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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第三章 初めてのクエスト
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7.クエストの報酬

 ――ゴブリーノ族の集落。

 集落の手前で、ビアンカが大きな蜂の巣を大事そうに抱えていた。

 少し離れた所では、ゴブリンたちがビアンカを警戒している。

 俺はその様子を見て、離れた所からビアンカに声を掛けた。

 「おーい! 待たせたなー」

 ビアンカは大輪の笑みを浮かべ、片手と尻尾を振る。

 「酷いじゃないか……俺は危うく、ハチに殺されるかと思ったぞ!」

 俺は冗談っぽく怒ってみせた。

 「こっちの方が大変だったと思うっす。何せ、蜂の巣を持ってるから、両手が塞がってる上、逃げるにもスピードが出せなかったすよ」

 「うーん……それもそうだな。それじゃ、ゴブリーノ族の族長に挨拶に行くぞ」

 俺はビアンカとのフレンドリーな会話を、周りで伺っていたゴブリンたちに見せつけたのだ……。

 (何故こんなに恐れてるか分からないが、少しでもビアンカに対する警戒心がなくなってくれたら……)

 そんな事を思い、俺は茶番地味たやり取りをしたのである。

 集落の中に入ると、ピーノが近づいてきた。

 ゴブリンの外見は似た様な感じで見分け難いが、何度か話したピーノは何となく分かる様になった。

 ゴブリンの中では平均的な身長で、エドナと同じ一三五センチくらいだろうか。

 だが、骨格がガッチリしたエドナと違い、か細くはある。

 「良く来たな、カザマ! 族長が話したがっているぞ」

 「おー、すまん。さっきは慌てて帰ってしまったからな……後から村の領主の娘さんから、もう一度話した方が良いと言われて、急いで来た」

 俺たちはそんなやり取りをしながら、族長の家に移動した。

 族長の家は、他の家と同じでバンガロー風だが、集落で一番大きい。

 案内されて中に入ると、族長が待っていた。

 「おうー、良く来て下さったな! 人間の中でも尊敬に足る若者よ!」

 族長は俺のことを誤解したままだったが、面倒なので話しを進める。

 「さっきは途中で帰ってしまいすみません。もう一度しっかり話しをした方が良いと聞いて来ました」

 「……そうか。では早速だが、秘宝でなくとも、何かしらの礼がしたいのだが……」

 族長はそう言いながら、俺たちを隣の部屋に案内した。

 そこには宝石らしいものや、珍しい物がならんでいる。

 俺とビアンカは興味深く眺めていたが。

 ふと目についた翠色の石に心のザワメキを覚えた。

 それを見ているだけでワクワクしてくるのだ。

 「あのー……この石は……」

 俺は族長に翠色の石について訊ねた。

 「これはつい最近、同胞の者が鳥の巣で見つけたと言っていたな。特に価値があるか分からずにいたものだ……もしかして、こんなものが欲しいのか?」

 「何もいらないとは言いましたが、何となく気になって……もし、よろしければ頂きたいと……」

 今回の件は、ほぼアウラの手柄で報酬を受け取るのを躊躇っていた。

 しかし、目の前の石がどうにも気になるが、それほど価値がなそうである。

 行為に甘えて貰っても良いのではないかと欲が出てしまった。

 「こ、こんな物で良いのか? これならば、何か他にも受け取ってもらわなければ……」

 「で、でしたら……ビアンカは、何か欲しいものはないのか?」

 ビアンカは、初めは部屋の中で珍しそうに眺めていたが、途中からハチの巣を抱えてあくびを連発させている。

 「はーっ!? アタシっすか? 別に要らないっすよ……!? それなら、また前みたいに、縄張りの中に入れる様にして欲しいっす!」

 ビアンカは目を輝かせたが、族長は驚愕した。

 「えーっ!? それは、入る分には構わないのだが……そのー……暴れるのは、ほどほどにしてもらいたいと言うか……誰か、付き添いがいてくれるのであれば……」

 「分かったっす! 誰かに付き添ってもらえばいいわけっすね!」

 族長は渋々ながら制限付きで許可を出す。

 それでもビアンカは、中に出入り出来る様になり大輪の笑みを浮かべた。

 ちなみに、キラーアントの駆除の時、勝手に中に入っていたのだが。

 ピーノが見逃してくれたので、良かったことになっているのだろう。

 「あ、あのー……付き添いですが、俺が来れない時はエルフの女の子が来るかもしれません。その時は関わってくれるのは良いのですが、その子の事を外部に広めないでもらえますか? かなりの恥かしがり屋で、噂になると困るそうなんです」

 俺は付き添いの件を利用して、アウラが少しでも自由に活動出来るようにと機転を利かせた。

 「エ、エルフの娘さん? 部族に危害を加えたりしなければ構いませんぞ」

 「ありがとうございます! あのー……ふと疑問に思ったのですが、キラーアントは確かに危険かもしれませんが、村の秘宝を報酬にする程の被害を受けたのですか?」

 俺は至れり尽くせりの待遇に違和感を覚えたのだ。

 「それは、キラーアントの巣は鉱山で、色々と採掘していた場所だったからだ。あれのせいで我等、特に力仕事が主な収益のオークはかなり困っていた。あそこからは岩塩も取れるし……!? 良かったら塩も持っていくと良いだろう」

 族長さんは理由を説明してくれると、俺たちに塩が入った袋を渡してくれた。

 これは結構な量があり、鉱山に近づけずに余程困っていたのだろう。

 俺は大方話が終わったと思い安堵すると、ビアンカに視線を移して思い出した。

 「あ、あのー……色々とすみませんが、蜂の巣を持ってきたので、これとハチミツを交換しれくれませんか?」

 何だか、この流れだと強引に取引を迫っている様で気が引ける。

 「おー……先程から持っていた大きな蜂の巣! これならハチミツだけでなく、ハチの子もたくさんいそうだ……これくらいでどうだ?」

 族長さんは喜んでビンに入ったハチミツを手渡した。

 用件が済んだ俺たちは、族長さんに挨拶を済ませ家を出る。

 ピーノが集落の外まで見送りに来てくれて、ピーノと握手をして近いうちに遊びに行く約束をした。

 集落を出るとビアンカは、先程まで退屈で我慢していたのか。

 「帰りは久々に荷物も少ないから競争っすよ!」

 俺が返事をする前に走り出した。

 俺は全力で走るビアンカに離されないように、必死に走る。

 だが、結局途中でビアンカを見失う。

 俺が下宿先に着いた時には、ビアンカはアリーシャと楽しそうに話をしている。

 今回のクエストは色々あったが、何とか無事に事後処理まで済ませた――。

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