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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第四十二章 伝道師
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1.伝道師とは

 ――モーガン邸。

 俺たちが王宮から帰ってくると、夕方になっていた。

 そもそもグリフォンやペガサスでなければ、こんなに早く往復は出来ない。

 名馬であるジャスティスの足でも休憩を挟んで二日は掛かり、普通は馬車で四日以上を掛けて移動する行程である。

 「ただいま。アリーシャ、今、帰ったぞ」

 「お帰りなさい。それで、どうなりましたか?」

 「ああ、大丈夫だ。フランク王国からジャンヌを返還する様な密書が届いたらしいが、王さまはかなりご立腹だった……それで、ジャンヌの亡命は認められた」

 俺の返事にアリーシャだけでなく、アウラとシェルビーからも白い歯が見えた。

 本当はレベッカさんがいた国境警備の軍を進攻されそうになり、グラハムさんは激怒したのだろうが黙っておくことにする。

 もしかしたら、俺が侵攻しようとしたフランク王国の軍を敗走させたのを評価されたのかもしれない。

 「それから、ジャガイモを広めてもいいと王さまから許可をもらった。これで余計な心配をせずに広めることが出来る」

 「それは良かったです。モーガン先生が戻ったら知らせておきますね。私もボスアレスの街で広めたいと思います」

 俺とアリーシャの話を聞いて、自分の身の安全が保障されて安堵した様子でジャンヌが口を開く。

 「みなさんありがとうございます。おかげで安心して、アレスさまの街まで行くことが出来ます。それにしてもカザマは凄いですね。周辺諸国で名前が知れ渡っていますが、今回も王さまから『伝道師』という称号を賜りました。私には難しくて意味が分かりませんが……!? どうしたのですか、カザマ?」

 俺はジャンヌの言葉を聞いて、慌ててジャンヌを黙らせようとしたが遅かった。

 「ねえ、カザマ。伝道師って、どういう意味かしら? 何かを伝える人だというのは分かるけど……」

 仲間内で一番好奇心旺盛なアウラが早速興味を示す。

 俺は何とか誤魔化そうとするが、アレスが嬉しそうに口を開く。

 「ねえ、君、いつもアウラに余計なことを言うなとか、するなとか言っているけど……疑問に答えてあげないと……間違ったことや、君にとって不利なことを言っても文句を言えないよね」

 「うぬぬぬぬぬぬ……さ、最近、またアレスの突っ込みが激しくなった気がします……。俺は何も答えないとは言っていませんよ」

 俺は声を震わせてアレスに答えたが、アウラには拳をちらつかせる。

 アウラは両手で頭を押させて蹲り、ジャンヌが首を傾げた。

 「ねえ、カザマ。アウラに何をしたの? アウラに拳を見せただけで、アウラが凄く怖がったけど……」

 「う、うわーっ!? ジャンヌ! 余計なことを……!? イッテー!」

 俺は事情を良く分かっていないジャンヌの突っ込みを受けて、左手首のブレスレットから久々に電流を浴びる。

 「ねえ、君、余計なことを言わなくても、アウラの反応を見れば分かるよ。それより早く伝道師の意味を教えないから痛い目に遭うんだよ……」

 アレスは溜息交じりに説教するが、俺は渋々説明を始めた。

 「伝道師というのは……もともとは、ある宗教の正統な資格を持たない伝道者を指して言われたらしい……。俺もその宗教を詳しく知らないのではっきりとは分からない。だが、それが転じて物事を色々と広める人のことを呼ぶ様になったみたいだ」

 「それなら、丁度私が教会を広めようとしているのと同じですね。カザマは私を手伝ってくれると約束してくれましたから、伝道師という称号はぴったりですね」

 「ぷふふふふ……アリーシャ、カザマは教会よりもお金儲けのために、何かを広めるつもりよ。何せ、北欧随一の商人ですから!」

 アリーシャが気になることを言ったが、相変わらず空気の読めないアウラが余計なことを言ってくれて、俺は深く考える前に身体を震わせて怒りに耐える。

 さっきアレスに叱られたばかりなので、流石に何度も脅す訳にもいかない。

 取り敢えず要件を済ませた俺は街に戻ることにした。


 ――教会。

 教会に戻った俺は、夕食で先程と同じ様にジャガイモの料理を作った。

 へーべは、皆とは違い恐る恐るではなく威風堂々と口にする

 だが、感情までは制御出来なかったらしい。

 「はふっ!? ううううううう……お、美味しいわ! ほくほくとぱりぱりで得も言えぬ感覚が後を引くわ。流石は北欧随一の商人で、伝道師だけはあるわね……」

 ヘーベが青色の双眸を見開き感情豊かな表情を見せてくれたが、俺は聞きたくない言葉を二重に浴びせられ顔を引き攣らせて黙った。

 アレスが俺の顔を覗き込みながら嬉しそうに笑みを浮かべているが、反応しては負けだと思い無視することにする。

 俺はヘーベに今日の出来事を報告したが、ヘーベは大体知っていたのか反応が薄い。

 ジャガイモ料理を美味しそうに食べてくれて嬉しいが、神さまとしてどうなのかはアレスのこともあるし考えないことにする。


 ――酒場。

 夕食が終わるといつも通り酒場に足を運んだが、やはりグラッドが先にいた。

 「おい、今日は待っていたのに、どうして帰って来なかったんだ!」

 「いや、帰ってきたから、ここにいるんだろう。それに今日は王宮に報告もあるし、無理かもしれないと言ったぞ。大体俺の話に答えてグラハムさんに伝えてくれたんだろう」

 俺の返事を聞くと、グラッドは眉を顰めて顔を背ける。

 「わ、分かってる……お前は本当に屁理屈だけは立派だよな……」

 俺はグラッドの嫌味を聞いてイラっとするとが、アレスとコテツが反応した。

 「うん、グラッドの言う通りだよ。本当に彼はこういう時だけ反応が鋭いんだ」

 「うむ、まさにその通りだ。何度叱られ痛い目に遭っても常識的なことは鈍感なのに、どうして些末な事に、こうも敏感になるのか理解出来ぬ」

 俺はいつもと変わらない嫌味を言われるが聞き流して話を進める。

 「明日は午後から約束通り時間を空ける。ギルドにも顔を出しておきたいし、それでいいだろう……でも、いい加減俺を当てにしないで二人で相談して対応して欲しいな」

 俺は今後のことをレベッカさんに相談することもあり、グラッドに話すが先程の仕返しとばかりに嫌味を付け足す。

 グラッドはまたも顔を顰めるが、この件に関して何も言わず話を変えてきた。

 「おい、今回も大きな戦闘を経験したんだろう。お前のレベルとステイタスを見せてくれよ。俺は留守番だけだから変わってないが……」

 俺はグラッドに問われて、自分もすっかり忘れていた冒険者クリスタルの情報を閲覧する――


 『至高のニンジャ』で『レベルⅧ』……称号は『勇者』『賢者』『影の英雄』『預言者』『北欧随一の商人』『伝道師』

 ステータス……体力『SS』、力『S』、素早さ『SS』、耐久力『SS+』、賢さ『SS+』、器用さ『SS+』、運『S』、魔法『SS』

スキル……『各種アシ改』と『オート防御』と『ディカムポジション』と『スパティウムセクト』と『女神キラー』と『文明開化』と『陰陽師』と『預言者』と『伝道師』

 資産『百一億千万ゴールド』、前歴『無銭飲食』


 レベルは変わりなく、ステータスは体力と器用さが僅かに伸びている。

 運がワンランク上がっていたが、良くも悪くも色々当たってしまうからだろうか。

 預言者と同様に称号とスキルに『伝道師』が増えているが、どちらも大した違いはないと思ってしまう。

 それから北欧の帰りでキャラバンの旅費とジャガイモの買い付けで二千万ゴールド程を費やした……。

 グラッドは予想の範疇であったのか、首を何度か上下させ頷いて見せると。

 「大体分かった。強敵と戦ったと聞いていたが、それ程変わりないみたいだな。それでもステータスが、オールエスというのは気に障る……」

 「ステータスは、あまり俺に関係ない。体力と耐久力とかまで上がって嬉しくない。……でも、俺がグラッドよりレベルが上がったり、大きな変化があれば血相を変えて戦いに出ようとするんだろう?」

 「う、煩い! 余計なお世話だ……俺はまだ全然本気を出してないからな……それより、伝道師って何だ?」

 「そんなに向きにならなくてもいいだろう。俺の場合は最近の上がり方で気づいたが、そろそろカンスト手前のようだ。頭打ちの気がする……!? 伝道師は、グラハムさんがつけてくれた称号なのに、グラッドは知らないのか?」

 俺はそろそろ自分の限界を悟って声を小さくするが、またも不快な言葉を耳にして声が大きくなってしまう。

 「おい、何度も煩いぞ。俺に喧嘩を売ってるのか……大体俺やレベッカと親父とでは、年齢の桁が違うんだ。俺たちは人間と同じくらいしか生きていないが……分かるだろう? 年の功ってやつだな」

 俺はグラッドを何度も刺激させ怒らせてしまうが、その言葉にはなる程と頷く。

 「ああ、分かった。確かにそうだな……伝道師っていうのは、もともとある宗教の正統な資格を持たない伝道者を指して言われたらしい……。俺もその宗教を詳しく知らないのではっきりとは分からない。だが、それが転じて物事を色々と広める人のことを呼ぶ様になったみたいだ」

 俺はモーガン先生の家で説明した通り、グラッドにも話したがグラッドの頬が膨らむ。

 「ぷっ……あはははははははははは……お、お前が宗教って、色々な神に媚を売ってるだけだろう。お前は媚を売って金儲けして……!? まるで商人みたいだな。金儲けのために広めるつもりなんだろう」

 グラッドまでアウラと同じことを言い出して、アレスだけでなくコテツまで俺から顔を背けて身体を震わせた。

 「もう、いい! お前までそんな酷いことを言うなんて……明日は午後から交代すればいいよな!」

 結局最後は俺が拗ねてしまい、酒場を後にする――。

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