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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第三章 初めてのクエスト
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4.キラーアントの駆除

 アウラがいなくなり、ビアンカに視線を送る。

 「アウラなら帰ったっすよ」

 「えっ!? かなり減ったけど、まだキラーアントが残ってるぞ! この状況は放置かよ!」

 ビアンカはこの状況にも落ち着いた様子でいたが、俺は声を荒げ訴えた。

 「虫も獣と同じで火を嫌がるっす。もう大半は巣から出てきてるみたいっすよ。カザマは、『燃える男』で威嚇するっす! アタシは逃げないヤツを殺るっすよ!」

 ビアンカは狼狽えている俺に指示を出すと、気合いの入った声を出し俺の背中を叩く。

 俺は狼狽した心を落ち着かせるように深呼吸する。

 

 『ファイヤー!』

 

 勝手に銘々された『燃える男』を発動させ、崖に向かって突進した。

 崖の岩肌はアウラの攻撃で脆くなっていたが、大きな凹凸がなくなって意外とスムーズに登れる。

 それでも、崖を平地の様に移動しているキラーアントの身体能力には適わない。

 俺は下から順番に巣穴に移動したが、キラーアントたちは火を恐れ上へと移動していく。

 崖の上の方まで辿り着くと、他のキラーアントよりも大きなヤツが巣穴から顔を出す。

 大きなキラーアントを守るかのように、他のキラーアントが周りを囲んでいる。

 その様子から女王だと分かった。

 女王らしいヤツがハネを羽ばたかせて飛び立ち、他のヤツらも後に続く。

 先程、アウラに飛ばされたヤツらと同じく東の方角に飛んで行った。

 そして、下の方で行き場が分からずに右往左往していたヤツらは、ビアンカが倒したのかほとんどが頭を潰されている。

 どうしたら、こんなになるんだろうと脳裏を過ぎった。

 だが、今は無事に生き残れたことを実感するので精一杯である。

 俺は慎重に下まで降りたが、下ではビアンカが尻尾を左右に振りながら大輪の様な笑みを浮かべ待っていた。

 「うーん……まだまだっすね。カザマは腕力も弱いけど足腰も弱いっす! 今度から高い所に狩りに行くっすかね」

 ビアンカは軽い運動でもしたかの様に爽やかな口調だ。

 俺は既に疲れて突っ込む気力がなかったが、周りから幾つかの気配がした。

 「お、お前らが殺ったのか? す、巣の中は……」

 ゴブリンたちが現れ、先程のゴブリンが話し掛けてきたのだ。

 もしかしたら、様子が気になって見に来たのかもしれない。

 「大半は東の空に逃げて行ったぞ。巣の中も多分大丈夫だろう。残りがいても少ないと思う……」

 「そ、そうか! でも、それなら俺たちにも準備があるから、初めに言って欲しかったぞ!」

 「アタシたちも、今日は殺るつもりじゃなかったすけど……」

 俺が答える前にビアンカが説明しようとしたが、途中まで言い掛けたところで、話をしていたゴブリンが急に顔を引き攣らせる。

 「い、いや、お前たちを責めている訳じゃないぞ……も、もちろん感謝してる! 族長に伝えてお礼をするので、名前を教えてくれないか?」

 ゴブリンは、ビアンカにぎこちなく感謝を伝えると、俺の方を見て話をしてきた。

 過去に、余程怖い思いをしたのだろうか。

 「……いや、ほとんど俺たちじゃなくて」

 俺の話を途中で遮るかの様にビアンカが、

 「この人は、カザマというっす! 村の外れのモーガン先生の家で修行してるっすよ!」

 勝手に俺の手柄の様に言い放った。

 俺は慌てて抗議の視線をビアンカに送るが……。

 (違うだろう! お前は何言ってるんだ!)

 ビアンカは俺の視線を気に留めも止めず、

 「アリーシャが心配してるかもしれないっす! 早く帰るっすよ!」

 俺の背中を押して、誤解を解く間も与えてくれない。

 「分かった、カザマだな! 族長に伝えておく。これからは気楽に独りでも遊びに来てくれ!」

 ゴブリンは俺に友好的な声を掛けてくれたが。

 どう見てもビアンカを拒んでいる様に見えたのだった。

 俺とビアンカは既に下宿先の帰路に着いた。

 しかし、昼食の時間はとっくに過ぎているだろう。

 俺は、アリーシャにどのように言い訳しようか頭を抱える。


 ――モーガン邸。

 俺たちは下宿先に着いた。

 俺は玄関を開ける前に、ビアンカの耳元で呟く。

 「アリーシャにバレない様に話を合わせてくれよな」

 だが、その瞬間、ビアンカの獣耳がピクっと動き尻尾が逆立つ。

 「ヒャアーっ! 何するんすか!」

 ビアンカは可愛らしい喘ぎ声を出すと、顔を真っ赤にして俺を張り倒した。

 俺は強烈なビンタを顔面に受けて地面に転がる。

 朦朧とする意識の中で、

 「……耳は敏感なんすから……」

 弱々しいビアンカの声が聞こえた――。

 

 「……マ、カ……マ……ですか? 大丈夫ですか?」

 俺は気絶していたが、アリーシャの声で目を覚ます。

 アリーシャは、俺に声を掛けながら治癒魔法を掛けていたようだ。

 「カザマ、気がつきましたね! ビアンカの耳は凄く敏感なんですよ! カザマが悪いのですよ! 全く、いつもセクハラばかりして……」

 俺は、また意識を失っていたようである。

 以前にも同じ様なことがあった気がして、

 (俺はセクハラなんかしてないんだ! ビアンカの耳があんなに敏感だったなんて……ただ、内緒話をしようとしただけなのに……)

 心の中で無実を訴えた。

 声に出さなかったのは、街を出る前にクールでいると決めたこともある。

 それからビアンカの耳が垂れて、ヒマワリの様な笑みが萎れているからであった。

 俺が気絶している間、ビアンカは俺と森に遊びに行き、帰るのが遅くなったとアリーシャに説明してくれたらしい。

 どこか感覚ズレている気がしたが、色々と気を使ってくれたのが嬉しかった。

 俺は回復すると、慌てて昼飯を終える。

 ビアンカは勉強が嫌だったのか、アリーシャと話をすると外に出て行った。

 既にエドナが来ており勉強を始めているらしい。

 ちなみに、今日は昼前から、急に雨が降り書庫での勉強になったそうだ。

 

 ――書庫。

 エドナは、俺を気に留めることなく黙々と勉強を進めていた。

 カトレアさんは俺の姿を見て、

 「今日は遅かったわね……それでは、続きを進めて頂戴」

 遅れたことを気に掛けてくれた事が嬉しかった。

 それから、いつも通りセクシーな口調が俺にやる気を与えてくれる。

 「あ、あのー、カトレアさん……もう少し、難しい本を数冊貸して下さい。……出来れば、アリーシャに内緒で……頑張って、早く覚えて喜ばせたいんです」

 俺は小声で周囲を見渡しながらカトレアさんにお願いした。

 アリーシャは片付けをして遅れると言い、まだ書庫にはいない。

 「分かったわ。アリーシャには内緒で渡すわね。カザマ、しっかり男の子してるわね」

 カトレアさんは、優しく微笑みながら答えてくれた。

 

 しばらくしてアリーシャが来たが、俺は初めにもらった本を読み返している。

 既にこの本は読める様になっていたが、まだアリーシャには秘密にしていた。


 ――オルコット村の露店。

 今日は遅れたのであまり勉強出来なかったが、昨日と同じくらいの時間になりアリーシャと夕食の買出しに来ている。

 昨日はカトレアさんの家の屋敷に行ったので、あまり村の中を見られなかった。

 だが、今日はエドナの家の店に案内してもらっている。

 エドナの家は鍛冶屋だが、森の近くにあった。

 エドナの父親は奥で作業をしている様だったが、母親が店番をしている。

 アリーシャはエドナの母親と世間話を始めたので、俺は店の中の商品を見て回った。

 オルコット家の武器庫でも色々と見せてもらったが、ここの品揃えもなかなか良いと頷く。

 俺は、ふと思いついた。

 「すみません。ここの店は、オーダーメイドで作ってもらうことも出来ますか?」

 「はい、できますよ……どのようなものをご希望でしょうか?」

 俺はエドナの母親に、日本刀のことを大まかに説明した――。

 「初めて聞きます。東の方の国で曲刀というのを聞いたことがありますが、それよりも繊細な感じですね。職人に聞いてみないと何とも……」

 エドナの母親は、初めて聞く日本刀という武器に戸惑ったのか首を傾げる。

 「……い、今はいいですよ。お金も足りなそうですし、作れそうなら見積もりだけ聞きたいと思っただけですから……」

 俺は本当に作られても困るので、エドナの母親に話をしただけということを強調させた。

 本当は無一文であったが――。


 買い物の後の帰り道、アリーシャは表情を曇らせていた。

 「カザマ、エドナのお母さんの前で格好つけたかったのかもしれませんが、あまり無理を言ってはダメですよ。そもそも、お金は足りないのではなくて、持っていない……ですよね?」

 「ご、ごめん。気をつけるよ……」

 俺は、アリーシャの厳しい突っ込みにうな垂れてしまう。

 そして格好をつけた訳ではないが、余計な事を言わない様にと気をつける。

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