2.援軍…
ムガール王国との同盟がひょんなことから成され、二日が経過した。
第一艦隊のモミジ丸では俺がいない間、俺に対するみんなの誤解は解けるが。
当然その場にいない俺は知りようがない。
俺はアレスと共にペルシア湾の海岸線に沿って敵国上空を進み、王都であるバビロンへと向かっている。
ペルシア湾に向かっている第一艦隊よりも先行する形だが、丁度良い具合に艦隊が敵国の脅威として注意を引いていた。
俺は懸案事項として、インドラさまの話が気になっている。
ムガール王国から敵国王都までの距離は長い。
インドラさまは軍を動かしてくれると言ってくれたが。
こちらの陸軍と同じ様に兵站が伸びる危惧。
現状では第一艦隊の活躍で、海域に関してはこちらの軍がかなり有利ではある。
「アレス、インドラさまが軍を動かしてくれると言ってましたが、像を使った部隊を派遣してくれるでしょうか? コテツが聞いたら怒るかもしれませんが、像は陸上生物の中で一番強いですからね。像の部隊がいれば敵軍の突破も楽になりますよ」
「ねえ、君、また中二病かい? 僕に尋ねられても答えられないと分かるよね。そういう話題は、君の得意な独り言でお願いするよ。きっと僕でなくコテツが答えてくれると思うよ。どういう風に答えてくれるかは興味があるけど」
アレスは嬉しそうに笑みを湛えて俺を見上げ、俺の口元は引き攣った。
「アレス、そんな意地悪な事を言わないで下さいよ。インドラさまが居た時は、俺とインドラさまの話に無理やり割り込んできたくせに……」
「ねえ、君、不遜だよ。僕は君のためを思ってしたんだよ。ただでさえ君は女神キラーと呼ばれて、男神からは不評を買っているんだ。これ以上男神から睨まれる言動は控えた方がいいよ。それに君は僕以外の男神とはほとんど関りがなく、女神ばかりと関わっているからね」
「アレス、それは誤解ですよ。俺のことを気に掛けてくれるのは嬉しいですが、現にインドラさまとは良好な関係にあります。インドラさまは勿論男神でしょうから、アレスが俺の邪魔をするのは見当違いです」
「ねえ、君、他の世界の神々と親しくなってどうするのさ。ゼウスとかヘルメスとかアポロンとか、君が関わった国々にも男神がいたよね。みんな君が女神しか信仰しないと機嫌を損ねていると思うよ」
俺は首を左右に振り、
「アレス、それは誤解ですよ……」
アレスは可愛らしい相貌を顰めて首を傾げる。
「ねえ、君、それはどういう意味だい?」
「アレス、アレスが名前を挙げた神さまの国は、俺たちに何をしたか忘れたのですか? ヘルメスさまが庇護しているゲルマニア帝国とアポロンさまが庇護しているフランク王国は、俺たちを攻撃したんですよ。しかもゲルマニア帝国はアリーシャを狙い、フランク王国はジャンヌを狙いました。俺は仲間たちを狙った国を信じません。ゼウスさまからは俺が気絶している隙に元の世界に返品されました。俺は公明正大をモットーにしています。だから、決して女神さまを選んで親しくなった訳ではありません」
「ねえ、君、長い、長いよ。それに相変わらずよく回る舌だね。そんなだからゼウスを怒らせ、返品されるんだよ。それに公明正大とか難しい言葉を使って格好をつけているけど、君はまた誤魔化そうとしたよね。君は自分が嫌いだと言った傍から自分は公平だと口にしたんだよ。僕はアウラではないからね。君がいつも難しい言葉を使って誤魔化すことが出来ると思ったら大間違いだよ」
「うううううう……た、確かにそうですが、アウラが聞いたら怒りますよ。それに、アレスだって結構長いじゃないですか……」
俺はアレスに揚げ足を取られて返す言葉がなくて唸り、ちょっとだけ仕返しに文句を言い掛け口篭った。
「ねえ、君、僕に得意の口先で負けて悔しいのは分かるけど、不遜だよ。それにくだらない事ばかり考えてないで、戦いの事を考えたらどうだい。君は像がどうとか言っていたけど、あんな大きな動物を今回の戦いに導入するとは思えないね。君はアリーシャたちが何に困っているか、当然知っているよね」
アレスがいつも通り俺を馬鹿にするが、理詰めの話で珍しく俺を言い負かしたので調子に乗っているのだろう。
俺は大人の対応で我慢しようとするが、アレスの続く言葉に口元が緩んだ。
「アレス、コテツやリヴァイと同じで猪突猛進な戦いを好むアレスが、戦術レベルの話をするとは驚きました。確かに像の部隊は攻撃力が高いですが、遠征するには莫大な食料と水が必要になります。今回の戦いには不向きですね。アレスが気づくくらいですから、当然インドラさまも騎兵を主体とした部隊を先行させ、後続に歩兵を送ってくるでしょう」
「ねえ、君、僕のことを地味に馬鹿にしているよね。そのうち天罰を受けるよ」
「アレス、俺が悪かったですから、そういう洒落にならない脅しは止めて下さい」
俺は段々神さまたちの俺への仕打ちが酷くなっていることを思い出し、悪くもないのにアレスに詫びた。
アレスに相談して、ムガール王国からの援軍は機動力の高い騎兵を主体とした部隊が先行すると予測される。
更にムガール王国は敵国であるバビロニア王国が戦争を行っている状態で、当然警戒を強め近接する街に兵を集めているであろう。
インドラさまが簡単に援軍を出すと言ったのも、準備を整える口実が欲しかったからであろう。
しかし、ムガール王国がインドラさまと交渉をした翌日に進軍を初めても、当分は戦力として当てにはならない。
仮にカラチの街から進軍したとしても、バビロニア王国の王都であるバビロンまでの距離は、ヘーベルタニアの街からイスタンブルの要塞と同じくらい遠く離れているのだ。
そのためアリーシャたちに援軍のことは知らせていない。
詳しいことが分からない未知数の援軍のことを伝え。
待てど暮らせど、援軍が現れないという事態になっては、かえって軍の士気を落としかねないからだ。
俺とアレスは、荒野が続くバビロニア王国の領内上空を王都に向かい、移動を続ける。
バビロニア王国とムガール王国は、共に広大な領土を持つ。
ムガール王国は統治が不十分で、領土内に別の神さまを崇める勢力ある。
バビロニア王国は広大な領地を持つものの、荒野が多く人が住んでいない土地が多いようだ。
俺は空から侵攻をして二つの国の違いに気づいた。
これまで俺たちが攻撃を受けるどころか察知されていないのも、第一艦隊が敵の目を引いただけではないようだ――。




