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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第三章 初めてのクエスト
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6.クエストを終えて

 ――オルコット家の屋敷。

 玄関で、この前会った執事の人が対応してくれて、俺たちは応接間に通された。

 部屋の椅子には、エドワードさんとカトレアさんが上座だろう場所に座っている。

 左側には何度か話をしたゴブリンと年老いたゴブリンがいた。

 右側にはエドワードさんよりも一回り身体が大きく、胴長で茶色の肌に丸い体型、ブタの様な顔立ちの若い男と年老いた男がいる

 きっと、彼らがオークだろうと気づく。

 俺とアリーシャは残りの椅子、エドワードさんとカトレアさんの向かいに座らされた。

 「カザマ、き、今日は、違う娘を連れているんだな……」

 何度か話した気さくなゴブリンが話し掛けてきたが、何だかぎこちない様子。

 可愛い女の子を取っ替え引っ替えしていると勘違いされたのだろうか。

 それとも、ビアンカが気になっているのだろうか。

 以前ビアンカがどんなことをしたのか、益々気になった。

 だが、今は無難に付き添い人の紹介をする。

 「今日は、俺よりも若いが、一応姉弟子にあたる人に付いてきてもらった」

 「初めまして、モーガン先生の所で修行中のアリーシャです」

 「ど、どうも、俺はゴブリーノ族のピーノと言います。こちらは俺たちの集落の族長です」

 「オレはオークのトロイ。隣は族長だ」

 アリーシャの自己紹介を皮切りに、ゴブリーノ族のピーノとオークのトロイが自己紹介をしてくれた。

 (あの気さくなゴブリンはピーノって、名前か……それにしてもゴブリーノ族って、安易な名前だな。設定が雑だぞ! オークに至っては部族名はなしか……この世界のオークも力は合っても知能が低いのかもしれない……)

 俺は心の中で突っ込み、納得して何度か頷いた。

 お互いの挨拶が終わったところで、エドワードさんが全員を見渡し、口を開こうとする。

 「そ、その前にちょっと、いいですか! アリーシャ! ……! ……!」

 俺はエドワードさんが話しを始める前に、アリーシャにウインクで合図した。

 だが、アリーシャは俺の顔を見ると、眉を顰める。

 「だ、大事な話の前に何をしているんですか! 先程も挙動不審に頭を動かしていましたね! 緊張しているのは分かりますが、大人しくしていて下さい!」

 俺はアリーシャにまたも誤解を受け、今度は変人扱いされた挙句、知らない人が集まっている場で叱れた。

 俺は、ただアリーシャに席を外してくれないかと、合図しただけなのだ。

 エドワードさんは俺たちの話を聞き流すと、

 「……あー、話を始めるぞ。ゴブリーノ族とオーク族から依頼があった……キラーアントの巣の駆除の件だが……冒険者カザマが、解決してくれたと知らせがあった。そこで、両部族から報酬の秘宝の贈呈。村からは森の危険種の駆除をしてくれた礼として百万ゴールドを下賜する」

 領主代行として気品ある口調で、クエストを果たしたことを称えた。

 それからアリーシャの肩が、震え出したのが伝ってくる。

 恐る恐るアリーシャを見ると顔が引き攣り、目が据わっている様に見えた。

 「嘘つきましたね……騙しましたね……」

 アリーシャはブツブツと呟いている。

 「ヒィイイイイイイー! お、落ち着こうか……アリーシャ! あ、後でちゃんと説明するから……な! あ、あのー、秘宝は受け取れません! 日頃お世話になっている森のために、俺とビアンカがしたことです! ビアンカもいらないと言ってました! 村からのお礼も……半分は村に寄付させて頂きます!」

 俺は兎に角、この場を一刻も早く立ち去りたいと必死で話を進めたが……。

 「「「「「「ええええええええええええ―っ!?」」」」」」

 この場の全員が余程驚いたのか、全員でハモった。

 「あ、あなたって、そんな人じゃないわよねー!」

 「おおー! 何と奇特な人じゃ! 人間に、この様な者がおるとは……」

 「お、おまえ! いいのかよー!」

 「フゴフゴ……オマエ、大丈夫か?」

 「フゴフゴ……何もなしとは」

 まずはカトレアさんが、続いてゴブリーノ族長、ピーノ、トロイ、オーク族長の順に驚きを顕にする。

 ちなみに、オークたちは興奮すると鼻を鳴らすようだ。

 しかし、アリーシャを見ると、まだ何か呟いている。

 「冒険者が依頼を果たしたのに、正当な報酬を放棄するとは……本当に理由はそれだけか?」

 エドワードさんは痛いところを突いてきた。

 「い、いやー……俺たちは森に世話になってますので……それから、俺はまだ修行中の身です。この事は広めないでもらえると助かります! で、では、妹の体調が悪いみたいですので、この辺で失礼させてもらいますね!」

 俺は顔から汗を噴き出しながら、所々言葉を濁し、苦しい言い訳をした。

 そして、先程から調子の悪そうなアリーシャを連れて帰ろうとする。

 「い、妹だとー! 妹の体調を気使って辞退し、早急に退出しようということか! お、お前というヤツは……見直したぞー!!」

 エドワードさんは、これまでの領主代行の威厳は何処吹く風と、急に興奮し出して盛大な勘違いを始めた。

 『妹』という言葉が琴線に触れたらしい。

 初めの挨拶で姉弟子と紹介したが、気づいていないようだ。

 俺は自体がこれ以上ややこしくならないように、

 「で、ではみなさん、これで失礼しますね。妹の体調が悪い様なので、何かありましたら後ほどお願いします……」

 と言い残して、アリーシャを連れて下宿先に帰った。


 ――モーガン邸。

 俺は帰宅すると玄関の前で正座させられた。

 アリーシャは道中、人形の様に大人しく俺に手を引かれていたが。

 家の中に入ると、息を吹き返したかのように、大声で俺を叱り付けて正座させたのだ。

 「全く、あなたという人は、私があれほど危ないからダメだと言ったのに……」

 アリーシャのお説教は今までより長く、既に数十分間続いている。

 「あ、あのー……そろそろ俺の話を聞いて欲しいのだが……」

 「はあーっ! 言い訳は男らしくないと先程から言っているのですが……何ですか?」

 やっと、俺はアリーシャから釈明の機会を与えられた。

 「俺たちでなくて、やったのはほとんどアウラだぞ。俺とビアンカは見に行っただけだ。だけど、アウラが何か勘違いして、いきなり魔法で攻撃したんだ!」

 アリーシャは俺の話を聞き、しばらく動きを止めていたが……、

 「ええええええええええええ―! い、今の話は本当なのですか? で、でも、どうして、すぐに話してくれなかったのですか?」

 「お、俺は何度も言おうとしたんだ! でも、アリーシャが、俺の話を全然聞こうとしないから……」

 慌てて言い逃れしよとしたアリーシャに、俺は声を張り必死に訴える。

 「へ、へー……そうですか? で、でも、私は謝りませんよ。初めに危ないことをしてはダメだとカザマに言いましたからね!」

 アリーシャは言い逃れ出来ないと思ったのか意固地になった。

 「アリーシャ、分かってくれればいいんだ。俺は別に疑われて、怒っている訳ではないからな」

 俺は釈然としないが、お兄さん的な余裕を見せなければと努める。

 「でも、どうしてアウラはそんな事をしたのでしょうか? それに、その場に居合わせていたのも理解出来ないのですが……」

 アリーシャは綺麗に整った眉を寄せ、首を傾げると何やら考え出す。

 「あ、あの子は、綺麗で大人びて、賢そうな感じだが……!? もしかしたら、ビアンカか俺の『ストーカー』かもしれん……最近、魔法の練習をしている時とか、覗き見してただろう? で、でも、それは、森の小さな集落で生活をしていたからであって……世間の常識というのを知らなかっただけかもしれない。だから、お姉さんのアリーシャが教えてあげたらどうだ?」

 (アウラには悪いが尊い犠牲になってもらおう……だが、元はアウラが原因で起こったことだ。アリーシャも意固地になっているが、これで素直になってくれるだろう……)

 俺は因果応報という言葉を思い浮かべた。

 アリーシャは、しばらく首を傾げる。

 「……分かりました。アウラに会った時に、ゆっくり話してみますね」

 俺は重大な危機を乗り越えた。


 ――オルコット家の屋敷。

 俺は、再び村のオルコット家の屋敷に戻ってきた。

 玄関で執事の人に、カトレアさんかエドワードさんを呼んでもらおうしたが、丁度良いタイミングでカトレアさんが玄関に現れる。

 「ち、ちょっと、さっきのはどういうことかしら?」

 当然だと言わんばかりにカトレアさんは、俺に詰め寄ってきた。

 「丁度今、謝りに来たんです。色々と心配を掛けてすみませんでした。詳しいことはアリーシャに話したので、時間も掛かりますし、アリーシャから聞いてもらえませんか? 俺はこれからゴブリンとオークの集落に、話に行きたいので……」

 「そ、そう……まず、私の所に話に来たのは殊勝な心がけだわ……そうね、カザマの言う通り、もう一度ゴブリンとオークの集落に話に行った方が良いかもしれないわ。今回は報酬が秘宝という話だから、後から揉めない様に早い方が良いと思うわ」

 「分かりました。ところで話は変わりますが、今回の件で周りに心配を掛けたので、お詫びにお菓子を作りたいと思っています。材料で蜂蜜が欲しいのですが、村で取り扱っていますか? もしかして、凄く高価なものでしょうか?」

 俺は今回の件の謝罪から、一番の目当てだった蜂蜜の事を訊ねた。

 「えっ!? ……ハチミツ? 確かに高価だけど、それは村で買うよりビアンカに聞いた方が、早いかもしれないわよ」

 「あっ! 確かにビアンカなら……カトレアさん、色々ありがとうございました。では、また後ほど……」

 俺はカトレアさんに感謝して、まずはビアンカを探しに下宿先周辺の森に移動する。


 ――森の中。

 森の中をしばらく移動すると、ビアンカを見つけた。

 もしかしたら、ビアンカが俺を見つけてくれたのかもしれない。

 「ビアンカ、探したぞ。ちょっと教えて欲しいことがあるんだが……」

 「珍しいっすね! 森の中に入ってアタシを探すなんて……何の用っすか?」

 「まずは、さっきカトレアさんの屋敷でゴブリンとオークの族長たちに会ったが、俺たちがキラーアントを倒したと話したぞ。それで、報酬は受け取らないと言った。だけど、それだと決まりが悪いらしい。これから集落に向かうことにした……ところで、今回もビアンカに世話になったし、アリーシャには心配を掛けた。そこで、美味しいお菓子を作ろうと思っているんだが、材料でハチミツがいるんだ。ビアンカはハチミツの在り処を知らないか?」

 「うーん、何だかややこしいっすね。ハチミツならゴブリンの集落にあると思うっす。ただ、採るのが大変だから蜂の巣と交換なら分けてもらえるかもしれないっす……アタシも採れるけど、集めるのに時間がかかるっすね」

 「分かった。蜂の巣に案内してくれるか?」

 「いいっすよ! また楽しくなってきたっすね!」

 ビアンカは尻尾を振って颯爽と走り出した――。


 ――蜂の巣。

 朝の狩りの時よりは低いが、それでも大きな木の下にいる。

 「あの辺りにハチが飛んでるっす……あそこに巣があるっすね。折角だから、カザマが近づいて魔法で落とせないっすか? 下に落ちたらアタシが集落の方に持って逃げるから、途中で合流するっすよ」

 ビアンカは蜂の巣の場所を伝えると作戦を立案した。

 (……俺が巣に近づいて落とす? 俺の役回りの方が厳しい気がするが……)

 「……分かった。俺がお願いしたことだからな。それじゃ、早速いくぞ」

 俺はビアンカに声を掛け、木に登る。

 木に登るとすぐにハチが威嚇する様に近づいてきたが、俺は魔法を使った。

 『ファイヤ』

 若干小さく叫び、普段より弱い『燃える男』を発動させる。

 火に包まれた俺からハチが離れていく。

 俺は難なく巣に近づき、巣を燃やさない様に途中の枝をダガーで切り、下に落とす。

 火力を抑え短時間で済ませたので、周りが燃えることもなかった。

 地面に下りて周りを見たが、ビアンカは既に巣を持ち去った後のようだ。

 後を追うため、一度魔法をキャンセルするが、火事になる危険を考慮してである。

 しかし、魔法をキャンセルした途端、これまで俺の周囲をホバリングしていたハチたちが、一斉に襲ってきた。

 「ヒィイイイイイイー!!」

 俺は普段は被ってないフードを被り、嘗てない程全力で走る。

 それでも、ハチを振り切ることが出来ずに何度か攻撃された。

 幸いにも、ニンジャ服の防護効果なのか、針が肌に届くことはなかった。

 俺は夢中で逃げて、川に着くと躊躇なく飛び込んだ。

 しばらく川の中を潜って進み、周囲にハチがいないか慎重に確認し川から上がる。

 岸で服を脱ぎ、絞った後で再び服を来た。

 気候は山の近くのためか、陽射しを感じるが長袖で丁度良いくらいだが。

 それでも、川の水は泳ぐには冷たい。

 俺は服を乾かすため、やむを得ず魔法を使う。

 『ファイヤ』

 若干小さく叫び、本日二度目の燃える男である。

 服を乾かすために十分間程魔法を持続させたが、魔力が減る感覚はない。

 どうやらこの魔法は、威力は然程ないが燃費が良いらしい。

 ニンジャ服は防護効果が高く、魔法が掛かり易いという。

 矛盾した機能があるため、燃えることなくすぐに乾いた。

 俺は大分時間を無駄にしたこともあり、ゴブリーノ族の集落に全力で向かう。

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