げる。
出会いは偶然であり、おじさんは普通の人に感じられた。
俺の回りは特殊なヒトばかりである。
日本での退屈な日々よりも、自分が願った修行の日々は楽しい。
しかし、身体能力で毎日の様に力の差を感じ、行き違いから怒りを買い折檻を受けることもあった。
自信を失くし掛けたり、理不尽だと感じることが多々ある。
そのため他愛の無い話が出来る、普通の人が身近にいてくれて、癒しを覚えていたのだ。
そんなおじさんは、もういない。
空から雨が降って来て、俺と一緒に泣いてくれているようだった――。
――教会。
朝になり教会に帰った。
俺は何となく祭壇の方に足が向かい、ヘーベが立っている。
事情を察して待っていてくれたのだろうか。
「お帰りなさい。良く頑張りましたね。辛かったですね……」
俺は何とか笑おうとしたが、頬が引き攣ってしまう。
「はい、でも大丈夫です。これからたまにお墓参りしますよ」
作り笑いは容易に看破され、労わりの言葉が余計に辛く感じる。
「さあ、今回もあなたの手でペンダントに宝石を嵌めて下さい」
俺はヘーベの前で膝を着き、以前より少し大きくなったヘーベの胸元に、手を伸ばしてペンダントを掌に置いた。
ヘーベの顔が近いが、今は以前の様に緊張はしていない。
ゆっくりと宝石を嵌める。
ヘーベから眩い光が起こり、一瞬目を閉じた――。
ゆっくり目蓋を開けると、以前より更に成長したヘーベは平均的な身長になっている。
(俺とほぼ同年代の女の子の姿に見える……)
それより俺が一番驚いたのは、ヘーベの瞳から輝きが溢れたことだ。
「あ、あのー、どうして……」
「あなたが取り戻してくれた宝石の影響でしょうね……ありがとう、カザマ。それから、辛い思いをさせてしまいましたね」
目の前のヘーベは、初めて会った頃の余計なお節介ばかりの幼女ではない。
まるで本物の女神さまみたいだが……以前から、本物の女神さまである。
俺はそんなヘーベの姿を、膝を着けたまま見つめていた――。




