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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第一章 間違った異世界召還
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1.異世界召還

 夜も更けて、気温が下がったせいか冷房の動きも弱まり、周囲は静けさを増す。

 いつもなら集中力が高まる時間帯だが、なぜか眠気を感じていた。

 俺はオンラインRPGでソードマスターとしての仕事を黙々とこなしている。

 仕事と言っても当然給料が出る訳ではない。

 もっといえば、この春に入学した高校もしばらく通っていない。

 『今日も助かったぜ! ジャスティス!』

 臨時パーティーを組んだ冒険者仲間から今日も頼られ、今はクエストを終えて一息ついている最中である。

 (……あっ!?)

 突然画面が切り替わり、黒の画面に何かしらの文章が並んでいる。

 何かの新しいイベントか、それともバグなのかと思いつつ文章を読むと……。

 『私は女神、ヘーベー』

 『私を助けてくれません?』

 『私の盗まれた感情を取り戻したいのです』

 俺は迷わず『イエス』を選択した。

 だが、突然画面が激しく輝き、咄嗟に目を閉じてしまう。

 俺の身体は眩い光に包まれていった――。


 ――目を開くと、石のブロックやレンガ造りの建物が並び、路肩には露天がならんでいる。

 獣耳や耳の先が尖った人、身体が小さくてズングリとした人もいた。

 獣人やエルフ、ドワーフだろうか……?

 遠くには上の方が薄っすら白くなっている山々が見渡される風景。

 俺は中世ヨーロッパ風の街の中で、教会の様な建物の前に立っていた。

 ついさっきまで自室でゲームの画面を見ていた筈だが……。

 今日はいつもと違い眠気を感じていたのを思い出す。

 きっと夢だな……俺はそう思ったが、ふと、目の前に視線が止まる。

 幼い顔立ちの少女が立ち、こちらを見つめていた。

 真っ直ぐに伸びたプラチナの髪が光り輝き。

 その長い髪は小振りな臀部を覆い、微かに揺れている。

 澄んだ青色の瞳が陽射しを浴びて、ますます煌きを増す。

 整った顔立ち、白い肌に無垢な表情が人形の様にも感じられる。

 小柄で細身なこともあり幼く見えるが、雰囲気というか、印象から自分に近い年齢に感じられた。

 幻想的にも見えるその少女は、間違いなく絶世の美少女であろう。

 また、白を基調としたローブが、質素だが品格を漂わせる。

 全体から受ける感じが神々しいのだ。

 (間違いない! 今、目の前にいる少女が『女神ヘーベー』だ!)

 俺は初めて会った少女を呆然と眺めた。

 

 しばらくして、先程のゲーム画面を思い出す。 

 そして、今の状況を理解しようと目の前の少女に訊ねた。

 「あのー……確か部屋にいた筈ですが、どういう状況でしょうか?」

 「まずは、自己紹介するわ。私の名前はヘーベー。『ヘーベ』と呼んでいいわ。それから、私があなたをこの街に召喚したの」

 愛想も何も感じない表情で、目の前の少女は気さくに答えてくれた。

 俺は訝しさを覚えつつも少女に訊ねる。

 「あなたは女神さまなのでしょうか?」

 「女神かと問われるとそうだけど、さっきも言った様にヘーベと呼んでくれていいわ。それに、女神だと知られると色々と面倒だから」

 「ヘーベさま……」

 「ヘーベでいいわ」

 「では、ヘーベ。これは夢でしょうか?」

 「夢ではないわ。ここは異世界よ。それから、敬語とかいいから普通に話してくれていいわ」

 「い、異世界って……!? ゲームじゃないのですか?」

 俺は色々と緊張し、何となく敬語を使っている。

 「ゲームじゃないわ。でも、大丈夫。あなたの世界にはバーチャル世界とかあるでしょう。同じ様な感じだと思ってくれたらいいわ」

 「話には聞いたことあるけど、現実に仮想世界とかに行けると聞いたことないのですが……」

 「それなら、あなたは運がいいわね。バーチャル世界に初挑戦よ!」

 ヘーベは無表情のまま、右手を天に突き出すようにして仰った。

 それはあまりに覇気のない表情と口調で、突拍子のないことを……。

 (これは夢だな……)

 俺はこの妙にリアルに感じつつもあり得ない状況に危険感を懐く。

 (そろそろこの場を退散して目覚めなければ……)

 「あのー、ログアウトはどうすればいいのでしょう?」

 俺は戦略的撤退のため、話を合わせてこの場から離脱することを考えた。

 「できないわよ。あなたを召還するのにかなりの力を使ったわ。それに、あなたを召還するついでに色々と設定を……力を授けたわ」

 「あなたを召還するのに、かなりの力を使ったと言われましたが……出来ないって、どういうことですか?」

 ヘーベは首を傾げ不思議そうにこちらを見つめている。

 まるで当たり前のことをしたかのように……。

 (思春期真っ盛りの普通の男子高校生なら、目の前にいる美少女にペースを握られてしまうところだが…円俺は違う! 何故なら物心ついた時から、色々とスペックだけは高い幼馴染のエリカに……)

 俺は一瞬、過去を振り返ったが、

 「……!? 今、設定とも言いましたよね!」

 何故か、急に目を逸らした女神さまを訝しげに見つめた。

 「言ってないわよ?」

 首を傾げてこちらを見つめるヘーベに、この女神さまは狙ってこんな仕草をしているのだろうかと疑ってしまう。

 何だかイマイチ要領を得ないし、色々と納得出来ないが話しが進まない。

 俺は、取り敢えず聞き流すことにした。

 だが、それとは別に気になる言葉を思い出す。

 「そういえば、力を授けたと言いましたね?」 

 「良くぞ聞いてくれました。あなたの職業は今日からニンジャよ!」

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