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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第四十七章 二度目の帰還
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4.三度目の異世界召喚

 「――それでは、そろそろお願いします。ところで今回はファフニールさんの刀を持っていませんが、召喚出来るのですか?」

 「ふむ、本来は契約者が再召喚するのが望ましいが、貴様が背負っている剣も私が力を施したものなので可能であろう」

 「ファフニールさんが出来るのでしたら、ファフニールさんにお願いします。話したいこともありましたので丁度いいです」

 「ふむ、私をお手軽感覚で利用しているようだが……まあ、風間の息子なので大目に見てやろう……」

 俺は効率重視でお願いしたのだが、王さまは俺の言葉に腹を立てたようだ。

 ちなみに、俺が王さまをファフニールさんと呼んでいるのは、余計なことを言うと校長先生と父親を刺激させて騒ぎになるかもと配慮したからである。

 だが、それよりも俺は三度目の異世界に召喚されることで頭がいっぱいだ。

 前回の再召喚では契約書まで作成したのに、ヘーベを怒らせただけであった。

 そして今回は俺がいない間に、ムガール王国との交渉がどうなったか。

 こちらの世界とあちらの世界では、時間の流れが違うことに気づいたからだ。

 「――ふむ、それでは始めるとしよう……」

 俺はファフニールさんの言葉を聞くと、神妙な気持ちで息を呑む。

 俺の身体が発光を始めると、

 「そういえば正義、俱利伽羅剣が使えないと言ったが、契約している神さまの加護が邪魔をしているのかもしれない。母さんの形見の指輪を使うんだぞ」

 俺の父親が俺に拳を突き出し、親指を立てた。

 「はあっ!? ち、ちょっと、それってどういう意味……!?」

 俺は父親から肝心のことを聞けず、周りの景色が変わる――。


 ――異世界生活一年四ヶ月と六日目。

 「はっ!? ここは……!? 王さま、俺は戻ってきたんですか……」

 俺は見覚えのある空間に膝を着いており、顔を上げるとグラハムさんが俺を見下ろしていた。

 周りには誰もいなくて、俺とグラハムさんしかいない。

 「ふむ、貴様の望み通り、再びこの世界に送り込んでやった」

 「ありがとうございます。早速何ですが、王さまにお願いというか相談したいことがあるんです」

 「ふむ、戻って早々に慌ただしいな。あちらの世界でも何か話があると言っていたが」

 俺は久々の里帰りの余韻に浸る間もなく、この世界の今後のことで頭がいっぱいだ。

 「はい、実は南アジアのムガール王国と貿易の交渉に成功しました。しかし、そのためには、ムガール王国の西の大国。こちらの地方ではオスマン帝国の東の国の方が分かり易いかと思います。その国が陸路とアラビア海を封鎖して貿易が行えないのです。王さまの力で何とかなりませんか? 勿論、成功の暁には、香辛料など魅力的な品の貿易が他の国よりも有利な条件で行えると思います」

 「ふむ、なかなか面白い提案だ。東の交通が絶たれ貿易も途絶えていた。東の地方と貿易を行えるのは望ましい。流石は北欧随一の商人と呼ばれた男だ」

 俺は幸先の良い話し合いに頬を緩めていたが、商人と聞くと苦笑に変わる。

 「王さま、ありがとうございます。ですが、商人は止めて下さい。俺はニンジャですし、その言い方だと生きていないみたいですよ……」

 「ふむ、実際貴様は今、一部否定している者たちがいるが、消息不明で死んだことにされている」

 「はあっ!? 消息不明は分かりますが、何で俺が死んだ扱いにされているんですか?」

 「ふむ、貴様がこの世界から元の世界に戻されて、再びこの世界に戻るまでに一ヶ月経過している」

 俺はグラハムさんの言葉を聞いて返事が出来ずに口元を引き攣らせた。

 「ふむ、貴様の気持ちも分からんでもないが、もともと異なった世界同士を行き来するだけでも大変なのだ。多少の時間の誤差は生じるものだ」

 「……そ、そうですよね。そういうことは何となく分かりますよ。みんなどうしてるかな……」

 「ふむ、貴様の仲間たちなら、貴様の意思を受けて多国籍軍を編成し、侵攻している最中だ」

 「…………」

 俺は先程の時間のことよりも、更に驚いて返す言葉もなく固まってしまう。

 「――ふむ、貴様が驚くのも分かるが、そろそろ良いか?」

 「はっ!? はい、大丈夫です。それより、今の状況を教えて下さい」

 「ふむ、半月程前に、ロマリア王国とアテネリシア王国が軍を編成してオスマン帝国に向かった。到着後、オスマン帝国の兵も軍に加わり、アリーシャ殿が総指揮官として東に侵攻を始めた。こちらもモミジ丸と駆逐艦六隻が海上制圧のために向かっている」

 グラハムさんは口端を吊り上げているが、俺は一度に大きな報告を受けて戸惑う。

 「王さま、軍の編成は分かりましたが、今はどの辺りまで侵攻して、どういう状況になっていますか? それにモミジ丸ということは、南の大陸にあるチュニスのドックで建設中だった、金剛型の重巡洋艦が完成したのですか? 駆逐艦六隻というのも隣のドックで建設していた船でしょうか?」

 「ふむ、流石はカザマだ。貴様のことだろうから喜んでくれると思っていた。貴様の察した通りだ。金剛型一番艦は戦艦規模にしようとしたが、時間がかかり過ぎるので歴史通りとなりそうだ。戦艦規模にするには技術と物資、それに経験が足りぬ」

 「いえ、王さま、俺が思っていたよりも早くて驚きました。もう処女航海は済んだのですか? クルーのみんなの練度も気になりますし……護衛となる駆逐艦もですが」

 「ふむ、そんなに急かすでない。チュニスのドックからベネチアーノに入港した後の出航だ。この状況だから練度は高くないが、貴様のクルーたちは十分に準備をしていた。航海は順調のようだ」

 俺はグラハムさんの説明を聞いて、頬を緩ませ頷いた。

 「流石は王さまです。それに艦長とクルーのみんなも頑張っている様で安心しました」

 「ふむ、貴様にしては楽観的だな。私は海上戦力よりも陸上戦力の方を懸念している。敵の陸上戦力は未知数の上、遠征距離が長く兵の士気や補給の問題、何より環境が全く異なり地の利は敵軍にあるのだ」

 俺はもっともだと思い頷くと、

 「王さまの言う通りこちらの軍も気がかりですが、敵軍の情報がないのが一番の問題だと思います。敵を知らなくては作戦の立案が困難ですからね。今回も俺が敵軍に潜入して、情報収集と撹乱をする必要があります」

 久々にニンジャらしい仕事をしようとグラハムさんに提案した。

 商人や芸人などの仕事も、多様な職務を熟すニンジャの仕事に含まれる。

 だが、諜報関係の仕事は久しぶりだ。

 「ふむ、流石はカザマの息子だ。最近の貴様は自ら拷問に遭うという理解不能な言動が目立っていたが、忍者らしいではないか」

 「王さま、俺は決してエムではありませんから……。元の世界で父親にも相談しましたが、この世界でニンジャとして徹しようとすると周りから理解されないんです。しかも、ヘーベの加護で熱い性格にされてしまい上手くいかないだけです」

 「ふむ、こちらの世界とあちらの世界では価値観の概念が異なっているからな。それを考えると貴様はよく頑張っているであろう」

 俺はただひとり俺を理解してくれる王さまの言葉に瞳を潤ませると、

 「王さま、王さまだけですよ。俺の事を分かってくれるのは……。それでは、俺はそろそろ出発しよと思います。まずはモミジ丸に向かい艦長の話を聞いてから敵軍に潜入します。でも、その前にアテネリシア王国のクレアに会ってきます。少しでも詳しい情報が欲しいですからね」

 気持ちを改めて力強く今後の予定を話し、玉座の間を後にする。

 俺はペンドラゴン王宮でグラハムさんと話をしている間に、アーラを呼び寄せていた。

 王宮の外では突然グリフォンが現れて兵士たちは混乱していたが、俺の姿を見ると警戒を解いてそれぞれの持ち場へと離れていく。

 グリフォンを所有している者は極僅かだが、何度もアーラで王宮に現れているので兵士たちに知れ渡っているのだろう。

 アーラが到着するのがやけに早いと訝しく思ったが、急いでいるので考えるのを止めて、アテネリシア王国へと飛び立った――。

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