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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第四章 『喜』の奪還
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6.微笑みスライム

 ――川辺。

 俺はピーノから貰った釣竿で魚釣りをしている。

 ポイントもピーノから教えてもらい、なかなか良い具合に釣れていた。

 アリーシャと約束した今日の料理は、ピーノから教えてもらったハーブの様な葉を包んだ蒸し焼きにしようと決めている。

 残りは日本人らしく干物にしようと思いつつ、更なる釣果を上げようとしていた。

 アリーシャとビアンカが喜んでくれる姿を思い浮かべ、無防備になっていたのかもしれない。

 ふと、背中がヒンヤリする様な気がして、後ろを振り返る。

 「えっ!? な、な、何だ……!? 何で、俺の後ろに……み、水の壁が……」

 突然真後ろに水の壁が現れて、状況が分からず混乱した

 (そ、そうだ、良く分からんが、逃げた方がいいよな……)

 混乱して言葉に出さなかったが、取り合えずそうした方が良いと気づく。

 「あっ!? あ、足が、動かん……何だ、これは……こんなもの!」

 脚に青色のひんやりしたものが纏わりついて動けなくなっているが、ダガーで青色のものを切りつけた。

 「何だ、これ? 切れんぞ! オ……オリャアアアアアアアアアアアア――!」

 得たいが知れないものに雄叫びを上げ、更に何度も斬りつける。

 だが、それは切れないばかりか、段々近づいているのに気づく。

 (も、もしかして動いてるのか? いきなり後ろに現れたが……動いて来たんだよな?)

 水の壁だと思っていたものが動いていると気づき、頭の中がフル回転する。

 「も、もしかして……こ、これって、スライムか? 嘘だろう? 上が見えないぞ……」

 突然現れた水の壁がモンスターのスライムだと理解した。

 『ウインド!』

 すかさず得意の『破廉恥魔法』を唱えた。

 スライムは、俺の破廉恥魔法で水の壁を削られていく。

 俺は脚が自由になったことを確認すると、慌てて逃げ出そうとする。

 しかし、スライムは俺の破廉恥魔法を気にも留めないかのように、そのまま俺に覆い被さってきた。

 まるで雪崩に飲み込まれるように……。

 (ど、どうなってるんだ? 魔法は発動したままだが、外が青色に透けてみえる……)

 破廉恥魔法が障壁となっているのか、呼吸は出来る。

 でもどうしたら良いのか分からず、身動きが取れない。

 「!? 何か、頭にヒンヤリしたものが……た、た、垂れてる。垂れてるぞー! これー……」

 破廉恥魔法は俺の全身を覆っている様だが、俺を中心に下から上に風を巻き起こしている。

 つまり小さな竜巻の様なものだが、当然俺の頭上は風の力が弱い。

 俺は、この危機的な状況で弱点に気づく。

 「ま、まずいぞー! 何かないか? 何か……!? 何か、光る物があるな?」

 俺は頭上に、ふと気になる物を感じた。

 徐々に垂れてきたせいか、手を伸ばせば届きそうな所にある。

 俺は、それを掴み取った。

 急にスライムは、俺を包み込もうとする力が弱くなる。

 (殺れるかもしれない……)

 逃げようとするのに必死で、攻撃するという発想が思い浮かばなかったが。

 『ファイアー!』

 と叫び『燃える男』を発動させた。

 「パァァァァァァァァァァァァァァァ――!!」

 大きな水風船が破裂する様な大きな音が響き。

 巨大なスライムは木っ端微塵に吹き飛んだ。 

 「……た、助かったのか? あ、あれは、何だったんだ……もしかして、あれが微笑みスライムだったのか? それでこれが、ヘーベが言ってた『喜』の感情の宝石か? 何だか、訳が分からないまま終わったぞ……ああああああああああ――! 釈然としない!」

 俺は助かった喜びも束の間、何が何だか分からないままにクエストを完了させて、納得がいかなかった……。

 (……と、取り敢えず落ち着こう。早く帰って晩飯を作らないとな……)

 俺は現実から目を背け、今起きたことを忘れることにした。


 ――モーガン邸。

 俺は川で釣った魚をビアンカの納屋でさばき、干物の準備を済ませる。

 「帰ったぞー」

 「お帰りなさい、カザマ」

 「大漁だぞ! これから俺が、この魚で蒸し焼きを作るから楽しみにしていてくれ!」

 「う、うわーっ! 楽しみです! 魚は久しぶりですし、夕食を誰かに作ってもらうのも久しぶりなので……」

 アリーシャは花が開く様な笑みを浮かべ、喜びを顕にしている。

 「お、おう! そ、それじゃあ、しばらく待っていてくれ」

 俺はアリーシャの笑顔に当てられ、声が上ずりつつも台所に入った。


 ――夕食。

 魚の蒸し焼き料理がテーブルにならんでいる。

 モーガン先生が、またいつもの言葉を口にしていたが、気にならなくなった。

 「な、なんだか不思議な香りがするっすよ!」

 「そ、そうね。何かのハーブかしら?」

 「おっ、良く気づいてくれたな。ピーノから教わったハーブを巻いて、蒸し焼きにしてみた。美味ければ良いが……どうかな?」

 「う、美味い! けしからん! けしからんぞ……」

 モーガン先生は、またいつものセリフを叫ぶ。

 「美味しいっす! 初めは、変わった香りがして気になったけど……こんな魚は初めて食べたっす!」

 ビアンカはハーブの香りが気になったようだが、味に関しては満足そうだ。

 「うん、美味しいです! いつもの素朴な味も好きですが、久々に上品な味を堪能しました……」

 アリーシャも満足そうだが、久しぶりに上品な味というのはどういう意味だろうと違和感を覚えた。

 アリーシャの言葉が耳に残ったが、みんなに喜んでもらい満足である。

 ホットケーキを作った時も感じたが、料理は手間を掛けて作った分だけみんなが喜んでくれて楽しい。

 俺は料理に嵌りつつあった。

 「明日は、今日釣った魚を干物にしたから、それも食べて欲しいんだけど……」

 俺は頬を掻きながら、皆に伝える。

 「干物というのは分かりませんが、明日もお任せしますよ!」

 アリーシャの言葉に、俺は声を弾ませて答えた。

 「おう、任せてくれ!」


 ――自室。

 俺はシャワーを浴びて、ベッドの上で横になっていた。

 今日も色々なことがあったが、微笑みスライムの件をどうしようかと考えている。

 しばらくして、いつも通り扉を叩く音が聞こえた。

 それから俺は、いつも通りアリーシャとベッドの上に並び本を読んでもらう。

 「カザマ、何か悩み事でもあるんですか? もしかしてカトレアさんの事ですか?」

 「えっ!? い、いや、考え事はしていたけど……」

 微笑みスライムの事で余裕がなく、カトレアさんの事をすっかり忘れていたのだ。

 「さっき、アウラから聞きましたよ。カトレアさんは、カザマに興味があるようですね……貴族の娘さんですから、色々と縁談の話が来るようです……今までは、本人が乗り気でなくて……その、お兄さんのエドワードさんが断ってしまい、話が進むことがなかったようです。ですが、最近はカザマが現れて状況が変わったみたいです。カトレアさんは、カザマを貴族だと思っています。しかも、カザマはカトレアさんを拘束しそうになそうですし……それに、カトレアさんはカザマがいると楽しそうです。極めつけが、先日のキラーアントの討伐です。エドワードさんが、カザマを気に入った様なのです。何となく、状況が分かってきましたか?」

 アリーシャは顔を本に向けたまま、時折り言葉を詰まらせつつも説明してくれた。

 俺は呆然と話を聞いていたが、

 「え、えーと、それって……!? お、俺が、カトレアさんと結婚するってことか!!」

 驚いて身体を起こし、声を上げるとアリーシャを見つめた。

 ベッドの上で互いに見詰め合う格好になっているが、アリーシャは意外と冷静だ。

 「そ、そうですね。分かり易く言えば、そういう事になりますね」

 「ま、待て、俺は、まだ十五だぞ! 結婚どころか、まだ彼女も出来たことないぞ!」

 「何を言っているんですか? 十五歳なら結婚しても可笑しくない年齢ですよ?」

 俺は日々の生活に浮かれて、どうかしていたのかもしれない。

 ここは日本ではないと思い出し、急に不安になってきた。

 「ア、アリーシャ、どうしよう? 俺はまだ結婚したくない! 別にカトレアさんが嫌だという訳ではないんだが……」

 「……カザマ。カトレアさんも同じなのかもしれませんよ。それでも、貴族という立場を考えて……カザマならば……と思ったのかもしれません」

 「そ、それは、分かったが! でも、俺は……」

 先程から動揺して混乱する俺に、アリーシャは水色の瞳を細め輝かせる。

 「落ち着いて下さい! それなら、もう少しカトレアさんから距離をとって下さい。今日も抱きつかれて、嬉しそうな顔をしていたと聞きましたよ! それはもう……ヘラヘラと鼻の下を伸ばして……」

 俺は更に動揺して、鼻の穴を膨らませる。

 「お、俺は、そ、そ、そんな顔は……してないからな!」

 「だから、そのはっきりしない態度が、いけないのではないですか?」

 俺は返す言葉を失った。

 アリーシャは凄いことを言ってくる……。

 (本当に俺より二つも年下なのかよ? 俺の年齢であんな美人に言い寄られ、冷静に対応出来る方が可笑しいだろう……お、お、胸が当たって気持ち良かったし……)

 「……わ、分かったよ。もう少し、何とか出来る様に努力する……」

 俺は思っている事とは裏腹に、また調子の良いことを言った。

 だが、決してウソではない筈だ。

 「では、そうして下さい……ところで、カザマは大分文字が読める様になったみたいですね。もし良ければ、今度はカザマが、私に本を読んでくれませんか?」

 (あれっ!? 文字が読めるとバレて怒られると思ったが……何だろうこの展開は……)

 俺は先程、アリーシャに調子に乗らない様に注意されたばかりだが、

 「べ、別に隠していた訳じゃないからな。文字がもっと読める様になったら、アリーシャを驚かせてやろうと思っただけだからな。それじゃ、カトレアさんから借りた本でも読もうか……」

 構わずアリーシャに頼まれた通り、読み聞かせ始めた。

 (気まずい……)

 本の読み聞かせなので会話がないのだが、お互いに緊張しているのが伝わってくる。

 カトレアさんから借りた三冊目の本は『貴族の娘に庶民が恋をする話』だった。

 しかも内容が――庶民の男は、貴族の娘の家の使用人なのだが、夜な夜な貴族の娘の部屋に訪れるという話だった。

 「い、いやー……な、何だろうな。この本は……今日はもうおしまいにしようか」

 俺は重苦しい雰囲気を紛らわす様に声を出し、本を閉じた。

 「で、では、おやすみなさい……」

 アリーシャは得もいえぬ居心地の悪さを覚えたのか、足早に俺の部屋を出る。

 また独りになり、明日からはもう少し気をつけようと思い目を閉じた。


 ――下宿八日目(異世界生活九日目)

 俺はいつも通り、夜明け前に呼びに来たビアンカと一緒に狩りに出掛けた。

 今日は、二人で手分けをしてウサギを二匹仕留める。

 もう少し狩れそうだが、必要以上に狩りをすると獲物がいなくなるとビアンカに教わっていた。

 下宿先に戻り朝食を済ませ、今日は何をしようかと考えている時。

 外から馬の嘶きと馬車が止まる音が聞こえた。

 朝から何だろうと、みんなで訝しげに見つめ合っていたが、アリーシャが玄関を開ける。

 「おはようございます! カザマを向かえに来ました」

 久々に聞くレベッカさんの元気な声に、俺は身体を硬直させた。

 (嘘だろう……誰にも言ってないし、誰にも見られてない筈なのに……!? ヘーベが女神さまの力とかで……)

 俺はふらふらと立ち上がり、レベッカさんに近づく。

 そして、レベッカさんの肩をポンと叩く。

 「レベッカさん、久しぶりですね。はあー……今日も修行が忙しい! 当分、帰るのは無理そうです……で、では、そういうことで……」

 俺はそう告げると、レベッカさんの横を通り過ぎ、森に向かって全力で走った。

 「俺は充実した修行の日々を過ごしてるんだ! 絶対に帰らないぞー!!」

 大声で捨て台詞を吐くが、森に入る手前で意識を失ってしまう――。

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