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規格外な魔力量で異世界成り上がり!  作者: あだち りる
第三章「固有魔術(オリジナル)!」
26/31

26「温もり!」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

「廻」


懐かしい声が聞こえた。

暖かくて、聞くと落ち着く。

いつも聞いていたあの声、もう聞ける事のない声。

いつも俺には優しくて、甘くて、そんなあの人の事が、俺はどうしようもなく好きだった。

あぁ…暖かいなぁ…何で俺を置いて行っちゃったの…?


「かあ…さん…」


廻の頬に、涙がツゥーっと流れる。

それと、同時にゆっくりと目を覚ます廻。


「ん?ここは…」


俺は状況確認するため、周りに目をやる。

するとそこにはベッドに寝ている俺に、両の手で俺の右手を優しく握っているエリエルさんの姿があった。

とても、優しい笑顔をしていた。


「えっと…説明求めても…?」


廻は苦笑いを浮かべる。


「廻君はルナさんとの模擬戦で、倒れちゃったの。

ルナさんはあれでも手加減したつもりだったらしいんだけど、あの人加減を知らないからってネス君が怒っていたわ。

誰が治すと思っているのさ、だって」


クスクスと笑いながら答えるエリエルさん。


「それはまた…」


言われて見ると体の痛みがいつの間にか癒えていた。

いやぁ…ネスには迷惑をかけるね。

ネスがいるからこそ、俺は遠慮なく稽古に打ち込める、それはとても頼もしく、嬉しい事だ。

叶うなら、このままずっと、ここで魔術や剣術を教わりたい。

俺は心からそう思った。


ヒロインとの壮大な冒険とか、せっかくの異世界だから色んな所に行きたい。

その気持ちは勿論ないこともない。

けど、ここから離れたいとも思えない。

これはあまりに酷な二選だと、廻は心の中で苦笑い。

それ程に俺は、ここでの生活が気に入っていたのだった。


廻がベッドから起き上がると、エリエルは廻の手を何故かぎゅっと握り締めた。

廻はそれを疑問の顔で見つめる。

エリエルの顔を良く見ると、その顔は何処か悲しそうに俺を見ていた。


「廻君、私はこう言うのは心の奥にしまうのが本当は正しい事だと思う。

けど、私はそんなに心が強い人じゃないの。

とても脆くて、すぐに泣いてしまう。

だから、私は廻君に言わなきゃいけない」


「急になんですか?」


その言葉に未だ疑問に思う廻は、少し冗談めいた笑いをする。

だが、エリエルの次の言葉で理解する。


「廻君…目覚める前にね…母さん、って言って、泣いてた」


廻は目を見開く。

それは予想などまったくしていなかった言葉だからだ。


もう、大丈夫だと、強くなったと、克服したと、そう思っていたのにな…やっぱり、まだ俺は何処かで母さんを。


廻は手を広げて笑う。


「いやぁ聞かれちゃいましたかー!

まさかの俺氏マザコンバレまんた。

割りと結構いやかなり恥ずかしいから詮索はやめてね~?て言うか!俺ってば夢の中でもママの事を思いながら泣くとかどんだけホームシックしちゃってん…の…」


廻は自分の気持ちを、本当の心を、誤魔化そうとした。

だが、それは途中で止まった。

それは余りにも、エリエルが悲しい顔をしていたからだ。


廻はエリエルから視線をそらし、下を向く。

向くしかなかった、今の廻には、あの顔にどう答えるべきか何て言うのは出てこなかった。

ただ、罪悪感だけが、心を染める。


あんな顔をさせる為に、虚言を吐こうとした訳じゃない、ただ俺の事で心配をかけたくなかったんだ。

けど…エリエルさんは全てわかっていた。

わかっていたから、あんな顔を向けるんだ。

俺なんかの為に、こんなちっぽけな奴なんかの為に、エリエルさんは優しすぎる。

時にその優しさが、心に刺さる。


そんな廻の心情を察せざるをえない、エリエルは心の中で迷っている。

今私がどうすべきか、廻に何を言ってあげられるか。

そんなのは一つしかない。


エリエルは廻の手から両の手をどかした。

その瞬間だった。


「っ…!」


とても暖かい温もりが、廻を包む。

エリエルは、廻を自分の胸に抱き寄せていた。

頭をゆっくりと撫で、優しい声音で言う。


「廻君、君にどんな過去があって、何があってそんなに苦しんでいるのか、私にはわからない、だから、わからないなりにわからない私は、私に出来る事をする。

今の私が廻君に出来るのは、こんな事ぐらいだから」


エリエルはただただ、優しく廻を包んだ。

廻は歯を噛み締めて、目から沸き上がってくるものを堪えて、ただエリエルに身を寄せていた。

何でこんな感情が心を埋め尽くすのか。

それは昔自分が母に感じた温もりと、まったく一緒だったと言う理由なのかも知れないと。


廻はそんな感情を心に閉まった。

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