11「滅びの魔女!」
昔話をしよう。
この世界に終焉をもたらした一人の魔女の話を。
魔女は世界が憎かった。
憎くて憎くて仕方がなかった。
なのに…とてつもない喪失感だけが残った。
後悔した。
この世界に、この世界を壊した事に。
後悔だけが残ってしまった。
魔女は世界の修復を待った。
この世界は壊したところでまたやってくる、そう願って。
魔女はとあることを考えていた。
そうだ、もしこの世界が戻ったら子供を作ろう。
私みたいな奴にならないように、後悔しないような子供を作ろう。
男の子でも女の子でも構わない。
作ろう。
だけどその前に、好きな人間を作らなければならない。
好きな男の人を作ろう。
そう決めた。
魔女の願いは叶った。
世界は戻った。
どうやらまだ生きてた人間がいたらしく、世界は修復に近付いた。
世界が完全に戻り、私、魔女と言う存在はおとぎ話の中に消えていった。
五百年が経った。
魔女は、魔女とは名のらず、平穏に暮らした。
そんなある日だ。
魔女は、一目惚れをした。
木の下で一人眠る少年に好意を抱いたのだ。
今まで抱かなかった感情が、胸を動かした。
魔女は数えられないくらいの歳をとった。
だけど見た目は変わらない。
これは魔力のお陰だ。
魔女の魔力の量は人なんかとは比べ物にならない。
そこそこ魔女はいい見た目だ。
彼と恋仲になるために魔女は普通を心掛けた。
普通の人間。
普通の女の子。
とにかく普通を目指した。
そして魔女は彼に近付いた。
彼と恋仲になることが出来た。
彼は話すと、とても優しく、穏やかな少年だった。
なんとも魔女の理想の人間なのだろう。
それに顔もいいときた。
魔女と彼は平穏な日々を過ごした。
これなら…お腹に命を宿す日も遠くないだろう。
だが、その幸せは崩れた。
彼に魔女の正体がばれた。
滅びの魔女だとばれた。
終わった。
魔女と彼の関係はもう元には戻らない。
そう思った。
だけど、彼は受け入れてくれた。
魔女と言う存在を、滅びの魔女と言う許されない存在を。
彼は許してくれた。
魔女は泣いた。
何度も泣いた。
泣き喚いた。
彼の優しさに、泣いた。
魔女と彼の間に子供が出来た。
女の子だ。
なんて可愛い笑顔なんだ。
まるで天使のようだ。
名前はーーと、つけよう。
我ながらいい名前をつけられた。
この子を大事に育てよう、ーーを。
魔女は幸せだ。
幸せすぎだ。
こんな幸せが魔女に許されていいんだろうか。
彼とーーとの幸せがいつまでも続くだろう。
この優しい日々が、この穏やかな日々が。
ずっと続くだろう。
けど、その幸せは、崩れた。
彼が死んでしまった。
魔女とまだ三歳だったーーを残して、死んでしまった。
魔女は、彼の優しにもう触れることは出来ないと知った瞬間、泣き叫んだ。
それと同時に決めた。
魔女は、この子を守る、と。
魔女の子供はすくすくと成長した。
とてもいい子だ。
この綺麗な長い黒い髪は魔女と似てとても綺麗だった。
そして、十五歳のーーの誕生日。
魔女はーーに誕生日プレゼントは何がいい?と、尋ねた。
するとーーは、独り暮らしをしたい、そう言った。
魔女は理由を尋ねた。
ーーは言った。
この森は好きだけど、私はもっと世界を見たい。
旅をしたいとかそんな我が儘は言わない。
だからお母さん、独り暮らしをさせてください。
魔女は困った。
だがいい案を思い付いた。
彼の妹に頼んではどうだろう。
死んだ彼の妹とは仲が良かった。
それに彼の妹はとても広い屋敷に住んでるらしい。
一つくらい部屋を貸して貰えるだろう。
そこにーーを預けよう。
そうすれば安心できる。
ーーとの別れは寂しいけど、ーーが初めてこんな我が儘を言ったんだ。
叶えてあげなくてどうする。
だから魔女は彼の妹に手紙を出した。
彼の妹は魔女の正体を知ってる。
だが、肝心な名前の方をずっと伝えられずにいる。
仕方がない、差出人、滅びの魔女。
と書くことにした。
そして魔女はーーと一緒に、彼の妹の家まで向かった。
この森から彼の妹の家まで一ヶ月がかかる。
魔女はーーと歩いた。
ーーの幸せを、願いながら。
読んでくださりありがとうございます!
第二章の始まりは、滅びの魔女の過去話でした!