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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二十章 イベント
122/488

7.クリスマス

 ――異世界生活六ヶ月と四日目。

 グラッドが帰還し、翌日カトレアさんに会いに行って三日が過ぎた。

 その後、グラッドは落ち着きがない。

 カトレアさんにグラッドの事を聞いても、歯切れの悪い返事しか返ってこない。

 しかし、大きな進展があった訳でもなそうなので、俺は広い心で友人たちを見守ろうと思った。

 俺はエリカと交代してもらい、再びモーガン先生の家で下宿生活を送っている。

 モーガン先生には女神さまの会談に呼ばれ、大魔導師になったことを報告したが、その事は既に知っている様であった。

 先生はいつもの様に羨ましがっていたが、神さまたちの会談に呼ばれたことか、女神さまたちと話せた事を羨ましく思っているのかは謎である。

 先生は俺が大魔導師になった事を、当分秘密にする様にと言った。

 魔導師を目指しているカトレアさんが弟弟子の俺に先を越され、落ち込んでしまうのを心配しての事だろう。

 今は朝食を済ませ、アーラに乗ってベネチアーノまで来ている。

 通常馬車で二日掛かる距離だが、アーラに乗り数時間で通える様になった。

 但し、十二月下旬になり上空の気温は、高度を上げ過ぎるとニンジャ服の加護がなければ凍結してしまう程寒くなっている――。


 「艦長、練度の方はどうなっている?」

 「はい、カザマ!? い、いえ、大佐……もうしばらく掛かると思います」

 「うーん……年明けの三日は休みにするが、早ければ四日に出港したい。頼むぞ、艦長」

 「あ、あのー……以前も申し上げましたが、私は艦長ではなく船長なのですが……それに、大佐とはどういう意味でしょうか? あなたの名前はカザマでしたよね?」

 俺は最近完成した船に乗船して、クルーたちの教育と連度を上げるために毎日指導をしている。

 艦長は聞いたことがない言葉に違和感を覚えている様だが、連度が上がれば時期に慣れるだろう。

 コテツは用心のために村に残してきたが、海に精通しているリヴァイと世情に詳しいアレスは同行してもらっている。

 リヴァイとアレスは、俺の様子を見ても何も言えずにいる。

 俺の世界の常識に、流石のふたりもすぐには理解出来ないだろうと分かっていた。

 それでも移動に時間が掛かり、細かい教育は出来ないのでほとんど艦長に任せて報告を聞くだけである。

 俺は今日の報告と簡単な指導を終えると、夕食の準備のために岐路に着いた――


 ――オルコット村。

 この周辺の国々では、宗教といえば自分の国の神さまを崇めることで、俺の世界の様な世界規模に広がっている宗教は存在しないらしい。

 今日は十二月二十四日だが、街でも村でも普通に生活している。

 俺は一度下宿先に戻ってから、ビアンカを連れてパーティー用の買い出しに来ていた。

 アリーシャは、アウラにお願いしてエルフの集落に行っているので、夕方まで帰ってこない。

 以前からアウラの集落に関心を示していたので、喜んで遊びに出掛けて行った。

 ただ最近、何故かカトレアさんだけでなく、エリカとアウラも俺に対する態度が余所余所しいのが気になっている。

 それでも今日は、アリーシャのサプライズ誕生日パーティーを成功させようとビアンカと一緒に張り切っていた。

 村で買い物を済ませてから、俺は料理の準備を始めて、ビアンカはエリカに教わりながら部屋の飾りつけを始める。

 ビアンカがこういうパーティーをしたことがないと言ったので、今後はみんなの誕生日にもパーティーをしようと提案したら、今日はずっと尻尾を左右に揺らしていた。

 友達の誕生日を祝うのも楽しいが、自分の誕生日を祝ってもらうのも嬉しい筈。

 日本にいた時は、考えもしなかったことを思いつつ準備を進める。


 ――夕方。

 モーガン先生が帰ってきて、しばらくするとアリーシャとアウラが帰ってきた。

 「アリーシャ、誕生日おめでとう!」

 「「「誕生日おめでとう」」」

 「お、おめでとうっす!」

 「アリーシャ、おめでとう」

 俺がアリーシャに声を掛けると、カトレアさんとエリカとアウラが同時に声を掛けて、遅れてビアンカが恥かしそうに声を掛ける。

 最後にモーガン先生もお祝いの言葉を掛けた。

 ちなみに、コテツとリヴァイとアレスもいるが、リヴァイだけ何か言いたかったのか、そわそわしている。

 アリーシャは左右の手を口に当て、水色の瞳を見開き固まっていたが、

 「えっ!? ……あ、ありがとうございます」

 頬を赤く染め、花が開く様な笑みを浮かべ感謝の言葉を口にした。

 今回の料理は俺が担当したが、ケーキだけはカトレアさんが用意すると言ったので、テーブルの上には、結婚式で見る様な立派なケーキが中央にある。

 俺はみんなを席に着かせ、この日のために用意した誕生日用の十四本の小さなロウソクに火をつけた。

 「アリーシャ、これから俺とエリカが、誕生日の歌を歌うから歌が終わったら、ロウソクの火を吹き消してくれよ」

 アリーシャは微笑を湛えたまま、首を傾げる。

 「えっ!? 良く分かりませんが、分かりました」

 俺はエリカに目で合図をすると、

 「ハッピーバースデー トゥー ユー――」

 俺とエリカは、事前に打ち合わせた訳でもないが、ハモリを入れながら歌い出す。

 みんなは聞いた事がない言葉で歌う俺たちに驚いていたのか、呆然と聞いている。

 本来はみんなで歌いお祝いするのだが、歌が終わった後。

 俺とエリカが手を差し出すと、アリーシャは慌ててロウソクの火を吹き消した。

 『アリーシャ、おめでとう』

 「ありがとうございます……でも、聞いたことがない言葉と、初めて聞く歌でしたが、カザマの国の歌ですか? エリカと普段あまり話していないのに、凄く息が合っていました。とても嬉しいです。エリカもみなさんもありがとうございます」

 エリカはアリーシャの疑問に答える様に解説をし始めるが、

 「この歌は、私たちの国でも定着しているけど、元々は他所の国の歌よ。私の誕生日の時もマー君が歌ってくれたけど、二人で一緒に歌ったのは初めてかしら。お互いに独りっ子だし、マー君がこんなに歌が上手いのも初めて知ったわ。私の時は本気で歌っていなかったのかしら」

 途中から俺の悪口へと変わりつつあったので、イラッとした。

 俺は顔を引き攣らせつつも、別の話題に切り替える。

 「……そ、そうだ! ロウソクを立てる風習だが、元々はこの国の神さまではなくて、アルテミスさまが由来らしい。丸いケーキにロウソクで明かりを灯すのは、月を見立ててらしいぞ……同盟国だし、お祝い事だから他の国の神さまの加護を頂いても構わないよな?」

 「ありがとうございます。ロウソクにそんな意味があったのですね。カザマは本当に博識で驚かされます」

 アリーシャは祝福され喜びつつも、自分の知らないことに興味を示した。

 俺はエリカの言葉を忘れ、頬を緩ませる。

 「うん、彼は近隣の神々の会談で賢者に推薦されるくらいだからね。アルテミスの加護をというのは言い過ぎかもしれないけど、悪くないお祝いだと思うよ」

 アレスは、アリーシャの誕生日ということもあり、アルテミスさまの話題が本当だと教えたかったのかもしれない。

 だが、そんな穏やかな会話にカトレアさんが声を上げた。

 「ア、アレス! 今、何って言ったか、もう一度教えてくれないかしら」

 「ねえ、急にどうしたのかな? カザマはグラッドに抜かれたとはいえ……『英雄の卵』の冒険者だったのだから、神々の関心を受けても不思議ではないと思うけどね。それに賢者の件は保留にされて……結局は『大魔導師』という扱いになったしね。英雄の件も限定的な範囲で称えられて、卵の扱いだったけど……。ドラゴンや自分よりも圧倒的に強い相手と多く戦い、女神たちを怒らせる発言をした勇気が認められ『勇者』となったんだよ。でも、二つ目の理由は問題があるので伏せられているよ。それ以外は、正式に発表された筈だけど」

 俺はアレスの話を聞いて、グッと奥歯を噛み不器用な笑みを浮かべる。

 (みんなの前で余計なことを……)

 みんな驚いているが、カトレアさんは両手で頭を抱えて震えている。

 「はあっ!? な、な、何ですって! 賢者? 英雄? 勇者? 私はまだ魔術師のままなんですけど……」

 アレスの返事を聞いたカトレアさんは、取り乱して騒ぎ出してしまう。

 以前、モーガン先生に口止めされた理由がはっきりする。

 「落ち着け! お前は日頃の功績があるから、国王とワシが魔導師に推薦している最中だ。本当はお前が魔導師になった後で知らせるつもりだったが、少し順番が逆になっただけだ。――それに、カザマより先にアウラを大魔導師にと……何度も話が来ているのだぞ」

 カトレアさんはモーガン先生に叱られると、落ち着いたのか顔を赤くして俯いた。

 良くも悪くも熱し易く冷め易い、ヘーベの加護をいっぱい受けた人である。

 それにしても、アウラにそんな話がきていたとは考えてもいなかったが。

 あれだけの大魔法を行使出来るアウラだから当然といえるだろう。

 話が来ているだけで受けていない様だが、恥かしがり屋な性格ということ以外。

 集落のことも秘密にしているし、存在を隠したいのであろう。

 目立ちたがり屋な性格という矛盾した一面があるのだが……。

 この場で突っ込むのは止めておくことにする。

 アリーシャの誕生日パーティーは、開始直後にカトレアさんが取り乱したが無事に終了した――。


 今日は俺が教会に帰ることになっている。

 エリカは女子会を開き、アリーシャの誕生日会の二次会を行うと言っていた。

 俺は、エリカとアウラにカトレアさんを屋敷に送るか、遅くなるならそのまま泊まってもらう様にと、念を押す。

 そして、先に部屋に戻ってしまったみんなのために、後片付けをしていると。

 「カザマ、私も手伝いますよ」

 「あっ!? アリーシャ、今日は主役なんだから片付けはいいぞ……大体アリーシャは、もっと人に甘えてもいいと思う。みんなはもっと気を使った方がいいかもしれないけどな」

 アリーシャが来てくれたが、俺がいる時はいつも一緒に片付けをしているので、落ち着かなかったのかもしれない。

 「あっ!? ちょっとだけいいか……」

 「どうしたんですか? 急に……」

 俺は朝からタイミングを計っていたが、なかなか二人になれなかった事と恥かしさもあり、諦め掛けていたが思い切ってアリーシャを家の外に誘った。

 アリーシャは俺がわざわざ外に誘った訳も聞かず、

 「……外はすっかり寒くなりましたが、風があるせいでしょうか……星空が綺麗です」

 夜空の話題をし始める。

 俺は頬を掻きながら返事をした。

 「そ、そうだな……」

 何となく俺が何かするのを分かって、気を使っているのだろうか。

 俺は恋愛経験だけでなく告白経験もないが、いつも身近にいるアリーシャへ、プレゼントを贈ることに緊張していた。

 以前、王都で購入したブルーサファイアの指輪を取り出す。

 「……じ、実は誕生日プレゼントを用意していたんだ……前に、俺の誕生日を祝ってもらったし、日頃アリーシャに世話になっているお礼や感謝の気持ちもあるけど……俺はアリーシャに受け取って欲しいと思った!」

 ちょっと格好付けているからだろうか。

 それなら、アレスからお仕置きをされている筈だ。

 そうではなく、今まで妹だと思っていた相手が、知らず知らずに大きな存在になっていたからである。

 告白という訳ではないが、自分の気持ちをプレゼントという形にして届けたいと思ったのだ。 

 アリーシャの水色の双眸が見開き、声が漏れる。

 「……えっ!? わ、私にですか……本当に……」

 アリーシャの眼差しが、自身の瞳より濃い青の指輪に釘付けになった。

 俺は緊張のあまり呼吸が出来ずに早口になり、口数が多くなる。

 「ああ、いきなりで驚いたかもしれないし、嫌なら嵌める必要もないから……俺が一方的に……」

 「わ、分かりましたから! カザマ、少し落ち着いて下さい……私もこういうことは初めてで、驚いていますし、恥かしいです……でも、嬉しいです」

 「あ、ありがとう!」

 「カザマ、プレゼントされたのは、私ですが……」

 俺とアリーシャはお互いに緊張していたが、年上の俺の方が間違いなく動揺していただろう。

 アリーシャは小さく笑い声を上げ微笑を湛え、水色の双眸を潤ませ俺を見つめた。

 頬が僅かに引き攣って見えたので、アリーシャも緊張しているのが分かる。

 決して寒いからではないだろう。

 寧ろ胸の辺りは、焼ける様に熱くなっている。

 アリーシャは、静かに左手を俺に差し出した。

 俺は自分の左手でアリーシャの左手を添えて、右手に持っている指輪をゆっくりアリーシャの薬指に嵌める。

 互いに瞳が重なるが、限界に達した。

 「!? カザマ……鼻血が出てますよ」

 「えっ!? ……!? あ、あれっ!? ご、ごめん……こんな時に……」

 俺は極度の緊張に身体が耐えられなかったのか、こんな時に鼻血を出してしまい。

 折角、盛り上がった雰囲気を台無しにしてしまう。

 慌てて鼻血を拭きアリーシャに謝ったが、

 「うふふふふ……大丈夫です。恥かしがり屋のカザマが、こんなに頑張ってくれたんです。気持ちは十分に伝わりましたよ。ありがとう……」

 アリーシャは先程よりも余裕のある笑みを浮かべると。

 お礼の言葉の後に、俺の唇に僅かに触れる程度の口付けをした。

 「カザマも少し背が伸びましたが、私はもっと背が伸びたのですよ」

 「……お、おう。いつも一緒にいるから、何となく成長しているのは知っていたが……今ので良く分かった。ところで、肝心なところで悪いが色々と身体があれだから……片付けの途中で悪いが、教会に行ってもいいだろうか」

 「うふふふふ……はい、分かっています。もうプレゼントは受け取りましたし、気持ちも受け取りましたから」

 アリーシャは、俺より遥かに余裕のある口調をしている。

 しかし、俺と同じくらい顔を真っ赤にしていた。

 いつも俺に気を遣ってくれるアリーシャだから、俺のために頑張っているのだろう。

 俺は自分でもどうしようもないヘタレだと分かっていたが。

 アリーシャへのお返しとばかりに、軽く頬に口付けをすると厩舎の方へ走っていく――


 ――ヘーベルタニアの教会。

 俺は街で作ってもらった大きな厩舎にアーラを預け教会に入った。

 村から街までは僅かで到着するが、先程までの緊張が嘘の様に抜けている。

 これが所謂、脱力感であろう。

 礼拝堂に入ると、ヘーベがひとり祭壇の前に立っていた。

 「お帰りなさい……きっと私に、会いに来てくれると思っていましたよ」

 ヘーベは俺を真剣な眼差しで見つめ……その言葉にも驚き緊張しつつ、

 「えっ!? いつもとセリフが違いますし、大袈裟ですよ」

 俺はヘーベの近くまで移動し膝を着こうとした。

 「待って下さい……今日は……」

 ヘーベは俺が膝を着こうとするのを遮ると、真っ直ぐこちらに歩み寄る。

 俺はいつもと様子の違うヘーベを戸惑いつつも見つめていた。

 だが、俺の目の前で足を止めたヘーベは俺の肩に手を回す。

 そして驚き身動き出来ない俺に、ヘーベは目を閉じる……。

 「えっ!? ……」

 以前とは違う、明らかに故意の口付けをしてきた。

 アリーシャの時は僅かに触れる程度であったが、ヘーベはそれとは違った熱い口付けをしている。

 唇に柔らかな感触と口の中には熱い息吹が注ぎ込まれた。

 舌には情熱的な刺激を感じて、まさに青春の女神さまらしい口付けである。

 俺は咄嗟のことで、思考が止まったかの様に受け入れてしまう――


 ヘーベが静かに離れると、閉じていた目を見開き、互いの瞳が重なった。

 ヘーベは先程あれだけ大胆なことをしたのに、急に美しい相貌を赤く染める。

 「あ、あのー……これって……!?」

 俺は戸惑ってヘーベに訊ねようとしたが、何をどの様に口にしたら良いのか分からない。

 ヘーベは静かに人差し指を差し出して、俺の唇に指を当てた。

 (今は何も聞くなということだろうか……明日になれば、ヘーベから話してくれるのだろうか……)

 俺は静かに頭を下げると、自分の部屋に戻った――


 ――自室。

 俺はベッドの上で天井を見ながら、呆然としている。

 自室のベッドの上で考え事をすることは良くあるが、今日は異世界召還されたことか、それ以上の出来事が一日で二度もあった。

 心の整理が出来ないのは、決して可笑しなことではないであろう。

 「コテツ、リヴァイ、アレス……アリーシャへは自分の意思で気持ちを伝えて、緊張し過ぎてしまいました。――だけど、ヘーベに対しては、どの様に受け取ればいいのでしょう……」

 俺はいつも規格外の人知を超えた存在たちを頼っている。

 しかし、今回はいつにも増して、本当にどうしたら良いのか分からない。

 「おい、お前、アリーシャに対してはヘタレだと思ったが……今までのお前を考えると、お前なりに頑張ったと評価してやる。――だが、さっきのは気を抜き過ぎだ。お前は遮ることが出来たのにしなかった。これで、今後の選択肢が……取り合えず、アリーシャを泣かしたら殺すぞ」

 リヴァイはいつも通り口は悪いが、俺のことを珍しく少しだけ評価してくれた。

 だが、肝心なことは答えてくれず、アリーシャの心配をしたのか俺の事を脅す……。

 (一応、リヴァイを召還したのは俺なのだが、アリーシャを守ってくれていることは、確かなので構わないが……)

 「うむ、いつも同じようなことを言っているが、基本的にリヴァイと変わりない。相変わらず節操がない感じになってしまったが……以前に比べると選択肢が狭まったと言っておく……」

 コテツは基本的にリヴァイと同じ考えが多いが、違った視点から意見を付け足してくれる。

 今回は選択肢が狭まったと助言してくれたが。

 コテツが珍しく口篭っていたので、コテツとしても予想外だったのかもしれない。

 「ねえ、君、僕はふたりと違ってヘーベ寄りの立場なので、僕が意見するとヘーベ寄りになってしまうけど……ヘーベは神の座を降りても、君を選ぶつもりだと思うよ」

 俺はベッドから慌てて身体を起こして、アレスと向き合った。

 「はっ!? ち、ちょっと、何言ってるんですか? 幾ら何でも突拍子過ぎるでしょう? そんなことを言われたら……」

 アレスは俺を安心させたいのか、疑問を与えたいのか分からない返事をする。

 「別に君を追い詰めるつもりはないよ。もし、そうであれば、リヴァイが黙っていないだろうし……。それに、ふたりは最後まで口にしなかったけど、他にも方法はあるから……取り敢えず以前に比べると、選ぶ事の出来ない君の煩わしさが減ったのかもしれないね」

 俺は相変わらず屈託のない笑顔を見せるアレスを見つめた。

 しかし、考えてもすぐに結論は出ないだろうと横になる―――。

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