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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二章 修行と異世界での日々
15/488

7.エラー…

 ――夕食。

 昨日は坦々とした感じの夕食だったかが、今日はかなりの賑わいになった。

 「お前というヤツは、昨晩あれ程気をつけろと言っただろう! 全く、実にけしからん! けしからんぞ! あーっ…こんなことなら、ワシも一緒に……」

 俺は、風魔法の件で、モーガン先生に叱られている。

 だが、先生は自分がその場にいなかった事が悔しかったらしい。

 先程からアリーシャの視線が、俺に突き刺さっている。

 「アタシも見たかったっすよ! 貴族さまの恥ずかしい姿を想像したら……」

 ビアンカも何やらツボにはまったらしい。

 笑いを堪えているみたいで、尻尾が揺れて楽しい様子が伝わってくる。

 ビアンカは、カトレアさんをあまり良く思っていないのだろうか。

 モーガン先生が、先程の様子から表情を変えて口を開く。

 「カザマ、お前は会話が出来るのに、文字が読めないらしいな? もしかしたら、お前の魔法が不自然なのは、その影響が出ているのかもしれん……取り敢えず、カトレアに言われた様に、読み書きの勉強をしろ。しばらく魔法の練習は中止だ」

 それを聞いた俺は、流石に一日中読み書きの練習は嫌だと思い、

 「先生、出来れば弓の練習と森の散策がしたいです! 弓は俺の職業柄、多少使えないと困りそうですし、森の中で鍛錬や何か使えるものがないか探したいです……それに、アリーシャから魚をとってきて欲しいと頼まれていますし……」

 もっともらしい理由をならべて、俺の中で想像する冒険らしいことを希望した。

 ちなみに、アリーシャの事を話題に出したのは、先程からの視線を気にしてでもある。

 「ふむ……確かにそうかもしれんな。弓の指導はカトレアに頼んでおこう。それから、森の中のことはビアンカに任せるぞ!」

 モーガン先生の指示に、ビアンカは気持ち良く答えてくれた。

 「分かったっす。カザマ、森の中なら任せて欲しいっす!」

 その様子を眺めていたモーガン先生は、不敵な笑みを浮かべる。

 「お前は、色々と自由にさせた方が面白いかもしれんからな……」

 (モーガン先生、何か変なこと期待してませんか)

 俺は声に出さず先生に突っ込みを入れて、口元を引き攣らせた。

 夕食はこんな感じで賑やかに過ぎていく――。


 夕食が終わり、俺はアリーシャと一緒に後片付けをしながらお願いした。

 「なあ、時間がある時でいいから村の案内をしてくれないか?」

 この村に来て二日目になるが、村だけでなくこの世界の事がほとんど分からない。

 「分かりました。明日の読み書きの勉強を早めに切り上げ、夕食の買出しに付き合って下さい。勉強ですが……私も多少力に成れると思いますよ」

 アリーシャの声が弾んで感じて、何だか嬉しそうに見えた。


 ――自室。

 今日の日課を終えて、シャワーを浴び部屋に戻りベッドに横になっている。

 (まだ、この世界に来て三日目だが色々なことがあったな。以前は外で、人と話す事はほとんどなかったのに……何度も笑いものにされ、ブタれて……こんな筈じゃなかったのに……)

 俺が天井を見ながら、そんな回想をしていると扉を叩く音がした。

 「……カザマ、今、ちょっと良いですか?」

 アリーシャの声が聞え、俺は慌ててベッドから起きて扉を開ける。

 「どうした? 暇だから、何かあったら遠慮なく言ってくれ」

 アリーシャは顔を赤く染め、身体を捻らせていたが、

 「今日、カトレアさんから本を借りましたよね……まだ、カザマは独りで読めないと思って、ですね……良かったら、私が読み聞かせをしてあげようかと思いまして……」

 途切れ途切れに言葉を繋げ、上目遣いで俺の顔を見つめる。

 (おっ!? おやおや! これはもしかして、何かフラグ的な……期待してもいいのだろうか?)

 俺の中で、先程まで落ちていた気持ちが一気に吹っ飛ぶ。

 「ああ、ぜひお願いするよ!」

 エドナに知られたら、また馬鹿にされそうだし、絵本を読んでもらうのは正直恥ずかしい。

 それに、アリーシャは俺の中で妹的な存在な筈だが、それでも嬉しい。

 「えーっと……それじゃ、失礼しますね……えーっと、本はこれですね?」

 アリーシャは部屋に入ると、余所余所しく本を手に取った。

 部屋には机もないし、お互いに本が見えないと勉強にならない。

 そのため、ベッドの上に並び、うつ伏せになる。

 アリーシャは、かなり緊張しているのだろう。

 息遣いが荒い気がする。

 身体も小刻みに震えているようだ。

 俺はそんなアリーシャの様子に興奮していた。

 自分の鼻の穴が膨らんでいるのが分かる。 

 (何だかアリーシャから良い香りがする…)

 俺は声に出さずに堪能した。

 そんな俺の様子に構わず、アリーシャは意を決した様に読み始める。

 アリーシャは読んでいる部分を人差し指で追いながら話を進めた。

 見た目は子供っぽく見えるのが、こういう仕草は大人っぽく感じる。

 俗にいうギャップ萌えというやつだろうか……

 (ああ、ダメだ! 折角アリーシャが、俺のためにと頑張ってるんだ! しっかりしなければ!)

 俺は必死に雑念を振り払い、本に集中する。

 それにしても、この本はヘーベを主題にした伝説か、何かなのだろうか。

 首を傾げながらも、アリーシャの話しと指でなぞる単語に集中した――。

 

 しばらくして、キリの寄り良い所でアリーシャは本を閉じ、ベッドから降りた。

 「今日は、このくらいにしておきましょうか?」

 俺は思い切ってアリーシャに訊ねた。

 「ありがとう! 面白かったし、すごく分かり易かった……その、これからもこうして教えてくれるのか……」

 「カザマがそうして欲しいなら……明日は一緒に買い物もありますし、早めに休んで下さいね。それでは、おやすみなさい……」

 アリーシャは相当恥ずかしかったのだろう。

 慌てて部屋から出て行った――。


 ――下宿三日目(異世界生活四日目)

 目が覚めると、昨日と同じ様にビアンカが俺に馬乗りになっていた。

 だが、昨日と違うのは、ビンタされる前に目が覚めていた事。

 そして、ビアンカの尻尾が左右に揺れており、昨日より機嫌が良いことだった。

 「おはようっす! 今日はすぐに目が覚めたっすね。起きなかったら、色々とイタズラしようかと思っていたのに……残念っす……」

 「ああ、おはよう。イタラズって何だよ? そんなこと言ってると、俺も男だし……色々と女の子には、危険がいっぱい何だからな……」

 ビアンカの冗談っぽい話を上手く流すつもりが、微妙な感じになってしまう。

 「あははははっ……危険がいっぱいって、何っすか? 昨日はアリーシャといい感じだったようっすね……」

 ビアンカは軽く笑うと、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。

 「……お、お前!? 何で知ってるんだ……ね、念のため言っておくが、アリーシャに本を読むのを教わっていただけだからな!」

 「アリーシャに聞いたっす。凄く緊張したと言ってたっすよ。それから、一緒に話を聞いていたアウラなんか、耳の先まで真っ赤になったっす」

 どこの世界でも女子というのは、こういった話が好きらしいと思ったが。

 「……はっ!? い、今、アウラって、言わなかったか?」

 「言ったすよ。アウラが夜に訊ねて来たのは、初めてだったっす。昨日のカザマの様子を見て、気になって堪らなかったと言ってたっすよ。あはははは……」

 「な、何で俺も呼んでくれなかったんだよ! あんなに知り合いになりたいって……あっ!? ビアンカ、何で最後の方で笑ったんだ?」

 「ああ、カザマが燃えたり、溺れたりの話題が出たからっす……アウラは相当カザマの事を気にしていたみたいだから、そのうち会えると思うっすよ」

 俺は朝から釈然としないと思いつつ、ビアンカと共に薄暗い森の中に入った――。


 ビアンカは途中、何度か振り返り俺を見たが、何だか嬉しそうであった。

 俺とビアンカは森の中を進み、足を止める。

 俺たちは昨日と同じ様に獲物が現れるのを待っていたが、

 「今日はカザマが捕まえるっすよ。カザマは武器があるから、直接仕留めるっす」

 ビアンカは小声で俺に指示を出した。

 「分かった……」

 俺は頷き返事をしたが、ダガーの柄を握りつつ、感触を確かめた手に力が入る。

 

 しばらくして、昨日と同じウサギが現れた。

 ビアンカは俺に目で合図を送り、俺はタイミングを計り勢い良く飛び出す。

 そして獲物の首を狙い、気合の入った声を上げダガーを振った。

 「デヤーっ!」

 だが、俺のダガーは空振りして、獣は驚き逃げてしまう。

 「何やってるんっすか!」

 ビアンカは俺の後ろに来ると、俺の頭を軽く叩いた。

 俺は叩かれた頭を摩りながら気まずそうに振舞う。

 「昨日はダガーを振る時に気配を感じず、正直刃先が良く見えなかったっす! 見事な一撃だと思ったっすよ……余計なことを考えずに『なすべき事をなす』っすよ!」

 ビアンカは何となく恥ずかしそうに教えてくれた。

 普段はこういうことをあまり言わない様な感じがする。

 そんなビアンカに、俺は正直な気持ちと感想を伝えた。

 「ありがとう! お前、格好良いやつだな! それから、結構難しい言葉を知ってるんだな」

 「よ、余計なことは言わなくていいっす! それから、最後の一言は、本当に余計っすよ!」

 俺は、またビアンカに頭を叩かれてしまう。

 ビアンカは、すぐに俺から背を向け、地面を蹴った。

 「次のポイントに移動するっすよ!」

 

 ――俺たちは、次のポイントに到着している。

 辺りは既に明るくなっていた。

 二人で息を潜めて待っていると、ビアンカの耳がピクピク動く。

 ウサギが現れた。

 ビアンカは、この獣が現れるポイントを選んでいるのだろうか。

 そんなことを考えていると、再びビアンカが目で合図を送った。

 俺は軽く頷き、飛び出す。

 今度は緊張や力みもなく、ダガーの刃先が獲物の首を斬った。

 俺は既に絶命している獣を見ながら、何となく先程の感覚を思い出す。

 (静かに最速で間合いに入り、ダガーは力を入れて振るのでなく、コブシの延長を意識しつつ、コブシを振るという様な感覚)

 昨日は夢中で分からなかったが、今日はダガーの扱いを理解した気がした。

 俺は獲物を掴んでビアンカを見たが、満足そうな表情をしている。

 「帰るっすよ……」

 昨日と同じで一匹だけ仕留め下宿先へ向かう。

 明るくなってきたからだろうか。 

 帰りは、今までよりビアンカの走るスピードが速くなっていた。

 それでも、俺は遅れることなくついて行く。

 無事に納屋まで到着し流石に少し疲れたが、改めて感じる……

 (こんなスピードにも付いていけるとは、ニンジャという職業は凄いな……)

 それからビアンカと一緒に納屋に入り、解体の仕方を教わった。

 昨日は殺生を躊躇ったが、昨日程色々と感じずに解体の仕方も理解していく。


 ――モーガン邸。

 俺とビアンカは外で手を荒い、玄関から家の中に入った。

 「帰ったっすよー!」

 ビアンカの尻尾は小気味良く揺れるている。

 俺も続いて家の中に入ったが、

 「お帰りなさい。ビアンカ、何だかいつもより気分が良さそうね」

 既に朝食の準備を済ませていたアリーシャが答えた。

 「まあ、カザマの覚えが思ったよりいいからっすかね……そろそろ、二人だし少し大きい獲物を狙えそうな感じっす」

 ビアンカに褒められて嬉しいが、大きい獲物という言葉が気になる。

 それは二人掛かりで攻撃することか、それとも二人で担ぐのかなどと想像した――。


 食事と片付けを済ませてから、カトレアさんが来るまでの間、部屋でゴロゴロしている。

 ふと、俺はカトレアさんが来た様に感じ、書庫に移動した。

 カトレアさんは書庫に入ったばかりだったのか、黒のローブを脱いでいる。

 それから、弓を持っていた。

 「それでは始めましょうか。アリーシャは何かあったら、いつも通り聞いてもらえるかしら。カザマは演習場で弓の練習をして頂戴」

 カトレアさんは俺を連れて演習場に移動したが、今日もアリーシャが後ろから付いて来ている。


 ――演習場。

 演習場の隅の方に着くと、カトレアさんは弓を構え、森との境の木の方を見据えた。

 弓を構える姿は、妖艶な身体の線がくっきりして、美術館に展示している彫刻の様な美しさを感じる。

 そして、木の幹目掛け矢を放ち、見事に幹の真ん中に矢が突き刺さった。

 「簡単にやってみたけど、こんな感じよ……全く心得がなくて分からないなら、構えから教えるけど」

 俺は即答する。

 「はい、今まで弓に触ったことがなくて、分かりません!」

 カトレアさんは溜息を吐くと、俺に弓を構えさせて俺の身体に密着した。

 「……そう、背筋を伸ばして、顎を引いて……!? 腰を曲げないの! もっと、身体の力を抜いて!」

 俺は指導してもらっている最中であったが……。

 (良い香りがする……お、おっ、胸が背中にあたってる……ああ、柔らかい! か、顔が近くて、息が顔に掛かってる……うーん、予想通り最高!!)

 声に出さず至福の喜びを感じていた。

 だが、その様子を見ていたアリーシャが、顔を赤くして近づいて来る。

 「カトレアさん、私に代わって下さい。私もカトレアさん程ではないですが、弓を使えますので」

 アリーシャはカトレアさんの返事を待たず、入れ替わる様に俺の後ろにつく。

 そして、右足を後ろに引くと、俺のお尻を蹴り上げた。

 俺は飛び上がり、大声で叫んだ。

 「イッテーっ! 急に何するだよ!」

 そして、お尻を押さえて振り返る。

 「何って、ずっと見てましたよ! カトレアさんの身体に擦りついて……い、嫌らしい顔をしてましたね! カ、カザマは不潔です! 破廉恥です!」

 アリーシャは顔を真っ赤にして、小さな身体を震わせながら怒っている。

 カトレアさんはその様子を見ていたが、次第に表情が険しくなった。

 「な、何ですって……良い度胸してるわ……良い度胸してるわ……」

 カトレアさんは昨日の言葉を呟き出し、右手にムチを持った。

 「ヒィイイイイイイー!」

 俺は悲鳴を上げ頭を抱えて、カトレアさんから逃げようと背を向けた。

 しかし、丁度お尻を見せる格好となり、ムチでお尻を打たれる。

 「イッテーっ!」

 「今回はこの一回にしてあげるけど……アリーシャ、治癒魔法は掛けないで頂戴。お仕置よ!」

 カトレアさんは、アリーシャと一緒に演習場を後にした――


 俺は独り取り残され、お尻の痛みに耐えていた。

 だが、先程から感じている気配に声を掛けた。

 「ビアンカ! それから、アウラだろう! 何、隠れて笑ってるんだ!」

 ビアンカとアウラは、慌てて逃げたのか気配がなくなった。

 俺は、次に機会があったら、絶対にアウラを捕まえてやると心に誓う。

 それから、俺は独りで黙々と弓の練習をした。

 元々弓は子供の頃に実家で習っていたので、問題なく使える。

 もっとも、実家で習ったのは弓だけではないが……。

 それよりも、普通に弓を使えてもニンジャとしてどうかと思った。

 動きながら弓を放ったりと色々してみたが、しっくりこない。

 (やっぱり、もっと小振りな弓が欲しいな……)

 俺は、後でカトレアさんに謝るついでに相談しようと思った。

 

 しばらく独りで弓を放ち、矢がなくなると刺さった矢を取りにと繰り返す。

 「カザマ! 遊びに来たっすよ!」

 いきなり後ろから声がしてビアンカが現れたが、今度は気配がしなかった。

 「今度はアウラと一緒じゃないのか?」

 それとなくビアンカに訊ねたが、ビアンカは首を傾げる。

 「何のことっすか?」

 俺はビアンカが気にしてないのか、忘れてしまったのかもしれないと思ったが。

 ふと思いつき、ビアンカにお願いする。

 「なあ、折角だから昼食までの間、森の中の様子を教えてくれないか?」

 「いいっすよ! それじゃー、色々と近場のメインスポットを案内するっす!」

 ビアンカは大輪の花が開く様な笑みを浮かべ、尻尾を左右に振った。

 そして、すぐに森の中に入って行く――。

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