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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二十四章 北欧の侵攻からの防衛(前編)
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3.参戦前…

 テントの中で食事を済ませた後、再び先程の話の続きをしたが。

 「コテツにアウラが付き添うとなると、リヴァイは無理の様ですから……ビアンカの付き添いをアレスにお願いしたいのですが……」

 リヴァイが俺を睨むが無視して、アレスを見つめる。

 「うん、付き添うくらいなら構わないけど、僕は直接戦う事は出来ないよ」

 「ええ、戦闘への参加の必要はありません。ビアンカが無理をしたり、危険な時は助言して欲しいのです。それから、誰かがビアンカに付き添ってくれないと、離れた場所で連絡が出来ないですからね」

 アレスは笑みを浮かべたまま無言で頷くが、ビアンカが口を尖らせる。

 「アタシは、ひとりでも大丈夫っすよ……」

 呟く様に不満を漏らすビアンカに、俺は手を伸ばす。

 「ビアンカ、それだけの問題じゃないぞ。腕試しは構わないが、相手を殺すのは控えて欲しいんだ。そもそも、アフロディーテさまは撃退する様に言われたが、殺せとは言ってないよな……逆恨みされて、後々面倒な事が起きない様にしたいんだ」

 「面倒な事ってなんすか? 戦いなんだから、命を掛けるのは当然っすよ。アタシは逆恨みなんか怖くないっす」

 ビアンカが拗ねてしまい、俺が差し出した手はビアンカの頭上で止まる。

 「ビアンカ、以前狩りをする時に教えてくれたじゃないか。狩りをするのは食べる分だけで、無駄な殺生は良くないだろう。ビアンカが言ったことだぞ……だから腕試しだけにしよう」

 俺の言葉が響いたのか、ビアンカの瞳が大きく見開かれた。

 俺は今度こそ、ビアンカの頭の上に掌を載せ撫でるが。

 「また調子に乗って、ビアンカにセクハラするのは止めて下さい!」

 「ち、違う! さっきからアリーシャ、興奮し過ぎじゃないのか?」

 俺はまたもアリーシャに叱られ、向きになって答えた。

 「昼間はアフロディーテさまに叱られる筈が、こんな事になり……あ、あんな破廉恥な事までしたのですよ! カザマは今の状況の原因が何だったのか良く考え、反省する必要があると思います」

 「い、いや、確かに、それは認めるけど……昼間の事は勝手に魔法が発動して、俺が意識した訳じゃないんだ。信じてくれよ……」

 「で、ですが……それならば、あの時顔を背けたり、目を逸らすなり出来た筈ですよ。それをじっと食い入る様に見つめ、その上、感想まで口にするとは……女神さまを相手に、罰当たりです……破廉恥です……」

 俺はアリーシャの剣幕に返す言葉がなく、アレスに視線を移す。

 「ア、アレスが俺に、何かしたのでは……」

 「ねえ、君、何の事かな? そもそも君は叱られに行ったのに、こんな面倒事に巻き込まれたんだよね。それで自分の事は棚に上げて、みんなには面倒事に巻き込まれない様にと注意を促すのは、どうかと思うよ」

 俺はアレスからも責められ、額と首筋から流れる汗を拭いながら謝罪すると、

 「え、えーと……確かにそうですが……その件については、俺が悪かったと思います。でも、今はこれからのことです。アレス、隠し事をしては説明し辛いので、今居る仲間たちにだけ、本当の事を伝えますよ」

 嬉しそうな笑みを浮かべるアレスを見つめた。

 「君が何を言いたいのか知らないけど、好きにすればいいと思うよ」

 アレスは意外な反応を見せ、俺はかえって狼狽する。

 「え、えーと……一応、みんなに伝えておきたいのだが……今回の相手は、北の国々の神々から派遣された軍なんだ。さっき、騎士団長が説明してくれた強大な力を持った者たちは……『ワルキューレ』と言われている。アレスたち神々が導いた英雄たちと同様に人知を超えた力を持つと言われている」

 コテツとリヴァイの様子を窺うが、文句がなそうなので思い切って話した。

 みんな呆然としているので、俺の話が凄過ぎて腑に落ちないのだろう。

 俺はそう思い、みんなの顔を眺めながら頷いていると。

 「カザマ……以前モミジ丸で、エリカが言っていた中二病ですか? 妄想で神さまを語っては、罰が当たりますよ。怖いのは分かりますが、幾ら何でもこんな妄言を吐くとは……私が言い過ぎたのかもしれませんね」

 アリーシャは先程の剣幕が嘘の様に、瞳を潤ませ俺を見つめる。

 「ち、違う! 本当なんだ……みんな信じてくれないなら、もういいよ……でも、明日の戦闘になって、戦局が劣勢になったり、俺が退却の指示を出したら、無理をせずに引き上げてくれよ。明日は飽くまでも情報収集が目的だから……」

 俺は何も言ってくれないみんなに指示を出すと、テントの隅で横になった。


 ――異世界生活七ヶ月と四日目。

 俺は一番早く就寝したせいか、みんなより早く目が覚める。

 まだ夜明け前で辺りは暗いが、俺の周囲を遮る様に暗幕が掛かっていた。

 誰かが、俺が良からぬ事をすると思ったのか、仲間外れにされたみたいで腹立たしい。

 それでも、コテツとリヴァイとアレスも俺の周りにいるので我慢する。

 暗幕の向こうから、人が動く気配がして聞き耳を立てた。

 「うむ、貴様は早朝から何をしているのだ……」

 「コテツ、誰かが起きたみたいなのですが……」

 コテツに説明するが、暗幕に聞き耳を立てている姿は明らかに怪しい。

 「うむ、貴様は女が絡むと、途端に馬鹿になるな……」

 「ほっといて下さいよ……」

 夜目が利く俺には、コテツの視線が冷ややかに見えるが気のせいだろう。

 「カザマ、起きたっすか?」

 「おはよう……やっぱり、ビアンカだったのか……俺が眠っている間に暗幕が掛かっているが、誰がやったんだ?」

 「もしかして、これっすか?」

 ビアンカが暗幕を開けこちらを覗き込み、俺は驚きつつも頷く。

 「アリーシャが言い始めて、アタシ以外のみんなが賛成してたっすよ」

 ビアンカは首を傾げるが、この暗幕の意味が分からないのだろう。

 俺は、みんなが自分を信じてくれていない事に憤りを抱く。

 「カザマ、さっきから全然外が明るくならないっすよ」

 「あっ!? そ、そうだな……ビアンカ、北の方に行くと……冬は太陽が昇ってる時間が短くて、夏は逆に太陽が昇ってる時間が長くなるんだ。もっと北に行くと、冬は太陽が昇らなくなったり、夏は夜がなくなったりするんだ」

 ビアンカは俺の言葉を聞いて、余程驚いたのか目を丸め動かない――


 突然、外から銅鑼の音と兵士の叫び声が響いた。

 「敵襲! 敵襲だー!」

 俺はテントの出入り口から顔を出す。

 周りでは兵士たちが慌しく移動し、兵士の声や足音、鎧の音などが響く。

 「おい、みんな、起きろ! 俺たちも出るぞ!」

 俺が再びテントの中に顔を戻し、声を上げると。

 「おい、お前、少しは落ち着け。みんな既に起きているぞ。お前が如何わしい事をしないか、暗幕の向こうで警戒されていたんだ。そんな事も気づかなかったのか?」

 リヴァイの言葉を聞くと、俺はみるみるやる気がなくなった。

 まさか、ここまで信用されていないとは思わなかったのだ。

 アフロディーテさまとの一件が、ここまで尾を引くとは想定外である。

 「カザマ、早く準備をして下さい。私たちはいつでも出れますよ」

 アリーシャが暗幕を開け、アウラと共に顔を出す。

 刀は既に背負っているので僅かばかりの装備を纏い、みんなと共に戦場に移動する――。

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