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大炎上!燃えた日記

 そう、僕は女の子。

ネットの世界では男の子として生きる女の子なのだ!


 正体がバレれば僕のネットアイドルの夢は崩れ去ってしまう。

だからヨシオと付き合うこともできないし、そもそもヨシオって誰だよ!(怒)


 とにかく、ファンの女の子と付き合うのは無理なんだ。

コメントは返信しないままにしておこう。


 今日はなんだか疲れた、というかがんばりすぎた。

ベッドの上でまたーりしよう。



 とんでもないことになってしまった。

僕のコメント欄が燃えていた。

そう、炎上していたんだ。


 事件発生は今朝。

僕は珍しく朝七時に起きて、久しぶりに朝ごはんというものを食べた。


 朝ごはんのあと、僕は早速今日の仕事に取りかかった。

やまねこを開くとなんとまあ、僕のコメント欄が(略)


 コメント欄には僕を貶す言葉の数々。


『ネットで女釣るとかかわいそうな奴。正直引く』


『誰だよこの麦茶ww 中身はキモヲタなんじゃねーのwww』


『誰でもいいから付き合いたい臭がすごい』


 どういうことだ!

僕は自分の目を疑った。

きっと仕事のしすぎで目がおかしくなったんだと思った。


 目薬一本分を二つの目玉に注入したあと、僕はもう一度コメント欄を見た。

取り乱した僕はパソコンの画面に向かって華麗なるチョップを決めた。


 でも、やっぱり僕の目は正常だった。

このときはもう目薬なんて乾いてるのに目玉からナイアガラの滝だった。

悲しくて涙が止まらなかった。


 コメント欄の上から下まで、ひどい言葉がびっしり。

ほんと、どういうことなんだよ。


 もしかして僕の読者だった千人ちょっとのみんながとんでもない有名人だったのか?

だからこんなにもディスられてしまったのか?


 僕、マズいことしちゃったかな……


 ネットを初めて四か月。

ネットの中では非難されたことなんて一度もなかった。

ネットの中の僕は、有倉タカキは完璧だったはずなのに。


 どうして?

お母さんの言った通り、僕は人に優しくしただけなのに。

やっぱりご近所付き合いとネットは違うのかな。

母さんが嘘をつくはずないし。


 僕は画面右上の×にカーソルを合わせて一度だけクリックした。

パソコンの電源を押してパソコンを畳んだ。


 ああ、また失敗した。

僕は、どうしていつも失敗してしまうんだ。



 僕は……ううん、私は小学生になったばかりのころ、みんなにちやほやされていた。

すごいお兄ちゃんとかっこいいお兄ちゃんがいたから。


 特に女子はみんな私の家に来たがった。

私と遊ぶためじゃなくて、お兄ちゃんたちに会うために。


 お兄ちゃん1号は勉強が得意で、お兄ちゃん2号は運動が得意だった。

かくいう私は、勉強も運動も大嫌いだった。

先生がいつも言った。


『お兄ちゃんはできるのに』


 私はいつもお兄ちゃんたちと比べられた。

何をするにも、どこに行っても。


 親戚の人もみんな私のことをバカにした。


『お兄ちゃんたちはよくできた子だけど、世恋はどうしてそんなに凡人なのかねえ』


凡人の意味はよくわからなかったけど、褒めてないことくらいわかった。


 私はお母さんの子どもじゃないんだって思っていた時期もあった。

でも、お母さんはほんとうのお母さんだった。


 お兄ちゃんと私を比べることもしなかった。


 一度だけ、『私なんかが生まれてきてうれしかった?』と聞いたことがある。

お母さんは急に泣き出して、私を抱きしめて言った。


『世恋が生まれてきてくれてほんとうにうれしかった。世恋はお母さんの宝物だよ』


 中学生になってから私はがんばった。

勉強も一日何時間だってやった。


 パソコンもケータイも持ってたけど、そんなもの必要ないも同然だった。

朝だって夜だって関係なく勉強した。

学校の休み時間も、部活の休憩時間も、お風呂に入っているときも勉強した。

成績は毎回トップクラスだった。


 部活は吹奏楽部に入った。

運動部ほどではないかもしれないけど、吹奏楽部もほんとうにハードだった。

それでも私は挫けなかった。

夜遅くまで一人で音楽室に残って練習した。

部長だって務めた。


 三年生の夏休みが終わって、みんな受験モードに入った。

私は変わらずに勉強を続けた。

部活も引退して勉強する時間が増えたおかげで、テストで学年一位になったこともあった。


 ある日突然、私はいじめられるようになった。

まずは無視と仲間はずれから始まった。

もともと友だちがたくさんいたわけじゃないから、最初は気が付かなかった。

でも、よく話していたクラスメイトや部活の友だちも話をしてくれなくなった。


 <私>がいないみたいだった。


 だんだん悪口と暴力が加わってきた。

ひどいときには授業に出れらないこともあった。

トイレに監禁されて他のクラスの見世物にされたこともあった。


 それでも私は勉強を続けた。

学校にも毎日登校した。


 私には目標があった。

お兄ちゃん1号と同じ高校に行くこと。

1号の通っていた高校は日本有数の進学校で、かなりハイレベルなところだった。


 私の実力はそこを目指すに値していた。

受験まで一秒も休まずに勉強した。

社会の成績だけがどうしても伸びなかったけど、他の教科でカバーすることだけを考えてた。


 ご飯も飲み込めないくらいに私の体は弱っていたけど、そんなことはどうでもよかった。


 私をバカにした人間を見返してやりたい一心だった。

そのためなら命さえ惜しくはなかった。


 でも、ダメだった。

私は受験に失敗した。


 受験の前日、ものすごい疲労感で何度も倒れかけた。

お母さんは私を病院へ連れて行こうとした。


 でも、今までの努力を水の泡にするわけにはいかなかった。

案の定、試験の最中に私は泡を吹いて失神した。

極度の疲労と睡眠不足が原因だった。


 お母さんは「私立でもいいのよ」と言ったけど、私にはもう受験する気力は残っていなかった。


 そんなわけで、僕はニートになったんだ。


 大きな挫折だった。

引きこもりになった理由もそう、受験に失敗したから。

僕はほんとうにダメな人間だから。


 だけどネットは偉大だった。

こんな僕のような人間さえ受け入れてくれた。


 僕にはネットがすべてなんだ。

それなのに、ネットにも居場所がなくなってしまうなんて。

これじゃあネットアイドルなんて無理だよ。


 僕が――<小林世恋>が存在する意味は、あるのかな?


◆つづく◆

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