解決策はリストカット
僕が生きてる理由って何だろう。
ねえ、みんなの生きる理由はなに?
僕は凡人だから、1号や2号みたいにすごい人じゃないから。
僕なんかが、アイドルを目指すこと自体がおかしなことだったんだ。
「おいお前」
なんだよ、また2号か……ノックくらいしてよ。
「なに」
「どうしたんだよ。今日は仕事はサボりか?」
「……別に、どうだっていいじゃん」
「どうせあれだろ?」
「わかってるなら、聞かないで」
「お前ってさあ……」
「うるさい!!うるさいうるさい!!2号は黙ってよ!!うるさい!!消えろ!!」
「……あっそ、じゃ」
……わかってる。
今のは八つ当たりだよ。
ほんとうは僕が間違ってる。
でも、認めたくない。
なんだよ、涙は止まらないし、苦しいし。
こんなとき頼れるのなんて、ネットしかないんだよ、僕にはさ。
僕はわからないことがあればすぐに質問するのさ。
もちろん、ネットでね。
『自分がクズすぎてイライラします。こんなとき、どうしたらいいですか?』
投稿、っと。
もうやまねこなんて引退して、この質問サイトに入り浸ることにしようかな、なんて。
……早速回答が来た。
どれどれ?
『リスカとか、どうですか?』
は?
なんじゃそりゃ……なんとなくはわかるけど、ほんとうにそれでこのイライラは消えてくれるのか?
まず、やり方がわからない。
そうとなれば、質問するしかないよな。
『リスカするには、まずはなにをしたらいいんでしょうか?』
うーん、人に聞くようなことではないとわかってるけど……あ、回答だ。
『なにするもかにするもない。好きにやっちゃえばいいじゃん。ま、自己責任だけどね?
やり方なんて簡単だよ。刃物でもなんでも持ち出して手首切るだけ。
どんな理由があってこんな質問してるのか知らないけど、死ぬ気がないなら手加減しなよ』
……お、おう。
わざわざご丁寧にどうも……って、出来るかいな!!アホか?!
絶対痛いだろ。
僕、痛いのは好きじゃないんだよなあ。
でも……僕みたいなクズには戒めが必要なのかも。
たしかに僕は自分に甘すぎるんだ。
1号も2号も、才能だけでやってきたわけじゃない。
1号は決して勉強が好きだったわけじゃないけど、夢を叶えるために毎日必死に勉強してる。
2号は周りの期待に応えるために身だしなみに気をつかって、愛想よく振る舞うよう心がけてる。
二人にだって、挫折はあったと思う。
……僕には挫折を受け入れる力さえないのか。
手首は痛そうだけど、手の平なら。
手の平くらいなら、大丈夫、かな?
カットといえば、やっぱりナイフ?
包丁は刺さりそうだし……ああ、カッターか!
そうだ、一度そういう漫画を見たことがある。
チキチキ。
刃を出す効果音のシーンだけ、かなり鮮明に覚えてる。
「たしかこのへんにしまってあるはず……あった」
机の引き出しの奥からカッターを取り出して、握ってみる。
刃が錆びてる。
一応、新しい刃に替えよう。
ええい、やるしかないだろ!
チキチキ。
「ってえええええええええええええええええ!!!」
は?
痛すぎる。
僕はカッターの刃を左手の平に突き刺した。
血、噴き出た。
「なんなんだよもう……」
血と涙と脂汗が止まらない。
さっきよりもイライラする。
痛い。
痛い、けど。
痛いけど、でも。
僕は血管に巻かれた手首に刃を突き立てる。
心臓がバクバクして、なんだか今、すごく生きてるんだ。
なるように、なれ。
目を瞑ってカッターを握る右手をスライドさせた。
「いったぁ……」
目を開けて傷口を確認しようとした。
でも、傷口よりも先に目に入って来たのは、男。
は?
いや、もうこれで何回「は?」って言ったかわからないけどさ。
「こんにちは、世恋ちゃん」
「だ、誰ですか。警察を、呼びます、よ?」
「警察なんて、物騒だなあ。それにさ、キミがボクを呼んだんだよ。ボクは世恋ちゃんの彼氏だから」
いやいやいやいや。
夢か?これは夢なのか?
彼氏?
まず手首から彼氏出てくるとかなに?
この男はたしかに僕の左手首から出てきた。
傷口からは血は一滴も出ていなくて、代わりにこの男が出てきたんだ。
最初は細い毛糸みたいな、そんな感じだった。
毛糸が光って、いきなり人間になった。
「驚かせちゃってごめんねえ。ねえ、世恋ちゃん」
「な、なんですか」
「今日から世恋ちゃんはボクの彼女だよ」
「は、はあ?」
誰か助けてください。
僕、手首から彼氏を生んでしまいました。
◆つづく◆