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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二十一章 エーゲ海での戦闘(前編)
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2.出航

 ――ベネチアーノの港。

 俺たちは港で合流して船に乗り込んだ。

 そして俺は、みんなをブリーフィングルームに集めた。

 「今回の作戦の概要を説明する。本艦はこれよりアドリア海を南下し、ペロポネソス半島の南側を通過後、アテネリシア王国南東部にあるクレタン島に向かう。この島はエーゲ海南部にある島々でも一番大きく、本土からも離れているため、本艦を隠すのには打って付けの場所と言っていいだろう」

 みんなが緊張のせいか顔を引き攣らせている中で、アウラが恐る恐る口を開く。

 「あのー、カザマ……ちょっと、質問していいかしら?」

 「ああ、何だね、主砲を担当するアウラ君」

 「さっきからしゃべり方が可笑しいのだけど……それに本艦って、何かしら? 今、私の事も主砲? とか言ったし……」

 俺の話が難しかったのか、アウラが俺に首を傾げながら訊ねて来た。

 だが、クルーのみんなも始めは分からなかったので、予想は出来ている。

 「ああ、アウラ君が分からないのも仕方ないだろう。私の国は海洋国家だから、専門的な知識や技術が進んでいるのだ。航海の最中に色々と説明しよう。それから、今は私たちだけだから構わないが、部屋から出たら他のクルーの目もある。私の事は大佐と呼ぶ様に! それにアウラ君は、強力な魔法を使えることから、本艦にとって貴重な火力と成り得る。よって、主砲という重大な役職を任せることにした」

 アウラは、俺の話がこの世界では斬新で頭が回らないのか。

 碧い瞳を見開き瞬きもしないで、俺の顔を見つめている。

 そこへエリカが整った相貌を顰め、口を開いた。

 「ち、ちょっと、マー君!」

 「!? エ、エリカ君は、私に続いて知識があるから、色々と期待している。それでは、到着後の詳しい作戦を説明しておこう」

 俺は、何か言い掛けたエリカの肩に手を載せる。

 そして羨ましくて代わって欲しそうなエリカを黙らせ、話を続けた。

 「まず、私がアーラで出撃してメドゥーサの討伐に向かう。同行はアレスとアウラ君にお願いしたい。今回は本艦を停泊させ、アーラとルーナという空からの移動手段を用いる事とする。エリカ君はコテツとビアンカに同乗してもらい、ルーナでゲーリュオンとオルトロスの討伐をお願いしたい。私よりも倒す相手は多いが健闘を祈る。本艦の留守はリヴァイとアリーシャに任せる。相手の所在については、リヴァイにお願いしてアナスタシアさんに探索をお願いしたいが無理はさせないで欲しい。ちなみに私の相手のメドゥーサは、メボシがついているから任せて欲しい。質問がなければ解散とする」

 俺は完璧にブリーフィングをこなし、みんなは微動だにしなかった――


 ――艦橋ブリッジ

 ブリッジに戻った俺はクルーの様子を見ながら、艦長と話をしている。

 「大分、クルーも慣れたみたいだね」

 「はい……た、大佐のご指導のお陰かと……」

 俺はクルーの様子を見ながら満足していたが。

 突然みんながブリッジに入ってきた。

 「君たち、本艦は出航前だ! 見学は停まっている時にしてもらいたい! それにブリッジは、関係者以外立ち入り禁止だぞ!」

 俺は浮かれている仲間たちを厳しく嗜める。

 「カザマ、帰ったら、ヘーベさんと一緒にお話があります」

 俺の顔を厳しく見つめるアリーシャに耐えられなくなった俺は、

 「ま、まあ……主砲を担当するアウラ君もいるし、補助エンジンを担当予定のリヴァイもいるし、みんなにも色々と協力してもらう予定だから……見学くらいなら構わないが、クルーの邪魔にならない様にお願いします」

 幾分弱腰になり、みんなのブリッジでの見学を許可した。

 これから出航するが、俺の格好良い姿を見せる機会にもなる。

 アレスが以前男らしく格好つける分には問題ないと言っていたし、これくらいなら構わないだろう。

 「艦長、本艦はこれよりエーゲ海南部のクレタン島に向けて出航する。合図を頼む」

 「アイサー! 出航用意」

 「「「アイ」」」

 俺の指示を受けた艦長が返事をして、格クルーに伝達される。

 クルーたちが一斉に返事をして、銅鑼が響いた。

 タラップが外され、次に係留していた舫いが外される。

 「抜錨」

 「アイサー! 抜錨」

 「「「アイ」」」

 先程と同じ様に俺の指示を聞いた艦長が返事をして、格クルーに伝達される。

 クルーたちが一斉に返事をして同様に銅鑼が鳴る。

 ちなみに銅鑼は、以前モールス信号が普及していることが分かったので、鳴らし方にも意味があることが分かり、更に連絡用に分類させた。

 俺の格好良い姿を見て、みんな呆然としている。

 好奇心旺盛のアウラやビアンカは興奮しているに違いないと胸が高鳴った。

 「面舵三十度、両舷前進微速」

 「アイサー。面舵三十度、両舷前進微速」

 「「「アイ」」」

 ブリッジでは俺の指示の後、艦長がクルーたちに指示を出し復唱されている。

 外では銅鑼が鳴り、係留されていた新型の戦艦が、初めての航海に向けて出航を始めた。

 港では、大型戦艦の出航する様子を見ようと見物人が大勢詰め掛けている。

 なかには、いつも利用している宿の店員や調理場の人たちや酒場で知り合った人たちもいた……。

 (帽子があれば脱帽とかしても良かったかもしれないが、今回は我慢してもらおう……)

 「両舷前進三分の一!? 艦長、艦の名前を決めてなかったが……」

 俺は順調に出航している様子に安堵する。

 しかし、いよいよ港から外海に出ようとした時、船名がないことに気づいた。

 「た、大佐……『モミジ丸』です」

 俺の疑問に対して艦長が答えてくれたが、

 「はあーっ!? な、何だ、その名前は! 誰が付けたんだ?」

 あまりに酷い船名に思わず叫んでしまった。

 「モミジ君……いえ、大佐殿でしたか? この船に、国旗の他にモミジマークの旗が揚がっているのを見ませんでしたか? さっきまであまりに可笑しなことを言っているから、言葉が出なかったけど……オタクを通り越して中二病よ! しっかりしなさいよ! もう……」

 「エリカ、どうしたのです? 先程からカザマが奇妙な事を口走っていましたが、何か関係があるのですか?」

 「アリーシャ……マー君は、私たちの国で思春期の夢見がちな子供が、現実と非現実を理解出来なくなるという……病気に罹ってしまったみたいなの。たくさんの人たちに迷惑を掛けたみたいで、どうしたら良いのよ……もう!」

 「はあっ!? エリカ、お前は何を言っているんだ! 俺は折角新しい設計思想の船を王さまが作ってくれたから……この船を戦艦として、クルーたちにも新しい知識を教えたんだ」

 俺はエリカに文句を付けられ、エリカが反論出来ない様に論理的に言い返したが、 アリーシャに遮られる。

 「カザマ、黙りなさい!! 船長さん、ごめんなさい! ちょっとカザマと話をするので、後はお任せして良いですか? それから、カザマが可笑しな事を教えたみたいですが、今まで通りにしてくれれば良いですから」

 出会ってから、初めてアリーシャが大声で怒鳴る姿を見たが、俺に対してだった。

 俺はショックのあまり呆然とする。

 「は、はい……出航の最中なので私が指示を出しますが、以前から可笑しな名前を出されたりして……色々と戸惑っていました。――ただ、これまでにない知識を教わったのも事実なので、使い分けに苦労しそうですが……これから検討することにしましょう」

 艦長はアリーシャに苦笑を浮かべ返事をすると、船員たちに指示を出した――。


 俺はみんなにブリーフィングルームに連れられ、正座をさせられている。

 「……マー君、船をもらって嬉しかったのは分かるけど、そもそもリヴァイが王さまに頼んだと聞いてるわ。リヴァイがお願いして作ってもらった物を、後からしゃしゃり出て、自分のおもちゃの様に好き勝手して……もう! マー君が大好きなアニメや漫画じゃないのよ!」

 エリカが柳眉を寄せ、真っ先に俺を中傷してきたが。

 「!? そ、そうはいうが、折角高価なものを作ってもらったんだ。それに、モ、モミジ丸は普通の帆船じゃないんだぞ! エンジンとして……魔力を蓄えたエネルギーを使い、滑車を使った機械で水車を回すと聞いて……俺は気づいたんだよ。――今回は俺が設計して、機械の大幅な金属化と接続部のグリスアップ、それに水車に代わるスクリュープロペラの開発をした。だが、何れこの世界にも蒸気機関が開発されて、江戸時代の『クロフネ』の様なものが出来るだろうと……そんな物が他所の国に作られたら、俺たちの国の過去の二の舞だぞ」

 俺は過去の歴史を語ることにより、自分の正当性をエリカに認めさせた。

 「うううううううう……マー君のくせに、モミジ君と呼ばれていたくせに、どうしてこの世界に来てから、私に逆らう様になったのかしら……」

 エリカは返す言葉がなかったのか、呻き声を上げた後に負け惜しみを言った。

 「カザマもエリカも何を言っているの? ジョウキキカン? クロフネ? 俺たちの国の過去? 不思議なことばかり言っているわ……」

 「アウラは知らないかもしれないが、クロフネを見たら好奇心旺盛なお前のことだから、『リョウマ』さんの様に驚くだろうな」

 「マ、マー君。幾らアウラが知らないからって、あまり勝手が過ぎると思うわ。それに、リョウマさんとか馴れ馴れしいと思うけど……」

 「エリカ……さっき俺に理屈で言い負かされたからと言って、今度は感情論か? さっきは、俺のことを中二病とか言って馬鹿にしてくれたが、いい加減に」

 「いい加減にするのはカザマの方です!! 私が先程言ったことが分からないのですか? 私は黙れと言いました! カザマが優れた頭脳を持ち、私たちが知らない知識を持っていることは分かりました。ですが、先程から船員の方々やアウラ、特にエリカに対する暴言は見過ごせません! カザマは私たちの国に来て、文字が読めないことをエドナに馬鹿にされて、どの様に思いましたか? 私はその時のカザマの様子を覚えていますよ! カザマは冒険者として成功を収めて、そんな気持ちは忘れてしまいましたか?」

 またもアリーシャが、大爆発したかの様に怒鳴った。

 火山の噴火や大地震の様に、一度起こると止まらない様な勢いである。

 俺は再び立ち上がっていた姿勢を戻して正座すると、アリーシャに叱られた。

 「……良いですか? 私は何も、カザマの発明や知識を広めることを否定している訳ではありません。独り善がりで、他の人たちを気に掛けない言動を謹んで欲しいだけなのです。カザマは思いやりがあって、人の心の痛みが分かる人ですから大丈夫ですよね……」

 アリーシャは散々怖い顔で怒っていたが、最後には微笑を湛え俺の顔を見つめる。

 俺はそんなアリーシャを見つめ、良い感じになっていたが。

 「乳繰り合うのは止めるっすよ! そういうのは二人きりの時にして欲しいっす。それに、カザマが悪者みたいに言われているけど、アタシには何が悪いか分からないっす。そもそも、何を言っているか分からないっすから……でも本当にカザマが悪いなら、アレスがいつも通りお仕置きをした筈っすよ」

 ビアンカは、これまで俺たちの話に無関心にしていた。

 しかし、誰もが流れに流される様な場面を覆す様に、堂々と言い放つ。

 相変わらず言葉の意味は間違えているが……。

 アレスは本当に困っているのか、頭を掻きながらビアンカに返事をする。

 「うーん……ビアンカには参ったな。僕は攻めるのは好きだけど、攻められるのは苦手なんだよね……。カザマの言ってることは、僕たちでも判断出来ないんだよ。カザマのことを念入りに調べたヘーベは別としてね……。コテツやリヴァイの方が、良く知ってるかもしれない。それに僕がカザマに罰を与えるのは、特に気になる相手でもないのに格好付けたり、神々を冒涜した時や僕の気分とか……色々と規格外のことが多くて、最近は調整中なんだよね」

 結局、俺の中の産業革命は、モミジ丸の中だけに留められた。

 散々アリーシャの叱られたこともあり……新しい発明をするのは、取り敢えず見合わせる事にする。

 ただ、モミジ丸で教えた事の中で、指示を受けての復唱確認や声出し、モールス信号を応用した銅鑼の使い方などは、そのまま使われることになった。

 アリーシャは、今回の件で船長を初めとする船員に、俺よりも敬意を持って扱われる様になる。

 それから、みんなの間では相変わらず遠慮していたが……俺を制御出来る者として、立場を築こうとしていた――。

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