29「まずはいじってみよう!」
「魔術とは魔力の量により威力が変わり…また…」
俺は今日も今日とて本を読む。
無駄に知識だけが増えて行き、いまだに固有魔術のヒントは掴めずにいた。
「これが魔術の理である…っと」
そしてまた一つの本を読み終える。
こう言うのは情報収集が基本、だから本、知識の源を辿っている訳だが、読んで行けば行くほどにわかる。
固有魔術の作成は本当に難しい物なのだと。
一から魔術式を組み、式を完成させ正解に辿り着いた瞬間に新たな魔術は完成する。
その行程が複雑すぎる。
一つの魔術を完成させるにはその魔術の全てを理解し、実現しなければいけない。
「はぁ…マジでどうしろってんだ…」
ヒント…何か一つでも。
固有魔術に繋がるヒントがあれば…きっと前進できるんだ。
考えろ、俺が作れる固有魔術を。
「ん?」
そこでふと一つの本を目につける。
「身体強化の魔術本…」
俺は即座にそれを開いて読み始めた。
「魔術の行程を成した身体魔術は強固な盾以上の防御性能を持ち、また攻撃の応用に使う事が多い…そして『少ない魔術式』で構成されている…これって…」
魔術式…魔術の根元となるのは魔術式があってこそ…そしてそれが少ない式で構成されているとすれば…ならそれを…。
「試してみるか…」
俺は、一度試すことにした。
まずは洗練された固有魔術ではなく、至って魔術式を組みやすい式を。
そこで、俺が目につけた一つの魔術。
『身体魔術』
これはネスの授業でも一度出た、纏い術。
正式名称が『身体魔術』と言うらしい。
簡単に説明すると体の一部に魔力を纏い、何倍もの力を発揮すると言う。
使える人は数える程らしい。
だが、この術式行程はそんな大したもんじゃない。
なら少しいじれば、俺にでも使えるかもしれない。
だからまずは試しに固有魔術の作成ではなく、魔術式の変換、これを先に行う。
「さて、んじゃやるか」
俺は手を前に翳して、唱える。
通常の基礎となる身体強化の魔術の詠唱はこうだ。
「《我が体に求める、鋼の心を》」
……まぁなにも起きないか。
なら、これの魔術式を少しいじってみよう。
簡単に例えるとこれは魔力を体全体に纏う術。
ならば、魔力の流れと詠唱の魔術式を変えたらどうなるか。
もしかしたら書き換え次第では俺でも使えるかもしれない。
こっからは実験だな。
「《我が体に求める、無の心を》」
…………………………実験成功だな。
これは簡単に言うと認識阻害の魔術式に変更した訳だ。
魔力の流れを外ではなく内側へ、そして詠唱文はキーとなるパスを使い唱える。
これで、一応は魔術式の変換が完了した訳だ。
体の中に魔力が静かに止められてるのがわかる。
目の前に積み重なる本達が魔力の流れ、使いようによって変わると言う事を教えてくれた。
今まで、読んだ本の知識は無駄じゃない事の証明かな…まだ前進はしてない。
もっと理解に理解を重ねれば詠唱だって…。
ここから繋がるはずだ。
魔術式の変換を成功させる事が出来るなら…新しい魔術式の構築だって…だからこれはその一歩だ。
「こっからが本番だな…」
廻は楽しくなってきたと言わんばかりの笑みを浮かべ、魔術式の変換に明け暮れていたのだった。
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ボックスの中にて。
今日は廻とネスの模擬戦の日である。
「フッ!!」
廻の木剣がネスの頭上を捉える。
だが、ネスは崩れていた姿勢を即座に正し、バックステップして距離をとって避ける。
その瞬間、手をこちらに向け、詠唱と共に思いっきり踏み込んでくる。
ゼロ距離からの魔術狙いか…。
「《我、臨むは風の加護…」
まずは実験一だな…。
「凪ぎ払え》!」
ネスは詠唱を終了する。
そして距離が縮められ、俺はその瞬間を狙う。
詠唱は間に合わない…なら体内の魔力を操作してやればいい!
身体の強化を魔力だけで補うのは他の魔術に比べれば難しくない。
魔術式が単純だからこそ、この術が使えないのは単に、自身の魔力の流れを理解してないだけなんだ。
この魔術式は流れを理解してないから詠唱をしてしまう。
ただその構造を、体内の魔力を、流れを。
全てを理解すれば…。
俺はイメージする、そして理解を忘れずに…足に魔力が流れて行くイメージを…イメージ…イメージ…!
「ッ!!」
廻はいつの間にかネスの背後を取っていた。
「なっ!?」
「これで!」
そして、廻の木剣がネスの背後をとった。
廻は木剣をネスのうなじに止める。
「………」
訪れる沈黙。
「…僕の負けだよ…」
勝っ…た…?俺が…ネスに…?
「いぃぃいよっしゃああああ!!」
俺はこの日、初めてネスから一本とった。
いくらネスが本気で戦ってないと言っても確実に進歩はしていると確信した。
それにしても実験成功だな。
俺が歓喜に溢れていると、ネスはこちらに寄り訊ねる。
「廻、さっきのどうやったんだい?
見たところ魔術を使った様には見えないんだけど…」
「あぁ、あれはーー」
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「ってな訳」
廻は説明を終える。
僕はただ、唖然とした。
魔術師の根本を覆された。
何故なら彼は、今まで、幻想とも歌われた無詠唱を実現させたからだ。
誰もが不可能だと。
そう断言せしめる難問を、彼は魔術式を崩すことによって、魔力の流れを理解することによって、想像したことによって、成し得た。
そして先程感じた、魔力が一気に廻の足に暴発した様な感覚がまだ離れない。
相当な魔力を消費したと見える…なのに…。
「よし!んじゃもう一回頼むわ」
何でそんなピンピンしてるのかなぁ…。
僕は彼の馬鹿げた魔力量を理解しているとは言え、流石に規格外すぎて苦笑いを浮かべたのだった。
読んでくださりありがとうございます!
さて!ここからやっと、廻くんが急成長します!
いやぁ!書くのが楽しくなってきた!ではまた!




