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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二十五章 北欧の侵攻からの防衛(後編)
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4.ニンジャとは…

 俺は兵舎に入り、騎士団長に会談の大まかな話を説明した。

 しかし、騎士団長は余程驚いたのか、途中から置物の様に固まってしまう。

 俺は周りにいた他の騎士たちにも説明し、俺がすべて話を進めるので崖のテントに近づかない事と、俺たちの決闘の邪魔をしない様に依頼した。

 崖の上のテントは北欧の方々に貸して、俺たちは決闘の時間まで自分たちのテントに戻る事になる。

 俺は兵舎から自分たちのテントに戻りみんなと合流した。

 「取り敢えず、騎士団長と他の貴族風の騎士たちに説明したので問題ないだろう」

 俺がテントの中で待っていたみんなに報告すると、アリーシャが一番に声を上げる。

 「カザマ、あなたは一体、何者なのですか? こちらの神々と親しげに接しているだけでもあり得ないのですが……何故敵対する国々の情報や神々のことが分かるのですか? それに、商人の才能があるとは知っていましたが、あれ程の外交交渉を進めるとは……本当に、人間なのですか?」

 アリーシャの話にアウラも相貌を顰め頷く。

 俺の斬新な思想は、この世界の住人たちが理解するのは難しかったのだろう。

 俺がどの様に対応したらいいか悩んでいると、リヴァイが口を開いた。

 「おい、アリーシャ、落ち着け……以前、エリカが言っていただろう。こいつは、中二病という可笑しな病気なんだ。あまり可笑しなやつの事を真剣に考えても仕方ないだろう」

 リヴァイは俺を庇おうとしてくれたのだろうが、中二病という言葉に憤りを抱く。

 それでもアリーシャとアウラの表情が緩む。

 「確か、モミジ丸の時も訳の分からない事を行い、みんなを困らせていましたが、エリカがその様な事を言っていましたね。カザマの国の中二病という病に罹った人たちは、人間を超えた知識を持つようですね」

 「そ、そうね……カザマはたいして強力な魔法が使えないのに、私と同じ大魔導師という称号の資格があるらしいから、新しく何かを想像することに特化しているのかもしれないわ。破廉恥だし……」

 アリーシャに続き、アウラも胸を張り誇らしげに語り出したが、途中から顔を赤く染めて口篭った。

 俺はリヴァイだけでなく、ふたりに馬鹿にされたみたいで怒りに震えるが。

 都合良くふたりが勘違いしているので、余計な事を言わずに我慢する。

 本当はニンジャであるからと言って欲しかったが、ニンジャは誇らないものだ。

 そして、文字通り耐え忍ぶものである。

 俺は話題を変える目的もあり、コテツに顔を向けた。

 「コテツ、ブリュンヒルデさんが俺と戦う約束をしていると言ってましたが、コテツが何か話したのですか?」

 「うむ、私は貴様の代わりに戦ったに過ぎないであろう。そもそも貴様が戦うと言ったではないか。だから、私は本気で戦わずにいたのが、ブリュンヒルデの騎士として自尊心を刺激したらしい。そこで、貴様が本来の戦う相手だと伝えたのだ」

 コテツの話を聞き、俺の怒りは爆発する。

 「はあーっ!? ちょっと、他のふたりは兎も角、アンタまで何言ってくれてんですか! 俺はニンジャなんですよ! そんな正々堂々と一騎打ちみたい真似をする職業ではないんですよ! あー! もうー! どうして……!?」

 俺は憤り、今後の事を考え嘆いていると後頭部に衝撃が走り意識を失くす――。


 しばらくして、後頭部の痛みと柔らかく温かな感触にぼんやりしていた。

 「アタシはひとりで大丈夫っすよ!」

 「でも、今日は満月よ。最近はカザマと狩りに行ってないし、イライラしていると言ってよね?」

 ビアンカが駄々を捏ねている声と、女子同士で話す時の砕けた口調のアリーシャの声が聞こえてくる。

 「ビアンカ、前はカザマがボロボロになって止めてくれたけど……あの時のセリフをまだ、アルベルトが真似をしてるわ。うふふふふ……」

 「うむ、確かに後から思い出すと、あれだが……アウラもそのくらいにしておけ」

 アウラがまたも俺を馬鹿にしているが、止めてくれたコテツも笑いを堪えている気がしてイラッとした。

 そして、アレスがとんでもない事を言い放つ。

 「ねえ、ビアンカ、また僕がついて行くよ。君はひとりに拘っているみたいだけど、僕はそもそも数に入らないし、相手は模造品とはいえ神器を使っているだろう。寧ろ、僕が付き添った方が公平だと思うよ。それに、僕はいつもカザマに付き添っている訳だし、ビアンカに付き添うと、今回は久しぶりにカザマが一人になるよね。最近、カザマは調子に乗っているからね。そろそろ痛い目に遭った方がいいと思うんだ。ビアンカもカザマの事が好きなら協力してくれると助かるよ」

 話の内容はビアンカを気に掛け、ビアンカが断れない様な思いやりに溢れて聞える。

 だが、その裏では、俺を貶める内容が被っていた。

 俺が考えそうな謀略であるが、仲間内に使うとは腹立たしくて文句を言いたくなる。

 「アレス、ビアンカを気遣ってくれるのは嬉しいですが、俺の悪口を一緒に言うのは止めて下さい! あっ……」

 俺は顔を上げ声を荒げると、目の前にアリーシャの顔があった。

 アリーシャが頬を染め、水色の瞳を見開く。

 「カザマ、起きましたね。先程は突然騒ぎ出して、コテツに当り散らしていたので、リヴァイが気を遣って眠らせてくれたのですよ。あまり心配を掛けないで下さい」

 俺は何度も感じた後頭部の感覚に、何となくそうではないかと気づいていた。

 しかし、毎回何かある度に気絶させられるのは、どうなのかと不満はあったが。

 「ああ、いつも悪いな。その……膝枕してくれて……」

 俺は結局、アリーシャの膝枕が嬉しくて文句が言えない。

 リヴァイが相変わらず偉そうに腕を組んだまま、面倒臭そうに声を上げる。

 「おい、お前、お前の情緒不安定な言動も、いい加減何とかして欲しいぞ……これも、中二病に関係するのか……毎回、俺が気絶させて大人しくさせているが、益々回復が早くなってるな。お前の丈夫さも、既に人間の域を超えてるが戦いに活かせよ」

 所々口篭っているのは、照れ隠しなのだろうか。

 それに俺は重騎士ではないので、これ以上の耐久力は必要ない。

 「うむ、そろそろ時間だぞ。起こす手間が省けたな」

 そもそもの原因はコテツなのに、何事もなかったかの様にさらりと言ってくれた。

 それにニンジャは、決して戦闘に特化している訳ではなく諜報工作員である。

 寧ろ、先程の会談の方が、まだ役割的に相応しいのだ。

 誰にも理解されないことに悔しさというか、寂しさを覚えるが。

 不条理に耐えるのも、忍者なのだと自分に言い聞かせ我慢する。

 俺たちは再び崖のテントの方に移動した――。


 俺たちが崖に着くと、北欧の面々はテントから出て俺たちを待っている。

 ブリュンヒルデさんとゲイルスケグルさんが一歩前に出た。

 「では、戦いを始めましょうか……」

 ブリュンヒルデさんが微笑を湛えているが、俺は声を上げる。

 「あっ!? ちょっと、待って下さい……折角なので、俺もビアンカとゲイルスケグルさんの戦いが見たいのですが、順番ではダメですか?」

 ブリュンヒルデさんとゲイルスケグルさんが顔を見合わせ、最後にスクルドさんを見つめた。

 ビアンカは先程から興奮しているのか、尻尾が上を向き左右に揺れている。

 ブリュンヒルデさんが先程と同じく代表して答えた。

 「私たちは構いませんわ。それで、どちらが先かしら?」

 「姉ちゃん、アタシたちが先っすよ!」

 俺が答える間もなくビアンカが勝手に返事をすると、先程の戦いの場所まで駆け下りて行く。

 アレスは何時の間に移動したのか、ビアンカの背中におぶさっている。

 ゲイルスケグルさんも仲間たちに何事か言葉を交わすと、崖を駆け下りて行った――。

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