3 風呂に入りたかったんだけど。
霊体であるが疲れる、彼らの家から自分の召喚された場所がどれだけ遠いかわかる。霊体状態で浮遊しながら移動しているのに気分的に疲れてしまう。だが家まで案内してくれている彼は全く疲れていない。
彼の名はロイといい。緑色の髪をした元気な少年だ。ここに居る子供たちは全員奴隷らしく、ロイもその一人だ。
主人はメイドや執事は雇っておらず、家事は全て奴隷任せだったらしい。
主人がイラついた時はムチで叩かれていたそうだ。そのため身体は傷だらけでとても痛々しい。
主人というのは、あの太った男のことだろう。どこまでも腹の立つ野郎だ。散々イジめた挙句、彼らを生け贄にしようとしたのだ。
生け贄は全員で六人、これが奴の持っていた奴隷全員らしくこいつらを俺に喰わせたあと契約し、戦場で金を稼ぐ予定だったらしい。
まあ、六人分の生け贄を一人で済ませれた分あいつにはそれなりの魔力があったらしい。
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「着きましたよ、召喚獣様」
「案内ありがとな、ロイ」
どうやら家に着いたらしく。その家はとても大きく豪邸だ。大きな庭に二階建ての屋敷。植木や芝の手入れはよくされており、彼らの有能さが溢れ出ていた。それにしても、屋根の上にくっついている大きな白色のクリスタルが気になる。
「エリナ、屋根についてる、あのでっかいクリスタルは一体なんなんだ」
「あれは魔結晶ですね。魔結晶は色々な効果を持っていて、屋敷に置いてあるのは召喚獣ジャマーの効果ですね」
「え、それってヤバくない、俺大丈夫なの?」
「それは大丈夫です。あれは機械でコントロールするタイプの魔結晶なので。それにしても、召喚獣様は運がいい御方です。まさか主人の持っていたコントローラーが突然、故障したとは、もし故障していなかったら、見動きの取れぬまま強制的に契約を結ばされていたことでしょう」
どうやら、魔結晶を操るコントローラーが故障していたらしく、ジャマーをかけられずに済んだらしい。俺らしくも無い強運だ、きっと契約のお陰だろう。
「どうやら、大丈夫らしいし。ロイ、風呂場まで案内してくれ」
「召喚獣様、それは俺らの風呂ですか、それとも屋敷の方ですか」
ロイは、とてつもなく大きな屋敷とぼろぼろの小屋を指差す。きっとぼろい方が彼らの家なのだろう。
「屋敷の方だ。大浴場ぐらいあるだろ。そこで皆で風呂に入るぞー」
屋敷の風呂に入ることについて、辺りがざわつき出す。奴隷である彼らは屋敷の風呂に入ったことが無いのだろう。
「いいん、ですか? 召喚獣様、私達はお風呂、と言っても……濡れた布で体を拭くぐらいで……」
「何を遠慮しているんだ。さあ、行くぞー」
茶髪の女の子が、遠慮しながら質問してくる。奴隷である自分達が風呂に入る事についての遠慮だろう。
だがそれは愚問だ。彼女達はもう奴隷では無い、主人はもう死んだのだ。遠慮する必要など無い。
そんなことよりも、俺は大浴場にわくわくしている。さっさと屋敷に入ろうとしたとき思い出す。
転生した俺の身体は超でかいんだった。
霊体化すれば体の形を自由に変えれるものの、質量が無く、そんなもので風呂に入った気分になれるはずがない。
風呂の時間が終わり、外も暗くなってきた。おそらく、午後六時ぐらいの時間帯だろう。
家事は、交代制らしく。今日は、ロイとエリナが飯の当番だそうだ。
皆で食卓に着き、飯の到着を待つ。しかし俺は飯を食わなくてもいいし、そもそもデカすぎて飯が食えない為、エリナのペンダントの中で一休みをする。
金はある程度あり、これからの生活はある程度の間は大丈夫だろう。
しかし、仕事は必要だ。契約の願いの一つ、『戦争を終わらせる』これもどうにかしなければいけない。
やはり、戦場で稼ぐのが手っ取り早い。
一度、エリナに相談すべきだろう。
『エリナ』
『どうかしましたか』
脳内に直接話しかける。
これは、契約した者同士の間でしかできないがなかなか便利である。
『金を稼ぐためにも、契約を果たすためにも、俺は戦場で稼ごうと思うんだが、お前らをどうすればいいか迷ってな』
『それじゃあ、戦場に連れて行ってください』
『お前、戦場がどれほど恐ろしい場所か知ってるのか』
俺も知ってはいないが、転生した俺ならば大丈夫だろう。だが子供を戦場に連れて行く訳にもいけない。
『知っています。一度私達は少年兵として戦場に駆り出されましたから。しかも、召喚獣様には私達を守る契約があるはずです。遠くに行かれてしまっては意味がありません』
『…………』
言い返す言葉が見つからない、契約を出されてはどうしようもない。
『それに、召喚獣様が居ればどんな戦場も安心ですしね』
『決定、だな……。あとは皆に聴いてみるか』
食事の準備は終わり、いただきますの挨拶をする。骨付き肉に白米、サラダに水と、それ程豪華では無いがどれも旨そうである。
俺を抜かした全員が、その旨そうな料理を勢いよく食べ始めた、全く羨ましい限りである。
そんな彼らにとっては至福の時間であろうタイミングで俺は一つの質問をした。これからの未来を大きく左右する質問を。
「食べながらでいいんだ、皆に聴いて欲しい事がある」
「どうしたんだ、召喚獣様」
エリナのペンダントから声が出てくる光景は、なかなかシュールであろう。
しかし、皆が揃っているこの瞬間が本題を切り出すチャンスだ。
「お前らには、金を稼ぐために俺と一緒に戦場に出て欲しい」
「なんだ、そんなことかー」
「大した話じゃねーな」
「召喚獣様が居れば安心だしね」
驚く者も拒否する者も居ない。俺に対する信頼が重い。
「そこで、ギルドを作ろうと思う。少年兵と召喚獣のギルドを……」
「いいじゃん」
「臨むところだ」
歓声はどっと上がり、彼らはやる気を見せる。
ギルド設立と風呂に入るが新たな目的となった。