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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二章 修行と異世界での日々
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3.この世界の魔法について

 ――モーガン先生の部屋。

 俺はアリーシャの手伝いを終えて、モーガン先生の部屋を訪ねた。

 部屋には粗い作りの古い本みたいもの。

 木や皮の巻物みたいな物がたくさんあり、賢者の部屋だというのを実感させられる。

 先生はさっきまで机の前に座っていたのだろうか。

 机の傍に椅子を置き、俺を座らせると自身も腰を下ろす。

 モーガン先生は、俺を見つめ静かに話し始めた。

 「カザマよ、ヘーベーさまから話を聞いてる。お前は、この世界とは違う世界から召還されたのだな……」

 「えっ!? あっ……」

 俺は動揺して言葉が出ない。

 いきなり秘密にしていたことを見抜かれ、一瞬どうするか悩んだ。

 だが、元々モーガン先生の所での修行は、ヘーベに言われたこと。

 モーガン先生が知っていても不思議ではないと頷く。

 「その話はヘーベから聞いたのですか?」

 「うむ、まずは聞いていた様に頭の回りは速い様だな。これは、後から話す魔法を使う上でも関係することだからな……!? 確かに、ヘーベーさまから聞いた」

 「……ということは、モーガン先生はヘーベの正体の事も知っているのですか?」

 「勿論、そうだが……このことは秘密にと言われていた。ヘーベさんと呼ばなければならんな」

 「そうですね。秘密でしたよね……色々とご存知の様ですが、ヘーベが宝石を盗まれたというのは本当なのですか?」

 俺は宝石について詳しい事は省き、核心をついた話をした。

 「詳細は知らんが、宝石があちこちに存在しているのは事実のようだ。ワシが今、詳しく分かるのは、黄色の宝石の在り処だけだ」

 ヘーベがこの村の森にあると言っていたのを思い出す。

 「具体的にどこにあるんですか?」

 「それは森の中に生息している、スライムの亜種『微笑みスライム』が飲み込んだようだ」

 「えっ!? 『微笑みスライム』とは……何ですか? 人の心を狂わせる様な毒を持ったスライムとかでしょうか?」

 「うむ、良い質問だな。もともとスライムは水辺や湿った所に多く繁殖し、大きく成長しても人と同じくらいだろうか……ただ、このスライムは宝石を飲み込み力を得たのか、民家と同じくらいまで大きくなった。そのスライムを良く見るとな、人が笑っている様な部分があるのだ」

 これまでの緊迫した話を台無しにする様な言葉に、俺は顔を引き攣らせる。

 「……もしかして、その名前は先生がつけましたか?」

 「そうだが……微笑みスライムは大きくて物理攻撃がほとんど効かない上、炎属性の魔法を使おうにも、大きくて森を焼いてしまう危険がある。それでも方法は色々とあるが……カザマ、お前がどうするか楽しみだ」

 俺の聞きたかった事は流され話は進んだが、魔法という言葉を聞いて、

 「先生、魔法とはどの様なものなのですか?」

 これまでで一番知りたかった事を訊ねた――。

 

 モーガン先生は、しばらく俺の顔を見つめていたが口を開いた。

 「……『魔法とはどのようなものか?』……その様な考えに至るのは、この世界では魔導師クラスになってからだ」

 「それって、どういうことでしょうか?」

 「例えば、お前が裸になってアリーシャやビアンカの前に立つとしよう……どうだ?」

 「えっ!? ……それは恥ずかしいです!」

 驚き戸惑う俺に構わず、モーガン先生の話は続く。

 「何故だ! 獣は裸でいるだろう? では、お前がずっと裸でいたならどうだ?」

 モーガン先生の真剣な問いに、

 「袋叩きにされて、警察に突き出されると思います!」

 街で警察に捕まったことを思い出す。

 罪状は無銭飲食だろうが、痴漢の疑いを掛けられた方が辛かった。

 教会に戻ってからも散々な目に遭ったからだ。

 俺の話が予想外だったのか、モーガン先生は口元を引き攣らせながら、

 「……そ、そうか。普通は何度も経験すると慣れると思うが……慣れると、それが当たり前になるだろう。まあー、ワシ程にもなると、気にも留めないがな」

 戸惑った表情で話しを続けたが、途中から笑みを浮かべ口端を吊り上げた。

 モーガン先生もグラッドと同じ系の人ではないかと疑う。

 「あのー……先生? 実際にやってませんよね? 同じ屋根の下で色々とマズイですし、二人とも子供ですよ?」

 「バカモノーっ! ワシに幼女性癖はないぞ! ワシはカトレアのような……」

 モーガン先生は目尻を吊り上げ怒鳴ったが、途中から何故か口篭ってしまう。

 俺はカトレアという人が気になったが、モーガン先生は話を戻す。

 「『魔法とは当たり前と認識する現象を行使すること』……そして、『より高度な魔法を行うには、非現実に感じる現象を現実に感じ、認識して行使すること』……つまり、認識次第で魔法はどの様にも変化する。但しそれは、実際に自分の想像出来る範疇のこと。想像も出来ない様なことは認識出来ないからだ……それには、自分の知識や経験が大きく関係する。勿論、性格を含めた資質の影響も大きいがな」

 俺は先生が説明した話を頭の中で整理し想像したが、自分なりに解釈して思い至る。

 「先生、もし仮に、この世界で誰も使った事がない現象や、誰も想像しそうに現象を……俺の世界での常識や物理的に可能だということを認識した場合も、魔法の行使が可能なのでしょうか?」

 俺の言葉が琴線に触れたかのように、先生の瞳が見開き輝いた。

 「お前はそれを、このわずかな時間で思いついたのか! 実をいうとな、ワシは始めてお前の事を聞いた時、密かに期待したのだ……もしかしたら、まだ見ぬ魔法を見れるかもしれないと……」

 俺は嘗てない程、興奮し胸が高鳴る。

 何故なら、この世界に召還された時は、少しだけ選ばれし勇者のつもりでいた。

 だが実際は、ここまで二日間とはいえ『冒険の日々』ではなく、『コメディの日々』を過ごしていたからである。

 俺は心の底で、この様な展開がくるのを待っていのだ。

 「あー……それから先程触れたが、『高度な魔法の行使には、非現実に感じる現象を現実に感じ、認識するために詠唱や魔方陣などを使ったりする』……それは感覚によって行使する魔法に対して、技術的補助を用いて行使する魔法で……魔術と呼んでいる。ちなみにお前が言った世界の常識……つまり世界の理にまで触れる領域の魔法を魔導と呼んでいる。だから、お前には期待しているが、新しい魔法の行使は十分気をつけるように……。使い方によっては、自分の予想に反して自分や周囲に被害が及ぶであろう」

 先生の話を息を呑む様に聞いていたが、緊張で口が乾いている。

 そのためか、しばらく返す言葉が出なかった――。


 「……分かりました。十分気をつけます! ……ところで先生、さっきアリーシャがこの冒険者のリストバンドに、魔法の補助効果があると言っていたのですが……」

 俺は自分の左手首に着いているリストバンドの赤いクリスタルを見つめた。

 モーガン先生は頷くと。

 「確かにその通りだ。効果はそれほど高くないが、杖を持ったりしなくて良いのだから便利であろう」

 確かにその通りだが、どうも腑に落ちない。

 「……先生、このリストバンドは冒険者の情報を、紙の文字を読む様に感じることが出来るじゃないですか? こんな凄いアイテムは、どんな原理で動いているのですか?」

 俺のこの質問に先生は再び瞳を見開き、驚いた様子を見せた。

 「……そうだな、大抵の者が当たり前だと思って何も感じないが……凄いだろう! これは魔法で冒険者の情報を投影させているのだ。故に、何かしらの魔力的な作用があるのだろうが……ワシもそれ以上は分からん」

 モーガン先生でも詳しく分からないとは、一体どんな人が考え作ったのだろう。

 しかも、こんな凄いアイテムを冒険者全員に支給されているのだろうか。

 この世界の文明は、俺の世界とは違った方向に発展しているのだろうか。

 「それから、これはただ冒険者だけの利点という訳でもないぞ。この情報は冒険者ギルドで管理されている。良く悪くも自分のことを他人に知られるのは注意が必要だ」

 俺は先生の言葉をプライバシーに関することだろうと思い、中世風の世界でも幅広い見識の高さを感じた。

 「明日は、朝からビアンカの狩りについて行ってもらうぞ。まずは、狩りで色々と学んでもらおうと思っている。それが終わったら、日中通っている者たちとの顔合わせと見学だ。ワシの所で学びたい事を決めているかもしれないが、この世界の事も知りたいと聞いていたので、まずは実際に見てからで良いだろう」

 モーガン先生は大まかだが、今後の予定について説明してくれた。

 「はい、よろしくお願いします」

 俺は先生のプランが妥当だと思い、頬を緩ませ頭を垂れる。

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