2.探索活動にあたって
――酒場。
夕食後、今度はヘーベにしっかりと酒場に行くと告げた。
召還された当日に逮捕されたりと、色々あったからである。
但し、目的は宝石を捜すための情報収集だ。
酒場に入って周囲を見渡すと、カウンターにはグラッドがいた。
俺は他に話す相手もいないので、当然の様にグラッドの隣に座わる。
「よう、グラッド。昼間は恥かしい姿を見られたな」
「おう、カザマか。なかなか面白いものが見れたぞ。あれからまだ会ってないが、妹に昼間の事を聞くのを楽しみにしている」
グラッドは笑みを浮かべ楽しげに見える。
「そ、それなんだが、レベッカさんが凄く怖い顔になってな……一応許してくれるとは言ったけど、不安で不安で……」
グラッドは口元を引き攣らせながら話し始めたが、
「……そ、そいつは気の毒だな。あいつは、怒ると怖いぞ……俺も何か仕出かした時は、下手に刺激しない様に謝って、しばらく身を隠すからな」
途中で俺から視線を逸らす。
「おっ、おい! そんなに凄いのかよー! お、俺は、どうしたらいいかな……」
「カザマ! お前は、朝一番にあいつに会いに行って、謝れ! 何かしら、キツイのを一発もらうかもしれないが……俺が助言できるのはそのくらいだ。何なら、俺が教えて欲しいくらいだぞ」
グラッドは弱気な言動を見せたが、俺に力強く助言してくれた。
「わ、分かった。覚悟して、明日の朝にお詫びに行く。――はーっ……折檻は、村で何度も受けたしな……」
俺は覚悟を決めたものの、明日の朝の事を考えると憂鬱で、溜息を吐きうな垂れる。
「……そういえばお前、村では色々と良い思いをしたそうじゃないか。やっぱり俺と気が合うみたいだな! わはははははははは……」
グラッドは何故か俺の村での嬉しいハプニングを知っているようだ。
そして、勝手に共感して喜んでいるが、俺は断じてグラッドとは違う――。
初めはレベッカさんの話題で始まったが、途中から村での出来事に会話が弾む。
そして、あっという間に時間が過ぎた。
「……なあ、この街で死霊系のモンスターがいるとしたら、どの辺りだろうな?」
俺は、それとなくグラッドに訊ねた。
「そうだな……死霊系なら墓地から探りを入れるのが基本じゃないか」
「おう、確かにそうだな……ところでこの街の墓地は、どこにあるんだ?」
俺がそう言うと、グラッドはジョッキについた水滴を指に付けて、テーブルの上に簡単な地図を書いて教えてくれた。
「なるほど……分かった。サンキューなグラッド! 今日は色々と教えてもらったから俺が奢らせてもらうぞ」
俺はグラッドに礼を言い、今度はしっかり会計を済ませて墓地に向かう。
待望の冒険者らしい酒場でのひと時を、やっと叶えて充実感で満たされた。
――墓地。
まだ深夜にはなっていない時間だが、建物がない所だけに暗く感じる。
それでも、森での狩りの経験やニンジャ職のスキルの関係か、周りの様子は把握出来た。
(……!? 真っ暗な墓地に誰かいる)
こんな時間に人がいることを疑うことなく、気配のする方に足を向ける。
酒場でソーダ水を飲み、酔っぱらった様な気分がしたせいでもあろう。
その場所に着くと、お墓の前で誰かが呟きながらお祈りをしている様だった。
暗くて顔までは分からないが、俺よりは年上の感じがする。
「……こんばんは。こんな時間に何をしてるんですか? 暗いし、独りだと危ないですよ」
何と声を掛けたら良いか少し考えたが、無難に声を掛けた。
「えっ!? あ、ありがとう。妻が亡くなってしまってね……」
「そ、そうだったんですか? でも、どうしてこんな遅い時間に?」
「い、いや、仕事が忙しくて、このくらいの時間にしか来れないんだよ……」
所々口篭る様子に目の前の男の人の悲嘆な様子が伝わる。
俺は段々居た堪れなくなってきた。
「……そうですか。それは大変ですね」
「き、君はやけに親切だね……」
「そんな事ないですよ。ただ気になったから声を掛けただけです。あまり邪魔しても悪いですし、そろそろ失礼しますね」
俺はそう言って、この場を離れる。
結局その後、特に情報も得られず教会に戻った。
――翌朝(異世界生活十日目)
ビアンカがいないこともあったが、昨日は色々なことで疲れて、久々に朝食の時間に目が覚める。
それから、教会で初めて朝食をヘーベと一緒に過ごす。
「ヘーベ、今日はこれからギルドでレベッカさんに会います。それから村のモーガン先生の所に行くので、昼食は向こうで済ませます。夕食の準備の時間までには戻りますので」
「分かりました。それでは我が従者、カザママサヨシに青春を!」
「……それ、前にも言いましたよね。言わないとダメですか? ……で、では、行って来ます」
ヘーベの言葉に脱力感を覚えつつも、役所にある冒険者ギルドに向かった。
――冒険者ギルド。
街の中央に位置する役所的な建物の中。
ここに来るのは二度目になるが、自分の担当職員のレベッカさんを探す。
レベッカさんは、カウンターの奥でデスクワークをしているようだ。
「……レ、レベッカさん!」
声を掛けるのに緊張したが、思い切って名前を呼んだ。
「!? お、おはようございます。風魔法でスカート捲りをしようとしても無駄ですよ。私、今日はズボンですから」
「レ、レベッカさん! ひ、人前で、何て事を言うんですか! 周りの人が俺を見てる……」
俺は赤面しながら挙動不審に周りを見渡す。
俺の様子を見て、レベッカさんの硬い表情が弛緩する。
「うふふふふっ、冗談です……昨日の仕返しですよ」
「そ、その昨日は、本当にスミマセンでした!」
レベッカさんの仕返しに心底焦ったが、笑みを溢しながら囁く姿を可愛く感じる。
「昨晩はどうだった? 昨日、兄さんに会ってから墓地に探索に行ったのでしょう?」
「はい……えっ!? グラッドから話を聞いたんですか?」
「凄く反省している様だったと言ってたわ」
グラッドが俺の事を庇ってくれた。
お調子者だがやっぱり良いヤツだと考えつつ、昨夜の報告と今後の方針を説明する。
「そうですか……墓地は、特に怪しい感じはなかったですね。その内現れるかもしれないので、しばらく通ってみようと思いますが……」
レベッカさんは頷き、赤い瞳を見開いて俺の顔を見つめる。
「分かったわ……ところで、これからも村で修行をすると言ってたけど、村の領主から報奨金を受け取りに来る様にと連絡が来てるわよ」
「そうですか。今日中に伺いますね……それじゃ、遅くなるのでそろそろ村に向かいます。また何かあったら顔を出しに来ますね」
赤い瞳に見つめられて、ドキドキしてしまい簡潔に話しを済ませると村へと走った。
――オルコット村。
昨日は戻って来れないと思っていた村に、再びやって来た。
荷馬車で二時間くらい掛かった道のりを一時間半くらいで走破する。
ニンジャスキルで何とかなるだろうと思ったが、想像以上に疲れた。
それでも以前の世界より、遥かに体力が向上いるのと理解する。
――モーガン邸。
「ただいまー! 今帰ったぞ!」
俺はモーガン先生の家に入ると、色々と誤解を生じそうな言葉を発した。
丁度この時間は、アリーシャとカトレアさんが書庫で魔法の研究をしている筈だ。
「……お帰りなさい! 昨日はいきなり叫んで走り出すから、どうしたのかと心配したのですよ……」
アリーシャが書庫から出て来て、出迎えてくれた。
だが、ここでも変人扱いされてしまう。
「い、いや、昨日は心配かけてすまなかった。帰りたくなかったから、つい……」
俺は口元を引き攣らせながら、謝罪と説明をした。
「そうですか……それなら、初めから、その様に言えば良かったのではないですか?」
アリーシャの口調は素っ気無く感じて、俺は拍子抜けしつつも話を続ける。
「そ、そうなんだが、色々と事情があって……!? それで、しばらく夜に街で仕事が出来たんだ。これからしばらく、毎日修行に通うことになった」
「えっ!? と、取り合えず、モーガン先生は留守なので、カトレアさんに話したらどうですか?」
俺はカトレアさんに話すために、アリーシャの後に続き書庫に向かった。
アリーシャの突っ込みは相変わらずだったが、後ろ姿が何となく小さく見えるのは、気のせいであろうか。
――書庫。
中に入ると、カトレアさんがテーブルで何かの本を読んでいた。
その姿は初めて会った時と変わらず、妖艶な雰囲気を醸し出している。
俺はアリーシャと話した事から、更に詳しくカトレアさんに説明した。
カトレアさんは小首を傾げて聞いていたが、柳眉を寄せて話し始める。
「……そう、死霊種ね……何か、変じゃないかしら? 街にそんなのが入り込んでいたら、騒ぎにならないかしら? 周りに気づかれない様な低レベルか、若しくは気づかれないくらい高レベルなのかもしれないわ。それで、カザマは相手を見つけたとして、どのように戦うのかしら?」
「えっ!? ど、どうって……宝石を奪えば良いとしか考えてなくて、そこまで考えていませんでした……」
俺はカトレアさんの尤もな指摘に戸惑い、曖昧な返事しか出来なかった。
「……そう、炎属性は火事になるといけないから、出来ればどちらにも効果がありそうな光属性の魔法が望ましいけど、カザマの魔法は大丈夫かしら?」
「はい、そのー……小さな雷の様なものなら……」
「分かったわ。心配だから一度見てあげるわ」
カトレアさんは椅子から立ち上がり、美しいラインを覆う様に黒いローブを羽織る。
俺はカトレアさんと演習場に向かい、アリーシャも当然の様に後をついて来た。
――演習場。
カトレアさんは初めての練習の時と同じ様に土壁を作った。
俺が高らかに叫ぶと、俺の周囲から微弱な電流が生じて、
『ライトニングピアス!』
土壁に向け翳した左掌から細い光の線が伸びた。
「「……」」
カトレアさんとアリーシャは硬直したように、俺の周りをパチパチと光る電流を見つめていた。
しばらくして、カトレアさんがゆっくりと口を開く。
「……な、何だか微妙な魔法ね。うーん……評価しづらいわ。一応の貫通力はあるみたいだけど……そのアナタの周りで燻っているものも、一緒に放出出来なかったのかしら?」
カトレアさんの評価は、俺にとって容赦のないものだった。
俺は返答しようとするが、首筋から汗を流す。
「はっ!? それは、その……」
口を開け閉めするのみで、言葉が出てこない。
「カトレアさん……カザマが、それは言わないで下さいと、言いたいみたいですよ」
アリーシャは俺の気持ちを代弁してくれた。
俺は羞恥に耐え、顔を真っ赤にして身体を震わせていたが……。
「はっ!? アウラ! ビアンカ! 隠れて笑ってないで出て来い! お前らは毎回毎回……」
隠れて笑っていたアウラとビアンカの存在に気づき叱りつける。
そして、試した事はないが雷系の無詠唱魔法を使うことにした。
一度大きく深呼吸して落ち着きを取り戻して、左掌を空に向け真っ直ぐに挙げた。
(稲妻よ! 天より舞い降りろ!)
俺の心の中の叫びに応えて……。
天からは何も起きなかった。
だが、土壁の数メートル上から「シュ」っと小さな電流が生じ。
「パチ」っと土壁の真上に落ちた。
カトレアさんとアリーシャとビアンカの三にんは、目の前の出来事に無言で見つめていたが……。
「「「……あ、あは、あははははははははははっ……!」」」
少しずつ漏れた笑いは大爆笑へと変わった――。
俺はまたしても笑い者にされて怒りに震えていたが、アウラの反応は別だった。
「……カ、カザマ、アナタはやっぱり何かの精霊と契約をしているの?」
俺はアウラの言葉を聞き、みるみる身体が弛緩して首を傾げる。
「えっ!? 何でそんなことを聞くんだよ。他の三にんは笑い者にしてるのに……」
「カザマは、何か勘違いしてない? 今は天に雷を起こしてくれる精霊はいないわよ?」
俺は拗ねていたが、今のアウラの話を聞いて気がついた。
今は快晴で空に雷を起こす様な雲はなく、山脈に近い村の周囲には、普段雲がある。
「アウラ、ありがとう! どうして不発だったか分かったよ。空に雷を起こす雲があれば、アウラ程ではないけど、俺にも雷の魔法が使えるかもしれない」
俺はアウラに笑みを浮かべ、左拳を肩の高さで真っ直ぐに伸ばし親指を立てた。
「カザマ、分かったから……それは止めてくれないかしら。何だか、イライラするわ!」
アリーシャの時の様に格好良く『グッド!』と伝えるつもりだったが、アウラには不評である。
それから、何となく場の空気が悪くなり魔法の練習は終わった――。
俺が、お昼休みにしようとしていると、
「カザマ、アナタは街からここまで走って来たと言ってたわね。幾ら何でも、時間を無駄にしていると思うわ。私が馬を貸してあげるから、後から屋敷に来て頂戴」
少し迷ったが、カトレアさんの厚意を受けることにした――。




