6.女神さまからの二度目のご褒美
――異世界生活四ヶ月と五日目。
目が覚めると、俺は教会の自室のベッドの上にいた。
「やあ、やっと目が覚めたね。それにしても凄い勢いで吹き飛ばされて、顔がヒドイ状態だったのに……君は本当に丈夫だね」
「あのー……状況は分かりましたが、俺は何日くらい眠ってましたか? それから、俺の顔を見ながら嬉しそうに笑うのは止めて下さい。何を喜んでいるか気になります……」
アレスは王さまに殴られた状況を説明してくれたが、笑顔で話している姿が俺の不幸を笑っているみたいでイラッとする。
「うむ、あの後でアレスがお前を死なない程度まで魔力で回復させた。その後は王宮に用がなくなったので、帰ってきたのだ。昨日着いたが……今日で三日目だ」
「では……ジャスティスが、意識のない俺を運んでくれたのですか?」
俺は行きと同じ二日で帰ったことが気になり、主人思いのジャスティスが俺のために頑張ってくれたと思い笑みを浮かべた。
「おい、お前、次に気になったのはそんなことなのか? お前をコテツの背中に乗せて、俺がお前を落ちない様に掴んでやったんだ。感謝しろよ……!? ジャスティスならアレスを乗せて喜んで走っていたぞ」
俺は、アレスによって中途半端に治してもらった頬を擦りながら呆然とする――
――異世界生活四ヶ月と六日目。
翌朝、俺はヘーベをジャスティスに乗せて、村に向かった。
以前アリーシャとした様に、定番の二人乗りイベントを楽しんでいる。
ヘーベは俺の前で横向きに座り、俺の身体に密着していた。
俺は左手で手綱を握り、右手でヘーベの腰の辺りを抱える様にして支えている。
(アリーシャの時は後ろに乗せたが、これは自転車の二人乗り以上のイベントでは……。右手にはヘーベのしなやかな腰の感触が、胸にはジャスティスの動きに合わせてヘーベの得も言えぬ柔らかな部位が押し付けられる。俺はこの世界に来てから、石鹸でしか髪を洗っていない。ヘーベはどんなシャンプーを使っているのだろうか? 甘い香りがする……)
ジャスティスの隣では、コテツの上にリヴァイとアレスが二人乗りしていた。
普段なら羨ましい光景だが、今は自分の状況が幸せで気にならない。
――オルコット村。
コテツの姿とその上に、ふたりの子供が乗っている様子に、注目が集まる。
だが、ヘーベの姿を見ると、村の人たちが膝を着き頭を下げ始めた。
「あのーっ……もしかして、正体がばれていませんか? でも、どうしてでしょうか? コテツたちが目立つので、こちらはそれ程感心を向けないと思っていました。それに普通、ヘーベがこんな状況で現れると想像出来ないと思うのですが……」
俺は首を傾げながらヘーベに尋ねたが、
「うふふふふ……そうですね。後でローブを借りて姿を隠しましょうか……」
ヘーベは微笑を湛え、周りの様子には関心がなそうに見える。
――モーガン邸。
厩舎の前でヘーベを降ろすと、ジャスティスを厩舎に入れた。
モーガン先生の家に来たのは、前日にヘーベから俺が普段生活している所を見たいと言われたので、直前になって予定されたことである。
(みんなには知らせていないので、アリーシャやアウラだけでなく、カトレアさんも驚くだろうな……)
「おーい、今帰ったぞ。今日はお客を連れて来たんだが……」
「お帰りなさい。カザマ……!? ヘーベさん!? ……と、ぷふふふふ……」
いつも通りアリーシャが出迎えてくれて、ヘーベを見て驚いたが、俺の顔を見ると頬を膨らませた。
我慢している様だが、微かに笑い声が漏れている。
「わ、笑わなくてもいいだろう。俺も色々と大変な目に遭って、アレスが言うには死にそうになったみたいなんだぞ……」
アリーシャは俺の話を聞き流すかの様に、小言を言い出し。
「えっ!? また誰かに迷惑を掛けて怒らせたのですか? カザマは私が目を離すと誰彼構わず、エッチなことばかりして……ぷふふふふ!? アレスと言いましたが、リヴァイの隣にいる……」
途中で俺の顔を見ると、頬を膨らませて笑いを堪えようとしたが、またも笑った。
しかし、アレスの存在に気づくと、表情を引き締め床に膝を着ける。
アレスはいつも通り笑みを浮かべたまま、アリーシャに話し始めた。
「ねえ、君、君はアリーシャ姫だね。以前、僕が加護を与えていた一族が、君や君の家族に酷い事をしてしまったね。あの時は僕も力を失っていて何も出来なかったけど、一応謝っておくよ。それに、今はヘーベにも話したんだけど、いつも問題ばかり起こすカザマのお守りみたいな事をすることにしたんだ。そんなに畏まらずに、カザマと同じ様にアレスと呼んでくれればいいよ」
「はい、既に庶民となった身ですが、お気遣いの言葉痛み入ります。嘗てのことを思うと居た堪れないですが……今は幸せに生活しています。どうか、ご安心下さい」
アリーシャはアレスの話を聞いて、ヘーベと初めて会った時の様な気品を漂わせる仕草を見せ返事をする。
(初めてヘーベと挨拶した時も姫と言われて、アリーシャは違うと言っていたよな……。でも、アレスとの会話を聞いて思ったが、相当辛い思いをしたんだな……)
俺はアリーシャの手を取って立たせると、励ましの声を掛けて頭を撫でた。
「アリーシャ……そんなに畏まらなくても、今のアレスは俺の相談役だ。それに見た目は可愛いが、もしかしたらカトレアさん以上のドエスかも……!? イッテー! な、何するんですか! 俺がアリーシャを元気づけ様としていたのに……」
俺の様子を見ていたヘーベが、急に美しい相貌を顰め俺を睨む。
そして、それに呼応するかの様に、左手首から電流が流れたのだ。
「アリーシャを元気づけ様としたのは分かったよ……だけど、また途中から格好つけて、僕を愚弄する様な事を言おうとしたね」
俺はアレスからお説教を受けて、身体を震わせつつも耐える。
アリーシャは俺の様子を見て恐る恐るアレスに話し掛けたが、
「ア、アレス……カザマのことを良くご存知なのですね。カザマは、きっと良かれと思ってしているのだと思います。――ただ、いつも途中から調子に乗って、特に女の子を相手にすると見境がなくなります。今まで、色々な方々に注意されてきましたが……よろしくお願いします」
俺のことを手の掛かる子供の様に話して、アレスに頭を下げた。
ヘーベは怖い顔から表情を緩めていたが、頬を引き攣らせると俺の腕に抱きつく。
そして、家の中の案内をする様に目配せした。
――書庫。
俺はヘーベを連れて書庫の扉を叩き、中に入る。
カトレアさんはいつもの様に机に頬杖を突きながら、艶かしい雰囲気を漂わせ本を読んでいた。
だが、俺たちに気づくと、いつもは視線だけを動かして反応するのに、椅子から転げ落ちそうな勢いで立ち上がり床に膝を着ける。
「はっ!? ヘ、ヘーベー様!? ……!? そこの方は、従者の方ですか?」
「ヒ、ヒドイじゃないですか? 俺ですよ。弟弟子のカザマです……でも、いきなり現れたのに、良くヘーベだと分かりましたね。村でも、みんなに気づかれていたみたいですし、どうしてですかね?」
俺は拗ねた子供の様に自分だと説明したが、どうしてすぐにヘーベだと分かるのか気になり、隣のヘーベに尋ねる。
「うふふふふ……さあ、どうしてですかね……それより、カトレア殿も普通に接して下さい。いつも他の皆さんはそうしていますし、今日は従者のカザマのご褒美で、お休みを頂きました」
ヘーベは俺に返事をすると、カトレアさんにも気兼ねしない様にと声を掛けた。
「へっ!? カザマが従者? ご褒美……」
カトレアさんは混乱しているのか、呆然と俺たちを見つめている――。
僅かな静寂を遮る様にアレスが口を開く。
「うん、普通はこういう反応をするんだよね。僕たちの存在は本当に面倒だと思うけど……アリーシャの様に気丈に振舞う者もいれば、カザマの様に全く気にも留めない者もいるし、侭ならないね」
「何だか俺が礼儀知らずで、頭の悪いヤツみたいじゃないですか? 俺は言われた通りにしているだけですよ……カトレアさんも普通でいいですよ。ヘーベはふたりでいる時は、アウラの様に訳の分からないことを言ったりして、俺を困らせることもあります。アレスも見た目は可愛いですが、カトレアさん以上のドエスかも……!? イッテー! な、何するんですか! 俺がカトレアさんをリラックスさせようとしているのに……」
俺は馬鹿にされたみたいで文句を言いつつも、カトレアさんを落ち着かせ様とした。
しかし、またしても話している最中に左手首から電流が流れて、俺は声を荒げる。
「はあーっ……君はさっきアリーシャに言われたばかりなのに、本当に学習しないね……それに、君の耐性はどんどん高くなるみたいだから、もう少し威力を上げようかな……」
アレスは溜息を吐くと小言を言い、今後は威力を上げようかと恐ろしいことを口にした。
ヘーベは先程と同じ様に、また怖い顔をして俺を睨み、アリーシャも頬を膨らませて怒っているようである。
カトレアさんは呆気に取られた様な表情をしているが。
「もしかして……アレスさまですか?」
「うん、そう何だけど……何度も説明するのが面倒になってきたな。カザマとヘーベは、行きたい所があれば移動しても構わないよ。僕は同じことを話さなくて良い様に、二人に説明するから」
俺とヘーベは、アレスにカトレアさんとアリーシャを任せたが、リヴァイも動かなかったのでコテツだけ連れて書庫を後にした。
――演習場。
俺はヘーベにいつも行っていることを説明している。
「いつもこの時間は、ここでビアンカに格闘の相手をしてもらっています。教会に泊まっている日は、朝の狩りが出来ないので狩りもしています。その後、アウラから魔法を教えてもらっています。以前はカトレアさんに教わっていましたが、アウラが俺の魔法は精霊魔法に近いと駄々を捏ねまして……!? イッテー!」
アウラが顔を赤く染め、目の前に現れて文句を言い出すが。
「誰が駄々を捏ねるですって……」
俺が突然左手を振りながら痛がっている様子に驚いたのか、瞳を大きく見開き首を傾げた。
「アウラ、久しぶりですね。今日はカザマのご褒美でお休みを頂き遊びに来ました。今のカザマの挙動不審な動きは、頭が変になった訳ではありません。格好をつけて余計な言動をすると、アレスの加護で……左手首から電流が流れ、お仕置きをされる様になっています」
「ご無沙汰しています。カザマはヘーベさんにも格好をつけて困らせたりしているのですか? それで、今みたいなことに……」
アウラはヘーベに返事をするが、碧い瞳を見開き不思議そうに俺を見つめている。
「ヘーベ、アウラに変な事を教えないで下さい。ただでさえ、アウラは誤解し易いから……アウラも変な事で納得しないでくれ。それで、ビアンカはいないのか? エリカと狩りにでも出掛けているのか?」
「ビ、ビアンカとエリカは、森にいるわよ……。エリカが以前、カザマに奇策で負けたのを気にして、最近はほとんど森の中で修行しているわ」
ビアンカとエリカの事をアウラに尋ねたが、アウラは身体を震わせながら返事をした。
俺に本当のことを言われて恥ずかしがっているのだろう。
「それじゃあ、エリカが来ると面倒なので、俺が見つけた秘密の場所へ案内しますよ」
俺はヘーベの手を取り移動し始めると、ヘーベは笑みを浮かべアウラに頭を下げた――。
俺はヘーベをコスモスのたくさん咲いている場所へ案内すると、
「ここは家から近くなので、ビアンカは知っているかもしれませんが、誰かと一緒に来たのは初めて何ですよ。庶民っぽくて、ヘーベが喜んでくれ……」
恥かしくて頬を掻きながら説明していたが、途中で口を開けたまま固まってしまう。
「……ありがとう……」
ヘーベは微かにありがとうと言い、コスモスの花畑を見つめている。
白い前歯を僅かに覗かせて、溢れんばかりの笑みを湛えていた。
俺はその様子を何かの風景でも見る様に眺めている。
ヘーベがコスモス畑を眺めている間、俺は我に返った様に黙々と作業を始めた。
声を掛けようかとも思ったが、ヘーベの様子を見ていると憚られたのだ。
「……ありがとう。とても綺麗で……!? か、冠……」
俺はヘーベの後ろに立っていたが、ヘーベが振り返ると、ヘーベの頭にコスモスで作った冠を載せた。
ヘーベは突然コスモスの冠を載せられ驚いたのか、花畑を見惚れていたのか呆然とする。
俺が話し始めるとみるみると顔を赤く染めるが。
「女神さまに花の冠を載せるのは失礼なのかもしれないけど、俺はとても似合っていると……!? イッテー! な、何してくれてんだ! 人が真剣に話している時に……」
俺が話している最中にまたも電流が流れ、左手を振りながら痛がっていると。
ヘーベは口元に手を添えて笑い出した。
「……わ、笑ってごめんなさ……でも、今のは怒っても良いかもしれません。アレスに注意しておきますね……とても格好良かったですし、とても嬉しかったです」
「えっ!? ち、ちょっと……」
俺は恥かしさと腹立たしさで、ヘーベから顔を背けていたが。
珍しく雲ひとつ見えないアルヌス山脈から、突如秋の悪戯か風が舞い降りた。
コスモスの花びらが舞い、俺の視線はヘーベの方に移る。
プラチナの髪と白いワンピースが揺れる中。
ヘーベは笑みを浮かべたまま、目を細めコスモスの冠を押さえている。
その光景は、先程の幻想的な風景よりも温かみを感じて息を呑んだ。
「……そ、そろそろ、家に戻りましょうか」
俺の言葉を聞いて小さく頷き、ヘーベは俺の手を取った。
――モーガン邸。
俺たちが家に戻ってから、ヘーベは次の行き先を希望する。
だが、俺は今、何故かヘーベとベッドの上に並んでうつ伏せになっていた。
そして、以前カトレアさんから借りた本を、俺がヘーベに読み聞かせしている。
俺が読んでいる本は貴族の令嬢の物語ではなく、初めて借りたお子様向けの御伽噺の様な本であった。
ヘーベはそんな内容の本にも関わらず、俺の読み聞かせに合わせて表情を変えていく。
(これって、確かヘーベの話だったよな……みんなから慕われていた女神さまが、みんなのために力を使い、その後は曖昧な話で俺には良く分からなかったが……)
「……カザマ。続きを早く……そういえばアリーシャとも、こうして仲良く本を読んでいたのですよね」
「えっ!? そ、そんな以前のことを急に……あの頃は文字が読めないとは思ってもいなくて、本当に驚いてショックだったんですよ」
俺が本の内容を思い出していると、ヘーベがアリーシャとの読み聞かせのことを話し始めたので、俺は拗ねて見せる。
「でも、そのお陰で良い思いをしたのでしたよね。鼻の下を伸ばして、はあはあ息をしていたのですよね。この頬はだらしなくなっていませんでしたか?」
ヘーベは俺の様子に構うことなく、悪戯っ子の様な笑みを浮かべ、俺の頬を引っ張ってきた。
「!? 痛いですよ。俺の頬を引っ張らないで下さいよ……」
俺が頬を引っ張られていると、扉を叩く音がしてアリーシャの声が聞こえる。
「カザマ、お茶を持って来ました。扉を開けますよ……」
俺は頬を引っ張られていて返事が出来ない。
「はい、お願いします」
俺の代わりにヘーベが答えると、扉が開きアリーシャと目が合った。
俺はヘーベに頬を引っ張られたまま、
「よほー、あひがとお……」
何か返事をしなければと声を出したが、全身から汗を流して手を大きく振った。
(ち、違うんだ! ヘーベに頼まれて本を読んでいたが、頬を引っ張られて声が上手く出ないだ。アリーシャなら気づいてくれるよな)
俺の思いが届いたのか、アリーシャは眉を寄せる。
「こ、これはお取り込み中に失礼しました。ヘーベさんから返事があったので部屋に入りましたが……幾ら、私が邪魔だったとはいえ……そこまで必死に手を振って、出て行けと言わなくても良いではないですか」
「ふぁ!? ひ、ひがう……」
俺は頬を引っ張られたまま、誤解をしているアリーシャに声を掛けた。
しかしアリーシャは、お茶を持ったまま部屋を出て行ってしまう。
俺は慌ててヘーベの手を掴んだが、予想以上にヘーベの力が強くて、俺の頬から手が離れない。
(何で、離れないだ? こんなに細い腕をしてるのに……!? 確か、アレスもグラハムさんの前でぴくりとも動かなかったな……)
俺はヘーベが女神さまの力を使っていると思い、離れないならばとヘーベを抱かかえて立ち上がる。
「あらっ!? 意外と逞しいのね……」
頬を染め両手を当てているヘーベをお姫様抱っこしたまま、部屋を飛び出して台所の方へ移動した――。
俺は、頬を引っ張られたまま食堂に入る。
俺たちの様子を見たアリーシャが、水色の瞳を丸めて身体を硬直させた。
そして俺の必死さが伝わったのか、なんとか誤解が解ける。
昼食の席では森にいたビアンカとエリカも加わり、今日は更にカトレアさんも加わったが、俺の話題で盛り上がったことは言うまでもない。
以前はひとりで食事をしていたヘーベが、みんなに囲まれて楽しそうに食事をしている光景を見て微笑ましく感じる――。
昼食後の青空教室では、ヘーベも子供たちに読み書きを教えた。
エドナは俺と初めて会った頃、ヘーベの物語の本を読んでいる俺を馬鹿にしていたが。
まさか教会にある女神像と同じ姿のひとが、目の前に現れるとは夢にも思わなかったのだろう。
驚いて俺の服を掴んだまま離さなかったのが印象的だった。
それから、ヘーベにローブを着せて、アリーシャと三にんでジャスティスに乗り村で買い物をした。
勿論、コテツとリヴァイにアレスも同行している。
途中からアレスも余計なことを言わなくなり、和やかな雰囲気のまま買い物を終えると、俺とヘーベは街に帰った――
――教会。
村で買った食材を料理して、ヘーベと若干の付き添いと共に夕食を済ませる。
「カザマ、今日はとても楽しかったです。ありがとう。私はこれからも頑張ろうと元気づけられました」
「そ、そんな、大袈裟ですよ……これくらいで良ければ、いつでも言って……!? イッテー! な、何するんですか? 珍しく静かにしていると思ったら……」
「いや、さっきまでは素で話していたみたいだけど、また格好つけたみたいだからね」
「もうさっきから……男なんだから、格好つける時くらいあると思いますが」
「ああ、そうだね……少し調整しておくよ。男なんだから……だよね」
俺とヘーベがとても良い雰囲気で見つめ合いながら親睦を深めていたが、アレスのせいで台無しになってしまう。
ヘーベも怒っているかと思ったが、アレスと一緒に俺を見ながら笑っている。
アレスは一応俺の抗議を聞いてくれたが、何か良からぬ事を企んでいる様に見えて不安を覚えた――。
「カザマ、そろそろロマリアに行くのですか?」
「はい、アテネリシア王国も気になりますし……ロマリアの国王のラウルさんと約束しているので、早めに行こうと考えています。ビアンカの予定も聞いて、明後日には出発しようと思います」
俺はヘーベに答えたが、いつもより何となくヘーベの表情に覇気がない様に感じて、後ろ髪を引かれる思いがした。
「あ、あのー……俺の気のせいならいいのですが、気になることがあって……ちょっといいですか?」
俺はヘーベに驚いてビンタされたり、アレスから電流を流されるかと恐れつつも、ヘーベの耳元に顔を近づけて内緒話をする……。
「えっ!? まさか……でも、確かにそうね……カザマの言う通りにしましょう」
コテツやリヴァイには念話が使えるが、ヘーベは大まかなことしか分からないと以前言っていたので直接伝えたのだ。
俺の話にヘーベだけでなく、コテツやリヴァイも表情を引き締めた――。




