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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第四十三章 将の資質
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3.小言…

 ――異世界生活一年二ヶ月と四日目。

 紅海を抜けた俺たちの船は、順調にアラビア半島の海岸沿いを進んでいる。

 俺がすぐに東側に船を転進させないのには、二つの理由があった。

 この周囲の情報がほとんどないので、偵察を兼ねた情報収集するため。

 ペルシア方面に少しでも近づいてみたいと思ったから。

 それから、自分の知識と実際のずれがないか確認するため、陸に近い航路を進みたいと思ったからだ。

 「アリーシャ、忙しいのに悪いな。艦長に相談してくれればいいから、リヴァイもいるし大丈夫だよな」

 「私は構いませんよ。でも、私は素人ですし、役に立つとは思えません。私より船長さんとリヴァイに頼れば良いと思いますが……」

 アリーシャの返事はもっともであるが、俺がアリーシャに期待しているのは違った。

 「アリーシャ、そんなことは十分に承知している。俺も指揮を任せているが、船に関しては素人だぞ。そういうことは艦長に任せればいいんだ。アリーシャに期待しているのは、仲間たちを纏めること……俺たちは特殊な存在ばかりで能力は高いが、その強い個性を纏めるのは大変だからな。それから指揮を任せるからには、数ある選択肢からより良い道を選択する判断力が求められる」

 俺の言葉にアリーシャの表情が強張る。

 「私はいつもそこまで考えていませんでした。ただ船長さんやみなさんの話を聞いて、迷った時はリヴァイに相談したりして、たいしたことはしていませんが……」

 「いや、それでいいんだ……あまり難しく考えても仕方ないからな」

 俺は不安そうなアリーシャを励ましたが、いつも通り腕を組んで格好をつけていたリヴァイが口を開く。

 「おい、お前、格好をつけて余計なことを言うな。お前が回りくどいことを言うから、アリーシャが不安になったのだろう。お前はイチイチ余計な事を言わないと我慢出来ないのか。いつもアウラを馬鹿にしているが、お前の方が酷いぞ」

 俺はリヴァイに叱られて苛立つが、コテツや他のみんなも頷いている。

 アレスが俺の顔を見て嬉しそうに笑みを浮かべているのを見て、我慢出来なくなった。

 「分かりましたよ。俺が余計な事を言ったのが間違いでした。それじゃあ、俺たちは偵察に出かけるので、後の事をお願いしますね」

 「おい、お前、何だ、その不貞腐れた態度は……」

 リヴァイがまだ俺に文句を言っているが、俺は面倒なので構わずにブリッジを下りて甲板に向かう。


 ――甲板。

 厩舎に着くと、ビアンカとジャンヌがそわそわしながら待っていた。

 「遅いっすよ。カザマはもたもたしないで早くして欲しいっす」

 久々に出掛けると聞いて楽しみにしていたのか、ビアンカはジャンヌを伴い出発の時を待ちわびていたようだ。

 俺はビアンカたちに同行をお願いした訳でもないのに叱られ、更にビアンカたちが同行すると船の守りが手薄になるので返答に困ってしまう。

 だが、前回の遠征で船旅のストレスが問題となり、ビアンカの暴走を招いてしまった。

 これだけ楽しみにしているのに、断る訳にはいかないだろうと後ろにいるコテツとアレスの方を見る。

 「ねえ、君、何か用かい? リヴァイが話し掛けているのを振り切って飛び出したのに、何故こんなところで躊躇しているのかな?」

 「うむ、貴様は我らの顔色を窺わないと動けないのか?」

 アレスとコテツはわざとであろうか。

 双眸を細めて互いに見つめ合う。

 最近のふたりの連携は以前から気になっていたが、俺はとうとう我慢出来なくなった。

 「あ、あんたらいい加減にしろよ! 幾ら神さまでもやっていいことがあるでしょう! いや、神さまだからこそ、虐めみたいな真似……止めろ!」

 俺は顔を真っ赤にして、これまでの我慢を合わせて声を荒げる。

 「カ、カザマ……何も泣く事ないでしょう……アレス、コテツさまもカザマを強く責めるのは止めて下さい。カザマは凄く繊細で傷つき易い性格なのだから……」

 俺はアウラに抱きしめられて、アーラに移動した。

 「ああ……また、アウラだけずるいっすよ……」

 「えっ!? ビアンカ、カザマとアウラはこういう関係なの?」

 ビアンカが口を尖らせると、ジャンヌが目を丸めて声を上げる。

 「最近はアウラが一番っすよ。前はアリーシャばかりに甘えていたっす。でも、最近はアリーシャが忙しくて構ってくれないから、アウラに乗り換えたみたいっすね」

 「へえー……」

 ジャンヌが唸って頷くが、ブリュンヒルデさんは何か言いたげに身体を震わせていた。

 俺は興奮した状態であるため、ビアンカの誤解を招く発言を否定する事が出来ない。

 しかし、それでもこのまま出発を遅らせる訳にもいかず、コテツとアレスをアーラの前に乗せて飛び立つ。

 後ろからビアンカがルーナで飛び立ち、ブリュンヒルデさんはペガサスで続く。

 ビアンカの後ろにはジャンヌが同乗し、ブリュンヒルデさんの後ろにはアウラが同乗している。

 出発前に、アウラは俺を抱き寄せたまま、俺と一緒にアーラに乗ろうとした。

だが、ブリュンヒルデさんに説得されたのだ。

 「アウラ、優しさと甘やかすのは違うわよね……それから、こういう事は一緒にいれば自然と仲直りする筈よ。男同士の友情は、確かそんな感じだったわよね……」

 こんな感じで言われると俺とアウラも従う他なかった。

 

 ――アラビア海上空。

 オマーンの領海内に入って飛び立ったが、オマーン湾に可能な限り進入して後退する予定である。

 ちなみに、この世界にオマーンという国やオマーン湾があるのか不明だが、俺の知識と照らし合わしながら進む予定だ。

 そして出来るだけ見つからない様に気を付けながら、コテツとビアンカの目と耳を頼りに進んでいく。

 最初はアレスとコテツが何も話さないので気まずい感じがしたが、神さまにとっては些細なことなのか気に留めていない様子だ。

 俺たちは、アーラを中心にトライアングルの隊列を組み、北東へ進む。

 残暑の陽射しは容赦なく照り付け、海上を見過ぎていると目がチカチカしそうなので出来るだけ視線を周囲に動かして警戒と共に目を労わる。

 俺はブリュンヒルデさんの言葉を思い出し、アウラとブリュンヒルデさんがどうしてるのか気になった。

 最近ふたりでいるところを見掛けるが、どんな事を話しているのか聞いた事がない。

 話している様子を見る限り仲の良い姉妹の様に見えるが、今回はお互いに意地を張っている様にも見えた。

 「コテツ、アウラとブリュンヒルデさんですが、さっきのふたりのやり取りを見てどんな感じなのか気になります。俺はふたりがどんな会話をしているか聞いたことがありませんし、ふたりだけになって気まずい思いをしてないでしょうか?」

 「うむ、他人のことを心配する余裕があるのだな。先程まで我らの顔色を窺っていたくせに……こういう時一緒にいれば自然と仲直りする筈だと言ったのは、ブリュンヒルデであろう。しかも、優しさと甘やかすのは違うとも言っていた」

 「うん、確かにそう言っていたよね。君は恋愛関係のことには疎いのに、どうして他人の心配をしたり、人間関係には敏感なのだろうね」

 アレスが言っているのは、フランク王国でジャンヌを助けたことを言っているのだろうか。

 相変わらずふたりが口煩く俺に小言を言ってくるが、先程声を荒げて文句を言ったことは本当に些末なことであったようだと阿保らしくなってくる。

 「俺が心配性なのは認めます。ニンジャという職業の性質上仕方ないですからね。それに、もう何度も言っていますが、俺は恋愛経験がないんです。男女の機微とか、そういうことが分かる訳ないですよ」

 「うむ、また自分に都合が悪くなると開き直る」

 「ねえ、君、あまり自分を卑下して、卑屈にならなくてもいいと思うよ」

 「ふたりが俺を責めることばかり言うからじゃないですか! もういい加減意地悪を言うのを止めて下さい。……コテツには悪いですが、アウラとブリュンヒルデさんたちの所に行って様子を見て下さい。それからふたりには念話を送ることが出来ないので、そのまま残ってもらえると助かります」

 俺はまたも我慢出来ずに声を荒げてしまったが、今回は向きになるのを止めてコテツにブリュンヒルデさんのペガサスに移動して欲しいとお願いした。

 お願いした理由の他に、先程から煩い相手が片方減るという利点もある。

 アレスは俺の言葉を聞くと首を後ろに捻り嬉しそうに笑っているが、コテツは何も言わずにアーラから飛び降り、そのままペガサスの方に空を駆ける様に飛んで行った。


 (――コテツ、着きましたよね。ふたりの様子はどうですか?)

 (うむ、移動して早々に面倒な男だな……そんなに気になるのなら、私の聴覚と同化させて、こちらの様子を聞かせてやる)

 「はあっ!? そ、そんな事が出来るなんて……」

 「ねえ、君、急に大きな声を出してどうしたんだい?」

 「はっ!? い、いえ、俺は決して気が触れた訳ではありません。コテツと念話で会話をしていたら、あちらの様子を直接聞くことが出来ると言われて驚いたんです。でも、そんな便利な機能があるなら、もっと早く教えてくれたら良かったのに……」

 俺は慌ててアレスに説明すると、コテツに対して文句を呟いた。

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