1.周囲の探索
まずは、山脈から流れてくる川沿いを進み、釣りが出来そうな場所を教わった。
魚料理はあまり好きではない様だが、狩りが好きな習性上、釣りのポイントも知っているみたいだ。
それから、ここ数日狩りをしているウサギなど小型の獣の狩場、他にもイノシシなど大型の獣の狩場。
また、周辺にはオオカミやクマなどもいると教えられたが、特にオオカミは群れで行動するので囲まれない様にと教えられた。
俺は移動しながら、使えそうな植物や木の実なども観察する。
先程までは村に近い場所を案内してくれたが。
最後は山脈に向かい森の奥に進んで、ビアンカは足を止めた。
「ここから先はゴブリンの縄張りで、ここから先はオークの縄張りっす」
ビアンカは左右を指さし、いつになく真剣な表情で言った。
「そんなに危険なのか?」
俺も緊張しつつ答えた。
「アタシはそれ程強いと思わなけど、集落があって集団で行動してるっすよ。でも、最近は、ゴブリンとオークの縄張りの奥に入った境目辺りに『キラーアント』が巣を作ったらしいっすね。今は、それどころではないみたいっすけど……」
ビアンカは意味あり気なセリフ吐くと、いつもの笑みを溢す。
(俺のレベルでは、集団を相手にするのは無理だな……キラーアントって、アリのことか? そんなに危ないのか……)
声に出さず呟いていたが、ビアンカの合図で帰路に着いた。
――スライムが生息する池。
帰りの道中で、再びビアンカが足を止めた。
目の前には池があったが、
「この池の辺りにはスライムが生息しているっす。今は近くにいないみたいっすね……だけど、最近、凄く大きなスライムを見たから気をつけるっすよ!」
俺はビアンカの言葉に一瞬身体を硬直させる。
「大きなスライムって、モーガン先生が微笑みスライムとか言ってるやつか? それはそんなに危ないのか?」
俺は興奮して、ビアンカを問い詰める様に訊ねた。
「えっ……何っすか? そんなに気になるっすか? 元々刃が効きづらいけど、大き過ぎてほとんど効かないっすね。それから、触れられて吸い込まれると出られなくなり、ゆっくりと消化されるっす。ただ、近づかなければ、アタシたちには害はないっすよ」
ビアンカは、何でこんな事を聞くのだろうと不思議そうに首を傾げる。
(なるほど、モーガン先生に聞いた通りだが、吸いこまれると脱出不能で消化されるのか……)
俺は色々と頭の中で分析したが、
「そろそろ戻らないとお昼になるっすよ」
ビアンカに声を掛けられ、二人で下宿先へ戻った。
――モーガン邸。
「帰ったっすよ!」
ビアンカは尻尾を左右に振りながら中に入り、俺は後に続く。
「お帰りなさい。ビアンカがお昼に帰ってくるなんて珍しいわね」
アリーシャが少し驚いた様な表情をしている。
「あっ、えーっと……今日はさっきまで、カザマを森の中に案内してたっす!」
ビアンカは、何だか決まりが悪そうに答えた。
そういえば、いつも日中は勉強が嫌で外にいる事を思い出す。
「へー……」
アリーシャは、冷ややかな視線で俺を見つめると何も喋らなくなる。
「アリーシャ、さっきは色々とごめんな……」
俺はアリーシャの様子を見て取り合えず謝った。
だが、俺はアリーシャに蹴られた被害者であり悪くない筈だ。
しかし、アリーシャは何も答えてくれない。
(何で無視するんだ? この年頃の女の子は色々と難しいのかな……)
俺は声に出さずに呟いた。
三人の昼食だったが、結局終始無言で終わった。
――青空教室。
俺はまず、カトレアさんに謝った。
カトレアさんはあまり気にしてない様子だったので、
『熱しやすいが冷めやすい』
そういう性格なのかと想像する。
「さっきの弓ですが、もう少し小振りのものはありませんか?」
「あるにはあるわ。でも弦の張りが強くなるわよ……屋敷に行けばあると思うけど、自分で探した方が良さそうね」
俺は午前中の事を思い出し弓の事を訊ねたが、カトレアさんは時間がある時に屋敷に行く様にと言ってくれた。
俺はカトレアさんとの話が終わり、昨日の本を読み始めたがエドナの視線が気になる。
だが、俺はこういう視線には慣れていた。
幼馴染のエリカがベタベタしてきたせいで、過去に嫉妬の視線を嫌という程浴びたのだ。
それも、しばらく大人しくしていると自然と止んだ。
だから、こういった事は放置するに限ると割り切っていた。
――二時間程経っただろうか。
昨日アリーシャから教わった所から更に先を読んでいる。
まだ曖昧で分からない単語もあったが、何となく先に進んでいた。
「それではカトレアさん、村に買い物に行くのでお先に失礼します」
アリーシャがカトレアさんに挨拶して席を立っている。
それを見ても俺も慌てて立ち上がった。
「カトレアさん、俺も買い物の付き添いに行くので失礼します」
カトレアさんに声を掛けアリーシャの後に続く。
その様子を、カトレアさんは小さく笑みを浮かべ見つめている。
(昨日は、俺もエドナをそんな感じで見守っていた筈なのに……)
俺は声に出さず嘆いた。
そしてアリーシャに付き添い、村へ出掛けた――。
俺とアリーシャは村の露店に来ている。
村の露店は街ほどではないが、色々な物を売っていた。
だが、それよりも気になることがあった。
ここまで、アリーシャと話していないことなのだが。
俺はアリーシャに機嫌を直してもらおうと、辺りに何かないか探す。
アクセサリーとかの類は分からないので食べ物を探してみると。
売っている食材や調味料から色々と作れそうだと分かった。
(ホットケーキとか簡単で良いだろう……)
などと考えていて気づいた。
「あーっ! 金がない……」
俺は思わず叫んだ。
今までお金を使う必要がなくて気づかなかったのである。
正確には、酒場で必要であったが……。
突然の俺の叫びに、アリーシャは怪訝な表情を浮かべた。
「何ですか? 突然……」
「いや、俺はこの国に来てからお金を使う機会がなくて、お金を持っていないことに気づいたというか……」
決まりが悪くて、アリーシャに顔を背けて答えると。
「うふふふふっ……カザマは面白いですね」
アリーシャは軽く口に手を当てて笑っている。
「なあ、アリーシャ。この村に冒険者ギルドはないか? 何かお金がもらえそうな依頼を受けたいのだが」
「冒険者ギルド? この村にあったかどうか……。カトレアさんの屋敷に行けば分かるかもしれません」
俺はアリーシャにお願いして、カトレアさんの屋敷に案内してもらった。




