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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第四章 『喜』の奪還
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4.エルフの魔法

 ――演習場。

 演習場に着いたが、ビアンカはまだ来ていない。

 俺は夜中の続きで、新しい魔法の習得のために特訓する。

 まずは、目標になる様に土壁を魔法で作った。

 しかし、カトレアさんが作ってくれた物と比べると不恰好だ。

 そして、声に出さず心の中で唱える。

 (氷の刃よ、突き刺され!)

 初めて行ったが、左掌の前から氷が生成される。

 それらは、土壁に向かって飛んで行き砕けたが、なかなかの好感触だ。

 これは使えると思ったが、俺の真意は、自分が凍結魔法を使えるかにあった。

 俺は目を閉じて静かに深呼吸すると、頭の中をクリアにさせる。

 (凍てつけ!)

 と頭の中で叫んだ。

 これも初めて行ったが、離れた場所に直接作用する魔法だ。

 土壁の手前の空間の一点を見つめ、急激に膨張する様にイメージした。

 俺のイメージでは、拳くらいの大きさから土壁を覆う広さまでを想定した。

 しかし実際には、その半分程しか効力を発揮しなかったようだ。

 それでも、土壁の半分程を凍らせた。

 (足止め程度くらいにはなるか……)

 他には、今のと反対に『空間を圧縮する魔法』から爆発を想像した。

 だが、危ない気がしたので、止めにする。

 あまり一度に試すつもりはないが、最後に詠唱魔法の重ね掛けが出来ないか試す。

 『ウォーター!』

 と叫んだが、初めから攻撃用に行使した訳ではない。

 そのため、対象に掌を向けるのでなく。

 左拳を作り、胸に当てる様に魔法を発動させた。

 その状態から、更に叫ぶ。

 『ファイアー!』

 俺の周りの水を『燃える男』で熱し蒸発させ、周囲に霧が発生する。

 新たに『霧の魔法』を開発させた。

 (これは使える! これでニンジャのスキルを使えば、霧の幻影が使えるだろう……)

 俺は想像を膨らませ、ほくそ笑む――。

 

 ふと、霧の向こうから誰かが歩いてくるのに気づいた。

 「……カ、カザマ。あ、謝りに来たのだけど……い、今の魔法は、何?」

 アウラが隠れて、俺の魔法を見ていたようだ。

 もしかして謝りに来て、タイミングを逃していたのだろうか。

 「新しい魔法の開発をした。これは主に、霧で相手を攪乱させるものだ。以前崖で、アウラが精霊魔法を見せてくれただろう。その時に、色々と気づいて参考にさせてもらった」

 俺は腕を組みながら得意気に説明をした。

 「そ、そうなの、へ、へー……も、もし良ければだけど、私の魔法を教えてもいいわよ……」

 アウラは俺の説明を聞き感心したのかと思いきや、何か別の思惑があるのだろうか。

 アウラは顔を逸らすと、流し目で俺を見つめている。

 「えっ!? 良いのか! でも、アウラの魔法って精霊魔法だろう? 普通の人に使えるのか?」

 アウラが何を考えているか分からなかったが、この話には興奮し胸が熱くなる。

 俺の高揚している様子が伝わったのか、アウラは俺の顔を真っ直ぐ見つめ直す。

 でも頬が薄っすら赤くなっているのは、緊張しているのだろうか。

 「あ、あなたは普通の人ではないわよね……何かの精霊と契約をしていたりするのかしら?」

 「あっ!? い、いや……そうではないが……そ、そうだな、似た様なものかもしれないな。――アウラが色々と事情があるように、俺にも事情があるんだ」

 「そうなの? なら、お互いに余計な詮索は無しにしましょう」

 アウラは緊張気味だった顔を綻ばす。

 お互いに気まずくなっていたが、秘密の共有をしたからだろうか。

 何だか、急にアウラとの距離が近づいた気がする。

 「使えるかどうかは別として、危ない魔法を教えることは出来ないわ。それで、私が良く使う『透明化』の魔法はどうかしら?」

 「おっ!? おー、それは良いな! それは、どうやるんだ?」

 俺は歓喜のあまり声が弾み、アウラとの距離も近づく。

 「貴方は小さいけど、雷撃の魔法を使えるわね……え、えーと、確か『ライトニングピアス』だったかしら。ぷふっ……クスススス……」

 アウラは、俺との距離感も気にせずに小さく笑いを溢す。

 俺は頬を膨らませた。

 「おい! どうでも良いけど、話の途中で俺を笑うのを止めろ!」

 「あっ!? ごめんなさい。別に笑うつもりでは、ぷふっ……クスススス……」

 尚も笑いを止めないアウラに、半ば諦め気味に声を荒げる。

 「もう良いから、話が進まないじゃないか!」

 「そ、そうね……きっと、光系統の魔法の素質もあると思うの! まず私が手本を見せるわね!」

 アウラは俺の訴えに気づいたというよりも、魔法に集中したのだろう。

 先程までとは打って変わり、口元を引き締める。

 『光の輝きよ! 遮断して私を隠して!』

 「おっ!? おー、本当に見えなくなったぞ!」

 俺は驚愕して、子供のようにキョロキョロしながらアウラを捜す。

 「どうかしら? これなら、カザマにも出来そうじゃないかしら」

 アウラの姿は見えないが、先程までとは声の張りが違う。

 きっと、誇らしげに胸を張っているのだろう。

 俺はそんなことを思いつつも、話を進めようと訊ねる。

 「そ、そうだな……で、どういう原理なんだ?」

 「えっ!? げ、原理って、何?」

 「はっ!? も、もしかして、何も考えずに使って……!? 確か、アウラが使う精霊魔法は、普通の魔法と違うんだよな?」 

 俺はまたしても驚愕したが、今度は何も考えずに魔法を行使するアウラの天然ぶりに驚いたのだ。

 以前聞いたモーガン先生の説明に矛盾しているが、例外があるのだろうか。

 「……そうね。私たちは、世界に溢れている精霊たちから力を借りて魔法を使っているわ。今、使っている魔法も光の精霊から、私の周りだけ光が当たらないようにお願いしたのよ」

 誇らしげに説明するアウラの話はさておき、内容の方はあまりに抽象的であった。

それでも、俺は聞いた話を頭の中で整理する。

 「うーん……何となくだが分かった……つまり太陽から注がれる光を、大気中に存在する様々な見えない物質で反射させているのだろう?」

 「えっ!? えーっ! な、何を、言っているか分からないわ?」

 先程メルヘンチックな説明をしたアウラは混乱している様であったが、実際にやって見せた方が早いだろう。

 左手を空に挙げると、自分の周囲の光を屈曲・拡散させるイメージを持ちつつ、

 (光よ! 俺の周りで屈曲・拡散しろ!)

 と頭の中で叫んだ。

 「……な、何、何これ? 何これ? 何これ? カザマが消えたり、現れたり、ボンヤリと見えたり……何よ、これ?」

 アウラは何が起きているのか分からないのか、思い切り混乱しているようだ。

 「アウラ、落ち着け! 俺には、お前の様な精霊魔法は使えない。だから、お前の話を聞いて、原理を応用した魔法を発動させた……そうだな、簡単に言うとお前の魔法の劣化版だ」

 「はあっ!? はあーっ! 何よ、それー?」

 「おっ!? アウラ、詳しい説明は午後からの勉強の時間にしてくれないか? さっきからビアンカが待っていたが、少し待たせ過ぎたようだ――」

 

 俺がアウラに話し終わると、すぐにビアンカが猛烈な速さで接近する。

 そして、俺の幻影を片っ端から攻撃し始めた。

 「な、なんすか? なんすか? さっきから……」

 ビアンカは抑えきれない衝動をぶつける様に、叫びながら幻影を攻撃し続ける。

 「お、おい、ビアンカ! す、少し落ち着こうか! それ、俺に当たると死ぬだろう!」

 「さっきから、面白そうでわくわくしてったす。でも、アウラと仲直りの邪魔したらマズイと思って我慢していたっすよ……! でも、今のキラキラするのを見たら、もう……」

 (今の魔法が、ビアンカを刺激しているか? ならば、解除すれば……)

 『ウインド!』

 と叫ぶと同時に、辺りに残っていた霧と光の拡散は消し飛んだが……

 「キ、キャアアアアアアアアアアアア――!?」

 アウラのすらりと伸びた美しい太腿の上から、純白のパンツが顕わになった。

 アウラは必死にスカートを押さえるが、俺の得意魔法で隠せないでいる。

 (ビアンカを止めるには仕方がなかったんだ! だが、また後でボコられるのか……)

 俺は覚悟を決め、風の魔法をキャンセルさせるが……。

 『ウォーター!』

 と叫び、自分の周りに水の障壁を作った。

 「アウラ! 本当にゴメン! 悪いとは思ったが、ビアンカを止めるには、これしか思いつかなかった! ビ、ビアンカも、いい加減落ち着けよ!」

 ビアンカは複数いた俺の姿が消えると一瞬動きが止まった。

 だが、今は水の障壁を一生懸命蹴ったり、殴ったりしている。

 それでも少しずつ動きが緩やかになり、動きを止めた。

 俺はやっと収まってくれたと思い、安堵するが……。

 「……ビアンカ、離れて!」


 『風よ! 激しく! ぶつかれ!』


 アウラから放たれた魔法は、俺の水の魔法障壁を削り、俺を吹き飛ばした。

 「う、うわああああああああああああああああ――!? な、な、何だよー!」

 『ウインド!』

 突然吹き飛ばされ慌てたが、俺は咄嗟に得意魔法を唱える。

 俺の周りを覆う風がクッションになり、大木に直撃する惨事は避けられた。

 (たまたま回避できたが、次はどうなるか……)

 俺はそのまま逃げて、下宿先に帰る。

 色々な魔法の習得には満足であった。

 でも魔法の怖さを、身を持って体験したのである。

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