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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二十四章 北欧の侵攻からの防衛(前編)
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6.戦略と理想

 コテツとビアンカが戦っている間、俺はアリーシャから状況の説明を受けた。

 「大体分かった……ところで、俺は、互いに消耗するだけの戦争を早く終わらせたいと思っている……だが、双方譲らないだろうから、落としどころを提案したい」

 これまでの経緯を説明してくれたアリーシャは俺の話を聞くと、面食らったのか水色の瞳を大きく見開き動かない。

 「おい、お前、本当にそんな事が出来るのか?」

 リヴァイが変わりに答えるが、言葉とは裏腹に期待感を窺わせ、硬直するアリーシャの思考を促す様にも聞こえた。

 「はい、本来この地は俺が知る限り、北欧が所有し貿易の拠点となる筈でした。その根拠に、こんな偏狭の外れにあるにも関わらず、ゲルマニア帝国の支配も受けずに存続していますよね。普通に考えて可笑しいですよね? これは、過去に何かしらの行き違いが生じたからだと推測されます。しかも、オリンポスの神々にとって有利であり、北欧の神々にとって不利になるようなことだと思います」

 アリーシャは落ち着き掛けた矢先に俺の話を聞き、両手を口に当てガタガタと震え出す。

 「カザマ……あなたはまた……神々の名前を不当に語り、何という罰当たりな……」

 「アリーシャ、落ち着いてくれ。俺はアフロディーテさまに会う前に、ヘーラさまからご褒美を頂く約束をしてる。お前たちは信じてくれなかったが……俺がこれまで幾柱の神さまと交流を持ったと思ってるんだ。逆に疑う方がどうかしてるぞ」

 俺はアリーシャを落ち着かせるため、敢えてリヴァイの様に偉そうに腕組みをして返事をするが……。

 「おい、お前、俺の真似をするのは止めろ。俺に憧れるのは分かるが……それで、お前の言っている事が事実として、何を要求するつもりだ?」

 リヴァイが頬を薄っすら染め、照れ隠しの様に話しに加わる。

 俺は腕組みを緩め、ふたりに笑みを浮かべ話を続ける。

 「俺は、この国のこの地とあちら側の対岸の一部を独立させ、互いに不可侵条約を結ばせたいと思います。そして、その地を貿易拠点とする事を提言します。初めは想像を絶する様な政策で、青天の霹靂と思うかもしれません。しかし、次第に落ち着くと、互いに莫大な利益を与えるでしょう。それでも、残念ながら多少のイザコザは起こるでしょうが……ですが、大きな力を持つ者に、災いが降り掛かる事と同じだと考えます。それに、この地は船舶での大規模輸送だけでなく……ゆくゆくは橋を掛ける事が可能な地でもあります」

 リヴァイは双眸を細め俺を睨むが何も言わない。

 アリーシャは先程と同様に面食らった様に、水色の瞳を大きく見開き動かない。

 「おい、お前、お前の話は分かったが……それでどうするつもりだ。互いに利益になることを説明しても易々と信じ、納得もしないであろう」

 リヴァイの言葉に、アリーシャは声を出さず大きく頷く。

 「はい、そうでしょうね。こういう時はまず、力のある者に利益となる事を説明し、味方に取り込むのが先決です。こちら側の神々へは、ヘーラさまを通して伝えるとして、王族もゲルマニア帝国の説得が出来れば大丈夫でしょう。北欧のことは、これから俺が話しに行ってきます。リヴァイ、アリーシャ……俺はそういう訳で、交渉に行くのでお願いがあります……」

 俺はふたりにそういうと、呆然とするアリーシャとリヴァイを傍に寄せ、海に浮かぶ大型船から背を見せる――


 「……あなたは、まだそんな訳の分からない事を言っているのですか! いい加減にして下さい!」

 アリーシャが突然険しい表情になり、俺を怒鳴りつけるとビンタを浴びせた。

 リヴァイもそれに続き、後ずさりする俺の腹に蹴りを入れる。

 俺は海から遠ざかる様に転がっていく……。

 「おい、お前、お前は邪魔になるだけだ。消え失せろ!」

 俺はリヴァイにも怒鳴られ、ふらつきながら崖から離れていった。

 大型船のブリッジから俺たちの様子を見ていた女性は、本来なら訝しさを覚える筈。

 しかし、初めて俺たちの姿を見た時から、俺は仲間内から浮いた状態だった。

 この場を離れて行く俺の姿を見ても疑うことはなかったのだ――。


 俺はアリーシャとリヴァイと別れた後、崖から迂回して海を泳いでいる。

 リヴァイに殴られ、アフロディーテさまからムチでぶたれた痕が疼く。

 上空ではアウラの竜巻と敵のブリザードの魔法が激突し。

 突風や氷の塊が降り注ぎ、海は荒れて波に飲み込まれそうになる。

 だが、ニンジャスキルの影響か、溺れずにいた。

 そんな危険な海を泳ぎながらも時折戦局を眺めたが、コテツは終始押してる様である。

 しかも、俺の指示通りに加減をして、自分から攻撃する様子は見えない。

 俺はその様子に満足し、反対側を見つめるが……。

 ビアンカが俺と同じ破廉恥魔法を発動させ、目を丸める。

 あれだけ人の魔法を馬鹿にしておいてと腹立たしく思うが、

 「ハッ……クシュン! はあ……」

 痛みに耐えるのと荒れた海を泳ぐので必死で、それどころではなかった。

 流石に、真冬の海を泳いで風邪を引き掛けているのか、それともまた誰かが悪口を言ってるのか……。

 俺は突然のクシャミを怪訝に思っていたが、ビアンカの周りの兵士たちが突然大声を張り上げ、意識が傾く。

 戦況を眺めていると、凄まじい勢いで敵を押し始めた。

 何が起きたのか分からないが、このまま敵が撤退すると鉢合わせになってしまう。

 これ以上の進撃は控えて欲しいと願いつつも、敵の大型船まで泳ぐ速度を上げる――。

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