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おめかし

 ……ジークとお出掛けする事に何ら問題はない、のだけど……ジークがデートとか言うから、何だか、無性に恥ずかしい。いえ、確かに婚約者二人でお出掛けって事になれば確かにデートなんだけども……!


 午後からのお出掛けだから時間に余裕はあるのだけど、逆にその待つ時間のせいでどきどきが積もっていくから、困る。

 心臓がうるさいしそわそわしてしまうし、服とかどうしようとか考えたら頭が一杯になってしまって、どうもそれが顔に分かりやすく出てしまっていたみたい。


 私の様子を見ていた侍女のイザベルにくすりと笑われてしまって余計に恥ずかしくなった。


「マリー様は浮かれていらっしゃいますね」

「そう、かしら」

「はい」


 ……これが浮かれていると言うのかしら。どちらかと言えば狼狽えている、という方が正しいのだと思うけど。

 でもイザベルは年齢はそう変わらないけど長年私に仕えてくれているし、間違った事は言わないから、そうなのかもしれない。


「ジークヴァルト様とのお出掛けが楽しみなのですよね?」

「それはそうだけど……」

「では、装いも他所行きのものにしましょうか。マリー様はいつも身軽な格好で外に出てしまいますので。昔なんて泥だらけで帰って来て……」

「もう、それを引き合いに出さないで頂戴! あ、あれは昔の事だもの!」


 私が八歳の頃から仕えているイザベルは、文字通り十年来の付き合いがある。イザベルが四つ歳上だから、私のお姉さんみたいな感覚で付き合って来た。

 ……付き合いが長い分私の小さい頃の事もよく知られているし、私の事自身も把握されてるので、偶に昔の事を言われて唸ってしまうのだけど。


「ジークヴァルト様も覚えていらっしゃると思いますよ。マリー様が木登りしたりよく転んで擦りむいていたり、」

「あれを蒸し返さないで! 今では恥じてるから!」

「分かっております。今では立派な淑女ですものね」

「……何か含みがある気がするわ」

「気のせいですわ」


 にっこり、満面の笑みで流すイザベル。私付きの侍女とはいえ、一人っ子の私にとってはお姉さんみたいなもの。向こうも妹みたいに思ってくれているのか、ちょっとからかってきたりする。


 立派な淑女、かどうかはさておき、昔に比べれば落ち着いた筈。

 ジークと離れてから無駄な外出を控えるようになったし、敷地内を走り回ったりもしなくなった。それが淑女としては当たり前なのでしょうけど。


 もう、と唇を尖らせると「そういう所はまだ可愛らしさが抜けきってませんね」と指摘されて、反論は出来ない。……イザベルのはっきり言うところが好きだから、良いのだけど。


「さて、ではデートに向けておめかししましょうか」

「だからデートって、……いえデートで良いわ。お願いするわ」

「畏まりました」


 あんまり気合いを入れすぎないように、とだけは付け足して、後はイザベルに任せる事にした。




「……マリー?」

「違うの、これはイザベルがね?」


 お出掛け前に改めて顔を合わせると、ジークは驚いた顔。

 ……違うの、こんな如何にも令嬢って感じの上品な服は着るつもりなかったの。もっとラフな格好をするつもりだったの。普通に簡素なワンピースで良かったの。だからこれは私が気合いを入れたとかそんなのじゃなくてね?


「ジークヴァルト様のご期待に応えるとマリー様が」

「そんな事言ってないわ!」

「ほー……マリーは期待してくれてたんだ?」

「違っ、違……わなくもないけどっ、こんなにめかし込むつもりはなかったの!」


 ああほら、ジークがにやにやしてる。決して嫌な感じはないのだけど、ちょっと嗜虐心が覗いているというかからかう気満々の笑顔だわ。

 だからもう少し控え目にって言ったのに……!


「それにしても、マリーを飾ってくれたのはイザベルか? お陰で可愛いものが見れた、ありがとう」

「光栄です。あくまで、マリー様の為ですから」

「……ああそうか、君は俺の事が嫌いか」

「何の事でしょうか」


 にこりとしつつも頑なな態度のイザベルに、ジークは苦笑。……心なしか、イザベルの瞳の温度が冷えている気がする。


 イザベルとジークはあまり折り合いが良くなかった、かしら? 仲が悪いというか……イザベルがあまりジークを快く思っていないのかも。

 でも、小さい頃は、そんなに険悪じゃなかったわ。幼いジークの事を嫌っていたなんて思えなかったもの。


「不敬とは思わないから言ってみろ」

「嫌いです」


 すかさず答えたイザベルに絶句すると、ジークは怒った様子もなくた だ不思議そう。


「俺は君にそんなに嫌われるような事をした覚えがないんだけどな」

「六年前」


 イザベルが小さく呟いた言葉に、大仰なまでに肩を揺らすジーク。……六年前、がどうかしたのかしら。


「私は肝を冷やしました。幼かったあなたを責めるのも酷だとは思いますが。……これでお分かりでしょうか」

「あー、分かった分かった。俺が悪かった。……今度はあんな事にならないと誓うから」

「そう願っております」


 二人はそれだけで通じたらしく、イザベルは至極硬い真面目な表情、ジークは苦々しい顔。何で主人の私にはさっぱり分からなくてこの二人は分かりあっているのだろうか……むむ。


 六年前、と言われても、私はジークと離れた事以外はなかったし……あの事を言ってるなら、寧ろ責められるべきなのは私の方な気がする。私が、ジークを怪我させて……。……させて……?


 ……六年前の、あの事を思い出そうとしても、上手くいかない。何故、ジークが怪我をしたのか。

 私とジークの意見は食い違ってる、私は私が悪いって漠然と感じていて、ジークは自分が悪いとの一点張りだった。ジークは、何があったのか覚えてるみたいだけど、教えてくれないし。


「マリー?」


 そこで声をかけられて、私は少し考えに耽ってぼんやりとしていたらしい事に気付く。

 慌てて視線を二人に戻すと、ジークは少し窺うように此方を見ている。


「どうかしたか?」

「ううん、何でもないの。ただ、昔のジークは可愛かったなって」

「それはそろそろ忘れてくれないかな……目の前のジークを見てくれ」


 誤魔化しは出来たらしく、ジークは微妙に渋い顔を浮かべて少し不満そうだった。


「み、見ているけど……」

「足りない。もっと今の俺を見て、俺を知ってくれ」

「……善処します」


 それは努力してるつもりなのだけど、中々に上手くいかないというか……だからこそ、こうしてお出掛けしたりして仲良くなろうとは、思ってるし。


 頬を染めながらもジークを見上げる私に、ジークは満足そうにほんのりと口元を緩める。……何だか、どんどんジークの思うがままに動いている気がする。


「さ、街に行こうか」

「う、うん、そうね」


 私が案内するというのに何だか立場が逆転している気がしたけれど、もう指摘する気もなくてぎこちなく頷いた。

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