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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二十章 イベント
117/488

2.合コン

 ――オルコット家の屋敷。

 俺とアリーシャはグリフォンのアーラに乗り、モーガン先生の家に向かった。

 そして、モーガン先生に挨拶してからカトレアさんの家に移動する。

 厩舎の人たちは驚いたが、準備にぬかりはない。

 アーラで来る事を事前に知らせていたのだ。

 俺たちが着いてから、しばらくしてレベッカさんが到着する。

 更に少し遅れて、グラッドが会場に案内されてきた。

 一番に教会を出た筈が、レベッカさんより遅い到着で訝しく思う。

 だが、グラッドはいつもの冒険者の身なりではなく、貴族の様に着飾っていた。

 「はあっ!? 何で、レベッカがここにいるんだ? カザマ、どういうことだ……」

 「グラッド、落ち着けって……お見合いでも家族が同席するだろう。――だが、今回は人数合わせでお願いしたんだ。合コンは男女の数を合わせるのが仕来りなんだ」

 俺の説明を聞いたグラッドは、合コンの意味が分からなかったのか。

 顔を顰め不機嫌そうであったが、取り合えず静かになる。

 俺は周りのみんなを見渡して、口を開く。

 「それでは、全員そろったところで、合コンを始めたいと思います。今回は主催者の俺が幹事になって、みんなが楽しく過ごせる様に進行させて頂きます。まずはお互いの自己紹介をするのが慣習ですが……貴族の皆さまばかりなので、俺が紹介させて頂きます」

 俺は紹介する相手に対して順に掌を差し向ける。

 「こちらはオルコット家当主代行で長男のエドワードさん、そして妹さんのカトレアさん。俺の姉弟子のアリーシャです」

 三人は貴族らしい礼をして紹介に答えてくれて、俺は頬を緩ませた。

 ちなみに、俺は合コンの幹事をしているが、参加をしたことはない。

 そのため進行の仕方がイマイチ分からず、実家でたまに行われていた懇親会で、父親が行っていたことを真似ていた。

 そして、今回の主役である兄妹の紹介となる。

 「こちらはギルド職員で俺のアドバイザーのレベッカさん、そして兄のグラッドです。グラッドは先週二十歳の誕生日を迎えた俺の友人で、国でも俺に次ぐ最高クラスの冒険者でカヴァリエーレです。そして、最後に俺は……」

 そんな俺が、最後に自分の名前を名乗ろうとした時、グラッドが俺の言葉を遮った。

 「ちょっと、いいか……今の説明だと俺が、お前より弱いみたいじゃないか? 俺は……今まで街の警護があり、街から離れることが出来なかったんだ」

 「えっ!? ああ、スマン……こういうのに慣れてなくて、紹介の仕方が悪かった……」

 (今日のグラッドは気合が入り過ぎじゃないか。今までレベルを気にしてる感じはなさそうだったし、力を隠している様にも感じた。面倒臭いヤツだな……)

 俺はグラッドに謝りながら口元を引き攣らせる。

 グラッドは、更に話を続けた。

 「カトレアさん、俺は明日からやっと街を離れることが出来る様になりました。あなたのために、直ぐにカザマを追い抜いてみせます」

 グラッドは真っ直ぐにカトレアさんを見つめて、鼻息を荒くする。

 その様子を見ていたレベッカさんは、頬を赤くして俯いてしまった。

 「はあ……そ、それは、頑張って下さいね……」

 カトレアさんは、俺と同じ様に口元を引き攣らせ、返事に困っている様子である。

 (グラッドのヤツ、いきなり気合を入れて飛ばし過ぎなんだ。カトレアさんが引いてるじゃないか……)

 俺がグラッドの様子に引き気味になっていると。

 「うん、そうだね。必死さが彼女を困らせているようだけど……悪い気はしないだろうね。優柔不断な君とは違って、気持ちが真っ直ぐだからね」

 「はあーっ!? ア、アレス!? 何で、ここにいるんですか?」

 「ねえ、君、落ち着きなよ……みんなが驚いているじゃないか……君の宝石に留まり付いて来ただけだよ。僕はどうせ教会に残っても、ヘーベの護衛は出来ないからね」

 俺は困惑しつつも、驚くみんなに頭を下げる。

 結局アレスのことは、ヘーベの知り合いということで切り抜けた――

 

 ――王さまゲーム。

 初めはグラッドの様子を見て、エドワードさんの機嫌が悪そうだった。

 しかし、レベッカさんがエドワードさんに何度も頭を下げ、機嫌が戻ったみたいだ。

 グラッドは柄にもなく、頭を掻いたり恥ずかしそうにしつつも、カトレアさんに話し掛けている。

 カトレアさんも大分話し慣れたのか、いつもの落ち着いた様子に戻っていた。 

 俺は合コンで何をしたら良いか分からず、色々と考えたが……。

 漫画やアニメでもお馴染みの王さまゲームを始めた。

 王さまという名前のゲームに、オルコット兄妹とアリーシャは恐縮していたが、少しずつ慣れてきたようだ。

 「王さまだーれだ? ……!? 俺か、それでは……一番が三番に握手をする」

 王さまの俺の命令で、カトレアさんがアレスと握手をした。

 グラッドはアレスのことを知っているので、眉を寄せ面白くなさそうな表情をする。

 だが、エドワードさんは知らないので、微笑ましく見つめた。

 カトレアさんもアレスを知らないので、教室の子供と接する様な様子である。

 そして、グラッドは慣れてきて調子に乗ったのか、

 「王さまだーれだ? ……!? お、俺だ……それじゃ、五番が王さまにキスをする」

 それとも戦いの攻め時だと思ったのか、勝負に出たようだ。

 そんなグラッドをみんなが冷ややかに見つめていたが。

 「ああ、僕が五番だね。……でも、僕でいいのかい?」

 「はあーっ!? ど、どうなってるんだ! 五番は……!?」

 アレスが嬉しそうに名乗りを上げ、グラッドは何故か凄く驚いてしまう……。

 (グラッドのヤツ、さては何らかの力を使ってズルをしたな。それを見抜いたアレスに悪戯をされたんだろう……)

 俺がリズムを取りながら声を出す。

 『キース、キース、キース……』

 次第にみんなが真似をして、キスを催促する音頭になった。

 その様子に、グラッドは目尻を吊り上げ俺を睨んだが、アレスから頬に熱いキスを受ける。

 「ち、ちきしょう! 次だ!」

 グラッドは声を荒げるが、まだ懲りてないようだ。

 レベッカさんは顔を赤くして俯いていたが、エドワードさんに慰められている。

 (おっ!? 主役が暴走した時に、止める役として呼んだのだが……あちらも良い雰囲気に感じる……)

 それからグラッドは、三度王さまになり同じ命令を出したが、すべてアレスに当たった。

 グラッドは嬉しそうに笑っているアレスを見て、身体を震わせていたが。

 流石に今日は騒ぎを起こせないと思ったのか、我慢しているようだった。

 いつもは俺が笑い者にされることが多いが、今回は珍しく被害に遭わずに楽しむことが出来た――


 今はフリートークの時間である。

 「グラッド、カザマとエリカも黒髪の青い瞳でかなり珍しいけど……あなたとレベッカさんの髪の色は、カザマたちもよりも更に黒くて、赤い瞳だわ……。あまり見かけないけど、どこか遠くの国の出身なのかしら?」

 「えっ!? ああ……遠くと言えば遠くですが、遺伝的なことまでしか……。俺もカザマと同じで、父親に育てられたことくらいしか知らないので……」

 グラッドはカトレアさんに尋ねられ、本来であれば関心を引いて喜んで答えそうなことだが、口篭ってしまう。

 その様子を見てカトレアさんは碧い瞳を丸め、珍しく狼狽する。

 「あらっ……そ、それは立ち入ったことを聞いてしまったわ。ごめんなさいね……」

 グラッドはカトレアさんの謝罪している姿を見て、頭を上げる様に促す。

 話題は兎も角、自分に関心を示してくれたことが嬉しかったのか。

 頬を緩め、頭を掻きながら照れているようである……。

 (グラッドのヤツ、俺が母親の顔を知らないことは話してないぞ。ヘーベが告げ口したのかな……それにしても、流石にグラハムさんの息子だとは言えても、ドラゴンの子供だとは言えないよな……!? そういえば、ふたりとも王子さまと王女さまじゃないのか? 何で、街で普通に生活してるんだろう……)

 俺はドラゴンのことは話題にせずに小声で、

 「レベッカさん、グラッドが言い出し難いのは分かりますが、どうしてふたりは街で普通に暮らしているのですか? ふたりは普通なら王子さまや王女さまではないのですか?」

 取り込み中のグラッドではなく、妹のレベッカさんに尋ねた。

 レベッカさんはこの事を知られたくないのか。

 俺の口を塞いで隅まで移動すると、小声で自分たちの立場のことを話す。

 「ば、馬鹿!? このことは、一応内緒にしているの! カトレアさんは気づいているかもしれないけど……私たちが誰の子供であっても庶民よ。兄さんはカヴァリエーレになって庶民ではなくなったけど……でも、お父さんは王位を世襲するつもりはないし、私たちも望んでないからね」

 エドワードさんとアリーシャが、俺とレベッカさんを訝しげに見つめている。

 俺はレベッカさんの話に頷くと、二人の傍に戻った――


 いつもならこの辺りでカトレアさんに絡まれるのだが。

 先程からグラッドがカトレアさんから離れない。

 レベッカさんが心配そうにグラッドを見つめているが、同じくカトレアさんを心配そうに見つめているエドワードさんと話が合うようである。

 俺はなかなかアリーシャと話す余裕がなくて、

 「アリーシャ、今日は変わったイベントに参加させて悪かったな。本当は参加者みんなが出会いを求めてするイベントらしいが……今回はグラッドとカトレアさんのために開いたから……」

 落ち着いた頃を見計らい、頬を掻きながら詫びを入れつつ話し掛けた。

 アリーシャは俺の話を聞き、自信がなそうに説明していることに違和感を抱いたのか、まじまじと見つめる。

 「こういうパーティーは初めてなので戸惑いましたが、楽しいですよ。みんなと和気藹々と過ごせて良いと思います。――ところでカザマは、今、イベントらしいと言いましたが……こういうパーティーには、あまり出席しないのですか?」

 俺はアリーシャの視線と、人から聞いたことを得意気に広めていることを恥かしく感じ、頬を掻きながら説明する。

 「えーと……そうだな……俺はエリカと違って、家の仕来りがあって目立つことを禁止されていたんだ。基本的に人目につくイベントに参加出来なかった。今日も人から聞いた事とかを参考にして、企画したんだ」

 「以前から言っていましたね……カザマの家も複雑な事情を抱えている様ですね。私もこの国に来るまでは、親しく話せる友人もなく、殺伐とした生活を送ってました……」

 アリーシャは、俺の家の事情の方に関心を持ったようだ。

 俺もアリーシャの事を多少なりとも知り、普通に励ますつもりであったが。

 以前から姫と呼ばれたり、特殊な事情を抱えているだろうアリーシャに軽はずみな言葉を掛けられない。

 それでも出会ってから何度も励まされ、支えてくれたアリーシャのために力になりたいと昂った。

 「そ、そうか……お前も!? いや、俺何かが知った様なことを言える立場じゃないと思うが、苦労したんだよな……でも、今は自由なんだろう? 俺で良ければいっぱい我がままを言ってくれよ」

 そんな俺の顔をアリーシャは真っ直ぐに見つめ、花が咲く様な笑みを溢す。

 「はい、ありがとう。カザマ……」

 俺はアリーシャの笑顔に見惚れていたが、一瞬の硬直から動き出した。

 「……!? お、俺も、この場でアリーシャのために、してあげたいことがあるんだ。ちょっといいか……」

 アリーシャは水色の瞳を開け閉めして、首を傾げながら俺に手を引かれる。

 俺は王さまゲームに引き続き実行しようと、アリーシャの手を引き壁際まで移動した。

 そして、俺は左手に力を入れる。

 右手を壁に突き、

 「アリーシャ! ……」

 アリーシャに『壁ドン』をして、見つめた……。

 「……は、はい! な、何ですか? 急に……」

 アリーシャは、アニメや漫画の様にドキドキしているのか。

 単に驚いているだけは分からないが、頬を赤く染め落ち着きなくしている。

 「明日からはグラッドと交代で街の警護をすることになった。それで、しばらく村に行けなくなるが、遊びに来てくれよ。毎日でもいいんだぞ……!?」

 俺の壁ドンは漫画やアニメで見た様に成功していると思う。

 しかし、先程からいつ来てもいい様に、心の準備をしているが電流が流れない。

 俺はアリーシャを見つめたまま、何故なのかと考え込んでしまう。

 「はい、時間が出来たら遊びに行きます……!? ど、どうしたのですか? そ、そんなに黙って見つめられると恥かしいです……」

 アリーシャは言葉通り恥かしいのか。

 頬を赤く染め上目遣いで、俺を見つめ返している。

 そこへ、突然俺の後ろから、聞き覚えのある「シュッ!」と空気を切る音と「バチッ!」と鈍い音がした。

 「イッテーっ!!」

 「私の可愛い妹に、良い度胸してるわ。良い度胸してるわ……」

 恐る恐る振り返ると、先程までグラッドと話をしていた筈のカトレアさんが。

 久々にヒステリックモードを発動して、右手にムチを持ち俺を睨んでいる。

 隣にはエドワードさんと話していた筈のレベッカさんもいる。 

 「えっ!? ア、アリーシャは、カトレアさんの妹ではないですよね……それに二人とも、お話の途中では……」

 「私の妹弟子ですが……文句があるとでも? それから、アリーシャが寄りにも寄って、私の見ている前で襲われている様なので、話を中断して助けにきたのよ……モミジ君」

 「全く、私が見ていない時は、いつもこんな感じなのかしら? 私も久々に殴りたくなってきたわ……モミジ君」

 ふたりのドエスに絡まれた俺は、お兄さんたちに目で助けを求めた。

 だが、グラッドとエドワードさんは、俺から視線を逸らす。

 (う、裏切り者たちめ……。これは壁ドンという俺の国の恋愛イベントなのに……そ、それにしても『モミジ君』というのは、俺のことだろうか……)

 俺は珍しく電流が流れなくて安堵していたが。

 こういう邪魔が入る予定だったのかと、虚空を見上げる様に呆然とした。

 しかし、そんな俺に助けが入る。

 アリーシャは『モミジ君』という言葉に頬を膨らませると、

 「モミジ君!? ぷふふふふ……カトレアさん、レベッカさんありがとうございます。私は襲われていた訳ではないので落ち着いて下さい。それから、心配してくれてありがとうございます」

 ドエスなお姉さんたちに誤解であると説明して、笑顔でお礼を言った。

 アリーシャの笑顔に、ドエスなお姉さんたちも険しい表情が緩んでいく。

 俺たちはテーブル席に戻ったが、何となく空気が重い。

 俺は大人しくして時間が経つのを待った――。

 

 合コンは何とか無事に終わる。

 グラッドがカトレアさんにセクハラをして、ムチで叩かれるかもと警戒していたが。

 グラッドは終始自分のことをアピールしていた。

 俺は、案外真面目なヤツなのかもしれないと認識を改める。

 寧ろ、ムチで叩かれたのは俺だったのだが……。

 エドワードさんもレベッカさんに、村に来た時は屋敷に寄って欲しいと言っていた。

 こちらも良い雰囲気を漂わせ、合コンのつもりがお見合いの様になってしまい。

 合コンとはこういうものだったのかと違和感を覚えた。

 俺は、アーラにアリーシャとアレスを乗せて、モーガン先生の家に向かった。

 俺とアリーシャは、空を飛んでいるアーラの上で叫んでいる。

 「!? そういえば、アリーシャ……また前より大きくなったな……」

 「えっ!? 何ですか? 良く聞えません?」

 「!? アリーシャは、前より大きくなったな!」

 「はっ!? カザマのエッチ! 確かに成長してますが……カザマも少し背が高くなりましたよ!」

 俺はスキルの影響で聞えるが、アリーシャは大声でないと聞えないようだ。

 二人でアレスを挟んでいることも忘れて大声で叫び。

 肌寒い夜空の中で身体を熱らせ、下宿先への短い移動を楽しんだ――。

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