見知らぬ土地の見知らぬ自分
目が覚めた。そのままの姿勢で辺りを見回す。貴方はベッドに寝ていて、木造の部屋に居る。身体を動かそうとして全身に痛みが走った。しかしながら動けないわけではない。掛け布団をめくり、ベットの脇へ足を下ろす。すると何か柔らかいものを踏んだ。
「ぐふぇっ」
慌てて足を上げる。すると、腹をさすりながら若い男が立ち上がり、話しかけてきた。
「いてて、おー起きたか。身体はまだ痛むかい?あと、腹減ってる?」
あなたはありのままを伝える。
「そうか、まぁ骨は折れてなかったにせよ、随分な衝撃だっただろうしな。今食事を持ってくるから、少し待っててくれ。」
そう言うと男は扉から出て行った。階段を降りる音が聞こえ、一階からの騒ぎ声だけが微かに響く。貴方はベッドに横たわり、溜息をついて考える。
「…一体私は…誰だ?」
「おいおい、マジで記憶喪失なのか⁉︎」
男は机に手をつき、椅子を後ろに弾きとばしながら驚いた。
あなたは男の持って来た食事を口に運びながら話した。
「記憶喪失になった奴なんて初めて見るわ。じゃあ、あの人形の事も忘れちまってんのか?」
貴方は人形について聞き返す。
「あんたが入ってた人形だよ。電気うなぎのブレスを食らって、そこから投げ出されたあんたはその様さ。まぁ1回見た方がいいかもな、何か思い出すかもしれないし。倉庫に運んであるから後で見に行こう。あぁ、医者がくるから、そのあとな。」
男は食事を片付けて一階へ降りて行く。貴方はうつむき、思考を巡らす。誰も自分を知らない、自分さえも自分を知らない。貴方は不安を紛らわすように窓から外を覗く。青空に、岩のような雲が浮かんでいた。
医者の診察を受け、激しい運動は避けるようにと釘を刺された後、貴方は一階へ降りる。すると先ほどの男が待っていた。
「よぉ!…あぁ名前も忘れちまってんだよな。何て呼ぼうか?そういえばこっちの自己紹介もまだだったな。俺はフェルゼン=ラファル。このギルドのトラブルシューターだ。こう見えても結構名前は知れてるんだぜ。とりあえずこっちに来てくれ。」
フェルゼンと名乗った男と共に倉庫へ足を運ぶ。
「これだ、何か思い出さないか?」
フェルゼンが覆いを取ると、貴方の胸に何かがこみ上げる。それは何なのかわからない。悲しみか嬉しさか、憎しみか愛おしさか。貴方は思わず手を伸ばし、それに触れた。すると人形の胸のハッチが開く。
「やっぱりあんたの物で間違いなさそうだな。名前とか書いてないか?」
貴方は我に戻り、人形の中を見渡す。中にプレートを発見しその文字を読む。
「魔導甲冑 進革式 100030 ブラン=スカー…これは…私の名前…か?」
「おぉ、ブランっていうのか。よし、改めてよろしくなブラン。」
貴方はフェルゼンへ向き直り、彼の顔と手を交互に見た後、彼が差し出した手をしっかりと掴んだ。貴方の表情は先ほどより明るく、少し笑っていた。