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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第三十章 南北との戦争(前編)
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1.周辺諸国の脅威

 俺は控え室で呆然としたが、北欧の方々の接待が済んでいないので、今日は取り敢えず案内の続きを行うことにした。

 みんなで行動すると目立つので、二グループに分かれる。

 俺とアレスとビアンカ、ロキさまとゲイルさんとスクルドさんのグループ。

 アリーシャとアウラとリヴァイにコテツ、ブリュンヒルデさんとゲンドゥルさんのグループである。

 ブリュンヒルデさんとアウラは、俺のグループに入りたそうであったが、お互いの人数と戦力バランスを考えると変更する事が出来なかった。


 俺たちはロキさまに促されて、早速決闘の賭けの換金を行う。

 俺とロキさまが俺に掛けたので一気に倍率が下がったが、その後ペールセウスもたくさん買われたみたいで、最終的には一対五くらいになっていた。

 オッズは俺が二倍程度でペールセウスが十倍程度である。

 窓口の人に聞いたが、ペールセウスの配下たちの仕業だと分かった。

 ペールセウスは自分の勝利を疑っていなかったのか、今回の決闘に莫大な資産を注ぎ込んだらしい。

 これで名誉も資産も失い没落まっしぐらであるが、同情の余地はない。

 こちらも今後を考えると憂鬱なのだ。

 俺は今回の勝利で一億三千万を手にして、ビアンカは一千万、ロキさまは二億、ゲイルさんは百万を手にしたが一番嬉しそうであった。

 俺のステータスは器用さと資産が少しだけ上がった。

 『至高のニンジャ』で『レベルⅧ』……称号『勇者』『賢者』『影の英雄』

 ステータス……体力『S』、力『S』、素早さ『SS』、耐久力『SS+』、賢さ『SS+』、器用さ『S+』、運『A』、魔法『SS』

 スキル……『各種アシ改』と『オート防御』と『ディカムポジション』と『スパティウムセクト』と『女神キラー』と『文明開化』

 資産『百一億三千万ゴールド』、前歴『無銭飲食』

 スクルドさんは俺たちの儲け具合に驚いたのか、しばらく何も話さなかった。


 ――夕方。

 宿で再び合流すると北欧の方々の観光接待は終わり、岐路に着く事になった。

 夕方からなので暗くなり寒くなる事を心配したが、姿を隠す手間がなくなるので楽だと言われてしまう。

 お見送りで厩舎にやって来た俺は、初めてペガサスを見て浮かれた。

 「ロキさま、北欧にはペガサスがたくさんいるんですか? それからグリフォンと比べてどうですか?」

 「極東の男、グリフォンと同じで数なんて知れてるわよ。だから価値があるのでしょう。それから速さではペガサスだけど、戦闘力ではグリフォンだというのが一般的よ」

 「ねえ、君、昼間あれだけの事を仕出かして、よくそんなに元気でいられるね」

 目を輝かせ尋ねる俺に対しロキさまの口調と視線は冷たく、アレスも呆れた様に会話に交じってきた。

 「極東の男、それでこちらには、いつ頃来てくれるのかしら? 約束したことだから守って欲しいのだけど」

 「はい、そちらの国々にも興味があるので、落ち着いたら窺いたいと思いますが、どの様にお伝えすれば良いのでしょう?」

 「私たちの領土の一番南に独立した街が出来た筈よね。そこのギルドで知らせれば、私に伝わるようにしておくわ。極東の男は目立つから、すぐに分かる筈だわ」

 ロキさまの言葉を聞き、デンマルク王国の北欧側の領土の事だと分かり、俺はなる程と右拳で左掌を打つ。

 「それでは、次に会えるのを楽しみにしているわ」

 ロキさまの合図と共に、ブリュンヒルデさんとロキさま、スクルドさんとゲンドゥルさん、ゲイルさんが乗る三頭のペガサスが空を翔る様に宙に舞う。

 俺たちは北欧の方々に手を振り見送りを済ませた。


 ――宿。

 再び宿に戻った俺たちは、今後のことについて話し合う。

 「兄さん、一度アテナさまの神殿に行き、今回のお詫びと国王に思い留まってもらう様にお願いするべきだと思います」

 「クレア、アテナさまに会うのは構わないが、俺が悪い訳ではないのに、嫌だな……」

 クレアが神妙な面持ちで話し出すが、俺はどうにも納得出来ずに口を尖らせてしまう。

 「カザマ、私も関わっているので言い難いですが、クレアの言う通りにして下さい。我がままを言って戦争になったらどうするのですか? 犠牲になるのは関係のない人々なのですよ」

 「おい、お前、我がままも大概にしろよ。アリーシャに迷惑を掛けやがって、また痛い目に合いたいのか」

 アリーシャに叱られ、リヴァイに脅迫されて、俺は渋々頷く。

 「分かりましたよ。明日、アレスとクレアに付き添ってもらい、アテナさまに会いに行きますよ」

 「アタシも行くっすよ」

 俺の言葉に退屈そうにしていたビアンカが食いつくが、俺は首を横に振る。

 「悪いけど、みんなは留守番して欲しいんだ。俺が悪い訳ではないのに信じられないが、みんなの話が本当だとすると、この街がいつ襲われるか分からない。それに、オーストディーテ王国もアリーシャの正体を知った筈だ。一度会っただけだけど、あの王さまはそこそこ我慢出来るが、他者を見下す感じが窺えた。自尊心が高く権威欲が高そうだから、アテネリシア王国の動きに合わせて侵攻する事もあり得る。ビアンカは俺より強いからな、みんなを守るために残って欲しいんだ」

 「分かったっす。アタシがアリーシャとアウラを守ればいいっすね」

 俺はビアンカを上手く丸め込み、みんなと街の護衛をさせることに成功した。

 「アリーシャは領主さまだから指揮を取るが、コテツとリヴァイも補佐役をお願いします。それからアウラは、格好つけてみんなの迷惑にならない様に気をつけろよ」

 アリーシャとコテツが頷き、リヴァイがふてぶてしい面構えながらも頷くが、アウラは顔を真っ赤にして震えている。

 「アウラ、知らない人ばかりで恥かしいのは分かるが、今回はみんなに迷惑を掛けない様に大人しくしていればいいからな」

 「な、なんですって……私が役に立たないとでも言いたいのかしら。この前、クレアの前で見せたように、私が極東の男と決闘しても良いのだけど」

 「ヒィイイイイ――!? ち、違う! 勘違いだ! アウラの魔法は威力が強過ぎて、普通の人間に使ったら間違いなく殺してしまうだろう! 俺はアウラに人殺しをして欲しくないし、アウラの場合は単独で『戦術破壊兵器』に匹敵するから自重して欲しいんだ」

 俺の必死の言葉を聞いている内にアウラの表情が緩むが、首を傾げた。

 「カザマ、戦術……破壊兵器って、どういう意味かしら?」

 好奇心旺盛なアウラは先程の憤りを忘れたかの様に、アリーシャと顔を見合わせる。

 「戦いに勝つための大局を見通した手段を戦略と呼ぶ。戦いに勝つために作戦を練って攻撃を行ったりと、戦略の過程にある攻撃を戦術と呼ぶんだ。分かり易く言うと、国を滅ぼすにはたくさんの街を攻める必要があるだろう。国を攻め滅ぼすのを戦略で、街を攻め滅ぼすのを戦術と考えると分かり易いだろう。アウラは単独で街ひとつを破壊する程の力があるから戦いは控えて欲しいんだ」

 俺はアウラとアリーシャを中心にみんなに聞える様に説明した。

 アウラは俺の戦略と戦術の説明を聞いて勉強になったからか、戦術破壊兵器と言われて調子に乗ったのか、俺が人殺しをして欲しくないと言ったのが嬉しかったのか分からないが頬を染めて嬉しそうに俯いてしまう。

 普段の思想があまりにメルヘンなので、何を考えているのかイマイチ分からないのがアウラである。

 しかしアリーシャは、俺の話に腕組みして考えた後で口を開く。

 「なる程、流石は賢者と言ったところでしょうか。今までその知識の大半を隠していた様ですが、賢者となった今では隠す気はない様ですね。ところで、決闘の前に言った言葉ですが、『火事場泥棒』とは何ですか?」

 「その事か? この状況でも意外と落ち着いてるな……いいだろう。火事場泥棒とは、俺の国の言葉だ。この辺りと違って、俺の国の家屋の多くは木造なんだ。狭い島国の上に、人口が多くて家屋は密集しているんだ。だから火事になると、辺りの家に燃え移ったりして、この辺りよりも大変なんだよ。そんな火事の最中に泥棒が入っても、火を消したり逃げる事に必死で気づかなかったり、手が回らなかったりするだろう。そういう大変な時に、姑息にも泥棒をする様な卑怯者の事を言うんだよ。今回の件でいうと、仮にアテネリシア王国が攻めてきて、その気に乗じてオーストディーテ王国が進軍してボスアレスの街を占領したら火事場泥棒と言えるかもしれないな」

 俺は腕を組みながらアリーシャの顔を見て満足気に解説するが、

 「なる程、姑息とか、相手の不意を衝くとか、卑怯とか、カザマらしいですね」

 アリーシャも腕を組みながら頷く様に答えた。

 「はあーっ!? 何で、俺が火事場泥棒と同じなんだ! ペールセウスの事を言ったんだぞ! そもそも俺はお前のために……!?」

 俺は減らず口を吐くアリーシャを黙らせようとしたが、意識を失った――。

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