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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二十九章 ペールセウスとの再戦
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6.ペールセウスとの再戦

 「それでは、私のためにお待たせしましたが、そろそろ試合を始めて下さい」

 アリーシャは試合を促す声を掛けると、小さく頭を下げて姿が消えた。

 『ドーン!』

 試合の開始を告げる銅鑼が響く。

 『おおおおおおおおおおおお――!』

 観客席から歓声が響くが、先程のアレスの話の後やアリーシャ登場の時程の声が響かない。

 決闘前の前座が大き過ぎて、観客たちはどこか戸惑っているというか拍子抜けした感がある。

 そしてペールセウスも、嘗て経験したことがない野次を散々浴びて疲労している様子。

 俺はアリーシャとの関係を公衆の面前で晒されて動揺を隠せない。

 「……おい、卑怯者、ここまで姑息な手段を用意しているとは想像もしていなかった。貴様には、堂々と戦う気概がないのか?」

 「アンタが言うのか! そもそもアンタが初めに、自分の部下をサクラとして観客席に忍ばせて、戦いの前に卑怯な企てをしたのが原因なんだぞ! 俺はまだ結婚すると言ってないのに、この騒ぎをどうしてくれるんだ!」

 俺とペールセウスは決闘よりもお互いの仕打ちに憤り、戦意を高めていく。

 俺は怒りを抑え、ポジティブさに関して他の追随を許さないペールセウスに負けを認めさせるには、どうすべきか考える。

 一撃で倒すのは容易だが、後から不意打ちだったとか因縁をつけられそうだ。

 ここは先手を譲り、尚且つ誰が見ても力の差が分かる様に受け止めてから、攻撃を仕掛けるべきであろう。

 攻撃も一撃ではなく、数多く攻撃を浴びせる必要があるが、一撃で意識を失ってしまいそうである。

 それには考えがあるが、数多くの攻撃であれば一撃で負けるより、自尊心の高いペールセウスの面子も保てるだろう。

 兎に角、あの粘着気質な性格が厄介である。

 まさか、メドゥーサさんの件からここまで事態が広がるとは想像もしていなかった。

 俺は今回の件で、ペールセウスと関わるのを最後にしたいと考えている。


 ――お互いに睨み合い、観客席からも次第に緊張感が伝わってくる。

 俺は武器を鞘に納めたまま掌を自分に向けて、ペールセウスに手招きした。

 「おい、貴様、何の真似だ。また姑息な事でも企んでいるのか? だが、私は貴様の謀略には、かからないぞ。後から己の卑劣さと油断を後悔するがいい」

 ペールセウスは、俺の様子に警戒しつつも剣を抜き振り被り、

 「おおおおおおおおおおおおー!」

 雄叫びを上げ、地面を蹴り突進する。

 そして、頭上に振り上げた剣を俺の頭部目掛けて振り下ろす。

 俺は右膝を着くように重心を下げ、ペールセウスの剣に意識を集中した。

 「はあーっ!」

 俺は気合を入れ、両手を頭上に上げペールセウスの剣を白刃取りする。

 しかし、俺の白刃取りは空振りし、ペールセウスの剣は俺の頭に直撃した。

 俺は驚きと剣の衝撃に涙を浮かべる。

 また、頭に走った痛みと羞恥で顔を真っ赤にして、身体を震わせた。

 ペールセウスは瞳を丸め硬直していたが、

 「……おい、貴様、正気か……!? 何故、生きている? それに、この風はなんだ?」

 この状況を把握出来ずに混乱している。

 またも俺のフードとマスクが俺の頭と顔を覆い、俺の周りには破廉恥魔法が起動していた。

 俺は奇しくも同じ場所で同じ過ちを繰り返してしまう。

 正確には俺が失敗したというよりも、アレスの加護が過敏することが原因である。

 以前と同じ様に白刃取りをしようとした際、突然自動防御が作動して驚いた俺は、またしても白刃取りを空振りさせてしまったのだ。

 「あ、あれは……『いただきます』だぞ! 極東の男が対戦相手を屠る前の儀式だ!」

 以前ビアンカから教わった酒屋の店員が、静まり返った観客席で叫ぶと。

 『……いただきます?』

 観客席から一斉に疑問の声が上がる。

 「お、俺も前に聞いたぞ! 確か前の戦いも、あの後一瞬で勝負がついたぞ!」

 他の観客からも声が上がり、観客席がざわめき始めた。

 俺は羞恥で固まったままだが、神さまのブース席に視線を移す。

 誰の姿も見えず静かなままだが、きっとみんな俺の事を馬鹿にしてるのだろう。

 

 ――ペールセウスがやっと驚きから、正気を取り戻したのか剣を引こうとした。

 だが、俺は頭の上に載っている剣を両手で掴むと、奪い取る様に脇に引き寄せ声を上げる。

 「はあっ!」

 ペールセウスが剣を奪われまいと力を入れるが、俺は構わずそのまま剣をへし折った。

 「……へっ!? ああああああああああああ――!?」

 ペールセウスはまたも呆然とするが、すぐに叫び声を上げる。

 俺はへし折った剣の先の部分を放り投げると、

 「さて、そろそろ終わりにするけど、覚悟はいいか?」

 相変わらず刀は抜かず、拳を握り静かに構えた。

 「き、貴様! ふざけるなよ! どこまで私を愚弄すれば気が済むのだ!」

 ペールセウスは顔を紅潮させ眦を吊り上げ、折れた剣を振り上げる。

 俺は重心を下げると、ペールセウス目掛けて突進した。

 互いの距離が急激に迫るが、ペールセウスは俺の動きを捉える事が出来ない。

 すべてのステータスが遥かに劣るペールセウスは、俺の動きを追う事は元々不可能であり、常識的に考えればマッチポンプと言えよう。

 アテナさまがペールセウスを説得して、試合をさせないのが常識的だが。

 アテナさまの意思なのか、説得してもペールセウスが納得しなかったのかは分からない。

 俺は低い姿勢からペールセウスの顎にコブシを振り上げると、ペールセウスの顎が上を向き、身体が地面から僅かに浮く。

 そして、すぐに俺はペールセウスの背後へと回りこむ。

 ペールセウスの足が地面に着く前に、更に背中を蹴り上げ上方に浮かす。

 今度はペールセウス側面に回り込み、ペールセウスが倒れ込みそうな場所に移動する。

 すかさずペールセウスが地面に倒れこむ前に、蹴り上げた。

 俺はペールセウスを殺さない様に力を加減しつつも、連続攻撃を浴びせ続ける。

 ペールセウスは初めの一撃で気絶しているだろうが、俺の連続攻撃を全方位から受けて倒れることを許されない。

 この大観衆が見守る場で、圧倒的な力の差を見せつける事が俺の狙いである。

 観客席では、ペールセウスが僅かに宙に浮いた状態。

 ペールセウスの回りで、攻撃の瞬間だけ微かに見える俺の姿に見惚れる。

 それでも、ペールセウスがダウンしているか分からない審判は、試合を止める事が出来ない。

 俺の攻撃は一分間程続き、周囲がざわめき出したのを戦いながら感じると、攻撃を止めた。

 そして、ペールセウスは力なく地面に倒れ込む。

 ペールセウスの顔は俺と同じ様に腫れ上がり、高そうな鎧は破損することはなかったが、所々凹んでいる。

 「!? し、勝者、極東の男!」

 『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!!』

 観客席からアリーシャ程ではないが、アレスの話の時と同じくらいの大歓声が響く。

 審判の人は顔を引き攣らせているが、俺は観客の声援に応える様に両手を挙げた。

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