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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第三十八章 北海から北欧へ
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1.ライン・マイン・ドナウ運河…

 モミジ丸は、数時間に渡って飛行している。

 その間、俺の魔力は容赦なく動力に使われて、疲れがピークに達しようとしていた。

 ここで、俺はふと疑問に思う。

 水を進んでいる訳ではないのに、スクリュープロペラを回す魔力エンジンのエネルギーを補充しても意味があるのだろうか。

 それに、モミジ丸が滝をジャンプ台代わりに跳躍したのは分かるが、飛行している理屈が分からない。

 「なあ、アウラ……リヴァイに頼まれて、風の魔法を使ってないか? こんな大きな船を幾らドラゴンでも……リヴァイは水を得意にしているんだろう?」

 「私は何もしてないわよ。それに、リヴァイさまのことを聞かれても……私じゃなくて、コテツさまに聞いたらどうかしら? 私には、もっと別な事を……」

 俺は、珍しくアウラの言う事をもっともだと思ったが、続く言葉は聞き流した。

 「コテツ、これだけ大きな船が空を飛んでいるのは、どういうことですか?」

 「うむ、私も少しだけ力を貸しているが、動力はほぼ貴様のものだ。何かしらの方法があるのだろうが、私には分からぬ」

 リヴァイが何かとんでもない事をしているみたいで、外に出てどうなっているか確認したいが、俺は動力室を離れることが出来ない。

 そして、魔力を補充させられ続けて疲労が強くなり、身体に力が入らなくなってきた。

 (リヴァイ、どういう原理でとんでいるんですか? それから、後どれくらいかかるのでしょう? 俺もいい加減疲れて、これ以上は……)

 (おい、お前、お前のために力を貸しているのだろう。普段他人任せなのだから、こういう時くらい役に立ってみろ。それから原理と言われても……お前の力を使っているだけだ……もうじき着水だから、根性を見せてみろ)

 方法は兎も角として、リヴァイが俺のために何かをしてくれるのを久々に感じて頑張ろうと気合いが入る。

 相変わらず言葉遣いが悪かったり、柄にもなく根性論を出したりとリヴァイなりに俺を励まそうと思っているのだろうか。

 それにしても原理を訊ねた時に口篭ったのは、話せない理由があったのか、賢さに問題があって説明出来なかったのか気になった……。

 (賢さだと思うが、後から怒らせない様にそれとなく聞いてみよう……)

 俺は、気力を振り絞って魔力を補充し続ける。


 ――艦橋ブリッジ

 リヴァイは、相変わらず腕を組んだまま表情を変えずに佇んでいたが。

 「おい、お前、これから川の上に降りる。衝撃に注意させろ……降りたら、帆を張って動力を切り替えろ。カザマがさっきから根を上げている」

 空での移動にもいい加減慣れたのか、艦長は身体を固定させたまま指揮を取っていたが表情が引き締まる。

 「はい、分かりました……総員に通達する。本艦は再び川に着水する。総員、衝撃に備えろ」

 「「「アイ」」」

 ブリッジのクルーが返事をすると、艦内にも再度注意が促され、銅鑼が鳴る。

 艦内のすべてのクルーが息を呑む……。

 やがて船体に振動が伝わり、水の音が響くが少しずつ強くなっている。

 そして、船体に大きな衝撃が起こり、船が大きく揺れた。

 『ああああああああああああああああああ――!!』

 船内から叫び声が響く。

 ブリッジ要員は、外の様子が見えるので川の上に降りて安堵しているが。

 船内のクルーは外の様子が分からず、無事にモミジ丸が着水したのか分からない。

 艦長は船内のクルーに指示を出す。

 「本艦は無事、川に着水した。船内の全クルーは衝撃に対する備えを解除。そして艦内に異常がないか、各自点検せよ。今後は帆船として航行するため、帆を降ろし周囲の警戒を厳とする」

 「「「アイ」」」

 艦長の落ち着いた指示に、ブリッジのクルーも迅速に指示を出し、銅鑼が鳴る。

 モミジ丸はドナウ川から飛び越え、別の川に移動したようだ……。

 俺は、コテツとアウラに連れられて、へろへろになりながらもブリッジに戻った。

 「リヴァイ、ここは何処なんですか? それに、どういう原理で船が飛んだのか教えてくれませんか? 今後の参考にしたいので……」

 「おい、お前、ここはマイン川だ。この川はライン川に繋がっている。貴様は運がいいぞ。俺の力を得なければ、もっと大回りしなければならなかったのだ」

 俺は、現在の場所がマイン川だとリヴァイに教えられて、もっと後の時代に作られるであろう……『ライン・マイン・ドナウ運河』を思い出す。

 もしかしたら、俺たちが初めて通ったことで、運河建造の足掛かりになるかもしれない。

 俺は、モミジ丸が歴史的な偉業のきっかけのなったのではと昂った。

 本当なら船がジャンプして川を飛び越えたり、数時間も飛行したりと気にすべきことは別なのかもしれないが……。

 「あっ!? リヴァイ、それで……どういう原理でモミジ丸が飛んだのか教えて欲しいのですが」

 「おい、お前、何故俺が、そんな面倒な事を説明しなければならない。無事に北欧まで向かっているだけで十分だろう」

 俺が何度も訊ねたのが気に入らなかったのか、リヴァイは眉を顰めて俺を睨みつける。

 アリーシャとアウラたちも、俺たちの話を聞いていたのか落胆しているようだ。

 リヴァイはみんなの期待を受けながらも、難しい説明が出来なかったのかもしれない。

 コテツはいつも通り興味なさそうにしていたが、アレスが独り双眸を細めていた――。


 マイン川はドナウ川に比べて規模が小さく、浅瀬で座礁させない様に警戒が強められる。

 しかも基本的に、大型の船が通る川ではなくて、リヴァイが一時的に水かさを増したり、船を浮かせたりと色々力を使っていると分かった。

 リヴァイは何ごともないかの様に振舞っているが、ぶっきら棒な態度は照れ隠しなのかもしれない。

 ビアンカとシェルビーが甲板をあちこち動きながら、周囲の光景を見てはしゃいでいる。

 だが、俺たちはあまりに色々な事があり過ぎて疲れていた。

 特に俺は、大量に魔力を吸収されて精神的な疲労が強く出てしまう。

 ちなみに、かなりの魔力をエネルギーとして使われたが、自分の魔力の容量が尋常でないとは気づきもしなかった。

 

 ――異世界生活一年と十一日目。

 マイン川で警戒を余儀なくされたため船足が遅くなったが、翌日にはライン川に到達した。

 ライン川の中流付近になると、川幅も水深もマイン川よりも規模が大きくなる。

 流石、欧州でも有数の規模を誇る河川だといえよう。

 モミジ丸は、黒海から大移動を始めて一週間程経過している。

 ここからは特に大きな問題もなく、のんびりと海に向かって流れに乗っていく――。

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