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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二十章 イベント
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4.同盟国の女神たち

 みんなが村に帰って行った。

 教会に残った俺は再びヘーベに呼ばれ、礼拝堂に来ている。

 「良いですか。これからはいつもと違いますから、余計なことを言わずに大人しくしていて下さいね。最近のあなたは大胆な行動が目立ちます……嬉しいですが、困る事もあるのですよ」

 「はい、分かりました……でも、立場上困るのは分かりますが……どうして嬉しいのですか?」

 俺は間違ったことは聞いてない筈だが、

 「そ、それは……」

 何故かヘーベは顔を赤くして、上目遣いで俺を見つめモジモジしている。

 「ねえ、モミジ君、女神相手に無粋なのは大目に見て上げているけど……あまり不遜な態度を取っていると罰を当てるよ」

 「ご、ごめんなさい……」

 俺は珍しく厳しい口調で話したアレスに理由も分からず謝った。

 コテツとリヴァイも同席しているが、アレスに同意しているかの様に頷いている――。


 「相変わらず人間の身でありながら、神を畏れないのですね。カ!? モ、モミジ君……」

 「ああ……君がヘーベーのお気に入りの……モ、モミジ君かい? ぷふふふふ……」

 「あなたが……モ、モミジ君ですか……ぷふふふふ……」

 「ああああああああああ――っ!? い、いきなりヒドイじゃないですか! 初めに声がしましたが、アルテミスさまですよね? 姿は見えませんが、声やしゃべり方は覚えていますよ。最後は黙っていましたが、他の人たちみたいに微妙に笑ってましたよね?」

 俺はいきなり三にんにモミジ君と言われた上、鼻で笑われたのを怒って抗議した。

 「皆さん、カザマが相手とはいえ、少しは立場を考えて下さい。ヘスティアは分かりますが……アルテミスとアフロディーテは、そういう悪戯っぽいことはしたことないですよね?」

 「へっ!? ヘーベ、今、何て言いました? ア、アフロディーテさまがいるのですか? お、俺に、ぜひ自己紹介させて下さい!」

 「今、何と言いましたか? 先程大人しくする様に言いましたよね。この口ですか? この口が言いましたか? 大体会ったことがないのに、どうしてアフロディーテにだけ興味を示すのですか?」

 ヘーベは、俺がアフロディーテ様を紹介して欲しいと言ったのが、余程気に入らなかったのか、またも俺の頬を引っ張り怒っている。

 「ヒィイイイイイイ――っ!? ろうひて、そ、そんなひ、怒って……」

 「ヘーベー、少し冗談が過ぎました。落ち着いて頂戴……そこのあなたは、カザマと言ったわよね。ヘーベーの従者を辞めて、私の従者にしてあげてもいいわよ」

 アフロディーテさまが、ヘーベを止めてくれようと声を掛けてくれた。

 しかもカトレアさんの様に、セクシーな口調で俺を誘惑している様に感じられる。

 俺は頬を引っ張られたまま、思わず鼻の下を伸ばしてしまったかもしれない。

 ヘーベは俺の顔を見ると、益々剥きになったのか頬を強く引っ張った。

 「ふたりとも、そのくらいにしておかないと……カザマが可笑しくなっているよ」

 「!? わ、分かったわ。ヘスティア……」

 俺はやっとヘーベから頬を離されて、力なく床に手を着き呆然とする。

 (神話世界の神さまたち……しかも、どういう訳か女神さまたちが、俺に話し掛けている……)

 俺が呆然としても仕方ないであろう。

 姿まで見えていたら、昏倒していたかもしれない――

 

 ヘーベが興奮しているので、アレスが見兼ねた様に説明を始める。

 「……カザマ、今、君に話し掛けてくれた神々は、周辺の国を庇護している神たちだよ。それぞれの国は庇護している神の恩恵で特徴が出ている。――北のスイスティア公国では、寒い土地でも家の中が暖かくなる様に……『炉と竈の女神ヘスティア』が加護を与えている。――北東のオーストディーテ王国では……『美と愛と性の女神アフロディーテ』が加護を与えて音楽が盛んだね。――東のロマリア王国では……『狩猟と貞潔の女神アルテミス』が加護を与えて、森の獣たちが過剰に狩り尽くされないように……それから真面目な性格なので、過剰に戦争を起こさないので国が安定しているかな。それで、これまではロマリア王国以外の三国が同盟関係にあったけど、前回カザマがヴラドを討ったことで同盟国が四国に増えたという訳だね。――そこで、今回の四国同盟の立役者のカザマが呼ばれたという訳だよ。状況は分かってくれたかい」

 ヘーベも流石に落ち着いてきたのか、興奮が収まると恥かしくなったのか、頬を赤く染めていた。

 「えーと……つまり、これまで中立を守っていたアルテミスさまが、ヘーベを助けてくれることになったのですか?」

 「少し違います。基本的には中立ですが、アテネリシア王国の力が増大しつつあるので、国の防衛のために力を合わせることになったのです」

 俺は左拳に顎を載せ、話を聞いていたが頷く。

 「あのー……幾つか質問しても良いでしょうか?」

 俺の言葉を聞いたヘーベが再び表情を険しくさせ、俺の頬を引っ張る。

 「あ、あなたは、私の言ったことが分からないのですか? 今も神々の前で、頭を下げず偉そうに頷いていましたね」

 「ヘーベー、落ち着きなさい。カザマ、構わないわ。今回の活躍の褒美に、あなたの疑問に答えてあげましょう。ヘスティアもアルテミスも構わないわね」

 アフロディーテさまは、ヘーベが俺を叱りつけているのを遮ると、寛大な言葉を掛けてくれた。

 俺が興味を示した事で、アフロディーテさまも関心を持ってくれたのかもしれない。

 「それでは僭越ですが……この四国同盟の神さまたちは、どうして女神さまたちが集まったのですか? もしかして、美少女や美女が限定の女神さまの同盟なのですか?」

 俺の疑問の難易度が高かったせいか、

 「「「はあーっ!?」」」

 三柱の女神さまは、女神にあるまじき素っ頓狂な声を上げた。

 俺の目の前でヘーベが顔を真っ赤にして身体を震わせ。

 俺の隣にいるアレスは、口に手を当てて身体を震わせている。

 「あのー……質問の仕方が唐突過ぎたかもしれませんが、先程問題に上がったアテネリシア王国の女神さまも……アテネさまという女神さまですよね? 俺の国では美しい女神さまだと知られています。もしかしたら、年齢制限とかで仲間に入れてもらえずに怒っているかと……」

 俺が説明している途中で、ヘーベはとうとう我慢出来なくなったのか、

 「だ、黙りなさい! この口ですか? 先程から、この口が神々に無礼な言動を! 私に恥をかかせているのは……」

 俺の頬を再び引っ張り、顔を近付けて怒鳴り出す。

 俺の隣ではアレスも我慢出来なくなったのか、声を出さずにお腹を押さえて笑っている。

 「ねえ、ヘーベ、少し我慢してくれないかい。確かに不遜な言動だけど、質問することをアフロディーテが許可した訳だし、彼は変わった感性を持っているから、最後まで話を聞いてみたいよ」

 アレスが必死に笑いを堪えながら、怒っているヘーベを諌めて、俺に話の続きをする様に促す。

 「だから、初めに僭越ですがと……前置きしたじゃないですか……では続きですが、戦いを純粋に好んだ嘗てのアレスさまも、アテナさまを警戒していたと聞きました。どうしてアテナさまは、これだけの同胞の神さまたちを相手にして、敵対する様な立場でいるのか? その理由が知りたいのです。理由によっては戦い方も変わりますし、若しくは戦う必要がないのでは……と思ったのです」

 俺は先程からヒステリックになっているヘーベを牽制しつつ、女神さまたちに質問の続きを話した。

 俺の話を最後まで聞いたヘーベは呆然としていたが、アレスは嬉しそうに微笑んでいる。

 「驚いたわ……この国にはモーガン殿という賢者がいた筈ですが……カザマも賢者にしても良いかもしれないわね……!? 賢者で英雄の卵となると、既に英雄と呼べる冒険者だけど、更に伸びしろがあるわ」

 「アフロディーテ、落ち着いてよ。彼はヘーベーの従者だよ。僕も興味が沸いたけど我慢するから……ヘーベーだけでなく、アレスが目を掛けている理由が分かったよ」

 アフロディーテさまに続き、ヘスティアさまが俺に対して好印象を持ってくれたようだ。

 俺は嬉しさと恥かしさで、赤くなっているだろう頬を掻いた。

 ヘーベは俺が褒められているのだから、誇らしく感じているのであろう。

 だが何故か、機嫌が悪そうに美しい相貌を顰めている……。

 「うん、みんなは答え難いだろうから、僕が答えることにするよ。――この世界は、君の世界と違って……!? 君の世界でもあるね。身分が高くなる程、自由な結婚が出来なくなるんだ。好きな相手と結婚したいと夢を見る女神がいても、君なら不自然ではないと思わないかい?」

 アレスが女神さまたちの空気を読んでか、俺に答えてくれた。

 しかし、俺はアレスの話を聞いて、更に疑問に思う。

 「事情は分かりました……ただ、不思議なのですが……他の女神さまも同情したり、同じ気持ちになったりしないのですか? 俺には、アテナさまだけの問題ではないと思うのですが……」

 「カザマ……女神の結婚相手に関しては、上位の女神の意見に左右されます。アテナはそれを良しとせず、自らが上位の女神になろうとしているのです」

 「それなら簡単じゃないですか。その上位の女神さまを、何とかすれば良いだけじゃないですか? 同胞同士で争うなら、みんなで協力した方が得策だと思います」

 「カザマ、あなたの世界でも人々や国々が争っていますよね。あなたの言う通り、みんなで協力し話し合いをして、争いはなくなっていますか? 分かってはいても、互いにそれぞれ事情を抱えていたり、無理だと諦めてしまったりと妥協してしまうのです」

 俺の疑問に対して、ヘーベが答える問答が二度続いたが。

 ヘーベの声が弱くなり、俯いてしまう。

 「確かにそうかもしれません……でも、諦めるのですか? いや、諦めるなよ! あなたは情熱の女神だろう! 諦めるなよ! 俺がきっとヘーベの助けになってみせる! 今はたいした力しかないかもしれないけど……きっと最高の冒険者になって、どんな障害をも打ち破ってみせる! だから、俺の女神さまは諦めないで下さい!」

 俺は立ち上がり、ヘーベに向かって吼えた。

 ヘーベを勇気付けるために……。

 俯いていたヘーベが顔を上げ、俺を見つめる青い双眸が輝く。

 俺はヘーベの表情を見て、頭を下げて額を床に着けた――


 しばらく無言が続いたのを見兼ねたのか、アレスが口を開く。

 「ねえ、君、何ていうか……他の女神たちが、声が出なくなるくらい熱いよね。流石は、ヘーベの従者と言ったところかな。僕は悪くないと思うけど」

 アレスの話を聞いた俺は、恥かしくて頭を上げることが出来なかった。

 きっと、ヘーベも俺と同じくらい顔を赤くしているに違いない。

 「僕は異存ないよ……流石に、僕が見込んで国を託しただけはあるね」

 「私も異存ないわ。ここまで熱い姿を見せられると、美と愛を司る私は支持せざるを得ないわ」

 「私は少々危ういと思いますが……誠実な気持ちは伝わりました。早急に大きな変化を示すことは出来ませんが、その気持ちを酌むことにします」

 日本にいた時は、あれ程目立たずに過ごしていたのに。

 異世界に召還されて、五ヶ月余りを過ごし。

 俺は女神さまたちの前で、大言壮語を仕出かしてしまった。

 女神さまたちは、俺のことを高く評価してくれて。

 益々不安になり、俺は顔を上げることが出来なかった。

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