9 守り抜く。
「――では、皆さん作戦通りお願いします」
エリナの声が暗い地下室で響く。
部屋の中には様々なギルドが集まっていた。
普通ならば子供から作戦通り戦えと、言われたところで無視をする。
しかし限られた人しか召喚できない、召喚獣を連れ歩く召喚士からの願いと聞けば、従ってくれる人も出てくる。
だが、それだけではない。街に愛着を持つ者や、今起こる戦争から家族を守りたい者も居る。
「住人達の避難は完了したそうだ、あとは、敵が来るのを待つだけだ」
「召喚獣様が、今ドラゴン達と相手をしているそうだ、これで空の敵が減ったらいいが」
「なあに、大丈夫よ、召喚獣様が仕留め損なった敵は、魔法部隊でどうにかするわ。あんた達は陸の敵に集中しなさい」
聞こえてくるのは、陸上部隊と魔法部隊の会話。
やる気は皆、十分あり作戦通り持ち場についていく、けれども戦力は不足している。街にいたギルドを寄せ集めた軍団だ、それ程人が多い訳でもない。
ガルダが上手く敵を減らさなければ、勝ち目はない。
ガルダ、お願い。少しでも多く敵を削って。
そう願いながらエリナは、持ち場につく。
■■■
右には魔物の大軍、左には現代兵器てんこ盛りの軍隊。
どちらも一人では、相手をしたくないものだが、相手をしなければならない。
二つの大軍が、最も近い場所で人型の男は、巨大な獣へと姿を変えていく。
突如現れた獣に、辺りの注目は集まった。
「グルルオォォオオオオ!!」
獣の放つ咆哮は開戦の狼煙となり、戦場に轟く。
両軍からの一斉攻撃、だが獣は気にせずスキルを使う。
「――創造」
スキルの発動と同時に、辺りは閃光とともに消滅する。
獣はスキルが自らの体に馴染んでいくのを感じながら戦う。
この程度の魔法なら創れる。これは創れない。それは、感覚でわかる。
今回はかなりの魔力を消費して、自ら自爆する魔法だ。しかし、魔力系のスキルを使う余裕まだある。
威力はかなりのものだが、無傷ではない。連射はできない、が注目を引くには十分だ。
今吹き飛ばしたのは一部に過ぎない。まだまだ倒さなければ。
獣は飛翔し自分に集まる敵を蹴散らしていく。
遠くに目をやると、街に敵が向かうのが見える。
まわりの敵を片付け、遠くの敵に獣は無数の光球を飛ばす。
守らなければ、街を守らなければ。
死に物狂いで戦ったからか、少しずつ敵が減ってきている気がする。
光りの槍の雨を降らせ、敵を減らすがまだ足りない。
レーザーで焼き払い、近づく敵はなぎ払う。負った傷の痛みは不思議と感じられない。
あるのは、戦場の高揚と守り抜く覚悟。
空は無理だと思ったのか、敵は陸から街を攻めに行く。
街は、森林に囲まれており、隠れる場所は十分にある。
そっと近づき、敵は一気に突撃する。
この時魔物と銃を持った敵兵の姿しかなく、奴らの目標である、召喚士率いる寄せ集め軍団の姿はなかった。
そして、エリナが通信のできる魔結晶で合図した瞬間。
地面に空いた穴から、なにかが真上に飛び出してきた。いきなり飛び出てきたなにかは矢や魔法を放つ。
街の地下にはアリの巣のように穴が掘られており、避難所として使われていた。
そこから真上に穴を掘り、風の魔結晶で飛びだし、奇襲する。
案の定敵は突然の矢や魔法に対応出来ず、倒されていく。
生き残った敵兵が、突撃してくるが、近接武器を持った味方が穴から飛びだし、敵を突き刺す。
これで終わった訳ではないが、一度有利になってしまえばあとは楽だ。
あとは残った敵を倒すだけだ。
街の攻め込みは失敗、召喚獣に勝てるわけもなく、敵は引いていく。
避難所にこの情報は直ぐに伝えられ、安堵の声と悲しみの声が聴こえる。
誰もが生き残ったのではないが、街は守れた。
獣は思う。
これはきっと、誇ってもいい勝利なのだと。
街の皆で協力して、二つの軍隊から街を守り抜いたのだと。