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ユベントゥスの息吹  作者: 伊吹 ヒロシ
第二章 修行と異世界での日々
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2、同居する姉弟子たち

 ――モーガン邸。

 モーガン先生の家に入り、六人掛けのテーブルに先生と向かい合う様に腰を下ろす。

 「腹は減ってないか?」

 モーガン先生は、俺を気遣ってくれたようだ。

 「ありがとうございます。馬車でレベッカさんにパンをもらって食べたので大丈夫です」

 「そうか……では、まずワシの元で修行に来ている者たちのことから話そうか」

 モーガン先生は頷くと、初めに俺の先輩にあたる人たちのことを話し始め。

 先生は女の人の名前を呼ぶ。

 「まずは、アリーシャだ」

 すると、ヘーベと同じくらいの身長の女の子が、目の前にやって来た。

 水色の瞳に、水色の髪が肩にかかるくらいだろうか。

 青系統の色のローブに、短い杖を腰に挿している。

 華奢な体躯に、瞳がクリッとした可愛らしい容姿である。

 「初めまして、アリーシャと言います。十三歳です。モーガン先生のところで住み込みで修行をしています。よろしくお願いしますね」

 あどけなさを漂わせる雰囲気だが、しっかりした話し方が印象的だ。

 「俺はカザママサヨシ、十五歳だ……紹介されて遠くの国からやってきた。冒険者でニンジャという職業になったのだが、この国や魔法のことが分からなくて修行に来たんだ。呼び方は、呼び易いようにカザマでいいぞ。よろしくな!」

 年下の女の子とはいえ、姉弟子になるのかと思いつつ。

 俺はヘーベの事と自分の国に関することを避け、挨拶した。

 「他にも何人かワシが教えているが、住み込みの弟子はアリーシャとビアンカだけだ。正確にはビアンカは一般教養くらいしか教えてなくて……まあ、もうじき帰ってくるだろう……」

 モーガン先生は他にも弟子がいて、住み込みは二人だけだと教えてくれた。

 でも、どういう訳かビアンカという子の事は、はぐらかした様な気がする。

 「カザマ、家事全般は主にアリーシャが行っている。お前もアリーシャに教わり手伝ってやってくれ……それからお互いに事情があるから、故郷のことは話さないように」

 そう言うとモーガン先生は扉を開け、出掛けて行く。

 俺は色々と忙しいのだろうと思った。

 それから、アリーシャとビアンカという子も、俺と同じ様に訳ありなのだろうかと想像する。

 俺とアリーシャは二人きりになったが、

 「カザマ、これからよろしくお願いしますね」

 アリーシャは初々しい笑顔で改めて挨拶してきた。

 俺は今まで部活とかしたことがなく、年下の子と接する機会はほとんどない。

 まして、女の子となると皆無に近い。

 兄弟のいない俺は、明るい笑顔と邪気のない感じに保護欲をそそられる。

 俺は妹萌えする気質があったのだろうか。

 でも、何故かアリーシャの言葉の中に違和感を覚えたが、

 「あっ!?」

 思わず声を漏らす。

 先程アリーシャは敬語で話しつつも、俺を呼び捨てにしたと気づいたのだ。

 俺は今まで年下の子に呼び捨てで呼ばれたことがなく、イラッとした。

 (ここは日本ではないし、異世界だ……何も不自然なことはない。それに「カザマ」でいいと俺が言ったじゃないか……)

 俺は心の中で自分に言い聞かせ、平静さを取り戻す。

 そんな俺をアリーシャは、首を傾け見つめている。

 「大丈夫ですよ。家事は私がしますから……ただ、たまに手伝いをお願いすることがあるかもしれません。力仕事とか……」

 しっかりした口調で話しをしていたアリーシャが、途中から頬を染め恥ずかしそうになり、最後は呟くようであった。

 「……!? 大丈夫! お兄さんに遠慮なく言ってくれ!」

 俺はアリーシャに右の拳を肩の高さに上げ、真っ直ぐ腕を伸ばし親指を立てた。

 アリーシャは、そんな俺の姿を見て笑顔を見せる。

 「カザマは面白いですね」

 レベッカさんはお姉さんみたいな感じだが、アリーシャは妹のように感じた。

 俺に兄弟はいないのだが……。

 俺はアリーシャとのやり取りに癒しを感じていたが。

 ふと、アリーシャの腰に刺さっている小さな杖の様なものが気になった。

 「なあ、アリーシャ……腰の杖みたいなのは、何に使うんだ?」

 アリーシャは腰の杖に視線を移す。

 「これですか? 魔法の効果を高めるワンドですよ」

 アリーシャはワンドを触りながら、不思議そうに首を傾げ答えた。

 「それって、モーガン先生が持っている杖と、どう違うんだ?」

 アリーシャは俺の意を汲むように説明しながら、

 「モーガン先生が持っている様な杖は、私のワンドよりも魔法の補助効果が高いのです……大きな魔石をつけたり、杖自体にも霊力の高い木を使ったりして、魔力を高める効果があるのです。他にも叩いたりして、武器にも使えます……ただ、私はそれ程強力な魔法を使う訳でもなくて、生活に不便なので小さいサイズのワンドを愛用しています」

 愛用しているワンドを優しく擦る。

 それからアリーシャは俺の方に視線を戻すと、話のついでの様に教えてくれた。

 「私は冒険者でないので詳しくは知りませんが、カザマが着けている冒険者のリストバンドも魔法の補助効果があると聞いていますが」

 「えっ!? これに、そんな機能までついてるのか?」

 俺は驚きリストバンドを見つめる。

 「はい、さっきも言いましたが、私は冒険者ではないので詳しくは知りませんが……モーガン先生に聞いてみたらどうですか?」

 「そうだな……後で聞いてみるよ」

 (このリストバンドは自分の情報を相手に伝達するだけでなく、魔法の補助効果の機能まで備わっているとは……一体どういう構造になっているのだろう?)

 俺はリストバンドを見つめたまま、未知の技術に興味をそそられた。

 それから色々とアリーシャと世間話をしたり家の周囲を見たりして、あっという間に時間が過ぎる。

 

 ――夕方。

 玄関の扉が開き、一癖も二癖もありそうな口調の声がした。

 「帰ったすよー」

 「お帰り、ビアンカ」

 アリーシャは俺に対するより、砕けた感じの話し方でビアンカを迎える。

 ビアンカはちらりとこちらを見たが、

 「あれー、新顔さんがいるっすね」

 口元は笑っているが、あまり関心がなさそうな感じに見える。

 ビアンカのぶっきら棒な感じは、あまり目立ちたくないと考えている俺としては都合が良い。

 ビアンカは健康的な小麦色の肌に、くすんだ金髪に碧い瞳。

 獣耳と尻尾以外は、人間とあまり変わりがない様に見えた。

 身長は日本の平均的な大人の女の人と同じくらいだろうか。

 現在成長中のボリュームのあるスタイルは、茶系統の薄着の衣類から目立って感じる。

 ちなみにビアンカのことは、事前にアリーシャから聞いていた……。


 「――ビアンカは、ウェアウルフの半獣人で15歳。孤児でモーガン先生に引き取られたらしく、この家にはモーガン先生を除き一番長く住んでいるそうです。身体能力が高く、満月の夜に感情が昂ります。狩りが得意で食事を調達してくれて助かっています。一般教養を学んでいる様です……。明るく活発な女の子ですが、淡白な性格で人付き合いと勉強は苦手な様です。毎日午後から勉強に来ているエドナとは、仲が悪いので気をつけて下さい――」


 何となく俺が知っているウェアウルフの特徴と合致している。

 ただ、エドナという子と仲が悪いというのが気になったが、

 「やあ、初めまして。俺はカザママサヨシ、十五歳だ。カザマと呼んでくれ。これから、よろしくな!」

 俺はビアンカに簡単に挨拶と自己紹介をした。

 アリーシャの時と比べると簡潔だったが、

 「はいっす……」

 ビアンカは素っ気無く返事すると、こちらを見ずに手を振った。

 俺とビアンカの様子を見ていたアリーシャがタイミングを計っていたのか。

 「ビアンカ、今日の収穫は?」

 「今日は、ウサギっす! 納屋に置いてるけど、後から処理するっすよ」

 「ありがとう! 助かります!」

 俺はビアンカとアリーシャの日常的な会話なのだろう思いつつ、静かにふたりの様子を見つめた――。


 夕食は俺の分も用意されており、先程の六人掛けの席に座る。

 夕食はアリーシャが全部用意してくれて、俺は食後に食器の片付けを手伝って欲しいと頼まれた。

 食事の前にモーガン先生が改めて俺の紹介をして、それから食事となる。

 今日の夕食は、パンとシチューだ。

 ヘーベの教会でも似た様なものを出されたが、パンは量が多く。

 何よりシチューには、肉が入っている。

 それ程たくさん入っていた訳ではないが、俺は久々に食べる肉を味わって食べた。

 適度な歯応えが気持ち良く、鶏肉よりは酷があり、牛肉や豚肉よりはあっさりしている。

 一番初めにビアンカが食事を終わらせ席を立とうとした。

 そこへモーガン先生が、

 「ビアンカ、明日も狩りに行くのだろう? 本当はもう少し勉強もして欲しいのだが……明日の朝は、カザマを狩りに連れて行ってくれ」

 「いいすっけど……大丈夫なんか?」

 俺は馬鹿にされた様で少し苛立った。

 「少し、考えがあるのだ……」

 モーガン先生は微笑み、口端を吊り上げる。

 「それから、カザマはアリーシャの手伝いが終わったら、ワシの部屋に来てくれ」

 そう言うと既にモーガン先生も食事を終えており、席を離れた。


 ――夕食後。

 俺はアリーシャの指示に従い、食べ終わった食器等をキッチンに運んだりと、後片付けを手伝う。

 アリーシャは俺と一緒に片付けをしていたが、俺を見て突然動きを止めた。

 「あっ!? カザマ、あなたの手は綺麗……ですね。あなたも、もしかして……」

 アリーシャは何かを言い掛けたが、

 「はっ!?」

 と小さく声を上げると、それから話をしなくなった――。

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